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5コマ目 Gのつくアレは人類の敵

タイトルとあらすじがモッサリしていたので変更しました。


 



「……あんな生物が地球上にいたか?」


 京介の指差した方向に、全員の視線が向く。

 そこにいたのは醜悪な生き物だった。京介たちは、脊髄反射で嫌悪感を抱いた。


「いねえな」


 珍しくゴルジも真剣な表情をしている。オサムシ関係ないのに。


「サルじゃないね。体毛無いし、尻尾も無い」

「棍棒持ったサルはいないわな」


 川岸と多田もマジ顔だ。虫捕りじゃないのに。


「あれ、いわゆるファンタジーとかのゴブリンだと思うのは俺だけか?」


 京介の言葉にまわりは唖然としているが、ゴルジと川岸と多田は頷いている。


「言われてみれば、そう見えるなー」

「確かし」

「まんまイメージ通りだな」


 京介たちが話している間に、ゴブリン?たちは近づいてくる。数は五匹だ。まあ、数え方が匹だか体だか人かは知らないが。


「あの、なんかあの生き物興奮してませんか……?」

「まあ、武器を振り回しながら歩いてくる奴が興奮してなかったら逆に怖いですけどね」


 腰が引けているヒナを他所に、京介は興味津々でスマホで写真を撮っている。暢気か。


「あんなの大したことねえって、俺たちで殺っちまおうぜ!」


 比較的ゴブリン?の近くにいた不良のプー太郎っぽい者たち三人が、ゴブリン?たちに向かって行った。


「おい、ちょっと待て!」


 京介たちが止めようするが、不良たちは止まらない。


「死ね、このサルモドキが!」


 今時の不良のマストアイテムなのかは知らないが、不良の一人がメリケンサックを装着して殴り掛かった。他の二人は金属バットと竹刀だ。


「グギャ、ギャ!」


 ゴブリン?は棍棒をかざして、メリケンサックを受け止めた。


「痛ってえー!」


 不良は、手を抱えて蹲った。いくら木製の棍棒とはいえ、まあ、そりゃ痛いだろう。だが、ゴブリン?の前で蹲ったのは悪手だった。


「逃げろ!」

「グゥ、ギャギ!」


 京介の叫びも虚しく、ゴブリン?は不良の頭を棍棒で殴って押し倒した。

 そして、上から更に殴る。手の空いていたゴブリン?も寄って来て、不良を滅多打ちにする。


「や、やめ……」


 不良は、すぐに動かなくなった。

 あっという間の出来事で、誰も何もできなかった。


「え……?」


 残りの不良たちが呆然となる。仲間が死んだことを理解できないのか。それとも、自分が手を出した相手がヤバいものだと気がついたのか。


「ゴ、ギャギャギャ!」

「う、うわぁぁーー!」


 不良たちは、一目散に逃げ出した。他の人たちがいる方に。


「ふざけんなよ! こっち来んな!」

「い、いやー!」


 当然のことながら、あたりは阿鼻叫喚の巷と化した。


(あ、これまずいかも)


 京介がヤバいと思い、逃げる算段を立てようとした時、ゴブリン?と京介たちの間に光り輝く壁が出現した。


 光の壁は瞬く間に見上げるような高さになり、完全に京介たちとゴブリン?を遮断する。

 ゴブリン?が猛り狂って、棍棒を叩き付けるが小揺るぎもしない。

 それは、あらゆる悪意を防ぐ絶対の防壁のようだった。あるいは、神聖なる神の加護か。


 この時点で、この場にいる者は全員思考停止に陥った。当然だろう、今の状況はまるでフィクションの世界だ。

 だが、たった一人だけ例外がいた。京介だ。京介は光の壁が生まれたことで、逆に冷静になれた。確かにゴブリン?には驚き、焦ったが、光の壁によってゴブリン?は遮断された。それにより、京介には冷静に思考する余裕が生まれたのだ。故にこの状況の答えはわからずとも、最善を模索し続けることができた。それは途轍もないアドバンテージである。


