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新型トイレと俺物語

最近初めてトイレを買った時の話です。

 ある日の事だ。

 寝起きにトイレへと向かう、と水が流れっぱなしになってたんだ。


 なんだこれ?

 何で水が流れっぱなしなんだ?

 今って、家には俺以外誰も居ない筈だよな?

 ひょっとして空き巣か?

 空き巣が盗みに入ったついでに、大の方を放流でもしていったのか?

 いや、そんな訳はない。

 うん。俺にも分かっては居たんだ。

 空き巣の仕業じゃないって事は。

 もし、俺が空き巣でトイレを使ったのだとしたら、確実に流さずに放置する。

 勿論家主に見せつける為に。

 世間一般で言われるところの、置き土産というやつだな。

 経済的ダメージ+精神的ダメージで、良い感じに打ちのめす事が出来る。

 人類至上もっとも最低のお土産だ。

 となれば、空き巣も恐らくこれ見よがしに流さずにブツを残して行くだろう。

 ブツが残されていない以上は、これは空き巣の仕業ではない。

 トイレ自体に、何らかのトラブルが起きていると、考えるべきなんだろうな。


 そんな訳で、トイレのタンクを開けてみると、意外なほどあっさりとトラブルの原因と思わしきものは見つかった。

 どうやら金属部品が錆び始めた所為でレバーが上手く元に戻らなくなってしまったらしい。

 まぁ、トイレに入る度にキッチリとレバーを戻せば良いだけだ。

 多少不便ではあるが大した問題じゃないし、まぁ良いか。


 だが、それは非常に甘い考えだった。

 その事を俺は嫌という程に、思い知らされる羽目になる。

 

 そしてその日は訪れた。


 ある日届いた水道料金のお知らせが、何だかおかしかったんだ。

 具体的にどうおかしいのかと言えば、ズバリ記載されている数字だ。

 そこにはこんな数字が並んでいたんだ。


 38238

 

 !?


 見間違いか?

 見間違いじゃねぇ!

 水道料金の請求が!

 38238円だとぅ!?

 どうしてこうなった?

 前回までは12000円位だったのに。

 いきなり3倍以上とか、高額にも程があるだろ!


 だが、意外とあっさりと超高額水道料金の理由は判明する。

 ずばり犯人はお袋と弟だ。

 お袋も弟も水を流しっぱなしで放置していたらしい。

 勿論注意はしてたし、俺が自宅に居る時はキチンと流してた筈だ。

 だが、奴等は俺の目の届かないところでは、適当だったんだ。

 敵は本能寺に在りどころの騒ぎじゃねぇ!

 自宅に居やがった!

 しかも、敵は実母と実弟という有様だ。


 ぶん殴って良いかな?


 天国の婆さんの遺言に背く事になるが、流石にこれは鉄拳制裁でも仕方ないだろ。

 などと、思わず殺意の衝動に身を任せてみたくなったものの、何とか踏みとどまる。

 よくよく考えてみれば、お袋は今年で64歳だ。

 特に近年のポンコツぶりは目覚ましく、多分加減して殴っても死ぬ。

 もう一方の対象である弟はと言えば。

 身長167cm、体重41キロ。

 多分煮込んでも、出汁は出ないだろうな、という位には貧弱だ。

 はっきり言って、即身仏と見間違ってもおかしくないレベルだ。

 これまた殴ったら死んでしまいそうだ。

 というか、殴らなくても死にそうだ。

 じゃぁ、この湧きあがる怒りを抱えて泣き寝入りするしかないのか?

