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Ep19 墨

右京の一件があってしばらくすると、愁は南に戻っていった。

墨族の中心人物との争いは、なかなか決着を見ないようだ。

「無茶言うよな、孝志郎も」

なんでもなさそうに一夜がつぶやく。

「今までの紺青との関係を考えるとな・・・長い紛争の歴史があるわけだし」

本から目を離さずに来斗も言う。

ぱたん、と読んでいた本を閉じると、私は意を決して言った。

「南なんだけどね・・・墨族に一任したらどうかと思うの」

ちょっとびっくりした顔をして一夜が言う。

「それ・・・孝志郎は何て言ってるの?」

「孝志郎にはまだ言ってない。あくまで私の意見だけど・・・だって、愁が帰ってくるたびに風牙くんは一人で留守番してるのよ?それに昔の話じゃないけど・・・力で制圧するったって、限界があるだろうし」

「愁に帰ってきてほしいわけ?藍は」

「そりゃあね。だって孝志郎はふらふらしてて西から帰ってくる気配ないし、最近あの頑固親父が張り切っちゃってるじゃない!?」

来斗が顔をしかめる。

「頑固親父って・・・朔月公のことを言ってるのか、お前は・・・」

「だからぁ、愁がいたほうが心強いでしょ、何かと」

にやっと笑って一夜が言う。

「・・・それだけ?」

「それだけ、って何が?」

なんでもなーい、と笑って言う。・・・変な奴。

「孝志郎に話してみるか。それより先に霞姫かな」

来斗が同意してくれた。

「天空隊のお二方も南に行ったほうがよかったりしない?交渉が複雑になったりすることも十分にありえることだろうから」

一夜が言う。お二方、とは来斗と桐嶋伍長のことだ。

「そうだな」

3人でいて、こんな建設的な話をしてるなんて珍しい。

だいたい、一夜が図書館に来てるなんてこと自体が珍しいんだから。

・・・雨でも降らなきゃいいけど。


月岡伍長は、僕らを見ると嬉しそうに笑った。

が・・・

「・・・周平まで来たのかよ?」

桐嶋伍長の姿を見つけると、一変してげんなりした顔になる。

「なんだよ、その迷惑そうな顔は?」

むっとして桐嶋伍長が言う。

「別に・・・迷惑なんかじゃないけどさっ」

僕に向き直るとぱっと明るい表情になって、右京様長旅ご苦労様でしたと笑う。

ちっ、と小さく舌打ちする桐嶋伍長。

「あの二人・・・仲悪いんですか?」

「いや・・・一時は同期だったし・・・多分悪いわけではないんだが」

「一時は、ってどういうことですか?」

来斗さんが困った顔のまま説明してくれる。

「あいつらの74期の首席は風牙だったんだが・・・周平は一年飛び級して73期の首席で卒業しててな・・・張り合う気持ちが強いんだろう、おそらく」

本陣へ案内される。

朱雀隊の隊士は一年の大半南陣に駐留しているため、多くの隊士が揃った姿を見るのは初めてだった。

隊士たちは皆眼光がするどく、侵入者に警戒する厳しいまなざしを僕達に向けていた。

都にいる騰蛇隊士と比較すると、ひどく冷たい印象を受ける。

初めて愁さんと月岡伍長に会ったときのことを思い出す。

その隊士たちが整然と整列したその奥に、愁さんの姿があった。

肘掛椅子に片肘を乗せ頬杖をついて、足を組んで座っている。

その姿は隊長らしい、威厳と風格を持ったたたずまいだった。

「よう来てくれはりましたな、右京はん」

「お久しぶりです、愁さん」

僕が笑って言うと、隊士達が少し動揺した様子。

僕と愁さんの一件を知ってのことか、自分達の隊長を親しげに呼ぶ僕に警戒してのことかはよくわからなかった。

来斗さんが前に進み出て、今回の来南の事情を簡単に説明する。

「藍はんから少し聞いたけど、なかなか難しい話やと思うわ」

ちょっと厳しい表情で言う愁さん。

墨族の中心人物は非常に他民族・他種族を嫌悪しており、最後の抵抗が続いている状況なのだと言う。紺青に従うことを得策と考える民もいるようだが、それを表明した部族全体が滅ぼされたことも、今までにはあったらしい。

「一時はうまくいくかなって思ったんですけどね」

ちょっと首をかしげて月岡伍長が言う。

「墨族の族長である晋破(しんは)は今までの族長の中でも過激な思想の持ち主で。自分が属する部族以外の人間に対する差別的な行動が多くて、反発も大きいらしいんですよ。だから、そのへんをうまく叩けば・・・って思ったんですけど。予想以上に彼の圧政がきつくて」

