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私、面白い事が好きですの。

掲載日:2026/10/04

 カトリーヌ・ル・フロランタンは、面白い事が大好きな令嬢だった。

 大抵の嫌なことも辛いことも、面白い事があったら頭から吹っ飛んで笑顔になってしまうぐらいである。


 だからカトリーヌは今、笑顔だった。


「カトリーヌ・ル・フロランタン! お前の言動は、勇者を始祖とする誇り高いアイステリア王国にふさわしくない。よって、お前を婚約破棄する! そして、俺は新たにこの聖女ルイザ・ソリーネを妃に迎え、聖女とともにこの国を繁栄させることを誓おう!」


 何といっても、王宮での夜会の真っ最中に、頭空っぽだと思っていた婚約者ニコラウス・ド・アイステリアが『婚約破棄』を叫んできたのだ。

 しかも、横に聖女を侍らせて。


 何かをちゃんと考えて『婚約破棄』を言ってきたのだろう、そう思ってカトリーヌはワクワクした。

 傍に控えていた侍女は、カトリーヌのキラキラと期待で光る瞳を見て早々に主を止めるのを諦めた。


 幸か不幸か、この騒動を止められる王と王妃は外遊中だ。

 王と王妃に言い訳ができるなら、『内々の内輪の貴族の社交のみで外国を招待しない夜会ではさすがに第一王子ニコラウスも問題を起こさないし、起こしても周りに止められる』とでも思っていたのだろう。


 夜会に出席している貴族たちもあまりの事態に、動きを止めて静まり返っている。


「素晴らしい! 婚約破棄ですか! 素晴らしい!! ニコラウス様からそんな言葉をもらえるとは思っておりませんでした。素晴らしい。初めて、私(わたくし)、貴族の女としてはしたなくも興奮しております!」


 いつもつまらなさそうに貴族らしく無表情のカトリーヌだったが、童女のように手をパチパチと打ち合わせてニコラウスを称賛する。


 侍女は引き続き、カトリーヌを止めるのを諦めて無表情で立っている。


 一応、3つ年下の第2王子ユリウスが、ニコラウスを止めようとして、ニコラウスの取り巻きに足止めされてオロオロしている。


「お前、何をそんなに嬉しがっているんだ! 婚約破棄だ婚約破棄! お前は用済みだという事だぞ!」


 苛立ったようなニコラウスが、カトリーヌを指さす。


「ええ、そうですね。婚約破棄という言葉を出したからには私かニコラウス様が破滅ですね! 素敵、破滅! 面白いですわね。ドキドキしませんか? この国の第一王子たるニコラウス様が、フロランタン侯爵令嬢である私を婚約破棄。次どうなさるのですか? 国外追放? それとも私の尊厳を踏みにじるように国外追放? それとも私を、もしかして処刑なさってしまうのですか?」


「なっ、お前のそういう所が王妃にふさわしくないと言っているんだ! この聖女として清らかなルイザこそがふさわしい」


 ニコニコと満面の笑顔が止まらないカトリーヌに、ニコラウスが顔をしかめる。

 ニコラウスが聖女ルイザを引き寄せると、ルイザは、


「ニコラ様ったら、そんな本当の事をはっきり言ってはダメですよっ」


 と嬉しさを抑えきれず、歪んだ笑顔を浮かべた。

 そんな、勝ち誇ったようなルイザにも、カトリーヌは無邪気な笑顔を浮かべた。


 新たなおもちゃを見つけた! とでもいうような顔で、カトリーヌは、


「ああ、言ってしまってよろしいですか? 私、面白いので言わないようにしていたのですが、教会から満を持して派遣されてきた聖女ルイザ様は、色々な方への愛が止まらないようでニコラウス様の護衛騎士と、側近と、後は、地元領の幼馴染と体の関係を持っていますよね? こちらの魔道具、映像記録機に私、お相手別に編集して見やすいように保存しています。後、聖女様は平民出なだけあって、地元領のパン屋の幼馴染の方にお金を渡したら、聖女ルイザ様の書いた『あの夜は激しくて恥ずかしかったんだから』というとても面白い手紙がここに!」


 ドレスの隠しから聖女の筆跡で書かれた手紙を掲げて、興奮したように早口でまくしたてる。


「私、何も面白い事がなかった日には、聖女ルイザ様の幼馴染に当てた手紙を見て心を慰めておりましたの。たかだか金貨一枚で聖女ルイザ様の出した様々な手紙を渡してくれた幼馴染さんも面白い人ですね」