「何が起きてる?」


 京介の疑問に答えるように、上空が眩く光り輝いた。

 何事!? と空を見上げれば、光り輝く球体がゆっくり降りてくるところだった。

 球体はバスケットボール程の大きさで、輪郭が揺らいでいる。


「初めまして。私はブレス。女神です」


 突如、辺りに声が響き渡った。声は喧騒があったにも関わらず全員の耳に届いており、まるで超常の力が働いているかのようだ。


「おめでとうございます。あなた方は選ばれたのです」


 京介たちは黙っている。普通、急に女神だのなんだの言われても頭おかしいじゃないかとか、ドッキリじゃないかと思うのが普通なのだが、目の前の光の玉が理屈抜きで神々しくて、言うなれば本能がこれを現実だと理解してしまっていた。


「あなた方には、この隔絶された世界でしばらくの間生き抜いてもらいます」


 誰も身じろぎすらできない状況で、一番早くフリーズから解けたのは京介だった。


「隔絶された世界? それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味です。あなた方は、この出口の無い世界に転移したのです」

「転移? 私たちはずっとここにいましたが?」

「はい?」


 一瞬、自称女神の神々しい雰囲気が霧散した。


「え? あれ? こんなのマニュアルに無いのに……」


 何やら女神はブツブツと呟いている。幸い、京介たちには内容までは聞き取れなかったようだ。


「ああ! あなたたちは同じ場所に召喚されたのね!」

「?」


 女神は勝手に一人で納得しているが、京介は意味が分からず首を傾げている。


「一人で納得してないで、こっちにも説明してくれよ」

「ああ、ごめんなさい。何から説明すればいいかしらね。まずは、この世界からかしら」


 京介は普通に会話しているが、まわりは未だに固まっている。まあ、京介はさっきまでのやり取りで神々しさを微塵も感じなくなってしまったからだが。そのせいで、京介は敬語ではなくなっている。


「この世界は、あなた方の住んでいた世界、地球ではありません」

「ッ!」

「この世界は、地球のほんの一部をコピーして作られた仮初の世界の一つ。あなた方は元の世界からランダムに選ばれて、この世界に転移させられました」

「仮初の世界……」

「あなたが同じ場所だと勘違いしたのは、偶然にも同じ場所のコピーに転移したから。これは相当低い確率よ。ほとんど無いと言ってしまえるほどに。あなたたちで言うなら宝くじの一等前後賞を連続で取るようなものよ。だから、私も最初は気がつかなかったの」