声を上げてたくとも上げられない、ということか。

「あいつがもし承諾したとしても、それは墨を平定したということにはならへんような状況やからなぁ・・・」

難しい顔をしたまま、僕あいつ好きやないねん、とつぶやく。

思わず吹き出してしまって、来斗さんに肘で小突かれる。

こうして偉そうにしてても、そういうところはすごく愁さんらしい。

「そうなると、依然として朱雀隊を駐留させる状況を続けざるを得ないということですね」

黙って聞いていた桐嶋伍長が言う。

「それどころか、藍のアイディアだと晋破・・・とか言う人物が今より強大な権力を持つことになる。それは紺青としては、望むところではないな」

来斗さんも言う。

しばらく沈黙が続いて、来斗さんがつぶやいた。

「他の族長を立てる・・・か」

「そんなこと、出来るんですか!?」

月岡伍長が素っ頓狂な声を上げる。

「お前達の話だと、交渉の余地がある部族もあるんだろう?その中で大きな力を持っている人間を族長として擁立すればいいんじゃないだろうか」

「それは・・・ちょっと無理やな」

晋破が属している以外の部族は小規模で、該当するような人間は見当たらないという。

そうか、とつぶやく来斗さん。

「とにかく、俺は彼に会ってみたい。会うことが出来るか?」


翌日、僕と来斗さんと月岡伍長は、晋破という人物のもとへ向かった。

墨族の長の居住地は、南方でありながら肌を刺すような冷たい風の吹く谷にある。

墨族は人間と同じくらいの身長だが、筋肉質で全身を毛で覆われている。

“狼男”といった風貌。

「よく来たな、紺青の都の人間か?」

ぎらぎら光る眼を細めてこちらに向かって言う。

動じる様子もなく、来斗さんが名乗る。

「我々は紺青の王の遣いで参った。もしお前が我々に従うというのなら、この一帯の王として封じる準備があるとおっしゃっている。どうだ?」

「そうだなぁ・・・」

楽しそうに目を細めたまま、顎に手をやり、考えるポーズをとる。

少し間があって、身を乗り出して言った。

「実はこのところ、この集落の近辺に化け物が出て困っている。それをお前達が倒してくれるというのなら、考えてやらんでもないな」

「化け物、というのは?」

「近くの洞窟に棲んでいると言い伝えられてきた化け物とそっくりなんだがね、鋭い爪を持った人間の何十倍もの大きさがある鷲の化け物だ。お前達がオンブラとか呼んでる化け物の仲間なんじゃないかね」

来斗さんが、少し口の端を上げて笑う。

「恐れ入ったな。オンブラについて知っているとは」

「俺は何でも知ってるさ。あんたの親父とも会ったことがある。達者か?」

涼風公が現役の頃のことを言っているらしい。

「・・・ああ。多少老いてはきているがな」

けん制のつもりで言ったことを軽く受け流されたことに、愉快そうに大声で笑う。

「そうかそうか!人間てのは寿命が短くて可哀想なこったなぁ」

晋破は再び鋭い目つきに戻ると、低い声で言った。

「なあ、俺達もその化け物には参ってるんだ。あんたらのお力を見せてくれよ」


「化け物退治なんて・・・聞いてないですけど?」

難しい顔をして、桐嶋伍長が言った。

面白そうに笑って、月岡伍長が言う。

「怖気づいたんなら、紺青に帰ればいいだろ?」

「そ・う・じゃ・な・い!交渉って聞いて来たんだって言っただけだろ?力技なら勾陣(こうちん)隊か太陰(だいおん)隊のほうが適してたんじゃないかって、そう言っただけだよ!」

まあまあ、と仲裁に入る。

「でも、来斗さんかっこよかったですね。沢山の狼男に囲まれて、あんだけ落ち着いて交渉出来るんですから」

晋破の周囲には護衛の武装した墨族の男達が沢山控えていたのだ。

得意げに桐嶋伍長が言う。

「そりゃそうですよ!来斗さんは『十二神将隊の頭脳』、学生時代武術剣術関係にあまり興味がなかったために五玉の5番目とかに甘んじたみたいですけど、戦術や交渉術といった分野で敵う人間はいませんからね!なんたって涼風公の長男ですし。ゆくゆくは国を背負って立つ人物なんですよ、来斗さんは!」

にやっと笑って、横目で月岡伍長を見ながら言う。

「・・・どっかの中途半端な逆切れ兄ちゃんとは格が違うんですよ」

「・・・んだとぉ」

月岡伍長が大声で反論する。

「お前に愁さんの何が分かるんだよ!?あの人はなぁ、身一つでこの地位まで登り詰めた人なんだぞ!若干15歳にして士官学校に一ノ瀬隊長の次席で入学して、次席卒業ってすごい偉業を・・・」

