鎮魂曲
「くそっ…、狭いんだよっ」
そうぼやいたところで現状が打開する訳でもないのだが叫ばずにはいられない。
「―――っもうこんなところにいる訳にはいかないのに!」
視界の限り闇…、しかし不思議と恐ろしくはない。
だが一番やっかいなのは、自分の周囲わずかな空間を残し手を伸ばすだけで何かカベにぶちあたる事である。
いわゆる「身動きとれない」状態だ。
「ちくしょう!みんな俺を呼んでいるのに…」
頭上から仲間の声がする、よく聞き取れないが大声で叫んでいるのはわかる。
「くそっ…、くそぉ!!」
必死で頭上を突く、すると以外にもボロっと頭上のカベが落ちてきた。
「おっ?これは…イケるか?!」
淡い期待が胸をよぎる、渾身の力で頭上のカベをかき分けていく。
ボソっ…ボソ…
顔に塊が落ちてくるが、そんなコトに構ってはいられない。
「よっしゃ!このまま一直線だ!!」
ドサドサッガサガサ――――
必死でかき分け這いあがった為、仲間達の声も心なしか近くなってきたようだ。
「あと…、あとちょっとだ」
希望を見出しさらにスピードを上げる。
しかし
ガッ…
先程までとは明らかに感触の違うものにあたる。
「な、なんだよこれ」
それは今までとは比べものにならない程硬い。
死に物狂いで進もうとするがまるで歯が立たない。
「嘘だろ?だって、もうすぐそこで…」
呆然と上を見る、仲間の声もすぐ近くだ。
手当たり次第に近くのカベを崩そうとするがこれ以上上はすべて非情なまでに硬い。
「嘘だ嘘だっ!!だって俺は何年も待ってたんだぞ?!」
何年も何年も…
あの狭い空間で今日という日の為に我慢して。
呆けた表情のままポソリと呟く
「一声でいい…鳴きたかった」
頭上では仲間達の声が響く
カレが出られないコトを悟ったかのように哀しく鳴くアスファルトで舗装された新しい駐車場。
また一匹、夏の空を知らずに命を尽かす。
鎮魂曲のように仲間達は声を張り上げる
ミーンミンミンミン ジジジジ…
初めて書いた短編小説です。