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やる気ゴンザレス

 仕事帰り、駐車場へと車を止め自宅へと歩く。

 ただいまーとか言ってみたものの、誰も居ないんだけど。


「あ、お帰りナサーイ」


 って、あれ?

 外国人がいる!?

 まさか、部屋を間違えた?

 いや、間違えてはいない。

 ここは間違いなくうちの部屋だ。

 んじゃ、コイツは何なんだ?

 って、よく見りゃピエールじゃん。

 ピエールが誰なのかって簡単に説明すると、お袋がやっている飲み屋の常連で、お袋の事を日本のママと呼び、俺の事を弟と呼ぶペルー人のおっさんだ。

 勿論、ピエールってのは仮名だよ。

 んで、ピエールはうちで一体何してんの?

 俺が問いかけるや否や、いきなり床に崩れ落ちるピエール。

 おいおい、いきなりどうした?

 何かの病気か?

 あ、大丈夫そうだわ。

 これ、ただの土下座だわ。

 いや、土下座って時点で大丈夫ではないのか?

 今現在、自分が一体どんな状況に陥ってるのか、全く分からんってのも怖いもんだな。

 ピエールの奴は、一体何を言い出すつもりなんだ?


「実は、お願いがあるのデス!」


 お願い?

 うちに金がないって事はピエールもよく知っている。

 まぁ、金って線はないよな。

 そして、コイツが部屋に居たって事は鍵を持っているって事になる訳だ。

 部屋の鍵を持ってるのは、俺とお袋と弟の三人のみ。

 弟とピエールに面識はない筈だから、必然的に鍵を渡したのはお袋という事になるな。

 つまり、この場には居ないが、お袋はこの状況を承知してるって訳だ。

 ふむ。俺とピエールとの年齢差は16歳。

 そして俺はお袋が27の時の子供だから、お袋とピエールは11歳ほど離れているという事になるな。

 年齢的には有りっちゃ有りか?

 お袋さんを私にくださいとか言い出してくれないかな。

 そしたら、熨斗袋(のしぶくろ)付けてくれてやるんだが。

 などという期待に満ち満ちた視線をピエールへと向けてみれば。


「違いマスヨ。そんな事ではありまセン」


 え? 違うの?

 なんだ。残念。

 って、そんな事って言わないでくれるか。

 俺にとっては大事な事なんだぞ。

 俺は押し付けたい。

 あのポンコツ。

 俺は知ってるぞ。

 お前が出来る子だって事は。

 だから頼む、お袋を引き取ってくれよ。

 え? 

 ペルーに嫁さんと子供が居る?

 知ってるよ。

 でも、もう10年以上も会ってないんだろ?

 向こうだって、きっと新しく男を作って宜しくやってるさ!

 だから―――――


「怒りマスヨ?」


 って、冗談だよ。

 だからそんな目でにらむなっての。

 全くピエールってば、洒落が通じない奴だなぁ。

 んで、ピエール義父さんの子供ってのは、女の子だったっけ?

 息子? じゃぁ、いいや。

 で?

 どうしてピエールってば、うちに居るんだ?


「弟さんにお願いがあるのデス」


 うん。それはさっき聞いた。

 っていうか、一気に意気消沈したな。

 ついさっき、怒りマスヨとか言ってた人物と同一人物とは思えないぞ。

 そして滑らかな動きで土下座に移行しやがったよ。

 ペルー人の癖になんでそんなに土下座慣れしてるんだよ。

 日本人でも土下座に慣れてる奴なんてそうは居ないってのに。

 しかし、これはガチの相談っぽいな。

 改めて言うまでもないと思うが、金ならないぞ。

 それ以外の話だってのなら、一応聞くだけ聞いて――――――

 いや、ちょっと待て。

 話を聞いたら、もう後戻り出来ないとか、ないよな?

 

「もう、弟さんしか頼れる人が居ないのデス」


 土下座でうっすらと涙目のピエール。

 あ、これはあれだな。

 お願いとやらを聞き届けるまで、絶対に諦めないパターンのやつだわ。

 うわぁ…… 嫌な予感しかしないな。

 まぁ、とりあえず、言ってみ?

 今のままじゃ、情報が無さ過ぎるわ。


「新しい部屋が見つかるマデ、泊まらせてくだサイ。

 どうか、お願いしマス。

 お家賃も払いますカラ!」


 うん? 

 新しい部屋?

 今まで暮らしていた部屋はどうしたんだ?