「・・・だから、なんでも二番目なんじゃないの?」

「そんなんじゃない!愁さんの『神力』は十二神将隊隊長の中で飛びぬけて1番なんだぞ!?『神器』とのシンクロ率も一番高いんだ!」

一呼吸置いて、低い声で言う。

「それに正義感だって人一倍強い。来斗さんはいつだって傍観者じゃないか」

「・・・何だって?」

「本当に二人ともやめてくださいってば!!!」

にらみ合っている二人を止めようと必死になっていると、誰かが背中をこん、と突いた。

振り返ると、少し離れたところで、来斗さんと愁さんが手招きしている。

「二人は・・・いつもああなんですか?」

二人の傍に行って、小声で聞く。

「ああ・・・何べん言っても聞かへんから、最近はこうして放置や」

あんな言いたい放題言われて腹は立たないんだろうか。

「まぁ・・・言われてることも全くはずれてはないしな。いいんじゃないか、言わせておけば」

で、どうするかな・・・と来斗さん。

「剣護の話だと、北の化け物も洞窟に棲んでたんだったな。眠っていたオンブラを目覚めさせた・・・とか」

「同じパターンやとすれば、一体誰がそんなことしたんやろな?」

ふむ、と腕組みをして、来斗さんが僕に尋ねる。

「右京はどう思う?」

あくまで僕の勘ですけど・・・と前置きして、言う。

「自作自演、なんじゃないでしょうか?」

あの愉快そうな顔、周囲の民の様子、困っていると言う割には深刻な雰囲気ではなかった。

「そうか・・・俺も同じ意見だな」

「さっすが右京はん、鋭いなぁ」

楽しそうに笑って、愁さんが言う。

「だとすれば、俺たちを追い出すために目覚めさせたってことか・・・しかも、自分の周囲に危害が加わることも一切を承知の上で・・・」

「・・・ひどいですね」

「だが、そういう奴は多いぞ。自分がよければ多少の犠牲は厭わないってな」

ええやないの、と愁さんがつぶやく。

見ると、鋭い目つきで口元だけ笑っていた。

「その誘い、乗ってやろうやないか」


「一体何を企んでいる!?」

ばん、と机を叩き、怒鳴っているのは朔月公だ。

彼が騰蛇隊舎に現れることは珍しいので、隊士達は明らかに萎縮してしまっている。

朔月公は近づくと切り刻まれてしまいそうな緊張感を身に纏っており、まるで暗殺者か何かのようである。高貴な家柄でありながら、そのたたずまいは他の二公とは全く異質だ。

いつも冷たい目つきで、低くよく通る声で話し、周囲を圧倒する。

それが今日は声を荒げているのだから、余計に気味が悪い。

隊士の一人が伍長・・・と俺を呼ぶが。

・・・悪いけどここは、俺にはどうすることも出来ない。

「何を・・・って?」

目の前の朔月公の鬼のような形相など一切気にならない様子で、三日月は読んでいる本から目を離すことなく、平然と答える。

「おっしゃっている意味がよくわかりませんけど」

「南の話だ!知らぬとは言わせんぞ!」

「ああ。涼風隊長と桐嶋伍長ですか?交渉ごとには天空隊の力を借りるほうが心強いという、一ノ瀬総隊長のご指示だったものですから。・・・それとも、右京様が同行されたこと、気にしてらっしゃるんですか?“また”」

「そんなことを問題にしているのではない!!!」

また両手で机を叩く。

「浅倉を都に戻す・・・というのはどういう魂胆だと聞いているのだ!」

ああ、そのことですか、と言って本を閉じる。

そして恐れを知らない三日月は満面の笑顔で言う。

「だって最近オンブラが沢山出てきてこわいじゃないですかぁ。私達の力だけではやはり心細くって・・・浅倉隊長は朔月公の秘蔵っ子ですもの、いていただけたらこんなに安心なことってないですよぉ。そう思われません?」

う・・・と一瞬言葉に詰まり、朔月公は低い声で言う。

「お前達は・・・一体我々三公に何の恨みがあるというのだ」

「あら、恨みだなんて!」

両手を顔の横で合わせて、首を傾けてぶりっ子みたいに言う。

「私達、三公のこと心から尊敬申し上げておりますのに」

「・・・もうよい。邪魔したな」

くるっときびすを返すと、朔月公はそのまま隊舎を後にした。

ばいばーい、と手を振っている三日月に、周囲の隊士たちから自然に拍手が沸き起こる。

「三日月・・・」

俺が言うと、三日月は緊張感のない明るい声で言う。

「わかってますって。勤務中は読書厳禁でしょ!?」

「いや・・・いい。今日だけ解禁してやる」


偵察に行ってくる、と言い残し本陣を出た。

墨族の集落を歩く。

全く風牙のやつ・・・全く昔から変わんないんだから。

入学当時、風牙はいじめられっ子でものすごい泣き虫で、よくこんな奴が士官学校に・・・と思ったものだった。それがいつの頃からだろう、愁さん愁さん、と浅倉さんにくっついて、不良グループも手を出すことが出来なくなったのは。

あんまりいつもくっついているものだから、他の五玉のメンバーもなんとなくあいつに目をかけてやっているようだったのが、僕としては非常に気に食わなかった。

涼風公の一人息子、頭脳明晰な来斗さんはそのころから僕の憧れの人だったけど、あいつみたいな近づき方はあまりにも自尊心ってものに欠けると思っていた。

僕が大学校に入学したとき、来斗さんは最高学年で、天空隊を志望しているらしいという噂を聞いた。

図書館で分厚い本を読んでいる来斗さんに思い切って声をかけたのは、それが最初だ。

『涼風来斗さんですよね?』

そうだが、と言って来斗さんは眼鏡を外すと、じっと僕の顔を見た。

『これはこれは、桐嶋卿のご子息か』

『ご存知なんですか!?僕のこと』

まあ、なんとなくはな、とつぶやく。

ちょっと興奮して、僕は思い切って言った。

『実は僕、将来天空隊に入隊したいと思ってるんです』

『・・・奇遇だな、俺もそうなんだ』

『・・・その・・・僕・・・来斗さんのお役に立てませんか!?』

ちょっと驚いた表情の来斗さん。

『五玉のお仲間の一ノ瀬さんも古泉さんも入隊とほぼ同時に隊長になってますよね!?来斗さんもきっと近い将来隊長になると思うんです。だからその時は・・・是非僕を伍長にして下さい!!!』

