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オフ会に行こう!

以前やっていたMMOのオフ会の話です。

 切っ掛けは何気ないチャットだった。


「オフ会やらね?」

「まじで?」

「いいね! 私も参加するよ!」

「ゆかりちゃんが参加するなら、俺も参加せねばなるまい。自称Fカップの乳を揉む為に!」

「フフフ。そんな勇気があるんだったらどうぞ」

「まじで? そんな事言ったら会ったら、速攻で揉んじゃうぞ。後悔するなよ?」

「俺も揉む!」

「俺も!俺も!!」


 という訳で、以前にとあるMMOのオフ会に、参加した時の事を書こうと思う。

 オフ会と言っても、そんな大規模なものではではなく、気の合った数人で一緒に酒でも呑もうじゃないか、といった感じのものだ。

 結局、日程の調整が上手く行かず、集まったのはギルマスのみみお、サブマスのごるぞう、今回参加者で唯一の女性ゆかりちゃん、そしてじろ(俺のキャラネーム)の4名だ。

 この顔ぶれは、日頃から下ネタ三昧のギルドチャット等で、盛りあがっている特別気の合うメンバーだ。

 俺も彼等と会うのが、非常に楽しみだった。

 場所は参加メンバーが、最も集まりやすいという理由で、ごるぞうの地元の小田原という事になった。


 そして迎えた当日。

 お互いの顔も分からない同士が集まるという未知の体験に、不安と期待を混ぜ合わせた奇妙な感情を抱きつつも、待ち合わせている小田原駅に降り立つ。

 そして周囲をきょろきょろと見回してみると…… 居た。

 多分あれがそうだと思える程に、奇妙な組合せの3人組が居た。


 身長160cmあるかどうかという小柄な体格に、長細い発泡スチロールの箱を背負った、二十代前半の若者。


 身長180cm前後、ムキムキマッチョな体格で、金髪五分刈りという、普段だったら決して近づきたくないような風貌の、三十歳前後の男。


 これからどこのお店に御出勤ですか? と、問いかけたくなるような二十代半ばくらいの女の子、といった具合だ。

 普段ならば、決して交わる事のなさそうな連中だった。

 そんな連中が、待ち合わせ場所に一緒に居たとなれば、これはほぼ間違いなくみみお、ごるぞう、ゆかりちゃんの三人だろう。

 三人に間違いはないとは思うが、念の為に物陰に隠れ、事前に聞いているごるぞうの携帯を鳴らしてみる。

 何故そのまま話掛けに行かないのかって?

 人違いだったら、怖いからだよ。

 特に金髪マッチョが怖すぎるわ。

 だが、そんな思いは杞憂に終わる。

 金髪マッチョの携帯が鳴ったんだ。

 どうやらマッチョの方が、ごるぞうだったらしい。

 無事に彼等が、オフ会参加者だと確認がとれると、俺も彼等に合流したのだった。


「んじゃ、先ずは、お互いに自己紹介しよっか。僕がギルマスのみみおです」


 にこやかに笑いながら、軽く会釈をするみみお。

 彼は身長さえ除けば、比較的イメージ通りの人柄っぽい。

 背中に背負ってる発泡スチロールの箱が気になるけど。

 

「俺はごるぞう。宜しくな」


 彼はゲーム内では紳士な言葉を使っていたので、ヤンキーっぽい見た目とのギャップが凄い。


「俺はじろでっす。今日はヨロシコ」


 俺は、こういった場に参加するのが始めてで、どんな挨拶が相応しいのか分からない。

 無難にゲーム内で普段使っている口調で挨拶してみる。


「私はゆかりです。お酒大好きなので今日はいっぱい楽しみましょ!」


 うん。何となくお酒好きそうだと思ったよ。

 だって見た目が完全に、キャバ嬢なんだもん。

 しかし見事な谷間だな。

 Fカップってのはマジだったのか。

 これは…… 行くべきか?

 いや、流石に非常識過ぎるか?

 だが…… ええい!

 行ったれえええええ!


「ゆかりちゃんちょっと失礼」


 一言、断りを入れながら、揉んでみる俺。

 おぉ…… 柔らけぇ、そして温けぇ。

 これは紛れもなく本物のFカップだわ。

 そして周囲はと言えば、あまりの出来事にゆかりちゃんだけでなく、みみおや、ごるぞうもフリーズしている。

 まぁ、確かに初対面の女の子の乳を揉み出す奴は、そうはいないだろうからなぁ…… 

 そしてフリーズから立ち直ったゆかりちゃん。

 右腕を振りまわし、視界の外から飛び込んで来る右フックのような強烈なビンタを、俺のコメカミに叩きつけ、そして叫ぶ。


「いきなり何するの!?」


 そう怒鳴るゆかりちゃんの顔はトマトかよ! ってくらいに真っ赤だ。


「痛たたた…… ギルドチャットで会ったら速攻で揉む宣言してなかったっけ?」

「確かにそんな事言ってたけど! 本当に揉むとは思ってなかったよ!」

「実際どうしようか迷ったんだけどさ。あまりにナイスオッパイだったからね」

「ハァ…… こっちも思わず叩いちゃったから、今回だけは許してあげる」

「そりゃどうも」


 ふぅ。

 どうなるかと思ったけどビンタ一発で済んで良かった。

 泣かれなかったし、警察も呼ばれなかったし、有言不実行な男にもならずに済んだし、一安心といった気分だわ。


「そういえば、そっちの二人も揉むってチャットしてた気がするんだけど?」

「そんな勇気はございません!」

「リアル変態はじろさんだけです! 僕達は紳士ですから!」


 じろりと睨みを効かせるゆかりちゃんに、慌てて逃げ腰になるみみおとごるぞう。このテンポは何だかゲーム内のチャットを彷彿するな。

 などと、しみじみと思っていると、ごるぞうが何やら口を開く。


「ずっと気になったんだけど、みみおの背負ってる箱は何?」


 あ、それ、俺も気になってた。

 どうやら、ゆかりちゃんも気になってっぽい。

 ってか、多分、行き交う無関係の人も、絶対に気になってると思う。

 だってちょこちょこ二度見とかされてるし。

 そんな周囲の思いもなんのその。

 みみおは非常に良い笑顔で言い放つ。

 

「これ? 皆へのお土産だよ! 中身はシャケ!」


 シャ、シャケ!?