「い、いやああーーー!!」


 聖女ルイザは真っ赤な顔でピョンピョンと小刻みにジャンプしながら、掲げられた手紙をカトリーヌの手から奪い取ろうとするが届かない。カトリーヌの方が残念ながらヒールも履いているので遥かに身長が高く、後ちょっとで取れるという所で手を逸らされてしまうのだ。


「そらそら、後ちょっとですよ。頑張って」


 聖女ルイザをおちょくるカトリーヌは貴族令嬢らしからぬとてもイイ笑顔だった。


 その二人のやりとりの間に、カトリーヌの侍女が魔道具映像記録機を空中に綺麗な映像が映るように調整している。

 王宮の夜会会場の中央の空中には、ホログラムのようにデカデカとニコラウスの護衛騎士と口づけをする聖女ルイザが映し出されて、貴族たちがざわめいたが、手紙を取り返そうと必死なルイザは気づかない。

 侍女は、色々ピントのつまみを弄って一番きれいに映るように調整できたのか、満足したように頷いた後、また無表情で待機に戻った。


 第2王子ユリウスは、まだ健気に兄を止めようと頑張って


「兄上っ! もうこんな騒動はやめてくださいっ!」


 と呼びかけていたが誰も聞いていない。


「こ、これは!? ルイザ、どういうことだ! 『誰とも恋愛したことがなくて』と言っていたじゃないか!!」

「あっ、いや、これはちがっ違うの! これは私に似た人で、私じゃなくて」


 空中に流れる映像は時間の経過により移り変わり、美しいカトリーヌの字で『聖女ルイザ様と護衛騎士ジャックとの口づけ』や、『聖女ルイザ様と側近1エリックとの口づけ』『聖女ルイザ様と側近2ハバネロとの口づけ』等、字幕がついている。

 後、映像には皆聞いてはいないがカトリーヌ直々に弾いたピアノのBGMもついていた。


 しかし、あまりにも映像の内容が刺激の強すぎるものであるため、下位貴族の令嬢の中にはその場に卒倒するものもいる。


 ちなみに、ルイザや護衛騎士、側近1や2が映像機を止めようとしているが、不思議なバリアに包まれて空中に浮いているので止めることもできない。


「ああ、面白い。後は、ニコラウス様が本来なら私への贈り物に使う予算を、聖女ルイザや気に入った町娘に使った書類もありましたが、出さなくても十分面白いですわね」

「ちょっと、ニコラウス! 町娘ってどういう事よ!」

「いや、それはちょっと……」


 混乱している中に、カトリーヌがあらたなる火種を起こす。


「聖女ルイザ様、俺だけと言っていたではないですか?」

「ルイザ様、どういうことです!」


 護衛騎士や側近も映像機を止めようとしたり、ルイザを責めたりと忙しい。


 バァン!!

 夜会に乱暴に扉が開かれる音が響いた。


 そこに、


「カトリーヌ! お前は、こんなにも人を混乱に陥れてやりすぎではないか!」


 と、見当違いの怒声を上げるカトリーヌの父親フロランタン侯爵が走りこんできた。

 収集のつかない大騒動に、今日は夜会会場には最初からいなかったので、誰かが呼びに行ったのだ。


 フロランタン侯爵とは言えば、今日の夜会は王と王妃が外遊でいないので、貴族たちに任せて別の部屋で宰相の執務を手伝っていた。

 後から、追いかけてきた宰相は、王と王妃がいないから残ったものには何も決定権がなく、安心していたこともあったのに、夜会会場に映し出される映像を見て青ざめた。


「お。お父様! あ、これは違うのです。私も穏便に済ませようと、こんな人前では披露する気はなかったのですが、ニコラウス様が『婚約破棄』などを叫んでくるもので、面白くて、途中から訳が分からなくなって」


 自分の父親に怒られて、カトリーヌは一気に冷静になったのか、侍女に映像機を消させる。

 両手をパタパタと左右に振りながら、自分は悪くないことをアピールした。


「ええい、言い訳は聞かないぞ。罰として、お前の苦手な第2王子との婚約を申し付ける!」


 フロランタン侯爵の爆弾発言に、宰相が『え、罰? そんないきなり、ん、あれ? それしかないですね』と呟いた。


「え、第2王子? 罰? 不敬? ではなくって、それこそ清らかで控えめで男版の聖女、いや聖人ではないですか。いやですわ、お父様。ここはご自分の娘の幸せを考えてはいかがでしょうか? 『婚約破棄』をこの国の王子から叫ばれたのですよ。私、とても傷つきました。私のガラスのハートが粉々です。それこそ第2王子殿下だって、私みたいな女と結婚なんて嫌なはず……」

