表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

温もりフォーリンラブ

 とある週末の金曜日。

 はぁ。今週もよく働いたわ!

 頑張ったね、俺。

 凄いよ、俺。

 え?

 突然何を言い出してるのかって?

 いや、俺って独り者だろ?

 頑張ってもさ、誰も褒めてくれないじゃん?

 だからさ、褒めてるんだよ。

 自分ってやつをね!

 自画自賛ここに極まれりってなもんだ。


 こんな日は、熱い風呂にでも入ってサクッと寝るに限る!

 そして土日はごろごろと寝て過ごしてやるのだ!

 時間の無駄遣い?

 いいえ。違います。

 これが、これこそが、独身男に許されるプレミアムな時間の使い方なんですよっと。

 決して負け惜しみなんかじゃないんだからね!

 そんな訳で、湯船にお湯を溜めるぜぇ!

 溢れそうなくらいたっぷりと、贅沢に溜めてやるぜぇ!


 と、いう訳で、溜まったお風呂がこちらでございます。 

 では、早速入るとしましょうかね。

 おもむろに衣服を脱ぎ、そのまま洗濯機へと放り込みスイッチをオン。

 こうしておけば、風呂上りキュッと一杯のビールを呑み終わった頃に洗濯完了するから、ササッと干して直ぐ眠れるんだよな。

 ふふふ。なんという無駄のない段取り。

 まぁ、子育てとかもしながら、家事もしてる本職の主婦の方からみれば、その程度で自慢すんなボケが! とか、言われちゃいそうだが、何せ本日の俺は自分で自分を褒めていくスタイル。

 気にせずに自画自賛していく所存。

 流石俺。やったね俺。

 

 さーてと、湯加減はどんなもんかな?

 

 ……


 あれ? 

 冷たい。

 湯温にムラでもあるのかな。

 混ぜてみるか。


 うん。やっぱり冷たいわ。

 追い炊きでもないのに、湯温にムラなんて出来る訳ないよな。

 はい。水ですよっと。

 誰がどう見ても、どう触れても、紛う事なき完璧な水風呂ですな。

 お湯と水を間違えたのかな?

 まぁ、仕方ない。

 今日のところは、シャワーで我慢するとしますかね。

 ってな訳で、湯船は諦めてシャワーの蛇口を捻る俺。

 冷た!

 シャワーの向きを確認する忘れてたわ。

 お陰で思いっきり冷水浴びちゃったじゃんよ。

 うおお。超寒い。

 シャワーよ。早く温かくなってくれ!

 

 真冬の風呂で、水からお湯に変わるまでの待ち時間って、ある意味ちょっとした拷問だよね。

 しかも今の俺ってさ、微妙に濡れちゃってる状態な訳だし。

 春の訪れを待つ、動植物を待つ気持ちってこんな感じなのかもしれんね。


 10秒経過。さむさむ!


 20秒経過。そろそろかな?


 3分経過。


 ちょっと待てぇい!


 何で!? どうして水が一向にお湯にならねぇんだよ!?

 全裸待機してるこっちの身にもなってくれよ!

 寒いってばよ!

 限界だってばよ!

 ひょっとして壊れたのか?

 電気温水器の故障なのか!?

 どうすんの?

 風呂に入るの止めるにしても、今まで着てた服は絶賛洗濯中だよ!?

 体を洗ってないままに、洗濯済みの服着るのって、ちょっと嫌なんですけど!? 


 うおおおおお!

 こうなったら、やってやろうじゃねぇか!

 何をだって?

 決まってる!

 冷水シャワーってやつをだ!

 心頭滅却すれば火もまた涼しだ!

 まぁ、既にシャワーは、この上なく涼しい状態だけどな!

 水温一桁が何するものぞ!

 掛かって来いやぁ! 

 いや、むしろぶっ掛かって来いやぁ!


 


 二時間後。

 

 うん。やっぱ冷水シャワーは無理だったっぽい。

 体が冷えすぎて、お腹ぴーぴーさん状態ですわ。

 生際防衛隊さんは、すっかりトイレの住人に成り下がってしまったよ。

 花子さんに成り代わって、新たな都市伝説としてデビューする日も遠くないかもね。

 ああ。温い。

 ウォシュレットの温水が身に染みますわ。

 お尻も擦り切れすぎて、二重の意味で染みまくりだよ。

 泣いて良いかな?

 

 しかし、あれだな。

 電気温水器の故障って、経済的に痛いよなぁ。

 まぁ、肉体的にはタイムリーにお腹とお尻が痛い訳だけども。

 全部纏めたら三重の意味で痛いとか、ヘレンケラーもびっくりだよ。


 でもまぁ、あれだよな。

 新品に換える事も考慮しなきゃいかんよな。

 温水器って今、いくらするんだ?

 ちょっと調べてみるか……

 まず、一番手っ取り早いのはガス給湯器か。

 工賃含めて15万もあればいける感じなのか。

 次は電気温水器か。

 ん? エコキュートっていうのもあるのか。

 ふむふむ。電気を使うけども、沸かす方法が温水器と違うから光熱費が安いって事なのか。

 これら二つは工賃込みで30万~ってところかな。


 機器自体の金額でいうと。

 ガス給湯器<電気温水機≦エコキュート

 って感じでエコキュートが一番高価っぽい。


 でも光熱費となると。

 ガス給湯器>電気温水器>>>>エコキュート

 って感じでエコキュートの圧勝なのね。

 特に家族4人構成での平均でみると、ガスと比べると5分の1くらいになるっぽい。


 そして寿命。

 電気温水器>ガス給湯器=エコキュート

 ふむふむ。電気温水器の寿命は15年で、ガスとエコキュートは10年って感じか。


 それらを総合して判断すると。


 エコキュートの圧勝ですわ。

 特に家族が増えれば増えるほどに差は顕著になっていくっぽい。

 光熱費が圧倒的に安いってのがやっぱり大きいね。

 まぁ、今のところ家族が増える兆候は微塵も存在しませんけどね!