「じゃあ、先生たちがいないのは」

「選ばれなかったようね」


 京介は少しだけ考える素振りをすると、更に問い掛けた。


「一つってことは、他にも仮初の世界があるのか?」

「……頭の回転が早い子は好きよ」


 ブレスはかなり驚いたようだが、どこか嬉しそうだ。


「あなたの言う通り、仮初の世界は複数あるわ。地球のあらゆる場所をランダムに選定してね」

「なるほど、そこにランダムに選定した人間を送り込むと」

「そうよ」

「なんでだよ!」


 京介とブレスの会話に、光一が割り込んだ。


「なんで、こんなことするんだよ!」


 どうやら、やっと再起動したらしい。


「それは、まだお話しできません」

「なっ!」

「先程も言いましたが、あなた方にはこの世界で生き抜いてもらいます。それができたらお教えしましょう」

「そんな……」


 光一は、絶望したように膝をついた。


「具体的には、どうすればいい?」


 だが、京介はへこたれていない。


「この世界には、地球とは違う生物がいます」


 全員の視線がゴブリン?に集まる。


「そう、あのような生物が何種かいます。ちなみに、あの生物はゴブリンです」

「ファンタジーかよ」


 京介の呟きには、誰も反応しなかった。


「あれらに殺されないように生き残ってください」

「無理だ! もう一人殺された!」


 光一が青い顔で喚く。


「それはそうでしょう。素のスペックでは、人間はゴブリンに勝てません」

「そんな……」


 今度は光一だけでなく、全員が絶望したような顔をしている。

 いや、一人だけ違った。京介は引っかかることがあったので、怪訝そうな顔をしていた。


「素ということは、何か方法があるのか?」

「……本当に頭の回転が早いわね」


 ブレスが苦笑する雰囲気が伝わる。


「この世界に召喚されたあなたたちには、とあるアドバンテージが与えられているの。それはレベル」


 レベル? と京介以外の全員がポカンとなった。

 京介は


「それってゲームみたいな?」


 と喜々として質問している。というか、女神様にゲームはないだろう。


「そうそうゲームみたいな」

「……」


 全員がブレスにジト目を向ける。今回ばかりは京介も他の者と同じ反応だ。

 一瞬、光の玉が動揺したかのように大きく揺れた。


「……オホン! つまり、レベルを上げればゴブリンにも勝てるということです」

「で、レベルを上げるには敵を倒せと」

「待てよ! レベルを上げようにも、俺たちより強いなら倒せないじゃないか!」


 またもや、光一が喚く。


「あなた煩いわね」


 しかし、ブレスは歯牙にもかけない。


「つまり、何か工夫が必要ということか」


 それは京介も同様で、光一をサクッと無視して話を続ける。


「なんで、お前はそんなに冷静なんだよ! おかしいだろ!?」


 ブレスに相手にされなかった光一は京介に矛先を向けた。まあ、京介も相手にしないいが。


「さあ、お話しは一旦ここまで。続きはゴブリンを倒した後よ」


 ブレスの言葉と共に、京介たちとゴブリンたちを隔てていた壁が明滅を始めた。


「壁が消えるまで三分。それまでに覚悟を決めなさい」


 京介以外の者たちが口々に喚き始める。


「ふざけんな!」

「や、やめろー!」

「いやー!」


 だが、まわりが慌てふためく中、京介は冷静に辺りを見渡す。


(逃げるのは無理か。武器になりそうな物はないか? ……どっかに剣か槍でも落ちてないかな)


 当然都合よく剣だの槍だのが落ちているはずもなく、まわりに武器になりそうな物はない。


「京介どうする?」


 隣を見れば、ゴルジたちも冷静に辺りを見渡していた。どうやら、彼らはパニックにはなっていないようだ。


「なんとか戦わないと。せめて武器があれば」


 京介の言葉でゴルジたちも武器を探し始めるが、やはり見つからない。


(くそ、あとは手持ちの道具くらいか。スマホと捕まえた虫を入れたタッパー、タモ網、虫網。あとは……)


