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Affection <前篇>  作者: Mr.S
1/1

前篇

福島寛太ふくしまかんたは、寒いクリスマスの夜ある人を待っていた。

雪が柔らかく降っている。寛太は時計を見た。時計台の時計の上にはうっすら雪が積もっていた。

すると、遠くの方から声が聞こえた。

「寛太ぁ~」

寛太は声がする方に振り向く。手を振りながら走ってこちらに向かってくる女性。この女性が上杉花うえすぎはなだ。この二人は今、一緒に暮らしている。

花は、寛太に近づくと大きく両手を広げて勢いよく抱きつく。

寛太は花の勢いを受け止めきれず、後ろに倒れた。寛太の背中には地面に積もった雪の冷たさを感じた。

花は寛太の頬にキスをした。寛太は笑い、反転して、花を自分の下にした。

通行人はみな、二人に注目するが二人は気にも留めずに続けている。

花は寛太に言った。

「冷たいよ、変わって」

「僕も冷たいのは知ってる」

「いじわる」

花は笑って、寛太を横にどけて立ち上がった。

寛太も立ち上がって、言った。

「ちょっと、あそこの自販機でコーヒー買ってくる」

「うん、ありがと」

花は不意に車道を挟んだ向こう側の歩道に目を向けた。花は歩道の方を見続ける。

ある男性が一人、カップルの隙間を早足で通り抜ける。大岡光おおおかひかるだ。

花の元恋人であるため、すぐに分かった。花はポケットから携帯を取り出して、受信メールの一覧を見る。

花は自分の行動が不思議だと分かっていたが、手が止まらない。

あった。

すると、後ろから肩をポンと触られる。花は反射的に携帯の画面を自分の胸に寄せた。

「何か、あった? 」

寛太は携帯を気にしながら、言った。

「いや、別に高校の友達からラインがきたから」

寛太は頷いて、缶コーヒーを花に差し出す。

花はスマホのホームボタンを押して、ポケットにしまう。

「ありがと」

花は缶コーヒーを受け取って、開封した。

寛太が花の前に来て、言った。

「花、愛してる」

 二年前。

花は大岡光と危機的状況に陥っていた。花は光が帰ってくると、光を自分の部屋に入れる。

花は洋服を脱いで、光と共にベットに倒れる。

花は光の顔を撫でながら言う。

「私たち、どうなっていくと思う? 」

「どうなっていくって・・・・。」

「私たちはこんな未来を描いていたの? 」

「こんな未来って? 」

「知ってるよ、光が他の女と遊んでんの」

光は頭から汗が噴き出る。顔がしぼんでいく感じがする。

「どうしたの、汗なんか掻いて」

「いいや、別に・・・・」

「何その筒抜けな嘘、私たち結婚目前なのよ」

花はベットから立ち上がり、脱ぎ捨てた洋服を着た。

「おい、花どこ行くんだよ」

花は黙って、部屋を出ていく。

光はそれを追うように、部屋を出て花の行ったリビングへ向かう。

花は自分のバッグから、光の家の鍵を取り出し机に置いた。

「これはもう、必要ないよね」

「ちょっ・・・・」

「もう、出てて」

 寛太と花は一緒に帰宅した。

花はテレビの前にあるソファーに横になった。大きく伸びて、言った。

「ねぇ、寛太」

寛太は部屋の暖房を入れた。

「何? 」

「私たちさ、いつ籍を入れるの? 」

寛太は横になっている花の頭のある方に座った。

「それも考えなきゃだな」

花は寛太の膝に頭をのせて、寛太の顔を見た。寛太は花に下から顔を見られる状況に恥ずかしさを感じた。

花は寛太を見て、笑い、言った。

「また、そのセリフ、もう聞き飽きたなぁ」

寛太は花を見て笑って、頭を持ち上げて言った。

「でも、気持ちに変わりはないから」

「もう、寛太ったら」

「花、悪い、今日はもう寝るわ。明日早いし」

寛太はソファーから立ち上がろうとしたとき、花は強く寛太を止めた。

「なんだよ、花」

花は少し笑いを浮かべながら、言った。

「もう少し、一緒にいようよ、いてくれないと嫌」

「明日の夜な、おやすみ」

寛太は花の言葉をスルー気味に聞き、部屋を出て行った。

花は、寛太が部屋を出て行ったのを見届けると、立ち上がりスマホを手にした。

 花と会社の同僚である野村元のむらはじめは、テレビを見ていた。

すると、携帯が鳴る。一人暮らしのため、聞こえるのはテレビと外のわずかな雑音だけである。

「もしもし」

受話器の向こうからは、花の声がした。

「あっ、出てくれたんだね。今、大丈夫? 」

「それ、俺に対する嫌味かぁ」

と元は言って、クスッと笑った。

「ごめん、ごめん、そちらはいつでもウェルカムだよね」

「なんだよ、その言い草は。で、どうしたこんな時間に」

「あっ、いや別にそんな深いわけはなくて」

「じゃあ、どうしたぁ、俺の声でも聞きたくなったのかぁ? 」

「うん」

元は受話器の向こうの返答に固まる。ただ、元は言葉がうまく見つからなかったので、ありきたりな言葉を返した。

「からかってんのか、俺はそんな暇じゃ・・・・」

元の言葉を遮って受話器の向こう側から返ってきた。

「好き」

花は続けて言う。

「元のことが好き、愛してる」

 花は窓の方を見て、電話をしていた。

寛太は、花の言葉を一語一句聞き漏らすことなく、部屋のドアの向こうで聞いていた。。。






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