『・・・おいおい。そんなこと・・・急に言われてもなぁ』

『自信はあります!来斗さんの片腕として働けるだけの頭脳を持っている人間は、この僕以外にはいません!』

『・・・・・・へえ』

面白そうに笑って言う。

『大した自信だな』

『はい!勿論、来斗さんの足元にも及びませんけど・・・』

気に入った、と言う来斗さんの声が、人気のない図書館に響いた。

『いつになるかはわからんがな、もしそうなった時はよろしく頼むよ』

早いもので、それからもう3年。

実際天空隊が表立って活躍するような有事は、この間の隕石騒ぎくらいだったが、今回来斗さんに白羽の矢が立ったこと、僕にも同行するよう指示が出たことは喜ばしい限りだと思ったのに・・・

何がオンブラ征伐だ、馬鹿馬鹿しい・・・

それなら、血気盛んな馬鹿が十二神将隊にはごろごろいるじゃないか。

そんなことを考えながら歩いていたら、突然腕を引っ張られる。

気づいたら集落のテントの中に引きずり込まれていた。

中は暗かったが、キラッと光るものがいくつか見え、それは僕に向けられているようだ。

腰に装備している『雷上動(らいしょうどう)』に手をやりながら、出来るだけ落ち着いた声で言う。

「これは・・・一体どういうつもりだい?」

すると、一番近くにいる人影が、声を発した。

「お前達は紺青からの使者だな。族長に、一体何の用があって来た?」

「それ・・・君達に言うと思うの?」

ふっと笑うと、そうだな、と言う。

首元に冷たい金属が触れる。

背中を冷たい汗が流れる。

「お前達は、族長・・・晋破と、手を組もうというのだな?」

その言い方が引っかかって、聞き返す。

「君達、もしかして晋破に反意を持ってるとかいう人たち?」

ざわざわと周囲で声がする。

「それは・・・誰から聞いた?」

「さあねぇ。僕は何でも知ってるから」

殺意のない単なる脅しだと気づいて、彼の不意を付いて、ナイフの柄をその手の上からぐっと握り締めた。

「けど、晋破から聞いたんじゃないことだけは、確かだね!」

ぐっと腕をひねると、彼は小さくうめき声を上げてナイフを床に落とした。

だんだん目が慣れてくる。

話をしていたのは墨族の若者のようだ。

周囲を取り巻いているのも、おそらく同じくらいの年齢の若者達。

「君達はレジスタンスなのかい?」

黙っているところを見ると、おそらく彼らが風牙の言っていた・・・

「実はさ、僕も・・・あいつ嫌いなんだよね。だって聞くところによると、相当やな奴なんだろ?」

「やな奴どころか!!!」

彼は吐き捨てるように言った。

「年貢の取立ては厳しい、少数部族は奴隷扱いだ。女子供や老人にまで重労働を強いて、体を悪くしても医者にかかることなど到底出来ない。それでいながら自分と取り巻き連中ばかりは贅沢三昧をしているんだよ!」

みな、頷いて聞いている。

「そりゃ、聞きしに勝る暴君っぷりだな」

「我々の水面下のこういった活動も、奴の知るところとなってしまってな。あいつ、南のはずれの洞窟に眠っている化け物を呼び起こしたらしい。我々反抗する人間を一網打尽にするつもりらしい・・・おそらく、お前達もな」

さすが来斗さん、大当たりじゃないか。

「もしよかったらさ・・・僕と取引しないか?」

彼の様子と、周囲の彼に対する尊敬の混じった信頼の目を見ていたら、彼がふさわしいのではないか、と思えてきた。

「その化け物に関する知ってる情報全部教えてくれよ。それと、晋破の一派を倒すために共に戦ってくれること。その条件を飲んでくれれば、成功した暁には君を墨族の次の族長に指名しようじゃないか」

周囲から歓声が上がる。

静かに、と低い声で言って若者達を制すと、彼は僕の目をまっすぐ見て言った。

「俺は(とも)。墨の少数部族を束ねる長の嫡男だ」


「周平のやつ、どこ行ったんやろ?」

愁さんがつぶやく。

「怖気づいて逃げたんじゃないですかぁ?」

得意げに月岡伍長が言うが、愁さんにじっと睨まれ、小さくなる。

「あまり時間もないしな・・・先に行くか」

来斗さんが言う。

「右京、一緒に来るか?」

「はい!」

「僕も行くわ」

「じゃあ僕も!!!」

「風牙・・・お前は留守番や」

ええ〜何でですか!?と不満げな声を上げる、月岡伍長。

「何かあったとき、周平一人じゃ不安やろ?頼むで」

恨めしそうな顔で、分かりました・・・とつぶやく。


隊舎で一人、留守番をしながら本を読んでいると、戸口で声がした。

「藍いる?」

・・・また、見えてるくせに・・・

「古泉隊長、何か御用ですか?」

「まーた、勤務中に本読んでる。龍介に怒られるぜ?」

明らかに遊びに来てるあなたも・・・勤務中じゃないのでしょうか?