 三箱も持っているって事は……

 一人一匹ずつあるって事か?

 いやいやいや!?

 可笑しいだろ!

 オフ会って、そういうものなの?

 ごるぞうとゆかりちゃんの様子を伺ってみるが、二人ともまたもやフリーズしてる。

 どうやらオフ会で、集まったメンバーに、シャケを配るだなんて儀式は一般的ではないらしい。

 良かった。

 本当に良かった。

 いや、良くないな。

 どうすんだこれ。


「それじゃ、どうぞ」

「お、おおぅ」

「ど、どうも」

「あ、ゆかりちゃんの分は、重たいだろうから僕が持っておくね」


 みみおは、俺達の内心に全く気付いた様子もなく、にこやかにシャケを配る。

 受け取りたくはないが、みみおの表情には、悪意だなんてものは欠片も感じられない。

 純度100%笑顔の前に、俺とごるぞうは成す術もなく、シャケを受け取ってしまう。

 ちょっと生臭い。

 こうして小田原の街に、シャケを小脇に抱えて、スタイリッシュに練り歩く、四人組が誕生してしまったのだった。


「ここが、ごるぞう行きつけの居酒屋かぁ。

 雰囲気も良いし料理も旨そうな気配」

「お? じろちゃんはこの店気に入ってくれたみたいだな。

 ここの大将は、客の我儘も聞いてくれるし、料理も旨いんだぜ。

 そこらのチェーン店で、取引先の社長を接待する訳にもいかんから、重宝してるんだ」

「そりゃ、料理が楽しみだな。良し。先ずは乾杯しよう。ギルマス音頭おなしゃす!」

「それじゃ、今日はいっぱい食べて、いっぱい呑んで楽しみましょう。かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「かんぱーい!」

 

 こうして和やかに、オフ会はスタートした。

 しかし不思議なもので、会話の内容はいつもプレイしているMMOの事ばかりだった。

 あのボスはどうやって倒すとか、PVP(対人戦)でのスキルの組み合わせはこうだとか、いつもゲーム内でしているような話題ばかりなのだ。

 それでも話題は、いつまでも尽きる事なく、盛り上がり続けていた。

 だが、二時間も過ぎた頃だろうか。

 この状況が一変した。


 実はゆかりちゃんが――――――

 


 酒乱だったんだ。



「おい! じろ! 私の酒が呑めないのか!!」

「呑んでるよ! 呑んでるから落ちついて!?」


 尋常じゃないペースで、日本酒が空になっていく。

 このペースで、呑ませて大丈夫なのか?

 急性のアル中で死ぬんじゃないか? ってかヤバい。

 ゆかりちゃんの無茶苦茶なペースに付きあった所為で、俺も限界が近い。


「おい! そこのチビ! 呑んでるか!?」

「はい! 呑んでますよ!」

「嘘吐くな! さっきから全然減ってないじゃないか! 私が口移しで飲ませてやる!」


 え?

 口移しですと?

 それは俺もお願いしたいかも。

 そんな事を考えている間に、ゆかりちゃんはグビグビと酒を口に含むと妖艶な色っぽい笑みを浮かべて……


 ブハっとみみおの顔面に目掛けて、一気に酒を吹きかけたぁ!


 ……


 それって口移しじゃ、なくね?


 時代劇とかで、負傷者を消毒する時にするやつじゃね?

 ってか、ゆかりちゃんってば、どんだけ酒乱なんだよ!

 酒乱ってレベルじゃないぞ?

 もはや大魔王だろ! 


「ゆかりちゃん落ちつけって!

 クソ! このままじゃ店に迷惑が掛かる!

 みみお、じろちゃん手伝え! とりあえずカラオケにでも連れてくぞ!」


 おいおい。

 ごるぞう本気か?

 こんな状況の俺達を入店させる店があるとも思えんぞ。

 下手したら、警察沙汰とかになったりするんじゃないか?

 それで明日の新聞に載っちゃったりとか……

 充分にあり得そうだぞ。


『ネットを通じて知り合った男達が、泥酔した女性をカラオケボックスで暴行未遂。凶器はシャケ』


 嫌過ぎるぅ!

 そんなんなったら、もう地元に帰れねぇよ!


「大丈夫だ! 同級生が店長やってるカラオケがある!

 そこまで辿りつけば何とかなる!」


 俺の不安を見抜いたのか、ごるぞうが力強く言い放った。

 おぉ、流石は地元民だけあって頼りになる。

 あれだけ猛威を奮っているゆかりちゃんにも嫌な顔していないし、ひょっとしたら、いや、間違いなく、ごるぞうがこのメンバーの中で、最も立派な人格者だな。

 初見で、何あの金髪マッチョ怖いとか思ってごめん!


そしてシャケと大魔王を抱えた俺達は、何とかごるぞうの同級生が店長をやっているカラオケボックスに辿りつく。

 その後、行く度も、大魔王の脅威に曝されるも、俺達は何とか協力しあいながら凌ぎきった。

 みみお、ごるぞう、じろの3人の絆は果てしなく深まり、無事にオフ会は閉幕したのだった。


 ちなみにシャケは、キチンと持ち帰って、美味しく頂きましたよっと。

 


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