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★60.わたしの推しを返してもらいます


―――★第4章★第6幕―――【真の黒幕戦につき特殊描写と 戦闘ログ表記法 を開始】




 †エマ†:ゆるやかな海水の流れにあおられて、レインウェアと、ピンク髪のウィッグが揺れている。

      片手に提げていた剣を、両手で頭上へとかかげ。



【 カメラ: まぶたを閉じていた†エマ†が、カッと両目を見開く 】



 †エマ†:「ローレライ歌唱法。ありし日の再現――」



 ありし日の再現とは、ローレライ歌唱法に〝記録されていた歌声を〟音楽ファイルのように再生する魔法である。

 継承魔法は持ち主の心に反応し、必要であると判断した場合、様々な出来事を記録する性質を持つ。


 つまりそれは。


 前世界線――β世界線で、和葉が†エマ†の姿で、海中ワンマンショーにて、住和に聴かせた歌声でさえも。

 今世界線――γ世界線の、この場に再現することができるのだ。



 半神ヌノ:『次元転移……完了。ターゲットの索敵を…』


 半神ヌノ:探すまでもなく、少し先の海底に並び立っている†エマ†たちの姿を見つける。


 半神ヌノ:『ターゲットを捕捉。………エマ・ティンゼル?

       アトランティカ兄妹も…? なぜこのような場所に?

       接点など…ありましたでしょうか?』



 そう、半神ヌノからすれば、今の†エマ†たちは異世界アースセザードの連中にしか見えない。

 サラサの魂に付けた しるし を頼りにここまで来れたが、半神でも一目で見分けがつくわけではない。


 だからこそ、そのわずかな戸惑いでさえも†エマ†たちにとっては好機なのだ。




 †エマ†:「プリンス・オブ・マーメイド挿入歌、Destroying Destiny、行きますっ」




【 イントロ:荘厳なファンファーレがとどろき、オーケストラによる前奏が始まる 】


【 バフ効果:挿入歌が終わるまでの間、味方全員の戦闘能力を一時的に上昇 】




 半神ヌノ:『これは…! いつぞやの、音楽魔法…ですね?』


 半神ヌノ:三つ叉の大きな槍を出現させて構えようとするも、断然†エマ†の方が速かった。



 †エマ†:水中自在の爆発的な速度で、半神ヌノへ瞬時に接近。

      半神ヌノのあごを ガツンッ!! と力いっぱい斬り上げ。


      返す刃で、大きな身体の『完全防御服』に〝剣〟を振り下ろし。


      落下するような勢いで何メートルも斬りつけた後。

      水泳でターンするように蹴った勢いを利用して、多頭蛇ヒュドラの間合いから高速離脱する。



 そんな爆速に、†エマ†の『ピンク髪ウィッグ』が耐えられるはずもなく。

 ウィッグがはずれ、地毛をまとめていたヘアピンも散らばり。


 スルリと髪がほどければ―――― 長い金髪が 猛烈な勢いで海の中をハタめく。


 そしてエマと同じ 自前の青い瞳に エーテル光がともれば。

 それが誰なのか、半神ヌノからしても見間違えようがなかった。



 以降、†エマ†は 〝 サラサ 〟 の表記で進行する。




【 Aメロ開始:━━━━ 】




 半神ヌノ:『……!! 〔驚愕に目を見開く〕 なぜ…変装を? 

       いえ、違いますね。

       どうして生前と同じ姿を? あなたはこの星に転生したはずでは?』


  サラサ:「っ…ちゃんと転生しましたよ! これはあなたの罠に気づけなかったっ…、わたしの落ち度です!」


 半神ヌノ:『……〔熟考しても理解できず〕よくわかりませんが、そうですか』




 転生したはずの金髪のサラサが、なぜ黒髪の和葉になっていないのか?

 半神からしてみればわからずとも無理はない。


 何故ならサラサは異世界で、

 エルフに化けた半神ヌノから『呪いのアミュレット』を押しつけられたことで窮地を迎えてしまったからだ。


 ラスボス戦の最中、お守りであったはずのアミュレットに突然身動きを封じられ。

 そのせいでナノクスたちが、サラサのことを身を挺して庇わなければならなかったからだ。



 もしアミュレットの呪いに気づけていたら、

 和葉を失いはしても、ナノクスたちが生存し、ビターエンドで済んでいた。


 それが半神ヌノの策謀により、ほぼ 全滅エンドに転落してしまったのだ。



 ゆえにサラサは、深い絶望のふちに落とされた。


 和葉の 推しを救う という望みも果たせず。

 サラサが敬愛してやまない 推しさえも 命を落としてしまったからだ。




  サラサ:(わたしは失敗する気もなければ、失敗した後のことなんてまるで考えてなかった!

