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◆★61.サラサちゃんへ。大変だとは思うけど気負わずにね


―――◆第4章◆第7幕―――




 水平線から太陽が顔を出した頃。


 †エマ†の海中ワンマンショーを堪能して、あふれんばかりのインスピレーションを受けた住和は。

 波打ちぎわから離れた浜辺にて。


 穏やかな風に髪をもてあそばれながら。

 朝日と明け方が織りなす美しい空のグラデーションを眺めていた。



 住和トア:(魔法って…、実在するもんなのね…)



 こんなに清々しい朝日を迎えられたというのに。

 †エマ†が見せてくれた魔法の方が鮮烈で。


 今、目の前に広がる光景にも劣っていなかったと、興奮冷めやらない気持ちが胸の内で高鳴っている。



 ただ、それと同時に(まあ今更か…)という気持ちが無いわけでもなかった。


 和葉の黒髪と瞳が、ときおり金髪と青い瞳に変わる現象。

 ならびに、もとは未来の生まれだったのが、こうして過去の別人として生まれ変わったという話。



 出会ったころから彼女との付き合いは非日常で、規格外の存在なのだ。


 よって、このリアルな現実世界で、彼女が魔法を使えたとしてもおかしくはない――。

 などと思いかけて、住和は全力で頭を振った。



 住和トア:(いやいや絶対おかしいから…!! まだ何か…、大事なことを話してくれてないのよ、あの子は…)



 そうして住和が見やった先で。

 ピンク髪のウィッグを外した和葉が、†エマ†の衣装のまま、砂浜をつぶさに見て回っている。



 なぜなら、海中ワンマンショーを終えて二人が帰ってくると、『五つの石武器』がこつぜんと姿を消していたからだ。



 それも、一目見て、そこに無いとわかるレベルで消えている。

 あの石から削り出されたと思しき、台座と地続きになっている5メートル以上もあろう、浜辺に埋められていたほどの物が、である。



 新部和葉:「〔深いため息をつきながら戻ってきて〕無いね~……。それどころか、大型トラックで運びだしたような痕跡すら無し…。有るのは私たちの足跡ばかりで…、あーもう! なんなのよもう~~!〔頭を掻きむしりながら〕はぁ~~…」



 そうやって肩を落とし、脱力するのも無理はない。

 なぜなら今回披露した海中ワンマンショーは〝 本来の歴史であれば無かった予定 〟だからだ。


 瑠東と樫草を出会わせる、キューピットの役目自体はあった。


 しかしそこに、フォーチュンハート王家の紋章が刻まれた謎の剣が現れてしまったのだ。

 想定外も想定外の事態である。



 新部和葉:(今回の件って、サラサちゃんになんて説明したらいいのよ…?)



 今度は自分が『前任の手記』をつづらなければならない。

 それどころか、プリマメのクオリティーがアップするからには、この新たな歴史をサラサになぞらせる必要がある。


 無論のこと、異世界アースセザードまで漕ぎつけて、すべてがうまく解決したら、バトンをたくす必要性自体なくなるわけだが。



 住和トア:「〔上着のポケットからガラケーを取り出して、これ見よがしに石武器の写メを開いて見せながら〕きっと誰かが〝魔法で〟パッと消しちゃったんじゃない? 〔不満そうに唇を尖らせながら〕カズハにだって…、そういうことできたりするんじゃないの?」



 住和が言外に、まだあたしに話してないこと沢山あるでしょあなたという気持ちを和葉にぶつけると。



 新部和葉:「え・・・。あんなに海中ショー楽しんでくれたのに…、どうしてそんなにトゲがあるの? ひどぅい…! 私 傷ついた…!!〔大げさに心臓を押さえ、よろめいてみせる〕」


 住和トア:「あなたねえ…っ〔怒り半分、あきれ半分の表情になる〕」



 そんな住和に対し、和葉は深く息をついて、顔をうつむけることで自分の表情を見られないようにした。



 新部和葉:「私だってさ、話せるもんなら…1から10まで全部ゲロっちゃいたいよ。それでトアが納得してくれたら最高なんだけど…。それを今、話すわけにはいかない。 意地悪してるとかじゃなくてね」


