表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

フェイス・トゥ・フェイス

お久しぶり、約半年ぶりの投稿です。

年末辺りからちょいとばかり立て込んでたので書く気力がわかなくて、気が付けば半年も放置で申し訳ない!


 ここは我が家のリビングだ。

 そしてそのリビングには俺とお袋、そして一人の男性が居たりする。

 その男性とは。

 ずばり我が家担当の信用金庫の人こと信金さんである。

 我が家では日頃から事あるごとに、いや、なくても定期口座の契約を求めてくる事に定評のある信金さんだ。


 

「ローンですか…… それは今すぐにはお答えできませんね……」


 少しばかり苦み走った表情で告げる信金さん。

 何とか営業をスマイルを取り繕うとしているっぽいが、思いっきり顔に出ちゃってますわ。

 まだまだ修行が足りませんな。

 何故、信金さんが我が家に居るのかといえば、先の彼の言葉で察してくれた人も居るだろうけども、ちょっと金が必要になったんだよ。

 だからローンの相談をする為に来て貰ったって訳だ。

 信金さんが苦み走っちゃう理由も分からんでもないよ。

 定期の契約がとれるかとウキウキしながら来てみれば、いきなり金貸してくれだもんな。

 もうすぐ11月だってのに、額に滲み出てちゃってる玉のような汗が、一杯食わされた的な信金さんの今の心境を如実に表してるな。

 因みに、今回俺が貸して欲しいとお願いした金額は300万円である。

 年収1000万オーバーとかの勝ち組ならば、どうとでもなる金額なのかも知れないが、下っ端トラックドライバーである俺には年収とまではいかないにせよ、結構な金額である。

 何故急に三百万もの金が必要になったかと言えば、話は数日前に遡る。




 その日、俺は何時ものように晩酌を楽しんでいたんだよ。

 そしたら、何だか妙によそよそしい態度で俺の対面に座るお袋。

 そんでもって、チラチラと何やらタイミングを伺っているんだよ。

 俺も伊達に何十年もお袋の倅をしてる訳じゃない。

 すぐにピンと来たね。

 もう110番に電話しちゃいそうな勢いでピンと来たね。

 あ、これは爆弾を放り込んで来るパターンだって。

 お袋にゃ、今まで散々振り回されてきたこの俺だ。

 お袋耐性のスキルを持っていると言っても過言ではない程度にはこの手のパターンには遭遇して来ている訳だよ。今更ちょっとやそっとの事じゃ、俺を驚かせることは出来ないぜ?

 ほら言ってみろ。

 今回は一体何をやらかしたんだよ。


「あのね。怒らないで聞いて欲しいんだけど」


 ハイハイ。何時ものその台詞(おやくそく)は良いから。

 さっさと主題に入ってくれよ。

 どうせ、ろくでもない事をほざき出すんだろ?

 はよ言えっての。


「実はね。私、借金があるんだけど……」


 ハイハイ。借金ね、借っ…… 何だとぅ!?

 ちょっとビールが鼻から出ちまっただろうが。

 おいおいおい。

 幾らだ! 幾らあるんだよ! っていうか何の借金だよ?


「大体300万円。お店を始める時にちょっと必要で」


 300万だとぅ!? って、思わずリアクションしちまったけども、何とも反応のし辛い微妙な金額だな。

 いや、金額としては、洒落で済む金額でもないんだけど。

 それでも、以前に親戚のおっさんの連帯保証人になってたと知らされた時の金額は2800万だったからな。

 あの時は荒れたなぁ。 

 ある日、突然スーツ着た兄ちゃんがやって来て金を返せとか騒ぎ出したから、手足縛って近所の河原に捨てといたんだよな。そしたら、二週間後くらいに裁判所から通知が来て、親戚のおっさんが支払いを滞納しまくってた事が発覚したんだったなぁ。

 あの兄ちゃんも最初からそう言ってくれれば、河原に捨てられずに済んだのになぁ。

 返済の為に仕方なく、当時働いてた土建屋で十二時間交代の現場を昼勤夜勤の両方とも仕事してたら、親方が労働基準監督署に死ぬほど怒られたり、返す当てがないんで仕方なく、土建屋を辞めて毎日パチンコ屋の開店に並んだりとかしたんだよなぁ。

 懐かしい。いや、二度とあんな日々にゃ戻りたくはないけども。

 あれに比べりゃ、今回のは大した事なさそうに思えてくるから、積み重ねた経験値ってのは偉大だわ。

 実際は凄く大した事あるし、今の俺の懐にそんな金が出て来る余裕なんてないんだけどな。


 話が随分脱線しちまったから戻すけども、店ってあれだろ? 一昨年に「もう無理!」とか言ってスナック辞めた癖に、二か月くらい前に店名と場所を変えて再び始めちゃったあれだろ?