       それはわたしにとって最悪の結末だったから!


       だからわたしは…、今でも和葉さんになれてない…!


       自分が 推しの代わりに なるだなんてそんなこと!

       解釈不一致が過ぎますから!!)



 サラサは心の中だけでも叫ばずにはいられなかった。



 半神ヌノ:『とにかく、抹消すべきあなたがいてくれて良かったです』


 半神ヌノ:距離を離そうとするサラサめがけて、熾天使の翼から 全属性の攻撃魔法 を一斉掃射。



 だがそうはさせない。



 住和トア:サラサを庇うように射線へ割って入り、腰だめに撃杖を構え。

      心象魔法で 描くことにより 無詠唱で 全属性の攻撃魔法 を撃ち返した。


 そしてそれは神絵師による正確な上位魔法である。

 半神ヌノの一斉掃射を掻き消すにとどまらず貫通――、熾天使の翼へと直撃させた。




【 Aメロ終了:━━━━ 】




 半神ヌノ:『…!! 攻撃…、された…??』


 半神ヌノ:予想もしなかった衝撃に巨体を揺らされ。それならばと手に握っていた三つ叉の槍をかかげる。


 半神ヌノ:『我が創造せし人魚のメロウたちよ…! 我が槍の意にしたがえ…!』



 そう、遺伝子操作で造られたメロウが相手ならば、この三叉槍で思うがままに操ることができるのだ。


 しかし、反応するわけがない。



 半神ヌノ:『なぜ…?』



 クラツ、サキト、ヤマキ、スミワ・アトランティカにどれだけ似ていようとも、

 この場に一人たりともメロウは存在しないからだ。



 倉津サナ:「やっぱ見分けがついてないね!」


 崎戸ミヤ:「好機! 〔中二病の黒マントをひるがえし〕」


 八牧リタ:「〔メガネのブリッジを押さえ〕 みんな合わせろ!」


 住和トア:「言われなくても!」



 4人はそれぞれの属性を載せた攻撃魔法『エーテルレーザー』を、熾天使の翼めがけて照射した。

 その破壊力は推して知るべし。


 なにせ世界に名をはせたマーメイドテール社のベテランたちが放った心象魔法である。

 熾天使の翼のほとんどが、たちまちにボロボロとなった。



 半神ヌノ:4人からの一斉射を受けて、その激しさにややノックバックする。


 半神ヌノ:『…!!? これはつまり、他人の空似…、ということですか』


 半神ヌノ:完全防御服の回復機能を使って、熾天使の翼を修復しようとするも。



  サラサ:まだ傷のない熾天使の翼めがけて、猛スピードで接近し。


  サラサ:「プリズムーーーー!! ストラーーーーイク!!」


  サラサ:光の魔法剣で翼を突き破るも、勢いを殺されて減速する。



 半神ヌノ:巨体がかたむく程の衝撃を受けて、さすがに苛立ちを覚えたか。


 半神ヌノ:『っ…!! 今度はこちらの番ですよ?』


 半神ヌノ:勢いをつけてぐるんと逆さまになると、下半身の多頭蛇が次々とサラサへ襲いかかった。



 だがその考えは甘い。



  サラサ:空中では不可能な 水中 立体機動 で、あらゆる方向に回避しつつ。

      ヒュドラたちの猛攻を、熟練の剣技で打って打って打ち返す。



 これも民間軍事会社のトレーニングを受けたときに、和葉から教わった技術なのだ。


 異世界アースセザード編を経て、そのスキルは更に習熟している。

 負けるはずがない、が…。


 失ったはずの 推しを 突然取り戻せるかもしれないと聞かされて、今がこんな状況である。

 脳内では無意識に、これまでのことが浮かんでしまう。




【 Bメロ開始:━━━━ 】




  サラサ:(転生して、記憶を取り戻してからずっと、わたしは金髪のまま!

       和葉さんみたいに立ち回ることなんて、まったくできなかった!


       いっぱいいっぱいだったわたしは、ただただ事情を打ち明けて!

       みなさんに協力を頼み込むことしかできなかった…!!)



  多頭蛇:手数では攻めきれないと判断したか、

      それぞれが、猛毒、石化、麻痺、筋力低下、精神混濁のブレスを、サラサへと吐きつけた。



  サラサ:(でも、こうなった今なら! 結果オーライだったと言えます!)


