(2)はじめての戦闘とダンジョン
真昼間だというのに、なんで俺はこんなことをしているんだろう。鋭利なピッケルを手に鼠色の壁を砕いていく。そこに青色の鉱石を探して。
「つかれたー。」
「いや、お前のせいだから!手を動かせ!」
あの後、俺たちはつかまり50の魔石をあの男の人たちに渡すように契約された。ちなみに50って相当多いんだが、こいつの食った量はこの10倍はあるらしい。温情に感謝だな。
結局、俺たちは飲まず食わずで作業をし続け、3日目に到達したタイミングで作業を終えた。疲労困ぱいで全身筋肉痛。そのうえ一文無し。ガチで詰んだかもじゃねえの・・・。
幸い、作業の後、食事は提供してもらえたから死にはしねえが・・・。
「ほんっとつかれたー。ねえ、こっからどうする?」
なんでこいつは体力残ってんのか知りたい・・・。いや、俺が掘っている間にガーゴー寝てたからだろうけど。
「頼む。休憩させてくれ・・・。」
「はあ、まったく困ったひとですね。ザ・ベアーちゃんはこんなところでへこたれなかったよ?」
「いや、人形と比べるなよ・・・ああ、眠い」
「人形じゃないし!ザ・ベアーちゃんだし!」
重い瞼にあらがえず、みるみる視界が奪われた。意識が途切れる寸前、アルムの手にお金の入った袋が見えた気がした。なんだあいつ、金持ってたのかよ。
気づけばふかふかのベッドの上にいた。羽毛布団・・・割といい宿とったんだな。そう思い横を見ると、床で寝ているアルムを見つけた。真実はいい宿だけどお金がなくて一人部屋って所か・・・。しかし、俺をベッドで寝かせて自分は床で寝るとかこいつの優しさを垣間見た気がする。
のちにベッドから緑色の髪の毛が出てきた。もしや二人で寝てたけど寝相悪すぎて落ちただけだったのでは・・・。
「おい、そろそろ起きろ。もう朝だぞ」
「うーーーん・・・。だめ、むり。」
「いや無理じゃなくて起きろ。なんで俺の方が先に起きてるんだよ。」
「うるさい」
「ごふ!」
腹に足蹴り入れやがった・・・。
「ねえ、今日は誰倒すー?ドラゴンとかでもいいよー?」
「いや危険すぎだろ。無理だって。」
「いいじゃーん。そこをなんとか。」
俺たちは野原で行き先を探っていた。とはいえ、戦闘狂のこいつによって敵と戦う羽目になるのが落ちだろうが・・・。
「じゃー。あれにしよっ」
タワーのようなものを指さす。それは石畳が縦に積まれ、空まで届きそうなほど広がっていた。タワーっつうか・・・ダンジョンだよなあれ・・・。
「むりむりむり」
「命令は絶対だよね?」
笑顔でこっちを向いてくる。正直、何されるかわからん俺はしぶしぶダンジョンに入ることを承諾した。
薄暗い部屋だ。ろうそくの明かりがちらほらあるぐらいで、人気もない。
「へーっ!広いね!ねえ、攻略したらここに住むのとかどう?」
「なんか出そうだから却下。」
「出てもファイヤーボンバーで倒せるでしょ。」
「いや、絶対幽霊に聞くほど万能な技じゃないでしょあれ。」
カランカラン・・・。奥の方から、反響した音が耳に届く。
「骨の音・・・?まさか、骸骨の化け物だったりして・・・。」
「え!?そんなの聞こえたの!?大丈夫!焼けばいいよ!ファイヤーボンバー!!!」
あたり一面が火炎に包まれる。パチッと飛んでくる火の粉は打った俺でもやけどしてしまいそうだ。
「お、おい!こんなの火事になるじゃねえか!前に進めねえし!」
「いけ!ウォーターストリーム!!!」
そういうと俺の左手から信じられないほどの洪水が出てきた。見る見るうちに水浸しになり、あたりは再び闇に戻った。