それはそうとさ、と机の真向かいに座って言う。

「朔月公をやっつけたんだって?」

「・・・一体どこで聞きつけて来たんですか?」

「まあまあ。でもすごいなぁ藍、俺もさすがにあの人には敵わないもん」

「敵うとか敵わないとか、歯向かう気になったことが一度でもあるんですか?」

「ない」

・・・はぁ。ため息をつく。

「・・・で、何企んでるの?」

「え?」

一夜は頬杖をついて、じっと私の目を見ている。

「また何か、企んでるんでしょ?」

「また・・・って、人聞きの悪い。そんなんじゃないですよ」

「俺にも言えないこと?」

ちょっと真面目な顔になる一夜。

一体何を心配してるんだか。

「一夜に言えないことなんてないって。何かあったらちゃーんと相談するから、ご心配には及びません」

私が笑って言うと、そっか、とつぶやいていつもの笑顔に戻る。

「一夜のほうこそ・・・ちょっと顔色悪くない?」

「そぉ?」

「夜遊びもほどほどにしなよ。そんなに若くないんだから!」

「・・・言ってくれるじゃん」


洞窟の中は冷え切っており、ところどころの水溜りには氷が張っている。

「本当にこんなところにオンブラなんかいるんやろか?」

愁さんがつぶやく。

狭い洞窟が続いており、晋破の言っていたような大鷲が棲めるようなスペースはないように思える。

「そこまで俺達を馬鹿にしようってことはないだろう、きっと」

来斗さんが言う。

あれ?

「何か、聞こえませんでしたか?」

前を歩いていた二人が振り返って僕を見る。

「そうか?」

怪訝そうな顔の愁さん。

体中の神経を研ぎ澄ます。

「・・・ほら、また」

それは鳥の羽ばたきのような音。

二人にはまだ聞こえないようだ。

音のするほうに体を向けると、冷たい風が吹き出してくる大人一人がやっと通れるくらいの空洞があった。暗くて今まで気づかなかったけど、ここにはこういう小さなわき道がいくつもあるようだ。

「こっちだと思います」

指差し、歩き出す。

「やっぱり右京は一流の武人だな」

来斗さんが感心したように言う。

「いや・・・単に田舎育ちで、かすかな音にも敏感なだけだと思いますけど」

「まーた、そんなこと言うて」

歩いていくと次第に音が大きくなっていく。

そして、目の前が急に開けると、そこには。

巨大な鷲のような生き物の姿。

銀白の羽毛に覆われ、真っ赤な瞳がらんらんと輝いている。

じろっとこちらを見ると、咆哮を上げる。

「来るか!?」

その巨体の攻撃に備えたその時。

背後から強烈な衝撃を受けて、前方にふっとばされる。

「右京!?」

地面に叩きつけられた痛みをこらえて立ち上がると、ゆっくりと振り返る。

「これは・・・幼鳥!?」

目の前にいた大鷲を1サイズ小さくしたような鷲の姿。

しかし、その獰猛そうな瞳は親譲りだ。

「どうしたものかな・・・」

来斗さんがつぶやく。

その時、親鷲の方の嘴の周りに冷気がひゅうひゅうと音を立てて集まり、咆哮と共に嘴を開くと、細かい氷の粒の混じった冷気の塊が放出された。

愁さんが『螢惑』をかざし、炎の盾を作ってそれを防ぐ。

背後からは幼鷲がけたたましい鳴き声をあげ、片足で地面を何度も蹴り、また体当たりして来ようとしている。

「子供相手は性に合わんのだがな・・・」

つぶやく来斗さん。

「右京は愁と親の方をやれ、俺はこいつをやる!」

「はい!!!」

火箭(ひや)

愁さんが唱えると、炎のクロスボウが現れる。

親鷲に向かって矢継ぎ早に炎の弓を射る。

地面が鳴り響くような叫び声を上げながら、鋭い爪の前肢でそれを必死に払いのける鷲。

「まだまだや!」

愁さんは攻撃の手を緩めない。

その炎の矢の数本がその防御を掻い潜って、肩の辺りに突き刺さる。

『ギャァァァ!!!』

動揺して、大きく体を揺さぶる。

今だ。

『水鏡』を構えて、大きく跳躍。

『水無月』!

唱えて鷲の頭部に切りかかった時。

赤い目がギンと光ったかと思うと、凍てつく空気が僕を一瞬で包み込んだ。

「うっ!!!」

「右京!?」

愁さんが呼ぶ。

体がうまく動かせないまま、どさっと地面に叩きつけられる。

『水鏡』を握った両手が凍り付いて、動かない。

「大丈夫か!?」

「はい・・・すみません」

愁さんがぐっと僕の両手を握ると、『螢惑』からの熱で両手が温まり、次第に感覚を取り戻していく。

「あいつは・・・属性から考えると、僕やな」

そのままの姿勢で低い声で愁さんが言う。

「それより・・・どう思う?右京はん。あいつ子供がおったゆうことはや・・・」

ぞっと背筋が寒くなる。

「もう一体いる・・・ってことですか?」

黙ってうなずく。

「それにあのちっこい方見てみ。炎吐き出してるやろ?」

来斗さんが応戦する幼鷲は確かに炎を吐いて、避ける来斗さんを追いかけている。

「もう一匹は炎・・・ゆうことちゃうかな」

「それ・・・かなり有りめですね」

しかし、そのもう一体はどこへ行っているのだろう?