 住和トア:「そのくらいはわかってるわよ」


 新部和葉:「うん、だから…、いつまでとは言えないけれど、待ってほしい」



 あの壮絶な転生計画を知っていて、かつ受け入れているのは、まだ渡瀬チサのみである。

 それは言ってしまえば、まだなにも始まっていなかったときの渡瀬であったからこそ、あの内容を受け入れられたのだ。


 じゃあ、今もそうかと言えば、今はまだ大丈夫だろうと、計画を進めれば進めるほど、あのゴールが脳裏をチラつく。

 大人の渡瀬でさえそうなのだ。


 まだ中学2年生の住和たちに、あのロードマップを打ち明けたところで、はいそうですかと受け入れられるはずがない。

 ゆえにまだ話すわけにはいかない。


 他にも、住和が描くキャラクターの雰囲気に影響を出さないための理由だってある。



 だがそれ以上に、すべての事情を打ち明けるタイミングが来るとしたら、それはもう引き返せないところまで行ったら、の話なのだ。



 住和トア:「オーケー。わかったから……。顔をあげてちょうだい」



 和葉が気まずくて、少し躊躇してから顔を上げると。


 住和は顔の半分を朝日に染めながら、ふんわりとほほ笑んでくれていたのだ。



 住和トア:「別に…、困らせたかったつもりじゃないのよ…。

       だから…。ありがと…、ね。

       うだつの上がらないあたしのために、ここまでのことをしてくれて。

       〔一拍置いてから続ける〕本当はこんなところで、魔法を披露する予定じゃなかったんでしょ?」


 新部和葉:「まあ…、そんなとこ…」


 住和トア:「じゃあしょうがない。

       だったらあたしは――…、

       今日、あなたがしてくれたことに感謝して、

       してくれたこと以上の成果を 絶っっ対に 出してみせるから!


       だから、覚悟しときなさいよディレクター?


