変身怪人ですが、何かがおかしいです
俺が殿としてデジレンジャー達を足止めしていると、撤退が完了したと連絡が入った。それじゃ俺もそろそろ撤退しますか。
「どうやら時間の様だ。デジレンジャー達よ、さらばだ」
そう言って俺は持っていた閃光弾を爆発させた。この閃光弾はANLG団特製品で、光を発するだけで音は控え目になっている。なので至近距離で爆発させても耳がやられる事はないのだ。ちなみに俺は仮面のお蔭で閃光を防ぐ事が出来るので、直接見ても問題無かったりする。
閃光弾の光をまともに見たデジレンジャー達が目を抑えて蹲っているのを確認し、俺はその場を離れたのであった。……ふぅ、今回も何とか生きて帰れそうだ。
デジレンジャー達から逃げ切った俺は、少し離れた所で変身を解いてからバイクの所へと向かって移動していた。一般戦闘員だった頃はバスに乗っての移動だった。しかし怪人になってからは、主に殿を務める事が多い為か1人で移動する事が多くなった。その為に俺はバイクを購入し、移動用として使用しているのだ。ANLG団からはちゃんとガソリン代が支給されるから安心して乗れる。
「ったく。毎度毎度勘弁してほしいっての。ただでさえこっちは一杯一杯な状態で戦っているのに、あちらさんは3人で掛かってくるんだもんな」
1対3の状況で足止めをするのってキツイっての!回避に集中してなきゃ攻撃をくらってお陀仏だよ。一応は牽制程度に反撃をしてはいるが。
「ちょっといいかい?聞きたい事があるんだが」
愚痴りながら歩いていると後ろから声を掛けられた。何かなと思い振り返ってみるとそこに居たのは――
「レ、レレレ、レッド!?」
デジレンジャーのレッドがそこに居たのだった。え?ちょっ?何でここに居るの?俺、逃げ切ったよね?もしかしてバレた?変身中は一応名前と喋り方を変えているんだが意味なかったの?
「こっちに怪人が来なかったか?フルフェイスで黒タイツの」
……バレてない?バレてないよな。ふぅ、脅かしやがって。それにしてもフルフェイスで黒タイツってまるで変態だな。
「いや見てないぞ」
「そうか。ありがとう」
レッドは礼を言うとどこかと連絡を取った後、来た方向とは別方向に走って行った。どうやら手分けしてフルフェイスで黒タイツの怪人を探しているようだ。んじゃその隙にバイクで逃げさせて貰いますかっと。そして俺はバイクに乗ってANLG団のアジトへと帰るのだった。
……ん?フルフェイスで黒タイツの怪人って……ひょっとして俺!?俺は変態なんかじゃねぇ!
無事にANLG団のアジトに帰ってきた俺は今、デスクに向かって報告書を作成している。俺達怪人は作戦時の行動などを報告する義務がある。これは『能力』の研究の為だそうだ。しかし今の俺は気分が落ち込んでなかなか手が進まない。俺は変態じゃない。俺は変態じゃない……。
「お?無事に帰ってきていたようだな。なかなか帰ってこないから心配したぞ」
「お疲れ様です。矢野先輩のお蔭で皆無事に撤退出来ました」
報告書を書いていると新藤と雨宮君が声を掛けてきた。どうやら2人とも今回の作戦に参加していた様だ。
「まぁちょっとな。遅くなったのは気分転換する為に遠回りして帰って来たからな」
「ん?……まぁ詳しくは聞かないが、今日は飲みに行くか?」
「いいですね。久々に行きましょうよ」
「……それもそうだな。偶には飲みに行くか。直ぐに終わらせるから、ちょっと待っててくれ」
「焦らなくてもいいぞ。酒は逃げはしないからな」
「そうですよ。焦って誤字脱字でやり直しになったら2度手間ですし」
「はは。気を付けるよ」
……気を使わせちまったかな?