 日本に来てる外国人に部屋をお世話してあげるってのが、ピエールの仕事じゃなかったっけ?

 何でそのピエール自身が寝床を失う羽目になってんだよ。

 何か問題でも起こして、追い出されでもしたのか?


「そ、それは……」


 見事に口籠りやがった。

 何かしら後ろめたい事でもあったと見える。

 吐け、洗いざらい吐け。


「じ、実はデスネ……」


 俺の厳しい追及に、項垂れながらもポツリポツリと語り出すピエール。

 ふむふむ。なるへそ。

 ピエール自身、今までワンルームのアパートに住んでいたが、流石にワンルームだとちょっと手狭だと思っていた。

 そこで同郷の知人であるペルー人男性のゴンザレス(仮名)と家賃を半額ずつ出し合って、とある賃貸マンションを二人でルームシェアしようという事になったらしい。

 話はトントン拍子に進んでいき、無事に引っ越しは終わったらしいのだが。

 問題は夜に起きたっぽい。

 ピエールがシャワーを浴びていた時の事だ。

 いきなりオープン・ザ・ドア。

 突然の事態に驚いたピエールの視界に飛び込んできたのは、ゴンザレスの裸体。

 しかもただの裸体じゃない。

 ゴンザレスのゴンザレスが、やる気ゴンザレスだったから、さぁ大変。

 浴室のドアがオープンされたついでに、ゴンザレスの心のドアもオープンしちゃいましたってなもんだ。

 まぁ、要するに。


「ルームメイトがゲイだったのデス」


 ってな訳だ。

 いや、ピエールさんよ。

 随分と面白い事になってるな。

 突っ込みどころが満載過ぎて、どこから突っ込んで良いのか分からん位だぞ。

 何か俺、ちょっとワクワクしてきたわ。

 まず、何でこんなカオスな事になったのかと言えば、基本的にピエールの奴は優しい。

 まぁ、自分自身が外国人という事もあり、異国の地で色々苦労したという事もあって、外国人に対してはとりわけ優しい。

 そんな理由から、(くだん)のゴンザレスに対しても恐らく相当親身になって接していたって事は、想像に難くない。

 ゴンザレスは徐々にピエールへの想いを募らせていっていたところに、ルームシェアというある意味では二人で同棲しようって話が出たもんだから、想いが通じたと勘違いしちゃったっぽい。

 その結果、シャワー中にゴンザレス降臨という素敵? イベントが発生。

 ピエールは恐れ慄きその場から逃走。

 現在に至るという訳だな。

 まぁ、これはピエールの主張であって、ゴンザレスにはゴンザレスの言い分があるんだろうけど。

 いずれにしても不幸な勘違いにも程があり過ぎるだろ。

 ピエールの気持ちも分からなくはないが、これはゴンザレスも可哀そう過ぎる。

 折角、想いが通じたと思いきや、想い人がいきなり全力でエスケープしちゃったんだぞ。

 まぁ、あれだ。

 ピエールがゴンザレスの愛をお尻で受け止めれば、万事OKなんじゃね? 


「無理ダヨ! 壊れちゃうヨ!」


 はい。『無理、壊れちゃう』頂きました!


 エロゲーやエロ漫画では結構見かけるフレーズではあるし、一頭の雄としては一度は言われてみたい台詞でもある。

 だが、まさかペルー人のおっさんの口から聞かされる日が訪れるとは夢にも思わなかったね。

 神様ってば俺に対して少々厳しすぎやしませんかね。

 俺の心の柔らかい場所をごっそりと抉り取られた気分だよ。

 っていうか、壊れなきゃOKなのか?

 まぁ、ピエールのお尻がブレイクしなかった代わりに、ゴンザレスのハートはブレイク待ったなしであるってか。

 色々と突っ込みが追い付かねぇよ。

 突っ込まれたいのか、突っ込まれたくないのか、一体どっちなんだよ。


 でもまぁ、流石に見捨てるって訳にもいかないか。

 しゃーねぇな。

 四畳半の部屋で良ければ、自由に使って良いぞ。

 俺の言葉に表情を輝かせるピエール。

 

「本当に? アリガトウ! 本当にアリガトウ!」

 

 若干、泣き気味にがっちりと俺の手を握るピエール。

 おう。俺の心が広くて良かったな!

 何時までも握ってないで、いい加減に手を放せっての。

 スキンシップが濃いから、ゴンザレスも誤解しちゃったんじゃねぇの?

 反省しろっての。

 こうして、ペルー人のおっさんが我が家に居候する事になりましたとさ。 


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