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3コマ目 日常の終局と異変の始まり

 


 再び、都内某所。


 とある大学のラウンジの一角で、数人の男女が姦しくおしゃべりに興じている。ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと会話の内容は薄っぺらで中身が無い。如何にも、今時の大学生といった感じだ。

 そのチャラついた大学生たちの中に、ヒナとハナもいた。ただ、二人はあまり楽しそうではない。寧ろ、周囲から浮いている。


 二人は、ゼミが同じ生徒たちにサークルに誘われているのだ。しかし、二人は乗り気ではないようだ。

 なぜなら、誘われているサークルは女性を酔わせて性的なことをする、いわゆるヤリサーではないかと陰で言われているからだ。


「なあ、二人ともうちのサークルに入ってよ。な、お願い」

「いえ、ですから、私たちはサークルに入るつもりはありません」


 ヒナは先程から、何度も断っているが、一向に聞き入れてもらえそうにない。なにせ、ヒナは身長170cmでモデルのような体型をしており、顔も美人で胸もグラビアアイドル並みに大きい。断ってはいるが、モデルのスカウトを何回も受けている。ハナも身長150cmで童顔だが愛らしい顔をしており、こちらも断っているが、モデルのスカウトを受けている。つまり、二人は超可愛いということだ。彼らが噂通りのヤリサーならば極上の獲物だろう。というか、ヤリサーでなくとも是非ともお近づきになりたくなる。


 その為、二人は先程から何度断っても解放されずに、ほとほと困り果てているのだ。

 いっそ、二人が逃げ出そうかと考え始めた頃、空に異変が起き始めた。

 二人は、まだ気づいていない。サークルの勧誘どころではない、運命の岐路がすぐそこまで迫って来ていることに。



~~~~~~~~~~~~~~~~



「いやー、大量だなー」


 小一時間程の採集で、全員が最低一匹はナミゲンゴロウを採集することが出来てゴルジはホクホク顔だ。

 ナミゲンゴロウは、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、中々レアである。しかし、いるところにはいるもので、実習場近くの池では多数の個体が生息しているようだ。


「千葉県では絶滅してるからな。野生の個体を見るのは初めてだ」


 千葉県民である京介、ゴルジ、川岸は、初めて見る野生のナミゲンゴロウに大興奮だ。


「やっぱり、かいぼりでブラックバスを駆逐したのがよかったのかな」


 ゲンゴロウは農薬や生息地の開発で数を減らしているが、外来種であるブラックバスでも数を減らしている。ブラックバスがゲンゴロウの生息地である池や沼に放たれ、成虫や幼虫を根こそぎ食べ尽くしてしまうのだ。


「先輩たちのお蔭だなー」


 実習場近くの池も数年前にブラックバスが勝手に放流されてから、ナミゲンゴロウが姿を消していたのだが、二つ上の先輩たちが大規模なかいぼりを行い、ブラックバスを駆逐したため、再びナミゲンゴロウが生息し始めたようだ。


 ちなみに、かいぼりとは池や沼の水を抜いて魚を獲ったり、ゴミを回収することだ。最近では、井の頭公園でのかいぼりで大量の外来種やゴミが見つかりニュースになった。


「他の水昆もいっぱいいたな。この池は、なかなかいいわ」


 多田もゲンゴロウの他にタイコウチやコオイムシやガムシなど、たくさんの水生昆虫が捕れてご満悦の様子だ。


「うへへへ」


 ゴルジも嬉しさのあまり変な笑い声を出している。表情は、子供が見たら泣き出しそうな表情だ。なぜ、オサ屋であるゴルジがゲンゴロウでうへうへ言っているのかというと、分類上ゲンゴロウがオサムシ亜科だからである。わあ、変態だ。


「そろそろ、帰るか」

「そうだなー」


 初日の成果に満足した四人は、意気揚々と実習場へ向かい歩き出した。


 しかし、彼らの実習が正しく実習だったのは、この時までだった。


「ん? 俺たちが最後みたいだな」


 京介たちが施設に戻ると、既に他の生徒たちは全員戻ってきていた。ほとんどの生徒たちが玄関の前で談笑している。


「今日の夕食の当番はどこだっけか?」

「えーと、確か水生だよ」

「まじかー。今回はスッポン料理とかやらないよな?」

「……ワンチャンあるかも」


 ゴルジと川岸が他愛のない話をしていると、生徒の一人が何かに気がついた。


「おい、何か空が変だぞ!」


 全員が空を見上げると、空が極彩色に輝いていた。


「なんだ!?」

「気持ち悪い……」


 空はまるで原色の絵の具を適当にぶちまけたかのような様相で、神秘的であるように感じる一方で、どこか禍々しくも感じる。


 空を見た全員が、あまりの光景に身動き一つ取れない。


「オーロラか? ……いや、そんなわけないか」

「オーロラはないなー。見渡す限りの空が、全部極彩色とかどんな太陽風だよ」

「確かし」

「ここ北極でも南極でもないしな」


 京介たちも困惑していた。言葉こそいつも通りに交わしているが、視線は空に釘付けで口をポカンと開いてアホ面を晒している。

 この現象は吉兆なのか、凶兆なのか。京介自身は嫌な予感がしてならない。

 そして、えてしてそういう予感ばかり当たるものだ。


 ピキッ、ピキッ


 突如、空に亀裂が入った。


「はあ?」


 空にできたひびは、刻一刻と蜘蛛の巣状に広がっていく。それはまるで、ガラスや氷にひびが入るのに似ている。


「おいおい、冗談だろ?」


 京介が呆然と呟いた瞬間


 カシャァァァン!!


 儚い音が鳴り響いて空が砕けた。それはまるで、世界が砕けたようだった。

 この瞬間、京介たちの楽しい実習は終わりを告げた。


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