「……すまない。ありがとう」
「いいって事。気にするな」
「じゃあ矢野先輩、待ってますね」
2人はそう言って部屋から出て行った。2人に気を使わせちまうとはな。……よしっ!切り替えよう!そして今日はとことん飲むぞ!俺は気持ちを切り替えて報告書の作成を再開したのだった。
「んじゃ、カンパーイ!」
居酒屋に来た俺達は料理を注文し、ビールが来たので乾杯をして飲み出した。
「プハーッ。仕事の後の一杯はうまいな!」
「特に矢野先輩は疲れてるでしょうし」
「そうだな。俺達が撤退するまで時間を稼いでいたからな」
「いやいや。そう言う2人もデジレンジャーが来た時、近くに居たんだろ?危なかったじゃねぇか」
「そうなんですよ!あの時は終わったなって思いましたよ!」
「それでも矢野が間に合ってくれたから無事だったがな」
ビールを飲みつつ、料理をつまみながら3人で労いの言葉をかけあった。ホント、今日の作戦は危なかったよ。まさか待機してた場所から遠く離れた所が襲われるとは思わなかったぞ。急いで駆け付けたから被害は最低限に抑える事が出来たが、少しでも遅れていたら2人は今頃ベットの上に居ただろうな。
「それにしても最近、やけに離れた所に待機させられてる気がするな……」
「そうですか?偶々なんじゃないですか?」
「……確かに。言われてみれば矢野だけ遠くに配置されているな」
「だよな。……ひょっとしてハブられてるの俺?」
もしそうだとしたら俺泣くよ?泣いてもいいよね?確かに怪人の中じゃ下っ端扱いだけどさ。
「いや、それは無いだろ。足止め役として優秀な結果を残しているんだ」
「そうですよ!矢野先輩が居てくれたから僕達は今ここに居るんですから!」
「2人とも……。ありがとな」
多少しんみりしてしまったが、その後は楽しく過ごしていったのだった。
新藤達と飲みに行ってから1週間がたった今日は久々の休日だ。折角の休日という事なのでバイクに乗って街に出てきたのだが、どうしよう?
「そこまでだ、ANLG団!これ以上お前達の好きにはさせないぞ!」
「ぬぅ!デジレンジャーか!またしても作戦の妨害に来たか!」
ANLG団とデジレンジャーの戦いに巻き込まれてしまった。あれ?今日って作戦があったの?俺、何も聞いてないんだけど……。
「さぁ、危ないから避難して下さい。大丈夫です。あなた達は私達が守りますから」
そして俺は人間状態だったので一般市民としてイエローに保護誘導を受けている。これじゃ変身出来ないじゃないか。抜け出そうにも保護の為にイエローともう1人、ピンクが傍に居るし。ってピンク!?増えてる!?
「レッド。1人で無茶するなよ」
「大丈夫さ、ブルー。今日の俺達には新しい仲間が居るからな。行くぞ、グリーン!」
「レッド先輩。増えたからって無茶していい訳じゃ無いっすよ」
あっちも増えてるし!?この間までは3人だったよね?……ちょっと待てよ。今度から俺、この5人を相手にするの?……無理じゃね?
「はぁ……。イエローとピンクは保護を頼む。グリーンは俺と一緒にレッドの援護をするぞ。遅れるなよ」
「えぇ、保護は任せておいて。ANLG団は任せたわ」
「はい!イエロー先輩と一緒に頑張ります!」
「仕方ないっすよね。レッド先輩、今行くっすよ」
ブルーの指示にイエロー、ピンク、グリーンが返事を返す。レッドは1人で突っ込んでいる。……こりゃ無理だな。抜け出せそうにないし、変身なんてもっての外だ。そもそも作戦があるって聞いてないし。俺が居なくても無事に撤退出来る様に祈るしかないか。
それにしてもおかしい。最近の事もあるし、ANLG団の中で何かが起こっているかもしれない。俺は今回の事でANLG団に疑問を抱いたのであった。出来れば何もなければいいと思いながら……。
3作目になります。続きがどんどん頭に浮かんでくるので書いてしまいます。