転がしたら成り上がれる(長享2年 秋)
次から次へとで手が足りない。高級和紙を作り、それを手紙にして皆さんご存知の伊賀の千賀地家へ雇用の依頼を書き人を遣わす。この家から数十年先に足利家に人が出て行くんだよね。伊賀の地は狭く数家が分割統治して、土地も今一つだし、それならこちらに来ませんかと試してみよう。
経済力を考えるなら既存の商家を使うくらいなら、直営店を作ったほうが良いや。別に武将として戦場無双しようと思わないし、天下人を目指す訳ではないからね。『日扇屋』の開設です。(常陸の薬問屋の隠居 周衛門ですってね。)基本は薬の販売、椎茸の販売、和紙の販売、農機具の斡旋(これは他国には流しませんけど)。
小説のように味噌で金儲けとかも考えたが、もう庶民まで味噌の形で広まってるじゃん。いまさら味噌はない。醤油はたまり醤油が主体で1500年半ばに広まるから。先にやるか。大豆主体のこのころのものに小麦を炒って加え臭みをとって原型醤油にして。塩を増やしその代わりに甘酒を加えて淡口醤油。小麦主体の白醤油。塩の代わりに生揚醤油で再仕込みの完成。ここまでくればビーフジャーキーも出来るかと思ったが味の決め手のペッパーが輸入だ。残念でした。
毎日を忙しくしているある日の夕方、次郎や久兵衛と一段落した後に休息しながらおしゃべりをする。コーヒーでなく麦湯で一服です。モルモン教徒はコーヒー、紅茶や茶葉使用の飲み物は禁止だけど麦湯は飲めるんだよね。
「もっとさ、簡単に儲けるものはないかな。」
「周悦様、それなりに儲けを得ているかと。」上人とかではなく周悦って呼んでとしておいたの。
「でも何かを作るのにもお金が必要だし、人手も必要だしさ。人を雇うのにもまたお金が必要にと、無限地獄だよ。」
「お立場のある方が、地獄などと言ってはいけませんよ。」
「それは分かるんだけど、莫大に益の出るものがあればな~。」と庭を眺めると。木を眺め、草を眺め、地面を眺める。
「お、土があるか。」
「土といいますと?」
「要は二束三文の物でも付加価値があれば高値で売れる。茶の道具や陶器や磁器だよね。茶碗とかに装飾を施しても、興味がなければきれいな茶碗で終わるけど。付加価値としての講釈や評価を付けたりしてさ、その筋の人間や雅や新し物好きの人間を抱きこんで、これはすごい価値のある茶碗だとすればどうかな。」
「窯を作ったり、職人をやとったり、根回ししたりとか大変ではございませんか?」
「う~ん、窯ね。そうだよね、残念だな。でもそのうちにやろうかな。美術工芸品なんかそんなものだしね。あれれ、それなら自分で作らなくても良いじゃない。右から左へ動かして手数料を取れば楽に儲けられるよね。茶碗転がし専門業者の完成でござい。」
「周悦様、意味が分かりかねますが、そういうものを買うのにも元手がいりますし、そこまで莫大な利益にはならないかと思いますが。」
「ありゃ、元に戻っちゃったか。じゃ宝くじ、富くじか。でも富くじとは人数が多くないとだめだよな。一般庶民の生活が一段落しないとそこまで購入しないし、購入数が多くないと配当が大きくできずに宣伝できないし。戦が終わらないと人の往来は増えないしな。」
「周悦様、何を仰っているのか、分かりませんが。」
「すまない、ひとり言だよ。」
そこからは今の周囲の状況などを話あって、夜のお勤め(Hなやつではないよ、まだ子供の体だしさ。お寺のね。)をして寝た。