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モヤシDAYS

約二カ月ぶりの投稿です。

おっさんの悲惨な日常を笑い飛ばして頂けたら幸いです。

 生際防衛隊こと俺は最近モヤシを食べ続ける日々が続いている。

 ちょっとお洒落にいうならモヤシDAYSといったところだ。

 何故俺がモヤシ三昧な生活を送っているかと言えば話は一カ月ほど前にまで遡る。


 ◆◆◆◆


 何だかお袋の様子が妙だ。

 妙に俺の顔色を、伺っている節がある。

 これはあれか?

 齢64にして、どっかの老い先短い資産家の爺さんでも、捕まえたのか?

 そうだったら……

 良いなぁ。

 お袋が片付くだけで、俺の生活が相当楽になるからな!

 もしそうなら、後は弟が片付けば良いだけか!

 何だか急に視界が開けて来た気分だぜ!

 ん? 

 俺?

 俺の事は、放っておいてくれ。

 あえて触れない優しさってものも、存在するんですよ?


 そして遂に。

 その時は訪れたんだ。

 それは、俺がモヤシ炒めをつまみに晩酌している時だった。

 

「ちょっと話があるんだけど」


 お袋が妙に改まった口調で、俺に話し掛けてきた。

 

 ん?

 なんだ? 

 

「あのね。怒らないで聞いて欲しいんだけどね……」


 そう言って口籠るお袋。

 お?

 これはホントにあり得るんじゃねぇの?

 伊達に場末のスナックの元経営者してた訳じゃないってか。

 でもな。

 保険金殺人とかは勘弁してくれよ。

 あんたが捕まると、流石に俺も困るしな。

 ってか、俺の思考が大暴走してやがるな。

 落ちつけ俺。

 ここは冷静に深呼吸だ。 

 ヒッヒッフーってやつだ。

 うん。落着いた。


 だから何だってんだよ?


 やべ。ちょっと声が上ずりそうになっちまった。

 まぁ、でも動揺は何とか隠せている筈。

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、お袋が決心したかの様に口を開く。




「あのね。生活費を盗まれちゃったみたい」


 ……………………え?

 

 俺の聞き間違いかな。

 もう一度言ってくれ。



「だから生活費を盗まれちゃったみたいなの」


 聞き間違いじゃなかったあああ!

 予想外過ぎる展開来たああああああ!


 折角心を落ちつかせたってのに、ヒッヒッフーじゃ、もう落ちつけねぇよ!

 えええ!?

 盗まれたって何時?

 何処でだ?

 幾ら盗られたんだよ!

 そんな質問を、矢継ぎ早にお袋に繰り出す俺。


「お店のロッカーに入れておいたら、盗まれちゃったみたい」


 てへぺろ♪ みたいなノリで軽く言うんじゃねぇよ!

 60過ぎのBBAがそんなんしても、殺意しか湧いて来ねぇっての。

 俺が身内で良かったな!

 他人だったら、今頃あんたの呼吸は止まってたかもしれんぞ。

 一応補足しとくと、お店とは、最近場末のスナックから、韓国料理屋にジョブチェンジを果たした、お袋の新しい仕事場の事だ。

 ちなみに俺もお袋も、生粋の日本人だ。

 何故、生粋の日本人が、韓国料理屋に鞍替えしたのかという話は、またの機会にしようと思う。


 そこの店のロッカーに、鍵も掛けずに財布を入れておいたら、何時の間にか盗られていたという事らしい。

 この話だけを聞くと、一緒に働いている同僚の犯行っぽく聞こえる。

 しかし。

 このロッカーというのは、店に備え付けられているトイレへと向かう通路においてあるらしく、普通にお客さんもそのロッカーを触ろうと思えば、幾らでも触れる場所にあるらしい。

 そんな訳で、恐らく犯人は客だろうと思われる。

 何でそんな場所に、財布を置こうと思えたんだよ……

 ってか、何で鍵すら掛けてないんだよ。 


「いや、だって私だけ鍵を掛けてたら、一緒に仕事している人を疑っているみたいじゃない」


 いやいやいや!

 そういう問題じゃないっしょ!

 根本が違うんだよ!

 何でわざわざ問題が起きやすい状況を、自ら作っちゃってんのよ。

 先ずは、問題を未然に防ぐ努力をしてくれよ。

 60過ぎてからポンコツになってきたなぁ。って、思ってはいたけど本格的なポンコツになりつつあるなぁ。

 昔はもっとシャキッとしてたイメージあったのに。

 時の流れってのは残酷だな。


 んで、他の同僚さんは、被害にあってないのか?


「他の人はロッカーを使ってないからね」


 やっぱりね!

 そんな気はしてたよ!

 普通はそんな場所に、大事なもん置かねぇわな!

 まぁ、被害者がうちのポンコツだけで良かったわ! 


 んで、幾ら盗まれたん?


「30万位かな」


 !!?

 ほぼ一ヶ月分の生活費じゃん!

 どうすんの!?

 次の俺の給料日まで、まだ27日もあるんだぞ?

   

「怒らないでって言ったのに!」


 いや、何言ってんの?

 そりゃ、怒りますよ?