「ふう、先に進もう!!!」
「何がだ。」
「いてっ」
俺は荒業でRTA攻略しようとしているちっこいのにチョップをしかけた。
「何するの!?」
「いや、この攻略はだめだろ。」
「え?でも敵は倒してるじゃん」
「敵は倒してるが、もし宝箱とかあったらどうする?燃えちゃうじゃん。それにほかにこのダンジョンを攻略しようとしてる別の人がいたら?その人も燃えちゃうでしょ。」
ぐぬぬぬ・・・っと静かににらみつけている。しかし、正論が効いているようで反論はしてこなかった。
それからの攻略はファイヤーボールという小型の炎技を使用した。敵を見つけたらファイヤーボール。ファイヤーボール。作業のようになっていた。アルムなんか後半、うたたねしながら指示してたしな・・・。
階段を上るとうっすらと声が聞こえる。
「ゆ、ゆるしてくださいいぃぃぃ。」
近づいてみると短剣を持った女性が一人戦っていた。目をつぶりながら短剣をぶん回している・・・。その剣は5分の4ぐらいの確率で当たっている。いや、よく当たるな。
とはいえ。黙ってみているわけにはいかない。
「ほら、ファイヤーボールして。」
眠そうなアルムの肩をゆする。
「・・・ファイヤーボール。」
全く、どっちが主人なんだか。そうして俺たちは加勢し、彼女を助けた。
「あ、あの。本当にありがとうございますっ!」
「いやいや」
「私一人ではもう無理だと思っていたところで・・・助かりました!!!」
いや、たぶんあの命中率じゃ、この人一人でも倒せてたんじゃ・・・。ということは言わないでおく。
「私、実力が全然なくて・・・。」
勝手に落ち込んでしまった・・・。話を変えよう・・・。
「ええっと、なんでこのダンジョンに潜っているんです?危険なのに。」
「え、それは・・・。」
「・・・。」
黙ってしまった。何やら言いづらいことを聞いてしまったのだろうか。
「ごめんなさい、変なことを聞いてしまったみたいで。」
「いえ、こちらこそすみません。」
「よかったら、ご一緒にダンジョン進みませんか?目的地は一緒ですし」
「え!?いいんですか?」
やったあ!と両手でガッツポーズして飛び跳ねるお姉さん。手にはドラゴンのロゴが入った腕輪がきらめいていた。
「ちなみに、お名前は何と」
「ジュエラと言います。」
深々とつむじが見えそうなほど頭を下げる。つられて俺も同じぐらい頭を下げて自己紹介した。
こうしてビビりの短剣お姉さん、ジュエラさんが(一時的に)仲間になった。
「あの、この子はどなたですか?お子さん?」
「いや、俺の主人・・・らしいです。」
「へえー。主人と従者のごっこをしてるんですねー。かわいいなー。」
そういってお姉さんはアルムの頬をつついた。いや、これ実はごっこじゃなくて・・・。なんて弁明したら混乱してしまうだろうからやめておいた。
そんなこんなで階段を少しづつ上がり階数を増やしていくと、何やら奇妙なほどにだだっ広い空間にたどり着いた。上を見上げると天井の仕切りがなく、中心部分に向かって暗闇に吸い込まれていく。この吹き抜け空間は・・・。もしや。
「おい、起きろアルム!」
「ん・・・。何?起きてるよ・・・。」
「いや、寝かかってたじゃん・・・。」
「おはようございます。」
「ん・・・。だから寝てないって・・・。って!誰!?このお姉さん!」
「ああ、この人は・・・。」
俺が紹介しようとしたタイミングで、頭の上にドライヤーを当てたかのような熱気を感じた。違和感の方を向くと、炎が今にもあふれだしそうなほど押し寄せて来る!