  サラサ:「セイントエリア・リカバーー!!」


 回転斬りの要領で、聖なる光の粒子を広範囲へと振りまき。

 状態異常を引き起こすブレスの すべてを 浄化し。


 多頭蛇のヒュドラがいくら続け様に毒息を吐こうとも、吐き出したそばから 無効化 するフィールドを形成した。




 半神ヌノ:感情変化の乏しい顔が、初めて信じられない様相を見せた。


 半神ヌノ:『…!!? ティンゼル一族の…秘奥!? なぜ、あなたが、それを』



 倉津サナ:「エマちゃんと賭けの一騎打ちをして、勝ったんだってさ!」


 倉津サナ:水中自在の猛スピードで、半神ヌノのふところへ飛び込み。

      〝拳鍔〟でもって、完全防御服をすれ違うようにして殴りつけ離脱する。




 半神ヌノ:(は…?)


 一瞬疑問には思ったが、完全防御服だからダメージは無い。

 自分に対しての攻撃は無意味で、被弾上等であるからには、半神ヌノは気にも留めなかった。


 半神ヌノ:『まさか、あの金の亡者と賭けをするだなんて…〔無感情でも少しあきれた声音で〕よくやりますね』




 だがそのおかげで、サラサが 和葉になりきれなかったことも 相まって。

 今までどんな経緯をたどってきたのか、1から10までを詳しく話し聞かせていたことで。


 もし状態異常攻撃が来たとしても、サラサがどうにかできることを皆が知っていたのである。


 更に言えば、こういったヒュドラの対策法は、

 仮にゲームクリエイターでなかったとしても、神話に登場するからには多くの者が知っているものだ。




【 Bメロ終了:━━━━ 】




 住和トア:「ヒュドラが相手ならコレよね!」


 住和トア:撃杖で狙いを定め、崎戸と八牧の武器に フレイムエンチャント を付与する。



 二人の武器が高熱を帯び、海の中だというのに炎が燃え上がった。



 水の中で火を起こすといった無理を通すような現象に関しては、

 正確な描写力と、それ相応の魔力が必要となるが、この世界の魔法とは物理現象の作用を遅らせることができるのだ。



 崎戸ミヤ:「リタ! 俺はSAOのアレで行くぞ!!」


 八牧リタ:「わかった合わせる! サナ…! 頼んだぞ!」


 倉津サナ:「あいよ!」


 崎戸ミヤ:「技を借りるぜキリト…! エーテルアビリティ・スキルモーション!!」


 崎戸ミヤ:スターバーストストリームの連続斬りをそのままトレースした動きで、

      双剣でもって多頭蛇たちの首を次々と斬りつけ。


 八牧リタ:槍の刃を使った流麗なナギナタ技で、

      崎戸が深手を負わせた方とは反対側から、ヒュドラの首を一体ずつ確実に斬り落としていく。



 そうして二人が攻撃に集中できるように、多頭蛇からの攻撃を 回避モーション でかわさせ。

 ガードモーション で防御させるのは。


 外からタイミング良くエーテルアビリティの魔法をかけることで 遠隔操作する 倉津の役目だ。



 倉津サナ:二人に手の平を差し向けて魔法の照準を合わせながら。


 倉津サナ:「この感じ…! なつかしいね!」



 プリマメVRの開発と、テストプレイで、

 スタッフ全員が苦労させられたからこそ成り立つ連携である。




 半神ヌノ:眉根を寄せる。


 半神ヌノ:『ヒュドラの治りが…遅い?  ――!!』


 半神ヌノ:いつの間にか近づいていた住和めがけて、とっさに三叉槍で突こうとするも、

      5メートル以上もの巨体なのだ、水中では動作が遅れた。



 住和トア:そんな三叉槍の突きをゆうゆうと回避し、

      うずまく水流も 水中自在の加護で ものともせず。


 住和トア:「首の断面を燃やし続けてるからよ。わからないの?」


 〝撃杖〟で、半神ヌノの完全防御服を殴りつけると、住和は高速でその場から離脱した。




【 サビ開始:━━━━ 】




 半神ヌノ:『なるほど…。しかしそういうあなた達も、そんな攻撃が無駄だとわかって――』



 などと、最後まで言えるはずもなし。

 今、多頭蛇たちを相手取っているのは、崎戸と八牧なのだ。


 しかもこの隙にサラサが、ボロボロとなった熾天使の翼をガツンッガツンッと斬り落としていく。



 半神ヌノ:『くっ…!?』


 半神ヌノ:その猛攻に激しく揺さぶられ、さしもの半神も体勢の維持が崩れた。




 崎戸ミヤ:「見つけた…!! 本体はお前かーー!」


 崎戸ミヤ:逆手持ちにした双剣の一本を、ヒュドラのひたいへと突き刺し。



 八牧リタ:(半神の気が散っている…!)