 お袋が何も考えずに辞めちゃったから、賃貸契約してた店の違約金とか大変だったんだぞ。

 そんでもって、また急に店を始めるとか言い出して俺から結構な金額を引っ張っていったよな?

 その上、更に借金作ってたの? というか、よく金を借りられたよな。

 ん? ひょっとしてサラ金とか、闇金とかじゃないだろうな?

 流石にそれだと面倒見切れんぞ。

 というか、俺の貯蔵庫は既に空っぽだ。

 あと蓄えているものと言えば内臓脂肪くらいしかありゃしないぞ。

 とりあえず、真実を吐け。洗いざらい吐け。キリキリ吐くのだ!


「借りたのは最初(・・)にお店を始めた時よ」


 俺の問にそんな事を言うお袋。

 ん? んんん?

 最初に? 最初にって事は…… もう二十年以上も前じゃね?

 まぁ、最初に店を開く時に借りたってのなら、情状酌量の余地はある。

 親父と離婚して、食っていく為に始めた商売だからな。

 それにしても二十年も返済を続けて返し切れてないとか、どういう状況なんだ?

 それなら、ここ数年で狂ったようにCMで見まくってる過払い金とかいうのが、発生してたりするんじゃねぇの? と、思ったりもしたが、どうやら金を借りたのは銀行や金融屋が相手ではないっぽい。

 親しくしていた友人から借りたものらしい。


「貸してくれた人が全額まとめて返して欲しいって言い出したのよ。貸してくれた時はそういう事は絶対に言わないって話だったのに!」


 ぷんすか!って感じで言うお袋。

 何だそりゃ。確かに酷い話って言えば酷い話だよな。

 ポンっと返せるなら最初から借りる必要もないからな。

 それで? 最初は幾ら借りたんだ?


「300万円」


 んんんん?

 ちょっと待て。

 最初に借りたのが300万?

 なんかおかしくないか?

 んじゃ、残りの返済金額は幾らなんだよ。


「大体300万円ね。正確には270万円かなぁ?」


 おいおいおい。

 どう考えてもおかしくないか?

 何で二十年以上前に借りた借金が90%も残ってるんだよ!

 年に15000円しか払ってない計算になるぞ。

 月に換算したら1250円だよ。

 いや、実際にはずっと払ってなかっただけなんだろうけど。

 ある時払いの催促無しって話は結構よく聞く話だけども、いくら何でも払ってなさ過ぎだろう。

 見知らぬ友人さんよ。酷いとか陰口言っちゃって申し訳ない!

 よくも20年も待ってくれましたよ。

 酷いのはうちのお袋の方でしたぁ!

 っと、落ち着け俺。今ここで俺がテンパったところで何も解決しやしない。


 更に事情を聞いていくと、どうやら最初の一年くらいはお袋も一応返済はしていたらしい。

 だが、何のノウハウもなく素人がいきなり商売始めたところでそう上手く儲かる筈もなく、見かねた友人さんが払える時に払えば良いと言ってくれたらしい。

 それで、支払いをひと月待ってもらい、半年待ってもらい、そうこうするうちにお袋もその友人さんもすっかり借金の事は忘れてしまったという事らしい。

 そんなこんなで20年程時が経ったある日の事、友人さんは娘さんからお金に困っていると相談を受けたらしいんだな。その金額が丁度300万円。

 突然に300万円と言われても友人さんもほいほいと出せる金額でもないが、お袋に金を貸していた事を思い出したって訳だ。それで返して欲しいと言ってきたという訳らしいんだな。

 

 らしいらしいと、らしいばかりであれだけども、これが今回の借金判明の背景であるっぽい。

 勿論、これらは全部お袋の言い分であって、友人さんが本当に今まで金を貸していた事を忘れていたとは考え難いけども。

 俺が伊達にお袋の倅をやっている訳ではないように、お袋も伊達に俺のお袋をやっている訳ではない。

 多分、お袋に都合の良い感じに脳内変換されているであろう事は容易に想像できる訳だが、ここでその点を追求したところで誰も幸せになれない気がするんでスルーする方向で行こうと思う。

 スルーしたとしても幸せになれる気配は全くないんだけどな!



