あの娘に花を
飲み屋の女の子に花を贈った時の話です。今考えると何でこんな事したんだろ? と思いますが当時はノリノリでした。女の子の名前は仮名です。
とある雑居ビルにある飲み屋の女の子、ルイちゃんが、その年3回目の誕生日を祝うと言うので、花束を持って行った時の事。
「あ、お花買ってきてくれたの!? ありがとう!」
建前上ルイちゃんは、花を嬉しそうに受け取ってはいる。
だけど本当は花ではなく、もっと価値がある貴金属やブランド物を望んでいる事は、こちとら百も承知、二百も合点な訳だけれど。
だけどね。
正直口説きたい訳でもない女の子に、高いプレゼントなんぞを送る気は、欠片ほども持ち合わせてない訳で。
半ば悪戯の意味も込めて、安い割りに、嵩張って扱いに困る花を見繕って来店したという、ある意味冷やかしよりも性質の悪い客。
それが俺だったりする。
それでも、この手のやりとりは、俺達にはよくある事で、実際に店に来て欲しくないのだとしたら、一々誕生日アピールなどして来ないだろう。
まぁ、心底嫌われている訳ではないと思う。
件のルイちゃんと言えば。
誕生日に来てくれた、他のお客さんの相手で忙しいっぽい。
俺のところには、新人のマリちゃんが、代わりに着いて相手をしてくれるようだ。
まぁ、ルイちゃんを指名してない時点で、本日のヒロインであるルイちゃんが、この席に着く事はないんだけど。
「お花かぁ。羨ましいなぁ」
他愛もない話をしていたのだけど、不意にマリちゃんが呟いた。
普通、こういったお店では、建前は兎も角として、本音ではあまり花は喜ばれないものだと思っていたのだけれど、違うものなのかな?
気になって話を聞いてみる。
どうやらマリちゃんは元々引っ込み思案な性格のせいで、積極的なアピールが出来ず、お客さんからプレゼントはおろか、指名を貰った事もまだないらしい。
結構可愛いのに。
花なんか欲しいの?
俺で良ければ、今度プレゼントするけど?
「ホントですか!? 再来週は誕生日だから、期待しちゃいますよ!」
おうよ! 最近パチンコが絶好調だから、すんごいの送っちゃうよ!
俺の言葉に、表情を輝かせるマリちゃん。
可愛いじゃん。
うんうん。
新人さんは、初々しくて良いやね。
こんなに期待されちゃったんじゃ、俺が一肌脱いで、一生忘れられない様な花を、プレゼントしてやろうじゃないか!
因みにマリちゃんは、新人なだけあって今年初の誕生日らしい。
そして迎えたマリちゃんの誕生日。
俺は当然の様にマリちゃんに会いに…… 行かずに部屋で晩酌していた。
何故店に行ってないのかって?
それは、この先の展開を読んでくれれば、分って貰える筈だ。
そして俺の携帯が鳴る。
掛けてきた相手は、当然マリちゃんだ。
「もしもし? マリです……」
やっほい。誕生日プレゼント届いた?
「届いたけど…… お店には来ないの?」
まぁ、店に行ったら怒られそうだしな。
「そりゃ怒るよ!?
お花が欲しいとは言ったけど、何で花輪なの!?
何だかパチンコ屋の開店日みたいになっちゃてるよ!
お店の入り口より大きいし、お客さんからの苦情も凄いんだよ!?
デカデカと『マリちゃん今年一回目の誕生日おめでとう』って書いてあるし!
一体何なの!?」
すげー勢いで捲し立てるなぁ。
まぁ、その気持ちは分からんでもないけど。
いや、行きつけのパチンコ屋の店長に相談したら、快く業者を紹介してくれてさ。
業者も思いのほかノリノリでね。
大特価で作ってくれたんだよ。
一生の思い出になったっしょ?
「一生の思い出!?
すっごく恥ずかしいんだけど!
一生夢に出てきそうだよ!
もう最低!」
この時は絶交って勢いで、マリちゃんに電話を切られた。
だけど。
この件が切っ掛けで、常連さんに名前を知って貰う事が出来たらしく、指名が増えたと、後日御機嫌で連絡があった。
結果オーライだったみたいだ。
実はこれが俺の狙いでもあったんだけどね。
概ね予定通りの展開になったみたいで、めでたしめでたし。
と、ハッピーエンドで終わってくれたら、良かったのだけれど。
どうやら店は、花輪の処分に、ゴミ回収業者を使ったらしい。
後日、花輪の処分代を、きっかり回収される羽目になりましたとさ。