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2コマ目 貴重な平穏な日常

未だに異世界感はゼロ。

 


 山梨県某所。


 バスに揺られること数時間。京介たちは、実習場の近くの駐車場に到着した。

 実習場は、山梨県の秘境に位置し、深い山々に囲まれている。


「うーん。空気がうまい。……ような気がする」


 バスから降りたゴルジが、伸びをしている。


「現実逃避なんかしてないで、早くザックを背負え」


 京介は、降りて早々あの馬鹿デカいザックを背負っていた。

 実は、バスではこれ以上狭い山道を登れないので、ここからは自分の足で登るのだ。


「えー。このまま、実習場まで連れてってくれりゃいいのに」

「無茶言うな。車幅と道路の幅がほぼ同じような山道を大型バスで登れるわけないだろ」


 寧ろ、ここまで山道を登ってきた運転手は、かなりの腕のドライバーである。


「あと、先生たちは車で移動とか狡りーよな」

「しょうがないだろ、車に全員は乗れないんだから」

「はぁー」


 ゴルジは、渋々といった様子でザックを背負った。

 ゴルジがうだうだしている間に、既に一部の生徒たちは移動を始めていたので、京介たちもそこに加わって移動を始めた。


 歩くことしばし。

 京介たちの視界には、雄大な自然が映し出されていた。高い山々の合間には細々とした家々が建ち、まさに昔ながらの集落といった雰囲気だ。京介たちの歩く道の周囲には草花が咲き乱れ、辺りを見渡せば青々とした木々が見渡す限りに広がり、都会では見ることができない大自然を感じさせる。


「まったく、自然を忘れた現代人は。もっと、自然の偉大さに触れるべきだ」


 ゴルジが、大自然をバックにご立派なことを言っている。それだけならば立派なのだが。


「あ、スマホが圏外になっちまった」


 スマホを片手に言っていれば説得力が無い。


「流石はゴルフォン。スペックが低い」

「ゴルフォンってなんだよ?」

「ゴルジのスマートフォン、略してゴルフォン」

「略すなよ」

「どこでも圏外、自宅も圏外。そう、ゴルフォンだからね!」

「CM風に言うんじゃねえ!」

「事実ゴルジのスマホは、家でも電波入らないじゃん」

「無線LANあるから平気だし!」


 ゴルジと京介が、馬鹿な掛け合いをしている。いつもなら川岸と多田も参戦するのだが、今は静かだ。というか、それどころではない。別に、大きな問題があったわけではない。ただ単に、バテただけである。


「はぁ、はぁ」

「ひゅー、ひゅー」


 川岸と多田は汗だくだ。多田に至っては、変な呼吸になっている。


「多田さん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない……」


 京介が体調を聞くが、返事の声は死にそうだ。


「俺は上り坂アレルギーなんだ……」

「それは太り過ぎなだけです」


 バテている者もいるが、クソ重たいザックを背負って山道を何キロも歩けば普通はバテる。それを普通にこなしている大多数の生徒たちがおかしいのだ。


「ほら、あと少しですよ」


 やっと、実習場が見えてきた。

 実習場と言ってはいるが、市の観光用の施設の一部を間借りさせてもらっているだけなので、ぶっちゃけ狭い。大自然の中で実習と言ってもバンガローやロッジで寝泊りするわけではない。大部屋で雑魚寝だ。


 やっとの思いで実習場に到着すると、みんな一息吐き始める。なんだかんだ言っても疲れるものは疲れるのだ。

 全員が到着したのを確認すると、先生たちがやって来た。


「これより、楽しい楽しい実習が始まる。各員実りある実習になるように努力したまえ」


 先生の有り難い一言で実習が始まったが、生徒たちは楽しい楽しいのところで嫌そうな苦い顔になる。それは、毎回毎回実習の度に、とてもきついプログラムをさせられるからだ。軽いトラウマである。今度はいったいどんな無茶なんだと生徒たちは一斉にため息を吐いた。


 施設の中に入った生徒たちは軽く掃除をすると、初日のプログラムを始めた。

 初日のプログラムは、各自で自由散策。近場を自由に動き回る。

 ちなみに生徒たちは、複数の班に分かれている。昆虫班、哺乳類、鳥類班、水生生物班、植物班の五班で、各分野ごとに専門の調査を行うのだ。


 京介たち四人は昆虫班だ。京介以外の三人が昆虫マニア、いわゆる虫屋だったため京介も昆虫班に入った。京介も小さい頃は虫捕りして遊んでいたので昆虫は好きだ。

 ただ、子供の微笑ましい虫捕りとは異なり、大人の虫屋のガチの虫捕りはマジでキチガイである。少しばかし常軌を逸している。

 まあ、そもそも京介たちの専門学校には頭おかしい奴しかいないのだが。正確には、学校に入ってから頭おかしくなったと言うべきか。それとも、元々素養があったのか。生徒も教師もみんな頭おかしいのだ。


「散策に行く前に、みんなに配る物がある」


 施設のロビーに集まっていた生徒たちに、先生たちが声を掛けた。


「外に出る際は、これを携帯するように」


 そう言って生徒たちに手渡したのは、トリガーノズルのスプレー缶だった。


「前回は班に一本だったが、今回は一人一本だ」


 スプレー缶の正体は熊スプレー。熊を撃退するのに使うスプレーだ。催涙スプレーを強力にしたようなものだと思えばいい。


「どうやら近くで熊が頻繁に確認されているらしい。危険なので絶対に携帯するように。あと、くれぐれもふざけて使うなよ。死にかけるからな」

「わかりました」


 生徒たちは、熊スプレーを受け取ると付属のホルスターに入れ、腰のベルトに装着した。


「一人一本とは豪華だなー。これなら熊なんて怖くねえな」


 ゴルジも早速装着している。豪華もなにも、熊が出没しているような場所で実習なんて普通しないのだが。誰も気にしないあたりが、この学校が頭おかしいと言われる由縁だ。


「今日はどこに行くか」


 案の定、京介たちも熊なんて誰も気にしない。熊が出るのに気にしいないとかどうかしている。


「実習場周辺だと捕れる虫も限られてくるからなー」


 虫屋であるゴルジたちだが、専門の虫は各々異なる。虫屋はあらゆる虫のマニアをひっくるめて虫屋と呼ばれているのだ。そもそも、なぜ屋が付くのかというと、魚屋や肉屋のような屋号からきている。

 ゴルジはオサ屋。オサムシという歩行虫のマニアだ。

 川岸はハチ屋。ハチをこよなく愛している。特に好きなのはスズメバチ系。

 多田はカブクワ屋。カブトムシやクワガタムシが大好きで、採集だけでなくブリードもやっている。

 なんとも濃ゆーいメンツである。京介も絶賛勉強中で、立派な虫屋になる日も近い。


「池のまわりでチョウやトンボを捕りつつ、池で水生昆虫を探そう」

「それでいきましょう」


 多田の鶴の一声で、本日のターゲットが決まった。


「よっしゃー! ゲンゴロウ捕るぞー!」


 ゴルジを先頭に、京介たちは外に飛び出した。


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