 

 そんな訳で時系列は現在に戻る。

 金策する必要が出来た訳だけども、生憎俺には金を貸してくれるような人間に当てはないんだよな。

 俺が言うのもあれだけども、連帯保証人問題で借金を押し付けてくれたおっさんを筆頭にうちの身内は駄目人間が多いからな。むしろ駄目人間しかいないと言い切ってしまっても良いくらいだ。

 となると餅は餅屋という訳で、白羽の矢が立ったのが、今、俺の目の前にいる信金さんという訳だ。

 それにしても信金さんの汗の量が半端ないな。

 放って置いたら脱水症状を起こしかねない勢いだぞ。

 その気持ちも分からんでもないよ。

 俺は信金さんのところで住宅ローンも組んでるからね。

 その時に年収が記されいる源泉徴収も渡している。

 つまり我が家の経済状況は手に取るように分かっている訳で、そういった理由から定期預金くらいは組める筈だと頻繁に営業に訪れてみればこの有様だよ。

 我が家の年収から計算してみると、信金さんの目からみて恐らく300万という金額は相当に厳しいものがあるっぽい。

 若干、信金さんが可哀そうな気もしないでもないけども、こちとら人生が掛かっていると言っても過言じゃない程度には切迫した状況でもある。

 もしも、もしもだよ。仮に信金さんのところで借りられなかったとしたら、俺ってどうなるんだろうね?

 最悪のパターンだとサラ金とかに手を出しっちゃったりするかも知れないよね。

 住宅ローンの返済だって滞り始めるかも知れないよ。

 勿論、土地と建物は抵当に入ってる訳だから、信金さんが取っぱぐれるって事はないと思うよ。

 でもさ、自分が担当してた家が一家離散しちゃったら、寝覚めは悪くなるような気はするんだよ。

 信金さんがどこで誰が死のうとも平気な激強メンタルを持っているってのなら、話は別だけども。

 貴方の街の信金バンクとかCMしてるくらいだから、それなりに親身になってくれると信じてる。

 そんな感じで仔犬のような瞳で縋るように見つめてみる。


「わ、私の一存では何とも言えませんので…… 一度支店に戻って上司にも、相談してみますね」


 脂汗だか冷や汗だか分からん汁をだらだらと垂れ流しながら、何とかその一言を絞り出す信金さん。

 うん。まぁ、この場ではそう言うしかないだろうね。

 人助けだと思って、どうか一つ宜しくお願いしますわ。



 そして数日後。


「この前のお話、何とかなりそうですよ!」


 我が家へと訪れるなり満面の笑みで言い放つ信金さん。

 お、おう。凄い笑顔だなぁ。ってか、何とかなるってマジで!?

 ちょっと厳しいんじゃないかなと思ってただけにびっくりだわ。


「一つのローンだけで何とかするのは厳しいのですけれど、住宅ローンを組んだ時に作ったキャッシュカードがあったでしょう? 100万円まではあれでキャッシング出来るんですよ。それと別のローンを併用すれば、何とかなる計算ですよ!」


 お、おおおお。

 俺ってば実は信金さんにはここまで期待してなかったよ。

 すまねぇ。正直あんたらを舐めていたよ。

 伊達にフェイストゥフェイスしてないな!

 ありがとーん! 本当にありがとーん!