 否。俺の武器は腕力だけじゃない。

 俺には学生時代にやっていた柔道と、肉体労働で鍛え上げた指力がある。

 その指力を最大限に活かした罰と言えば、デコピンだ。

 これなら俺も身内殺しの業を背負う事無く、ある程度は溜飲を下げる事が可能となるだろう。

 とあるキャバクラで、冗談交じりに軽く女の子にデコピンしたら女の子が号泣し出禁になったのは、今でもほろ苦い思い出となっている。

 慌ててフォローしようとして、ぼっこりと膨らんだ部分をマジックで縁取った後、黒目部分を書いて第三の目に仕立てあげたのが、良くなかったのかも知れない。

 周りの娘は爆笑してたのに、何故に出禁処分なのか未だに解せぬ。

 サザ○アイズのパール○ディ様可愛いのにな。

 それ以来封印し続けて来たデコピンだが、今こそ、その封印を解き放つ時がやってきたのかも知れん。

 罰と言えば、似た類のものに、ニッペというものもあると言えばあるけども、高校時代にクラスメート相手に全力で叩きつけてみたところ、相手の手の甲の骨が二本折れて以来封印していたりする。

 卒業以来あっていないが、竹下君は元気でやってるだろうか。

 あれ? 竹本君だったかな?

 まぁ、どっちでも良いか。


 そんな訳で、俺はデコピンで多少の留飲を下げようと企んだのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 お袋に関しては俺も加減をしたから、不完全燃焼ではあるものの特に問題は起きなかった。

 その分、弟には全力のデコピンを叩き込んだんだ。


 デコピンのダメージにのたうち回る弟。

 

 ならびに俺。


 何で俺がのたうち回っているかって?

 その理由は簡単だ。

 自らの繰り出したデコピンの威力に耐えきれずに、爪が割れたんだよ。

 割れた爪からじわじわと滲み出る血が、見るだけで痛々しい事この上ない。

 まさかこの年で、全力を出すと肉体に負担が掛かっちゃうフ○ーザ様気分を味わう事になるとは思ってもみなかったわ。


 まぁ、多少のトラブルはあったものの、今回のお仕置きに関しては、これで良いとしてもだ。


 肝心要のトイレの故障に関しては、未だに何も問題は解決しちゃいない。

 お袋や弟にきっちりと水を止めろと言っても無駄だという事は、既に証明されている訳で。

 良し。

 こうなったら、トイレを新しいのに買い替えるっきゃないだろ!


 そんな訳で、知り合いの業者のおっさんから、カタログを取り寄せてみたんだが……

 なにこれ。

 超高いんだけど。

 ウォシュレット付きの高級タイプが高いのはまだ分かる。

 だけど、洋式の便座とタンクのみ物でも、18万だと!?

 勿論工賃は別途必要でだ。

 何だよこれ。

 自宅での快適トイレライフを手に入れるだけで、こんなにお金って掛かるものだったのか……

 いや、大手の通販などを利用すれば、もっと安く上がる事は分かっているんだ。

 多分、半額以下で済むだろう。

 だが、このおっさんがお袋がやっていた呑み屋で使ってくれていた金額は、どう考えても、便器一つで済む様な金額じゃない筈だ。

 ここで別の業者を使うという選択肢は、俺にはない。

 まぁ、贅沢は敵だ。

 一番安いのでも特に問題はないだろ。

 そんな感じで、俺の意見を業者のおっさんに伝えてみるが、ここで予想外におっさんが食い下がって来た。

 何? そんなに高いのを売り付けたいのか?

 え? そうじゃない?

 どうやら、便座に保温機能をついた物を、選ばせたいらしい。

 おっさんが言うには、老人がトイレで亡くなるという事は、結構頻繁にあるらしい。

 部屋とトイレの温度差が大きく、血圧が急激に変化する為、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくなるんだとか。

 冷たい便座というのは、年寄りには優しくないみたいだ。

 確かにお袋の健康の事を考えるなら、おっさんの言う事を聞くのが正解なのだろう。

 ここは素直におっさんの顔を立てて、売れ筋のウォシュレットタイプを選ぶとしようか。


 そして数日後。

 我が家に新たなトイレが設置されたのである。

 とりあえず説明書を読んでみる。

 そこには節水や抗菌、そしてウォシュレットの機能についてこれでもかという位に書き記されていた。

 ほう。15年前のトイレと比べると水量が半分以下になっているのか。

 それは異常に胃腸の弱い俺には、有難い事こってす。

 何せ俺は一日に10回位トイレに駆け込む男だからなぁ。

 

 それで、お袋はもう使ってみたのか?