「やばっ」
「ウォーターストリーム!!!」
アルムは冷静に魔法を唱え、対処した。滝のような水は、炎と同等の威力を持ち、やがて押し勝った。
「あ、ありがとうアルム。」
「えへへ、これで寝てなかったって認めてくれるでしょ!」
目を細めた笑顔には若干、目やにがついていた。
「はいはい。」
「あの、な、何か来ます!!」
上空を指さし、怯える表情のジュエラさん。腕にかかった輪っかが白い光を放っている。
「ギャウウウウゥゥゥゥ!!!」
叫び声が猛速度で近づき、やっと顔が見えたころにはジュエラさんの目の前まで迫っていた。
怯えるジュエラさんを俺は押し倒し、抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがとう・・・。」
何やら困惑の表情が見える。ゆっくりと上げた視線の先はあの怪獣に対してだった。
ジュエラさんを襲った生物。それはワインのような色をした鱗が目立ち、大きな図体に真っ白の光り輝く首輪、そしてそれを支えられるだけの大きな翼をもつ・・・。要はドラゴンだったのだ。
「ど、ドラゴン!?確か、街の入り口では適正レベル35って!?」
俺は震え声をあげる。自分の姿を客観的に見れば真っ青な顔をしているだろう。サイドの二人を見渡すとどちらも青い顔はしていなかった。まあ片方は当然のようにわくわくした表情で竜と目を合わせていたのだが。しかし、意外だったのはジュエラさんの方だ。なんとも険しい顔でドラゴンを見つめている。自分の腕の光と照らし合わせて。
「さあ、いくぞ!わがしもべよ!!!」
腕を大きく振りあげ、にやりを笑い歯を見せる。こいつ、違和感に気づいてねえ・・・。
「いけ、ファイヤー」
「待て!!!」
俺は命令を制止するように声を荒げた。
「何してるの!?私が命令しようとしてるんだよ!」
「知っている。だから止めた。」
「はあ!?いい?私が主人!お前は従者。命令に必ず従うこと!」
「いやだ。」
「きー!!!わがままなやつ!!!なんで!なんで!」
地団太を踏み始めた。いや、わがままなのはそっちの方なんだけどな。
「りゅうちゃん。私の声が聞こえますか?」
ジュエラさんが優しい口調で話しかける。それに呼応してドラゴンの動きが止まった。
「見知らぬうちに大きくなりましたね。」
やっぱり、ドラゴンの首の輪とジュエラさんの腕の輪は従者契約のあかしだったんだ。
「あなた・・・。いっつもドジで、それなのに暴れん坊さんだから。すぐどこかに行ってしまいましたね。毎日あなたの行方を探してばかりの日々だった気がします・・・。あの日、私たちは喧嘩して、あなたはいつものようにどこかへ行きましたね。すぐ見つかると思っていたのに、いつまでも見つからなくて・・・。ねえ、私の声がわかりますか?わかったら返事をしてください・・・。」
りゅうちゃんは腕を大きく振り上げた。それは、再会の握手なんかではなかった。ジュエラさんにめがけて振りかざした爪は身を切り裂く勢いだった。しかし、ジュエラさんはそれをわかっていたかのように華麗によけた。
「そう・・・。もう変わってしまったんですね。でも、すぐに引っ搔いちゃうところは変わってない。」
少しずつたまる涙を腕で拭った。その時、彼女の腕から白いリングが零れ落ちた。それは大粒の水滴のように見えた。
見開いた彼女の視線は勇ましく光っていた。
ふいに隣にある小さな肩が震えているのを見つけた。あいつに感動という言葉があったのかと顔をのぞいてみる。しかし、その先にあったのは魔法を打ちたくてイライラしている表情だけだった。
「もう魔法、使っていいぞ。」
「ほんと!?」
そんな表情に呆れつつも、俺はどこか甘やかしてしまった。
ファイヤーボールでりゅうちゃんの気をそらしつつ、ジュエラさんの剣で攻撃を入れる。そしてりゅうちゃんの炎の吐息はウォーターストリームで無効化できるため、俺たちが加入することで向こうはジリ貧になっていった。
