麦わらの細工師
「義信、持幹、通雅、ご苦労。今回来てもらったのは他でもない、常陸の北が一段落したので、
南をどうにかしたいと思ってな。」
「御屋形様、南と仰せですが、どこを攻めるおつもりですか?」
「涸沼、霞浦(霞ヶ浦ですね)、北浦、逆浦あたりをな。」
「鹿島や大洗ですか。」
「うむ。そこでその方たちに任せたい。切り取り次第でな。霞浦の西を持幹、霞浦の東を義信に、涸沼から北浦を通泰にやってもらいたい。その後は鹿島神社などのからみもあるが、霞浦の諸々の利権も含めて考えている。どうじゃ。」
「こちらは小田と当たることになりますが。」と持幹が尋ねてきた。
「三方向より同時に攻めれば、各家が合力しにくいだろうと思う、無理ならそこまででもよいがな。所領も利もそれまでじゃがな。」と自分たちの力がそこまでしか及ばないなら、そこまでの分しか利は与えないと御屋形様より一応形として通達しておく。
「通雅も山入の時に取り損ねた那珂川周辺の代わりとしてなら良いだろう。」
「取り損ねたなどと滅相もございませんが、畑田や徳宿の残党どももつぶして構いませんか?」
「かなり執心だとの噂もあったようだが、まあ、良いわ。構わぬぞ。10日後に出陣して田植えの始まる前に終わらせるように。」
「はっ!」
「義信兄上。」
廊下に出てきた兄上を一室へ招き入れる。
「おう、政義来ていたのか。」
「兄上には小川城あたりから狙っていただけますか。手勢はこちらからも密かに出しますので。」
「あそこはそんな大した城ではないだろう。」
「そうなんですけど、大掾や小田の手の者に取られると面倒なのと、手間取るとその後が大変ですので。今の独立小勢力のうちに取りこみたいと思いまして。さらにこの辺から攻めて南下すると、周りに特に身内にですが、そう思ってもらうことが肝心ですので。その後大山勢や高柿勢を、順次後詰として送りますので何とか頑張ってもらえたらと思います。」
「そうか、すまんな助かる。」
「いえいえ。兄上のためなら、たやすいことです。」
その後御屋形様に許可をもらって、小野崎城に寄り道をすることにした。小野崎親通に挨拶に行く。
「これはこれは政義殿、急な来訪とは驚きましたな。」
「親通殿にはご健勝の由、何よりと思っております。」
「で、ご用向きは?」
「いえ、この前の山入の時には、ご協力していただいたことへのお礼をと思いまして。遅ればせながら来訪した次第です。」
「それはそれは痛み入りますな。」
「おい。」と後ろに控える供の者に運ばせる。「これは所領で先ごろ開発しました細工箱と昆布の佃煮です。どうぞお納めを。」
「佃煮は分かりますが、この細工箱はなにやら変わった紋様ですな。」
「麦わら細工です。詳しくは言えませんが、ある物に色付けして貼り付けたものです。」
「ほう、なかなかのものですな。うん何やら中にも入っているようですが。」と箱を開けると砂金の粒が見えた。「これはかたじけないですな。ありがたく頂戴します。で、お礼だけではありますまい、何かありますかな。」
「最近の佐竹はいかがでしょうか。」
「御屋形様も替わり、かなりまとまったかと思いますが。」
「それなりの強さと数になりましたでしょうか?」
「そうとも言えますな。」
「北の次は南ですな。」
「そうですな。」
「で、お耳に入ったかもしれませんが、この度霞浦辺りへの出陣がございますな。」
「ええ、聞いております。」
「そこで、どうも御屋形様は一つご心痛のことがおありのようで。」
「何か?」
「額田です。」
「はい?」
「ここ最近色々と動かれる御仁のようで、この戦の際にも、勝手に動かれることを心配されて。口ではまだ仰られておりませんが、某に討つことを希望されるかもと懸念しております。」
「それは誠のことですか?」
「いえあくまでも、そのように感じるというだけです。」
「もしそうなると額田の地をどうするかということにもなり、その前に本家の親通殿に忌憚のない意見を聞きたいかと。」
「ふむ。」
「もし小野崎家全体として始末をするというのであれば、その後の所領はそちらで差配していただいて構いませんが、こちらが出るとなると所領はこちらで検討することになりますのでね。ま、額田が掠め取ったいくつかだけお戻しいただければですが。」
「しばし考える時間を。」
「どうぞ。」
およそ一時思案の後、
「わかりました。こちらで行いましょう。」
「それは話がまとまって良かった。それではこれで失礼いたしますね。」
出て行く政義を見送り、しばらくの後
「食えぬクソ坊主の坊主じゃ。」
田渡城へ戻りながら、
「元長、一応御屋形様へは万が一のことを考え、迎撃の準備だけはしておくように連絡してくれ。
そしてこちらもいつでも出れるように準備を、そして小野崎の動きを見張っておいてくれ。」
「は。」
「それと、鹿島城の松本政信や大洗城の小幡政清らに難しいなら、こちらに来いと誘いをかけておいて。どちらも主家としっくりいってないようだし。」
「甚六、行次。お主たちは身分とは何かと考えたことはあるか?」
「いえ、考えたことはございませんというより、その問いそのものが分かりません。」と行次が答えた。
「奴隷は一定の仕事や期間で解放しようかと。日扇屋から購入し、色々な所で働いてもらっているが、それを新密のほうで引き取り、身分を保証しようかと思ってな。それで身分を保証するとなると人別帳とか戸籍帳のようなものが必要ではないか。となると穢多とか非人とかも失くそうかと。」
「それは!」「ちと難しいのでは。」「お止めください。」元長、甚六、行次が同時に声を上げた。
「これらも根本は宗教からみからだろう。文字から分かるように穢れ多き職の者からくる話だし。人は差別をしたがるし、それによって自分はあいつらより上等だと自己満足するからな。下には下がいるってさ。失くすのは大変なのは分かるけどさ。(明治政府の大変さも分かるよな。)」
「それならば・・」
「いや今後も糞尿処理や毛皮処理だ、獣肉処理だと誰かにやってもらうのに、職による差別はどうなのかなと思ってさ。もし平等を標榜するなら、おかしいだろうとは思ったのよ。」
みなが少し押し黙ったまま進んでいく。
「それとさ犯罪規定もちゃんとしないといけないよな。」
「そちらは宜しいかと思います。」
「最後に学問所の追加で医所を追加しようかと思っていたのよ。商所で薬種関連の覚えがよいものを選別してね。そのために学問の向上の為の、腑分けや切断、縫合の練習をさ死体でやろうかと。だけど色々な処理をする穢多や非人のことを考慮して、さっきの考えに行き着いたのよ。」
「死体でですか。でも確か大昔に禁止されていたかと。」
「大宝律令ね。でもさ生身の体で直接練習できないだろう、その後は新密でしっかり供養埋葬するけど。どうせそのままにするだろう。」
「どうでしょうか?」
「いいのいいの、こっちは即やりましょう。次は教本ね。他のところ用にも教本を作成しないと。さらに忙しくなるわ。」
(活版印刷は無理、ガリ版印刷も材料が足りない、木版による版画印刷で代用かな。)
(そうなると、平仮名の普及だよね。楽だしさ。)
(麦わら細工もだけど染料の種類の開発が鍵だよな。大麦収穫して、処分するはずの茎の活用で最高ですよ。硫黄の燻煙で殺虫、殺菌は応用が利きそうだ。)
(漆加工も調べないと。)
また妄想が始まってしまいました。




