ex. ジローの場合/Another End
……結論から言うと、僕たちは助かった。
覚悟を決めたケンイチが台所に突入。お茶で濡らしたハンカチをマスク代わりにしつつ、まだ起動していた料理用のコンソールからセントラルシステムをハッキング。システムを強制的にシャットダウンし、ドアを蹴破って脱出したのだ。この間わずか三分。恐るべき火事場の馬鹿力だった。
強制停止の影響でセントラルシステムのログが飛んだため、あのとき正確に何が起きたのかは、実際のところ誰にも分からない。結局、「自作の変なプログラムをホームサーバーに入れたせいで、警備システムが誤作動して閉じ込められ、皆がパニックになった」という説明に落ち着いた。一時は危なかったジローもどうにか手当てが間に合い、今は何事もなかったかのようにケロッとしている。発作については、精神的ショックによる心因性のアレルギー反応だろうということになったらしい。
サクラ先生にも説教され、結局は全員、普通に読書感想文を出すことになった。
みんなが無事で、本当に良かった。
――けど、僕は少しだけ、あいつの書いた『罪と罰』の感想を読んでみたかったなと、今でも思っている。