 むしろ何でお袋の方がキレてるんだよ。

 逆切れも甚だしいだろ。

 もうちょっと悪びれてくれよ。

 どうすんだよ!

 何とかなるのか?

 泣いて良いかな?

 ちょっと洒落にならんし。


「何とかですって? 何とかするの! この程度の事なんて戦争中に比べたら全然大した事ないんだから!」


 自信満々に言い放つお袋。

 まぁ、確かに戦時と比べたら。

 大した事じゃないかも知れん。

 でもな?

 お袋さんよ。

 一つ言わせてくれ。

 あんたは戦後の生れでしょうが!

 どっからその自信が湧いて来ちゃってんだよ!

 ひょっとして、へそくりでもあったりするのかい?


「そんなのあったら、わざわざあんたに謝ったりしないよ。でも私には頼もしい味方がいる!」


 そう言って、お袋は何やら取り出した。

 ん?

 これってスーパーで良く見る奴だよな。

 つまりはモヤシってやつだ。

 確かにモヤシは、安くて栄養価が豊富。

 金欠の強い味方って意見に異論はない。

 でも、今の御時世に、モヤシに頼りっきりの生活って悲し過ぎるだろ!

 ってか、ここ数日、給料日直後だってのにモヤシ率高いなと思ったらそういう裏があったのかよ!

 はぁ……

 まじで泣きたい。

 こうして我が家は、一カ月耐久モヤシ生活に、突入する事になったのである。



◆◆◆◆


 そんな訳で本日もモヤシである。

 まぁ、一応特売品の焼きそばとかも食ったりはするんで、モヤシオンリーという最悪の事態は避けられているんだが。

 しかし、俺は基本的に料理というものが、得意じゃないんだよ。

 塩コショウで味付けして、焼くか炒める位しか出来ないんだ。

 正直に白状するならば、味は食べれなくはない。

 でも美味くもない。

 そんな味だよ。

 まぁ、無い袖は振り様がない。

 大人しくモヤシを喰うしかないんだけど。

 だから俺は我慢してモヤシを喰い続けた。

 来る日も来る日も、モヤシの日々だ。


 だが、そんな俺のモヤシ生活に、激震が走る出来事起きたんだ。

 珍しく仕事が早く終わった日の事だった。

 今日も今日とて俺は絶賛モヤシライフ続行中ってな訳で。

 代わり映えのしないモヤシと、焼きそばの比率1対1のもやし焼きそばを食べていた時の事だ。


「ただいまー」


 どうやら、お袋と弟が、帰って来たらしい。

 一緒に出かけてたのか。

 珍しい事もあるもんだな。

 もやし焼きそば、略して、もやそばまだあるけど食うか?

 美味くも不味くもないメイドイン俺という、余所じゃ、お目に掛かれない逸品だぞ?


「いらないよ。かっぱ○司食べて来たし」


 ……………………はい?


「だからかっ○寿司食べて来たしいらないよ」


 ナニイッテンノコイツ?


 理解出来ないんだけど。


 いや、言っている意味は分かる。


 でもね。

 心がそれを理解したくないというか。

 何かそんな感じ。


 とりあえずぶっ飛ばして良いかな?


 天国のお婆ちゃん。


 天国に、俺の声は届いているでしょうか。


 何があっても、殺しだけはしないって約束。


 俺は今日破るかもしれません。


 俺がそんな祈りを捧げた時だった。  

 慌てて言い訳をし始めるお袋。


「モヤシばかりだと飽きちゃうでしょ? だからちょっと贅沢して来ちゃったって訳よ」


 こんのポンコツババアが!

 この状況で!

 そんな事言われて!

 場が収まるとでも思ったのか?

 お前等は庶民の心のオアシス回転寿司で、何で俺だけモヤシなんだよ!

 それにお袋は韓国料理の賄いだって食べれてるんだろう?

 飽きるとか、贅沢言ってんじゃねぇ!

 お袋がモヤシをまとめ買いし過ぎた所為で、消費が間に合わなくて、既にちょっと酸っぱくなってんだぞ!

 責任もってちゃんと食べてくれよ。

 そんなんで良く戦争中とか言えたもんだな!


『この味が酸っぱいねって俺が言ったから7月6日もモヤシ記念日』

 

 by俺。


 全くもって何の感動もありゃしない。

 毎日がモヤシ記念日だとか、これっぽっちも嬉しくねぇってばよ!

 切なさと悲しみしか湧いて来ねぇよ。

 最早モヤシ月間だっての。

 ってか、ここ一カ月近くの間に、食ってる物の八割がモヤシの俺の身にもなってくれ。 

 俺の給料日まであと4日。

 お前等はもうモヤシと焼きそばだけだからな!

 

「「ええー」」


 何で不満げなんだよ!

 俺の方が不満言いたい位だっての。

 モヤシ以外を食ったら、マジで天国の婆さんと御対面して貰うからな?

 返事は?


「「はーい」」


 だらけた返事してんじゃねぇ!


「「はい!」」


 うるせぇよ!

 デカイ声出すんじゃねぇ!

 近所迷惑だろうが! 

 

 こうして、恐らく一生忘れる事はないだろう『モヤシDAYS』を、俺は何とか乗り切りましたよっと。



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