 そうか使ったか。

 感想はあるか?


 え?


 水が少ししか流れなくて不安だったから、もう一度流しただって?

 馬鹿じゃねぇの?

 何の為の節水機能なんだよ!

 阿呆か!

 折角半分になった水の使用量を、自ら2倍に増やしてんじゃねぇっての!

 節水って言葉の意味を分かってるのか?

 全くもって驚く程のポンコツぶりだな。


 そんなやり取りをしていたら、何やら俺も便意を催してきたな。

 それじゃ、新型便器の実力ってやつを、この身を持って体感してやろうじゃないか。

 とりあず座って見る。

 おお。

 温かい。

 この温かさが老人に優しいって事なんだな。

 そしていよいよウォシュレットの出番だ。

 設置されているリモコンに目を向けてみれば……

 「お尻洗浄」「やわらか」「ビデ」というボタンが視界に飛び込んでくる。

 何これ?

 お尻洗浄とビデは分かる。

 以前まで使っていた旧式のウォシュレットにも付いてたからな。

 しかし、「やわらか」というボタンは初めて見た。

 「やわらか」というボタンに描かれている絵は、洗浄にそっくりでお尻を洗っているように見える。

 違いと言えば、描かれているシャワーっぽい水流が、少々細かいという点だろう。

 つまりやわらかな水流で、優しく洗い流してくれるって事なのだろうか?

 いや、やわらかな部分を洗い流すって意味なのかも知れん。

 どちらにせよだ。

 最近のウォシュレットはそんな親切な機能まで付いてるのか。

 ならば、そのやわらかを十二分に発揮して俺のお尻を洗浄して貰おうじゃないか!

 そんな思いと共に「やわらか」のボタンを押してみる。

 作動音と共にウォシュレットは動き出す。

 そして、やわらかな水流は俺のお尻へと射出され―――――


 俺のやわらかな部位を切り裂いた。


 !?

 痛ってええええ!

 滲みる!

 水流が超滲みるんですけどおおお!?

 何だこの水流の勢いは!?

 ちっとも優しくねぇよ!?

 これって「やわらか」な部分を切り裂きますってボタンなんじゃねぇの?

 予想外の展開に慌てて停止ボタンを押す俺。

 その際に、思わずボタンを連打してしまったのは、仕方ない事だと思う。

 数秒とは言え、傷口を激流で抉り続けられたんだ。

 むしろ室内を汚さない為に、鋼の意志で便座に座り続けた事を褒めて欲しいくらいだよ。

 何だよ。

 この仕打ちは。

 ん?

 よく見てみれば水流MAXになってるじゃねぇか。

 やわらかのMAXでこれって事は、普通の洗浄の方の水流MAX何て喰らったらお尻切裂くどころか、貫通して口から水が噴き出すんじゃねぇの?

 お袋はよく平気だったもんだな。

 面の皮の厚さをから察するに、尻の皮も同じ位は分厚いんだろう。

 まぁ、次からはトイレに入った時は、水流のチェックは必須だろうな。

 毎度お尻を切裂かれるのは、嫌過ぎるもんな。

 ウォシュレットの性能も大体把握した事だし、お尻を拭いて流すとするか!

 そう思って、紙を手に立ちあがった時の事だ。

 思わぬ事態が、更に俺を打ちのめす事となる。

 一体何が起きたのかと言えば。

 

 ジャーゴボゴボ。


 いきなり水が流れ出したのである。

 所謂自動洗浄というやつだ。

 そんな機能の存在など知らん俺はちょっとしたパニック状態だ。


 え?


 何で勝手に流れてんの?

 ちょっと待ってぇ!

 まだお尻拭き終わってないんですけどぉ!?

 そんな俺の思いもウォシュレットには通じない。

 必死で拭いてみるものの間に合う訳がない。

 ってか、お尻が思った以上に、ザックリ切れてて痛ぇよ!

 拭くどころの騒ぎじゃねぇってばよ!

 

 そして何事もなかたかの様に、静かにトイレに鎮座する便座。


 その堂々たる姿に、紙を片手に茫然と立ちつくす俺であった。


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