       あたしの画力が無いと生きていけませ~ん、だからお願いしますぅ~~って、

       いつか必ず、洗いざらい吐かせてみせるんだから」



 ピンと立てた人差し指で、ツンと鎖骨あたりを突かれて、和葉は思わず破顔してしまった。


 なぜならその思いやりが、あまりにも嬉しかったから。


 少しでも気を抜いたら涙がにじみそうなくらい、嬉しくなってしまったからだ。



 住和トア:「あ~、笑ったな~?」


 新部和葉:「ちがうちがうっ、これはっ…そういう意味じゃなくって…」



 うれし涙を見られたくなくて、和葉が顔をそらしていると。



 瑠東ルナ:「あ! お~い!! トア~! カズハ~!」



 二人が振り返れば、遠くの方から瑠東が手を振りながら、樫草と共に歩いてくる。



 住和トア:「おっ、そう言えばルナの用事ってなん――って、ちょっとちょっと!?〔和葉の背後に隠れるようにして〕誰よあの美少年は?」


 新部和葉:「ああそうだった。トアはそれどころじゃなかったもんね。彼の名前は樫草レンくん。将来有名な俳優となる、ルナの運命の人だよ」



 当たり前のように返された言葉の内容に、住和は衝撃の声を上げたのだった。


 こうして4人は面識を得て。

 樫草は、自分と瑠東を引き合わせてくれたのは、瑠東から話に聞く和葉であると察しがつき。

 理由はわからないが、これは天からの導きであろうと、恩義を感じてくれることとなった。




 そうして、海中ワンマンショーから半月後。

 住和は、キャラ絵のクオリティーアップを見事に果たし。


 比喩ではなく、息を吹き込まれたとしか思えないキャラクターたちのビジュアルに、八牧は心から満足そうに住和の手腕を認め。


 2008年6月。

 数多の準備段階を経て、CGコミック担当の住和を主軸とした、プリンス・オブ・マーメイドの本格制作が始まったのだった。






―――★第4章★第8幕―――




 海底にて、『ウィークネスデザイナーズ』の武器から立体映像として現れた白髪の老婆、ジョゼットはこう言っていた。

 半神ヌノと戦っている間、住和たちには武器から暗示がかかり、心置きなく戦えることができると。


 だ か ら。


 カズハ2の腹部から禍々しい剣『ソウルテイカーギヴァー』を引き抜き。

 彼女の傷を魔法で癒すところまでは平気でいられた。


 そうして海岸から浜辺へと上がり。

 どういう原理か、それぞれの手にしていた武器が自然と消失してからが最悪だった。


 魂の剣を両腕で抱え、トボトボ歩いていたカズハ2が。

 ちからなくくずおれるようにして、その場にうずくまってしまったのを見て。


 さながら薬物の効果が切れたかのように、住和たちのことを途方もない現実が襲ったからだ。



 ジョゼットから話を聞いて、和葉が異世界で騙し討ちにあったこと自体は頭で理解していた。

 和葉の魂が入っているらしいソウルテイカーも奪い取ることができた。



 だから現状は御の字であると、前世界線で和葉を見送ることにした自分たちの判断を、4人が後悔しないわけにはいかなかったのである。



 崎戸は、呼吸が次第に浅くなり、息を荒くして羽織っていた中二病の黒マントを地面に叩きつけると、狂ったように踏みつけながら絶叫し。


 倉津は、なんでだよなんでだよ、必ずうまくやってみせるって約束したじゃんかよ…と、膝をつき、地面に拳を打ちつけ。


 八牧は、なにがなんでも…、自分のエゴでも引き留めるべきだったんだ…、なぜボクはそれができなかったんだ!? と拳を強く握りしめ、自責の念に身を震わせる。



 中でも住和が一番ひどい状況と言えた。

 日が昇るまで嵐に見舞われていたからには、周囲の様子は前世界線と違う。


 だがこの美しい朝日だけは、あの日見た光景と同じものにしか思えず。


 現実逃避も重なってのことだろう。

 瞳を少しうるませていた和葉の姿が、今の出来事のようにフラッシュバックしてしまったのだ。



 瑠東ルナ:「トア~~!! みんな~~~~!!」



 しかも、あのときと同じように、樫草と共に遠くから瑠東が駆け寄ってもくればなおさらだ。



 住和トア:「ゃだあぁぁぁ…っ、いやだよぉおおおお…っ、━━━━カズハーーーー!! カズハ~~~~!!」



 涙をあふれさせ、狂ったようなに金切り声を上げる。



 住和トア:「全部が全部ぅ…! ムダだったなんて…!! こんなのっ…、あんまりだよぉおおおーー…!!」




 ????:「いいや!! 違いますぞ住和トア殿! 全部が全部っ無駄だったことなど何一つとてありませぬ!!」



 若くも、厳つさを感じさせる男性の声が、浜辺を突きけるようにして響き渡った。

 この場にいたほとんどの人物が、なぜ〝若くも〟と感じたのは無理からぬことだ。


 なぜなら、本来であれば14年後に顔を合わせるはずの人物がスーツ姿で、

 大勢の黒服ボディガードをともなって、こちらへと歩み寄ってきたからである。


 そして中でも真っ先に反応を示したのは、うずくまっていた状態から咄嗟に顔を上げたカズハ2だった。



 カズハ2:「――――ぇ……? どう…して…?? おとう……、さまが…???」



 金髪青目の若き、第18代バティック国王その人が、伊豆の海岸に姿を現したのである。


 そんな彼が、座り込んでしまっているカズハ2の目の前まで歩を進めると。

 ひざまずく形で腰を落とし、ねぎらう声音で言ったのだ。



バティック:「新部カズハ殿――…、いいや…〔首を振ってから目線を合わせ〕


       我が娘――サラサよ…。


       よくぞ半神ヌノをしりぞけ、稀代の功労者であるカズハ殿を取り戻してみせた。


       我々フォーチュンハート王家の悲願はようやく叶った。

       〔住和の方へと振り向き〕今までのなにもかもが、失敗の連続だったのではない。


       すべては今日この日のために!


       半神ヌノに打ち勝つために! 必要な世界線の連続だったのだ!」



 その場に、宿で残っていたはずの渡瀬チサと米陀ヨネも急いで駆けつけてきたのを見て。


 立ち上がったバティックは、全員のことを見まわして、演説するかのように朗々と語る。



バティック:「フォーチュンハート王国にかけられている奇妙な認識阻害も!


       半神ヌノの索敵を遅らせるための処置だったのだ!


       そして、霊体の身に追いやられたヤツは、肉体を再生させ!


       必ずや我々の前に、再び姿を現すことだろう!


       我が王家の先祖――、ジョゼット・フォーチュンハートの予言は確定事項にも等しい事実だ!


       なれば! 我が娘サラサが! こたびの戦場で打ち勝ったならば! もうバトンを引き継がせる必要は無い!!


       後は! 再び現れる半神ヌノを討ち滅ぼし!


       今度は我々が! 異世界アースセザードに反旗をひるがえす番である!!


       その根拠を述べるならば!


       フォーチュンハート島は! 前世界線であなた方が発展させてくれた姿そのままで! 今世界線に引き継がれているからだ!!」



 傾聴していた全員に衝撃が走った。


 崎戸なんかは思わず「ウソだろ…!」と声をもらす。

 それはつまり、前世界線で自分たちの造ったプリマメVRの施設が、そのまま残っていることを意味し。


 異世界アースセザードへ向けた訓練を積める環境が、完成形のまま使用可能であることも意味するのだ。



バティック:「そしてコレが一番の驚きであろう…!!


       あの島自体が!


       異世界アースセザードへ乗り込むことを 想定して創られた島 だったのだ!」



 そのあまりにもとんでもない事実に、感情が先走って、住和は大声で叫んだ。



 住和トア:「 陛下あああああーーー!! 」



 言葉にならない叫びだった。

 だがその意味は、言葉にせずとも通じたのである。



バティック:「ああそうだとも…、住和トア殿。


       我がフォーチュンハート王国は! 全勢力をもってして、異世界アースセザードへ侵攻する!!」



 畳みかけるようにして話された衝撃の真実に、頭が追いつかず、カズハ2は呆気にとられたのだろう。

 涙にぬれた瞳でこちらを見上げている彼女を見下ろし、バティックは力強く告げたのだった。



バティック:「サラサよ――、いいや…、新部カズハ殿よ。今度異世界へ行くときは、我々も一緒だ」

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