  

「いえ、御力になれそうでホッとしましたよ。それでは具体的に話を詰めて行きましょう! 先ずはキャッシュカードの方が利息が安いので100万円キャッシングします。残りの170万円分を新たにローンとして組んで頂きます。利息の安いキャッシュカードの方は3月と9月に利息の引き落としがありますので、利息の分だけ入金して暫くは放置しましょう。その間に170万円のローンの方の返済を優先して返しちゃいましょう」


 テキパキと説明をする信金さん。

 先日の汗まみれっぷりが嘘みたいだ。

 そしてふむふむ、なるへそ。

 つまり二種類の借金をする事になるけども、実質的には一つずつ返していけば良い訳ね。

 そして当然ながら、返済期間を短くすればする程に利息も減るから返済金額は少なくて済むという訳だ。

 それなら、ちょいとばかり仕事量を増やせば、月額で5万位までなら何とかなりそうなんでその方向でお願いできます?

 俺の質問に信金さんは電卓を弾き始め、そして数字を確認した後、一つ頷き喋り出す。


「月額5万円の返済となりますと…… 170万円の方の返済は3年位で終わりますね。100万円の方の返済も1年あれば終わるので何事もなければ約4年で完済という事になりますが、よろしいですか?」


 という事になるらしい。

 おう。よろしいのことよ。それでお願いしまっす!

 

 とんとん拍子に話は纏まっていき、お袋の友人さんにも無事に返済は完了する事が出来たのでした。

 


 と、ここで話が終わる事が出来たのならば、めでたしめでたしで終わるところなのだろうけども、それで済まないのがおっさんライフクオリティ。 


 それは引き落とし後に通帳記入した時の事だ。

 いやぁ。驚いたね。

 我が目を疑ったよね。

 そこにはこんな感じで記帳されていたんだよ。


 証書貸付   48365

 ローン返済  26383 


 ってね。

 証書貸付ってのは金額から察するに新たに組んだ方170万円分の方の返済だろう。

 無視出来ないのがその下に燦然と輝く【ローン返済】だ。

 二つ分の返済が二つ同時に来ちゃってるよ!

 ひとつずつの返済でOKじゃなかったの?

 一つずつで良いって話だったから、限界崖の上を行くようにフラフラしちゃう位の気持ちで支払い計画を組んだってのに、このままじゃ、限界突破で崖の上からフライアウェイ。

 どうなってんのこれ。どうするのこれ。

 返済一回目から何事もありまくりだよ。

 こうしちゃ居られない! あの男に連絡だ!

 という訳で信金さんリターンズ。


「申し訳ありません…… あの…… 勘違いをしていまして…… 100万のカードローンの方は、毎月元金二万円+利子の返済みたいだったんですよ」


 そう言いながら、床に頭を擦り付けんばかりの信金さん。

 ジャパニーズ・DOGEZA待ったなしって感じだよ。

 あ、誤解はしないで欲しいんだけど、別に俺が強要してる訳じゃない。

 入って来るなり、淀みない滑らかな動きで謝りだしたんよ。

 要するに、別のローンの仕組みと勘違いしてたって事らしい。


「それで…… あの…… どういたしましょう?」


 若干、涙目で見つめて来る信金さん。

 そこには前回の頼もしさの欠片もない。

 だが、小中学生に柔道を教えていた俺には分かる。

 あんたのは目は、何だかんだと理由を付けて練習をさぼろうとしてた、子供達と同じ輝きをしてるぞ。

 その場しのぎで何とかしたいって気持ちは分からんでもないけどね。

 恐らく信金さんとしては、騒いで欲しくはないんだろうな。

 自分の査定にも響くだろうから。

 それでもさ、どうしようってのは俺の台詞なんじゃないの?

 本当にどうしようだよ。

 まぁ、それでも、金を貸してくれたことには感謝してるんだ。

 相談して直ぐに動いてくれたから面倒臭い揉め事にならずに済んだしね。

 だから、頑張って何とか返していくことにするわ。

 更に仕事を増やせば何とかなるだろう。


「え? 良いんですか!」


 途端に目を輝かせる現金な信金さん。

 良くないけど仕方ないもんな。たかが3年の辛抱だ。一日15時間くらい働けば何とかなるだろう。

 その代わりといっちゃあれだけども、一度くらいはお袋のとこの店にも顔出してやってくれよ。


「はい! 勿論です! 今度伺わせて頂きます!」 

 

 元気よく答えると、何度もペコペコと頭を下げつつも信金さんは支店へと帰って行ったのだった。

 こうしてお袋の借金発言に端を発した一連の騒動は、一先ずの収束を向かえましたとさ。


 PS

 それから半年、信金さん未だ店に訪れず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