まさか・・・

「僕らをこちらに引き寄せておいて・・・?」

「あの晋破って男があんたと来斗の言うような人間やったら、やってもおかしないよな」

じっと僕の目を見て言う。

「右京はん、こっから出られるか!?」

集落の方へ戻れ、ということだろう。

「・・・やってみます」

「あいつは僕が引き付ける。風牙達を・・・頼むで」

僕の背中をばん、と一回大きく叩いて言った。

火群(ほむら)』!

愁さんが大きな炎の塊を鷲に向かって放つ。

それと同時に僕は元来た道に向かってダッシュした。

途中、幼鷲が異変に気づいて僕に襲い掛かろうとする。

「右京!」

来斗さんの声。

ぐっと体勢を低くすると、大きく跳躍して、幼鷲の頭に一瞬舞い降り、そのまま飛び越えて走る。

「来斗さん愁さん!気をつけて!!!」


右京が去っていくのを見届けると、再度鷲に向き直った。

「さあ、ここからが本番や」

火焔光背(かえんこうはい)

全身を炎が包み込む。

両手を前方に掲げる。

更にもう一つ。

『烈火』

炎の剣が現れる。

「ほな、行こか」

鋭い鳴き声を上げると、再度こちらに向かって冷気の塊を吐き出す。

両手をクロスして、それを防ぎながら跳躍する。

炎の剣で胴の部分を切りつける。

叫び声。

「しまった、ちょい浅かったな」

着地すると、思わずつぶやいて再度大きく跳躍する。

冷気の塊を体を大きくひねってかわす。

そして、鷲の頭頂部に着地。

「これでしまいや!」

剣を突きたてようとしたとき。

ずん、とものすごい衝撃があって、気づくと地面に叩きつけられていた。

体が痺れて動かない。

奴が全身に強烈な冷気を流したのかもしれないと、よく回らない頭で考える。

『螢惑』の赤い輝きが弱々しくなっている。

こいつ・・・なかなかやるやないか。

腹部に鋭い痛み。

気づくと鷲が近づき、鋭い前肢で僕を踏みつけている。

あかん、身動きが・・・

「螢惑!!!」

腕の『神器(あいぼう)』に向かって叫ぶ。

「しっかりし!お前の力はこんなもんやないやろ!?」

『螢惑』の周りがだんだん温まってくる。

「僕もや・・・こんなんじゃ終われへん!」

目を閉じ、全身の『神力』を『螢惑』に集中させる。

目を見開くと、鷲は大きな口を開いて僕に襲いかかろうとしていた。

「行くで!『螢惑』!!」

全身の血が煮えたぎるような感覚。

突如炎を纏った僕の体に、驚いた鷲は前肢を放して少し距離をとる。

体勢を低くして、両手を横にまっすぐ伸ばす。

それは“鳥”のイメージ。

『朱雀』!!!

僕の体から炎が形を成した朱雀が羽ばたく。

そして、一直線に大鷲に向かって飛んでいって、鷲の体を貫いた。

『ギャァァァァァァ!!!!!』

ものすごい叫び声を上げて、鷲は氷が一瞬で水蒸気に変わるように消えていった。

それを見届けると、突如膝から力が抜け、ガクッと前のめりに倒れた。

「あかん・・・力使いすぎや」

眠りかけた『螢惑』を揺り起こすのには、かなりの『神力』を要したらしい。

最後の力を振り絞って言う。

「来斗!後・・・頼む」


「・・・心得た」

気を失ってしまった愁の背中に向かってつぶやく。

目の前の幼鳥。

親を目の前で失って、明らかに動揺している。

「お前も、同じ目に遭いたいのか?」

グルルルル・・・とうなり声を上げて、鋭いまなざしで俺を睨みつけている。

まだ、羽毛が大人のそれに生え変わったばかり、といった風貌。

大きな力を秘めているようでもあるが、それを使いこなすにはまだまだ幼すぎるのだろう。

一度『アロンダイト』を構えるが、思い直す。

両手を大きく広げ、攻撃する意志がないことを表現する。

「一緒に来ないか?」

黙って睨みつけている幼鷲。

「お前の父親だか母親だかはもういない。おそらくお前のもう一人の親も・・・戻っては来ないだろう」

ギャァァァ!と鋭い鳴き声を上げる。

彼らはただのオンブラではないとは思っていたが、やはり人間の言葉が分かるらしい。

「俺たちに力を貸してくれないか?お前の力が必要なんだ。力を貸してくれるなら、このまま、ここに棲み続けたっていい。お前の身の安全は、俺が保障する」

少し、目に宿った怒りの炎が薄らいだようだ。

「俺達はこの地域の民を平和に治めるためにここへやってきた。だが、おそらくお前の親と契約した族長は、民に災いをもたらすだけだ。その族長を追い落とし、平和な国を築くに足る人物を長に据えたいと思っている。その人物に力を貸してやって欲しい」

赤く燃えていた瞳が、緑色に変化し、広げていた羽をたたむ。

「理解してくれるか?お前達はおそらく・・・昔からこの地域の守り神なのだろう。その役割を、今こそお前が担って国を治めてくれないだろうか」

一歩ずつ、彼に近づく。

「お前の両親に危害を加えたことについては・・・謝罪せざるを得ないと思っている。だが、お前の両親は今の族長が暴君であることに気づかず、行動を共にしてしまったんだ。我々としても、征伐に出向かずにはいられなかった。だがそれもみな、民を守るためだ」