 

 でも、買い替えは最終手段だな。

 何せ先立つものがなさ過ぎる。

 何でこう金の掛かるトラブルばかり起きるのかね。

 某漫画みたいにエロイ感じのトラブルなら大歓迎なのにね。

 とりあえず、明日は土曜で仕事休みだし、馴染みの電気屋さんにでも電話してみますかね。


 

 そんな訳で翌日。

 

「まいどー!」


 電気屋さん。突然の呼び出しにも関わらず、直ぐに来てくれてありがとね!

 いや、本当に助かりますよ。


「うちみたいな小さな個人経営の店を、御贔屓にしてくれるお客さんは、少ないですからね。

 何時でも遠慮なく、御連絡ください!」


 そう言ってニコヤカに笑う電気屋さん。

 いい人や。ネットや量販店には値段の面では及ばないけども、本当にまったく及ばんけども、何時でも頼れるってのは心強いよな。

 家電量販店じゃこうはいかない。

 人情ある付き合いに万歳だ。

 とりあえず、まずは一杯お茶でも飲んでくだせぇよ。

 おい。お袋さんよ。

 お茶を一杯頼みますわ。


「いえ、お構いなく。では、早速温水器を見させて頂きますね」


 おお…… 何て頼もしい。

 惚れそうだわ。

 テキパキとした様子で早速温水器を調べ始める電気屋さん。

 

 電気屋さんが温水器を調べ始めて数分後。

 どうやら故障の原因を突き止めたっぽい。

 早くね?

 ひょっとして大した故障じゃなかったのかな?

 だとしたら嬉しいんだけど。


 だけど、電気屋さんの表情は暗かった。

 暗いって言うか、複雑な感情が入り混じった表情だ。

 あれ?

 これは嫌な予感がするね。

 やっぱり修理出来ない感じ?


「非常に言いづらい事なんですが……」


 そこまで言って、躊躇う様子を見せる電気屋さん。

 電気屋さん、もういい。

 もういいよ……

 覚悟は出来たよ。

 いっその事スパッと切り捨ててくだされ。

 そんな俺の思いを汲み取ったのか、電気屋さんは再び口を開く。

 

 そして俺に突きつけられる驚愕の真実。


「これ…… 電気止められてるだけですよ」


 それだけ言うと気まずそうに視線を逸らす電気屋さん。


 ほぇ!?

 故障じゃないの!?

 えええええええええ!?

 あああああああああああああああ!

 心なしか電気屋さんの視線が、電気代すら払えない可哀想な人を見る目になってる気がする!

 いやあああ!

 そんな目で見ないで!

 払えますから!

 そんなに贅沢は出来ませんけども、電気代くらいは払えますから!

 ってか、まじで!?

 まじで電気止められてんの?

 いや、それっておかしくない?

 普通に電気使えてますよ?


「電気温水器は深夜電力で沸かすので、電気代は別なんですよ」


 という事らしい。

 そういえば、そうだった!

 別々だったわ!

 普通に他の電化製品は使えてたから、電気が止められてるっていう発想は出てこなかったよ。

 あ…… ここでピンと来た。

 そいえば、電気代の支払いは引き落としに切り替えたってお袋が言ってたな!

 信金さんに引き落としに切り替えてくれって、泣きつかれて変更したとか聞いた気がするぞ!

 つまりあれか?

 普通の電気代だけを引き落としに切り替えて、電気温水器の方は切り替えなかったって事か?

 お袋さんよ。

 そこは両方切り替えるべきところでしょうが。

 真冬の超寒い中、冷水シャワーした俺の身にもなってくれよ。

 いや、一番の被害者はどう見ても電気屋さんだよな。

 仕事かと思って出向いてみれば、ただ、電気が止められていただけというね。

 このままじゃ、骨折り損の草臥れ儲けじゃん。

 電気屋さん申し訳ない!

 あの、これ少ないですけど。


「いえいえ。何もしてないのに受け取れませんよ」


 充分してくれましたよ!?

 電気屋さんが来てくれなかったら、原因に気が付けませんでしたし!

 お陰で今晩から風呂に入れそうですし!

 

「意外と多いんですよ。今回みたいなケースって。他のお客さんからも受け取ってない以上、受け取れません。これからも御贔屓にしてくだされば、それが何より有り難いです」


 うおおおお!

 イケメンだ!

 この電気屋さん心意気がイケメン過ぎる!

 顔は普通のおっさんだけども!

 それを補って余りある心意気ですぞ!

 ガチで惚れそうですわ。

 絶賛お尻擦り切れ中なので、抱かれるのはNGですけどね!


 こうして電気屋さんは帰っていき、数時間後、無事に電気代を払い終えた我が家の電気温水器は、無事に送電再開されたのでした。


 めでたし、めでたし。


 という訳で、その日の晩。


 ふひひ。昨夜は冷水シャワーで疲れを癒すどころじゃなかったからな。

 今夜こそはゆっくりと湯船に浸かってやるぜ。

 などと浮き浮きした心持で湯船に向かった俺。


 だがしかし。

 

 俺を待ち受けていたのは、またもや冷水風呂。

 え?

 何で?

 そこでようやく俺は思い至る。

 何故なら、電気温水器は深夜電力(・・・・)で沸かす機械だという事に。

 結局この日も、冷水シャワーの洗礼を浴びる事となり、再びトイレの住人となった生際防衛隊なのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