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小説

アイスの棒

作者: ガンベン

茹だるような暑さの中、涼しい冷気が二人の頭と心を潤した。

「こら、そこはそんなことをするところじゃありません! 。」

 駄菓子屋さんのおばちゃんが、アイスキャンデーが入っている冷凍庫に頭をつっこんでいている二人を注意した。

「違うよ。おばちゃん。僕たちは、奥においしいアイスがないか、探していただけなんだよ。」

外で遊んでばかりですっかり小麦色をした顔を、冷凍庫からぐっと上げながら、浩司はふてぶてしく答えた。

「な、ひろちゃん。おいしそうなアイスないから、かき分けないと見つからないんだよね。」

 一緒に頭を突っ込んでいた博志も、急いで冷凍庫から頭をあげた。博志の顔には、冷凍庫の氷に顔を付けていた氷屑と水滴が光っていた。

「うん。おいしいのは、おばちゃんが隠しているってこうちゃんが、言っていたしね。」

 おばちゃんは、浩司をじろっと睨んだ。しかしその浩司の隣にいる博志のまだ幼い顔上に光っている水滴が可愛らしくて、そんな気持ちも飛んで行った。

「全く、なんて言いぐさなんだろうね。こうちゃん。あんた、もう5年生なんだから、もっとましなことを、ひろちゃんに教えてあげてね」

「わかったよ。おばちゃん。」

浩司は頭を掻き、博志を振り返り照れ笑いをしながらべろを出しおどけてみせた。博志は、その浩司のそのしぐさが面白かったようで、笑い声を立てた。

「こうちゃん。また何かしたでしょ。全く……仕方ないお兄ちゃんだね。ひろちゃん、あんまり悪いことはマネしちゃだめよ。」

「うん。」

 博志は、完全には意味が分からなかったが、とりあえずおばちゃんの言うことを聞くふりをした。そして浩司の服の袖をひっぱり、何かを催促しているようだった。

「あ、そうだったな。アイスを買いにきてだんだよね。」

 浩司は、母親から弟の博志のお小遣いと一緒にもらった100円玉を見て、また冷凍庫の中にあるアイスを二人で物色し始めた。


 冷凍庫の中は、宝の山だった。色とりどりの包装に、浩司は心を躍らせて、また物色した。同時に、この冷気が堪らなかった。ちらっと、隣を見ると、博志も浩司の真似をしている。こちらは、兄がすることに興味を持っているらしく、顔を見合わせると博志は嬉しそうににこっと笑った。

「もう、あんまり長く顔突っ込んでいると、顔が凍ってしまうわよ」

 後ろからなげやりのような声が飛んでくる。もうあきらめているような感じだった。博志は驚いて、冷凍庫から顔を取り出した。

浩司はそんなことはお構いなしに、物色を続ける。そうすると、ソーダ味のアイスバーを見つけた。包装を見るとソーダアイスを食べている坊主の少年が、美味しそうに食べている様子で、浩司はそれに魅かれた。

「ひろちゃん。これにしよう。おいしそうだし、ちょうど一個50円だから、二人分買えるよ。」

「うん。じゃあそれにする」


「やっと決まったんだね。これね。100円ね。ありがとうね。あっ、これ今キャンペーン中のアイスなの。棒に当たりが出たらおまけで、もう一本もらえるの」

二人は歓声を上げた。

「おまけだって。なんかうれしいな。ひろちゃん。早く食べようよ。」

 浩司は、何気なく二つ取ったアイスの一つを博志に手渡した。


 なかなか大きなアイスクリームだった。まだ冷凍庫から出して間もないのか、浩司の歯では噛み砕けないぐらい固かった。博志は必死にぺろぺろ舐めている。おばちゃんが言った「棒に当たりが出たらおまけ」という言葉に刺激を受けて、二人は必死にそれを探していた。

 浩司の方が、少しずつアイスを溶かし、齧りきれる柔らかさにまでなってきた。少しずつ棒が見えてみた。心の中でもう少しだ。当たりよ、でろ! と祈るような気持ちでなめたり噛み砕いたりする作業をしていた。

 浩司のアイス棒に「あた」の文字が見えてきた。

「やった、おばちゃん。出てきた。『あた』の字だ。やったね。おまけでもう一本だ。」

 浩司は勝ち誇ったようにおばちゃんに、途中まで出ている文字を見せつけた。しかしおばちゃんはくすっと笑い、

「最後まで食べてから、見せてちょうだい。まだ途中じゃないか」

 浩司は、もうおまけのもう一本がもらえるつもりで、急いで食べている。隣の博志を見てみると、浩司のアイス棒に書かれている文字ぐらいまでは来ていたが、まだその文字は見えてこなかった。かわいそうに、まあでもこれも偶然だから仕方ないな。なんたって、公平に選んだアイスで当ったおまけだから、一人占めだな。浩司は一人ほくそえみながら、「あたり」の文字を見て思った。もうすぐだ。流行る気持ちを抑えきれず、最後の残りをがぶりとかぶりついた。浩司のアイス棒に「あたり」の後に何か書かれていたが、一気に食べたアイスの冷たさで頭がきーんとして良く見えなかった。でもそれを持って、元気よく

「おばちゃん、あたりだからもう一本」

するとおばちゃんは、やはり笑って、その棒を突き返した

「あんた、ちゃんとその棒に書いている棒をみたの?」

浩司は、訳がわからず、少しずつおさまってくる興奮の中、自分の棒を見直して、愕然とした。棒には「あたりじゃないよ」の後ろに、包装紙に書かれていた坊主頭のキャラクターの少年が、ベロを出していた。うそだろ、こんな手の込んだことをするの? と浩司は、その棒を暫く呆然と見ていた。


そうすると、ゆっくり食べていた博志が大声で、

「こうちゃん。あたりだって。もう一本だよ。こうちゃんは、あたりじゃなかったから、半分だけ、こうちゃんにあげるね」

「いやいいよ。ひろちゃんが当たったから、全部自分で食べなよ。待っててあげるから」


博志は、あたりの棒をおばちゃんに手渡すと、また新しいアイスの包装をあけて、またゆっくりとアイスを舐めはじめた。

浩司は、その姿をはずれの棒を舐めながら、複雑な気持ちで眺めていた。


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