羽毛に触れる。

柔らかな羽は、ひんやりと冷たい。

炎の鷲と、氷の鷲、両方の血を引いている混血の彼は、きっと成長すれば素晴らしい力を身に着けることだろう。

「やってくれるな?」

彼は小さく鳴くと、俺の手にその頭を預けた。


けたたましい鳴き声と、吐き出す炎。

居住地は布と木で出来たテント様のものが大半を占めていたため、乾燥した空気の中どんどん火の手が回っていく。

「民の誘導を!急げ!!!」

隊士たちに大声で指示を出していると、遠くから僕の名を呼ぶ声。

走ってきたのは周平だった。

「お前!今まで何してたんだよっ!!!」

「仕方ないだろ!?いろいろ立て込んでたんだよっ!!!」

情報があるんだ、という。

朋という青年の話。彼もたった今、仲間を従えて晋破征伐に行動を起こしたところらしい。

「それと、あの鷲なんだけど・・・つがいらしいぜ」

「それ・・・もう一匹いるってこと!?」

「ああ。今来斗さん達が征伐に行ってるのがもう一匹なんだろうけど」

苦い顔をして、思わずつぶやく。

「じゃあ・・・愁さんたちはまだ・・・当分帰ってこないんだな?」

咆哮を上げてテントをめちゃくちゃに踏みつけ、暴れている鷲。

「“火”か」

嫌なことをつぶやく周平。

それは・・・僕に行けって事だな?

仕方ない。

青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)』を抜く。

大きく反った美しい刀身は青白く光る。

「風牙。こんなこと言いたくないけど・・・頑張れ」

「・・・ああ見てろ!」

刀を構える。

うなりを上げて、大きく羽ばたくと、こちらへ突進してくる。

『蒼竜』!

刀が青く光る。

飛び掛ってくる鷲に向かって大きく一太刀。

水がカッターのように鷲の体を切りつける。

叫び声を上げる鷲。

しかし、体勢を立て直し、そのまま猛スピードで体当たりしてきた。

「!!!」

鋭い嘴を刀でかわすのが精一杯。派手に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。

「風牙!大丈夫か!?」

鷲は大きな口を開けると、炎の塊を吐き出す。

「うっ!!!」

刀を構えて防御姿勢をとるが、熱がじわじわと体に伝わってくる。

だんだん熱さ痛さに手の感覚がなくなってくる。

『トレノ』!!!

晴天に突如雷鳴がとどろき、雷を帯びた矢が鷲の片目に突き刺さる。

見ると、矢を放ったのは『雷上動』を構えた周平だった。

ひきつった顔で笑っている周平。

それでも周平の矢は鷲の目をつぶすほどの力はなかったらしく、一度閉じていた目はまた大きく見開かれる。

怒り狂ってめちゃくちゃに炎を吐き出す鷲の攻撃を回避しながら周平に近づく。

「周平!いい考えがあるんだ!」

「・・・なんだよ」

動揺している様子の彼だったが、こそこそっと耳打ちすると一回ごくっとつばを飲み込んで、大きく頷いて言った。

「よしわかった!」

しばらく実戦から離れていてこの力、この度胸。

なかなかやるじゃないか、こいつ。

再度鷲に向かって刀を構える。

横で周平もクロスボウを構えている。

『蒼竜』!

『トレノ』!

同時同方向に放たれた二つの力は一つになり、電気を帯びた水の塊となって鷲にぶつかる。

ぶつかった瞬間、激しい閃光。

『ギャァァァ!!!』

叫び声を上げ、地面にどさっと落ちる鷲。

「や・・・やったぞ風牙!!!」

「うそ・・・こんなにうまく行っちゃって・・・」

周囲の隊士達も歓声を上げる。

呆然としている僕の腕を取って、ぶんぶん振り回す周平。

だが。

「待って!!!まだ動くぞ!!!」

気絶していただけのようで、鷲はむくっと起き上がると、また鋭い咆哮を上げた。

怒りに目が真っ赤に燃え上がっている。

「・・・やばい」

その時、鷲の背後から声がした。


「お前の相手はこの僕だ!」

くるっと首をこちらへ向ける。

怒りに燃える赤い瞳。

銀白の羽毛は同様だが、周囲の様子や月岡伍長の黒く焦げた服からして、愁さんの読みに間違いはないだろう。

咆哮を上げると大きな炎の塊を吐く。

『水天』!

炎をはじき返すが、前肢で払いのけられる。

『水鏡』を構える。

今度は小さめの炎の塊を矢継ぎ早に放ってくる。

それをかわしながら近づき、最後に大きく跳躍して刀を振りかざすと、奴の目がぎらっと光った。

さっきの奴と同じ。

『水鏡』を構えてその眼光を防ぐが、足や腕が焼けて痛みを感じる。髪の焦げる嫌な匂い。

そのまま痛みをこらえ、鷲の体を踏み台にして頭上に大きく飛び上がると、再度刀を構えた。『神力』を青く光る刀身一点に集める。

『水無月』!!!