「好きです、カトリーヌ嬢」


 カトリーヌは焦って額から汗を流しはじめ、必死で弁明を始めるが、兄のニコラウスを止めていたはずのユリウスがいつの間にかカトリーヌの背後に回っており、簡潔な告白をする。


「だそうだ」

「いやあああ、面白くなーい!」


 夜会の締めくくりは、カトリーヌの悲鳴で終わった。


 元々の騒動を起こしたニコラウスや聖女ルイザ達は貴人用の牢に早々に閉じ込められる事となった。

 カトリーヌは最後まで、第2王子との結婚に抵抗し、


「ニコラウス様には特になんとも思っていない。処罰も望まないし、なんでしたらニコラウス様さえよかったら、婚約を継続しても構わないし、ルイザ様を愛妾にしても構わないです」


 といったのだが、ニコラウスは断種の上生涯幽閉。

 聖女ルイザは、教会の奥深くでずっと魔力を教会に提供し続ける奉仕活動をすることに決まった。


 ---


 一方、カトリーヌと影が薄すぎる第2王子とは言えば、大人の事情で強制的にくっつけられて、今日も今日とてお茶会などを開催させられていた。


 王宮の庭にて、秋晴れの気持ちのいい日の事だった。


 二人は向かい合ってお茶を飲む。

 お茶はきちんとカトリーヌの好きな遠い南の国から運ばれた癖のある味のする紅茶だった。


「カトリーヌ嬢の事は前から好きでした」

「……はい、光栄です」


 影の薄いユリウスは、その影の薄さゆえに今まで婚約者さえ決められていなかった。

 ユリウスはいつも控えめに微笑み、まるで深窓の令嬢のようなふるまいで、カトリーヌの何倍も令嬢らしくそれゆえにカトリーヌはユリウスが苦手だった。

 カトリーヌからすれば、いつも控えめで周りを思いやって行動するなんて、それこそ聖女ルイザよりよっぽど聖女、いや聖人だ。


 カトリーヌは気後れして下を向いた。悪意がある者の相手は容易い。

 カトリーヌ嬢にとっての天敵は、ユリウスのように自分に好意がある者だ。何も面白い行動はしないし、むしろカトリーヌの行動をその好意から制限してくるのだ。


「兄やカトリーヌ嬢のご両親や宰相、僕の父上母上と接する時のカトリーヌ嬢はとても生き生きとして眩しい。僕が力不足なのは知っています。……そこで、どうでしょうか? カトリーヌ嬢が僕を通して国を好きに運営するというのは? 面白くないでしょうか? 国策は全て僕を通すことになりますが、僕はカトリーヌ嬢に反対しないことを誓います。内々で書面を書いて渡します」


 ユリウスの真面目な言葉で紡がれる冗談のような言葉に、カトリーヌは弾かれたように顔をあげた。

 ユリウスの深い海のような青い瞳が、カトリーヌ嬢を真剣に見ていた。

 カトリーヌはその瞳の色に飲み込まれるような感覚を感じた……。


 カトリーヌの脳内を、一気に色々な考えが駆け巡る。

『大陸統一』『国土に接する魔の森の開拓』『未知のダンジョンの探索』『エリクサーを水道に流す』『国民標準学校の設立』『孤児院の一斉整備』『老後院の設置推進』等々。


「大陸統一へ兵を出しても反対しないのですか……?」

「ああ、もちろんです。僕がカトリーヌ嬢に周辺国をプレゼントしたくなったとして進軍します」


 ユリウスの提案に、カトリーヌは想像してブルリ……と震えた。


「…………やめましょう。それなら二人で運営した方が効率が良いですし、兵じゃなくて無血で周りの国を征服する方法を何案か考えてますし、他にもやりたいことはいっぱいあります」


「そうですか、残念です……」


 ユリウスは昨日のカトリーナよりだいぶイイ顔で微笑んだのだった。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
周りをおもしれー奴!って言い方悪いけどオモチャにしてたカトリーヌがユリウスにおもしれー女として見守られてるというか手のひらの上で転がされてるような。 い、因果応報…? この国、これから一体どうなっちゃ…
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