・・・とここで問題。こういった状況の時、りゅうちゃんはどこを攻撃すべきでしょうか。そう。アルムだ。アルムは指示をするだけで、自ら魔法を出しているわけではない。一番無防備な存在だ。もちろん、そんなことは俺たちもわかっている。だから俺とジュエラさんで細心の注意を払っているつもりだった。つもりだったんだ。
その時は行動パターンが違った。ジュエラさんを爪で掻くりゅうちゃんは、今回は俺に焦点を当てた。
右手のクローに、俺は大きく体を動かし攻撃を避けた。しかし、クローは左手にも存在する。左の爪は深く地面に沈ませ、大きな石と共に再び姿を現した。無数に飛散する岩に視界を奪われた俺は、アルム目掛けた炎の光線に気が付かなかった。
「ウォーターストリーム!!!」
指示が聞こえ、俺の左手からは水が出る。しかし、どこに向ければよいのか分からないそれは、床を濡らすことしかできなかった。
「きゃあああああああ!!!!」
耳をつんざくアルムの悲鳴。その声の方向に俺は駆け出していた。水をぶつけることなど忘れて、自らの身をぶつけていたんだ。
「・・・で、なんでこんなこと!?」
ぼやける視界の先にオーロラのようなきれいな蛍光色が見えた。
「理由なんて知るか。それより、早く水を。」
眉の下の小さな海から垂れて来る水は俺の体全体にかかった熱を少しだけ冷やしてくれる。
「ばか。水の量が足んねえよ。」
視界の隅に見える自分の体はひどく黒ずんでいた。身が引き裂かれるように熱い。しかし、人を守れたのだからそれも自らへの勲章のように思えた。たとえ守った人物が融通の利かないわがまま娘でも。
「ウォーターストリーム!ほら、水だよ!」
「あ、ありがとう。」
「ほら、飲んで!これ、命令だから!」
水を体全体にかけたのち、口の中に流してくれた。本当にありがとう・・・。
「もっともっと飲んで!!!」
「あがががががががががg」
しかし、俺の手当てをしてくれている間にもジュエラさんとりゅうちゃんは戦っている。俺たちも加勢しなければならない・・・。どうしたもんかね。
「そうだ!!!」
アルムがお姫様抱っこで俺を持ち上げようとする。抱えながら技を打てばいいと考えたらしい。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬっ!!!」
・・・顔がりゅうちゃんの肌と同じぐらい赤くなっていってるけど大丈夫か?
「おっもっ!!!」
「ぐえ!」
1mぐらいの位置から地面にたたきつけられた。
「あ、ごめん」
「・・・。」
別の作戦だな。
俺は必死に脳を回転させ、作戦を考えた。決定後、ジュエラさんにも作戦内容を伝え、協力を仰いだ。もちろん承諾してくれた。
作戦開始の狼煙はジュエラさんが俺たちよりも後ろに下がった瞬間だ。
「ファイヤーボンバー!!!」
禁止技を開放し、りゅうちゃんに攻撃をかます。とはいえ、この技は地面一帯を炎の海にするだけだ。空を飛べば、簡単に回避できる。
そこでだ。壁をけり、上空にとんだジュエラさんが現れる。ふいに現れた剣になすすべなく、竜は立ち尽くした。
「さよなら。りゅうちゃん。」
さくっ。首に差し込んだ剣は静かに戦いの幕を下ろした。その刃は首輪も切り裂き、白い光を放っていたそれは、色を失った。
「本当にありがとうございました。」
「い、いいんですか?ここでお別れして。」
「はい。いいんです。」
ジュエラさんはりゅうちゃんがこの世にいたことを忘れないため、このダンジョンに住むと宣言したのだ。
「ねえ、お姉さん。」
「どうしたの?アルムちゃん。」
「お姉さんにとっての従者って何?」
「うーん・・・。それはね・・・。」
ジュエラさんの答えにアルムが納得したかどうかはわからない。でも、俺にはそんな質問がアルムの口から出たことこそが成長なのだと思った。