叫ぶと僕は、鷲の体を一刀両断にした。


「貴様ら!一体何のつもりだ!?」

周囲には晋破の家臣たちが倒れていて、奥から晋破の怒鳴り声が聞こえる。

「俺を誰だと思っている!?あんな紺青の馬鹿者共にたぶらかされおって」

「違う!俺達は俺達の意志で、こうやってお前を征伐に来たんだ」

突如大笑いをする晋破。

「愚か者どもめが!お前達が離れている間に・・・お前達の家族は、どうなっていると思う?今頃・・・大鷲の烽火に焼かれ、跡形もなくなっていることだろうよ!」

ざわつく声。

「貴様・・・!?」

「もう一匹の大鷲は洞窟に控えている、どうせあんな紺青の若造どもに征伐など出来るわけがなかろう。俺の一声でここまで飛んできて、お前達など一瞬で消してくれるわ」

沈黙。

「どうだ!?命乞いするか?」

得意げに言う晋破。

そろそろ・・・いいか。

「あてが外れたようだな」

「何!?」

その場の全員が一斉に俺の顔を見る。

驚愕した表情で、晋破が言う。

「貴様・・・涼風の」

「さっきは世話になったな。約束どおり鷲を退治してきたが、どうする?」

「なんだと、そんな・・・」

「居住区の方も、さっき燕支の皇子さんがやったようだよ。負傷者は出ているが、死人は出ていないようだ」

どっと安堵の声が広がる。

大きく首を何度も横に振る晋破。

「まさか・・・出来るはずがない!あれは国の守り神だぞ!?」

「証拠をみせてやろうか」

そういうと俺は、彼を促して中へ進ませた。

銀白の羽毛に覆われた、小柄な体。賢そうな緑色の瞳。

「これは・・・」

晋破を囲んでいた若者達のリーダーらしき青年がつぶやく。

「件の鷲達の子供のようだ。俺と愁をここまで連れてきてくれたんだ。彼はきっと・・・君達の大きな力となってくれるだろう」

信じられないといった様子で、地面に膝をつきわなわなと震えている晋破に近づく。

思い切り顎を横から蹴り飛ばす。

大男はうめき声を上げて、数メートルふっとんだ。

そして、気を失う。

「こいつの処遇は・・・君達に任せる」

青年は大きく頷く。

「これからはこの地を、そしてこの南の地全体を、君達とこの守り神の鷲で治めていって欲しい」

若者達から歓声が上がった。


「本当にみなさんお疲れ様でした!」

にっこり笑って言う藍。

「月岡伍長と桐嶋伍長もチームプレーで応戦したって聞きましたよ!?仲直り出来てよかったじゃないですかぁ」

にこにこ言う藍に、不本意そうな顔の周平が言う。

「別に・・・あの場はいたしかたなかったから・・・そうしただけですけど?」

「そうですよぉ」

風牙も言う。

「でも素晴らしいと思いました私!どっかの誰かさん達とは大違いっていうか?」

龍介がおい、と藍をひじで突く。

「え!?私別に草薙伍長と浅倉たいちょのことだなんて申してませんけど?」

「・・・・・・言ってんじゃねーか思いっきり!!!」

まだ顔色の優れない愁は、いつものやりとりには参加せず、少し離れて見ていた。

「どうなりますかね?彼ら」

右京が言う。

「ああ・・・あの青年やったら大丈夫やろ。様子はちょくちょく見に行ってやらなあかんけど、今までよりはずっとこっちにいられそうや」

笑って答える愁。

「藍さん・・・絡んでくれなくて寂しいですね」

いたずらっぽく笑う右京に突然大声になって反論する愁。

「何言うてるん!?そんなん・・・ちっとも」

「愁くんお疲れ!大変だったんだねえ!?」

そんなやりとりに気づいてか気づかずか、藍がやってきて愁に声をかける。

「『神力』を使い果たすくらいって、相当のもんよね・・・大丈夫?ちゃんと病院行かなきゃ」

「あ・・・ああ。わかってる」

「それに『螢惑』も!ちゃんと六合(りくごう)隊の人たちに見てもらわないとね」

「藍はん・・・そない子供扱いせんでも、ちゃんとやるからほっといてや」

冷たーい!と非難の声を上げる。

「浅倉隊長のこと心配して申し上げてるんじゃないですかぁ!?浅倉隊長は十二神将隊の宝です、何かあったら大変なんですから。よろしいですね!?」

宝なんて言われてぎょっとした顔をして、顔を真っ赤にしてうつむく愁。

「全く・・・あいつらのああいうとこ全然昔と変わんないんだもの。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよね」

一夜が笑いながら言う。

「確かにな」

留守中、変わったことはなかったか?と尋ねる。

「朔月公が怒鳴り込んできたらしいよ、何企んでるんだーって」

ほう、朔月公が・・・

にこにこしながら皆と楽しそうに話しこんでいる藍の方を見ながら、遠い目で言う。

「本当に藍には困ったもんだね」

・・・藍?

「手の内がさっぱり読めないんだもの」

「それは・・・一夜。お前も同じじゃないのか?」

「そうそう。それに来斗もね」

空を仰いで笑い、やれやれと一夜が言う。

「俺達、変わらない変わらないって言いながらさ・・・あの頃の俺達からはずいぶん遠いところに来ちゃってるのかも知れないね」

「そうだな・・・」


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