 三分が経過。そして、壁が消失した。


「グッギャギャギャー!」


 ゴブリンたちが雄叫びを上げながら雪崩れ込んで来る。


「きゃあーー!」


 ゴブリンの内の一匹がヒナの方に向かう。どうやら、ヒナはハナと離れてしまったようで一人だ。

 他のゴブリンたちも各々好きな獲物に狙いを定めている。


「誰か助けて!」


 ヒナにゴブリンが襲い掛かろうとすると、間に誰かが立ちはだかった。京介だ。


「あっ! あなた、は?」


 なぜ、ヒナの言葉が途中から疑問形なのかと言うと、助けに入った京介が作業服に虫網という格好だったからだ。微塵もかっこよくない。寧ろ瞬殺されそうだ。


「逃げるんだ! そんな虫網で勝てるわけがない!」


 サラリーマンが叫ぶ。東京から転移してきた者はみんなそう思った。だが、彼らは違った。


「そうか、その手があったか!」


 専門学生の皆さんは、なぜか納得している。頭おかしいんじゃないだろうか。


「ゴブブブ!」


 遂に、ゴブリンが棍棒で殴り掛かった。

 京介は、それを虫網で受け止めようとする。ヒナは虫網が壊れ、京介が殴られるのを想像したが、虫網は壊れることなく棍棒を受け止めた。


「え?」


 ヒナは呆気にとられる。東京からの転移者皆さんも同様だ。

 ゴブリンは、京介を警戒して一旦距離を取った。


「痛てえ。確かに素のスペックでは完璧に負けているな」


 京介は手をプラプラしている。どうやら相当な衝撃だったようだ。


「ま、でも漫画みたいに目で追えない速さとかではないし、何とかなりそうだな」


 なぜ、京介の虫網が棍棒を受け止められたのか。それは、材質に起因している。

 普通の人は、虫網と言われると百円ショップに売られている子供用の物を思い浮かべるだろう。誰しも一度くらいは、手に持って虫捕りをしている子供を見たことがあるはずだ。

 しかし、京介の持っている虫網は一味違う。虫屋御用達の高性能な虫網だ。

 高性能とは言っても、虫を自動で捕まえてくれるだとか、虫がどこにいるのか教えてくれるとかのようなありもしないハイテクなものではなく、ただただ本格的なだけである。

 虫網は持ち手であるロッド、虫を捕らえるネット、網の枠であるフレーム、ロッドとフレームを繋げるアタッチメントの四つからできている。


「さてと」


 京介はアタッチメントを外して、ネットとロッドに分けた。京介の使うロッドはジュラルミン製で軽くて丈夫だ。ジュラルミンロッドは虫屋の中ではポピュラーで、乱暴に扱っても壊れないということで人気がある。

 棍棒を受け止めたことからわかるように、ジュラルミンロッドは丈夫で伸縮可能な優れものなのだ。恐らくだが、最短に縮めた状態で人を殴れば殺せるだろう。良い子はマネしないでね。

 ネットを投げ捨てた京介は、ジュラルミンロッドを剣のように構えた。元が虫網だと思うと中々滑稽である。


「ゴブッ、ブブブ!」


 再び、ゴブリンが京介に向かっていく。

 いくら虫網が丈夫だからといっても、このままでは京介に勝ち目は薄い。京介の主観では、ゴブリンは人類トップクラスのアスリートと遜色ない動きをしているのだ。京介にアスリートの良し悪しなど皆目わからないが、京介の感覚ではゴブリンは人間にできる最高レベルの動きをしていると感じている。つまり、格闘技系の世界ランカーかオリンピック選手でもなければゴブリンと互角に戦えないということだ。ただの一般人の京介では推して知るべしだ。


 だがしかし、何の勝算も無いのに京介は戦わない。

 待ってましたとばかりにニヤッと笑った京介は、腰に手を伸ばした。取り出したのは熊スプレー。それをゴブリンに吹きかける。


「ガッ、アアアッ!」


 黄色みがかった中身を浴びたゴブリンがのたうち回る。辺りには刺激臭が充満していく。


「いやー、こっちが風上でよかった」


 犯人である京介は涼しい顔だ。

 熊スプレーは、熊ですら撃退できる程の威力を持つ。それをまともに浴びたゴブリンは白目剥いて悶絶し始めた。


「さて、仕留めるか」


 熊スプレーを投げ捨てた京介は、ゴブリンに近づいてジュラルミンロッドを何度も振り下ろした。何度も振り下ろすと、ゴブリンは動かなくなり光の欠片になって消えた。いくら人類最高レベルのスペックがあっても動けなければ問題無い。


「よし! 意外となんとかなったな。……ずびっ」


 せっかくゴブリンを倒してかっこよく決められるシーンだったが、熊スプレーの影響により若干涙目で鼻が赤くどこか締まらないのは、いっそ京介らしい。


「ゴブブブ!」


 仲間が殺されたことで、残りのゴブリンたちが殺気立つ。だが、京介の熊スプレーは空だ。もう勝てない。しかし、頼もしい仲間たちがいる。


「お前ら、やっておしまい!」


 京介が叫ぶと、ゴルジと川岸と多田が飛び出した。各々ゴブリンに熊スプレーを吹き付けて、ジュラルミンロッドで殴り掛かった。その手際たるや、本当に初めてか? と言いたくなるほど鮮やかなものだった。


 辺りにゴブリンの悲鳴が鳴り響き、しばらくすると三匹のゴブリンが光の欠片になった。


「あなたたち何なの……?」


 ヒナが思わずといった様子で、京介に問い掛けた。きっと他の東京からの転移者たちも同じことを思ったことだろう。


「ん? 俺たちはただの専門学生だ」

「そんなわけあるかーー!!」


 ヒナのツッコミが辺りに響いた。



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