 八牧リタ:「ミヤ…!! 今しかない!」


 崎戸ミヤ:「わかった! 後は頼んだーーー!!」


 崎戸ミヤ:暴れ回るヒュドラに振り回されながら、

      その振り回されたときの遠心力を利用してブッ飛び。


 崎戸ミヤ:八牧が伸ばした手を掴んで、二人は水中自在で加速した。




 住和トア:「いいとこに刺してくれたじゃない! サナ!」


 倉津サナ:「わかってるよ!」


 住和トア:「全力全開…!! 持ってけ! アブソリュートゼロ!!」



 多頭蛇のような邪竜相手には、外からの魔法は効きにくいものだ。

 ならば、崎戸が 突き刺した剣を 起点にして。


 ヒュドラの内部へと、住和の凍結魔法がまたたく間に浸透し。

 その氷漬けが、表層をも――剣の柄頭までもを覆い尽くした、そのタイミングに合わせ。



 倉津サナ:水中自在で加速して。

      拳鍔にチャージしていた魔力を、剣の柄頭へと渾身の力で叩き込んだ!




【 サビ中盤:━━━━ 】




 半神ヌノ:『!!? 〔目をいっぱいに見開いて〕 まさか…!!』



 そのまさかだ。

 氷結した多頭蛇がこなごなに砕け散ったのと。


 崎戸と八牧が〝双剣〟と〝貫槍〟で。

 完全防御服を斬りつけたのも、同時のことであった。



 それはつまり『ウィークネスデザイナーズ』の 五つの武器を 使って。



 半神ヌノの完全防御服に〝 弱点の設計が完了した 〟瞬間でもある。




  サラサ:「朝日差す剣よ薄明を貫け――、シャイニング・ストライク!」



 閃光が辺りを白く染めた。

 加速した時の爆音を、大量の泡と一緒に置き去りにして。


 皆が雷鳴の如き爆音を認識したときにはもう――。


 サラサの剣が、完全防御服の胸元に、深々と突き刺さっていた。



  サラサ:そしてそのまま勢いを殺さずに、半神ヌノの巨体を海底へと叩きつけた。




 その衝撃で、土煙が立ちのぼったかと思えば、それを突き破るようにして二人の影が躍り出る。


 刃と刃が立て続けにぶつかり合い、凄まじい剣戟が海水を通して響き渡る。



 半神ヌノ:完全防御を破られたとわかった瞬間からプランBへ移行――。

      土煙の中で瞬時に巨体化を解き――。

      人間サイズへ戻る同時に、装備を自動換装――。


      新たに装備した時計のギ神器が、行動速度を倍速化させ――。

      指輪のギ神器が、勝手に身体を動かし、最適解の剣技を繰りだし続ける――。


      その手に握られた得物はもちろん『ソウルテイカー』だ――。




 半神ヌノから騙し討ちにされた和葉は、このギ神器の組み合わせに敗北したと言えよう。


 だが、その敗北した和葉をも上回る素養を、サラサは身につけていた。

 どれだけ悲しみの日々に暮れようとも、次に繋げるためにはコレしかないと。



 和葉の教えから派生させた、近距離限定の 魔力探知を、サラサは習得していたのだ。



 自然界にもエーテルが満ちていることから、基本的には不可能なそれを。

 今日という日まで鍛錬を怠らずに続けてきたサラサは、エーテルの挙動を見て取ることができる。


 ――ゆえにだ。




 半神ヌノ:どれだけ倍速化して、最適な剣技を繰りだそうとも。



 ギ神器がエーテルを消費して稼動しているからには。

 動作する前に必ず。



  サラサ:エーテルの消費される 軌道コースが 生まれて見えるのだ。



 今回の場合で言えば、半神ヌノの指輪を付けた手の動きが。

 未来予知めいたエーテルの軌跡を描くので。

 ソウルテイカーのリーチさえ見誤らなければ、対処は可能である。




【 サビ終了:━━━━ 】


【 あり日しの再現完了:挿入歌の終わりにともない、戦闘能力の上昇バフも消失 】




 半神ヌノ:しかし相手は機械のような自動戦闘で。


  サラサ:こちらはそのつど刹那にも満たない時間で剣筋を判断している。



 常に100パーセント見きれるかと言えばそうはいかない。

 攻防が続くにつれ、抗いきれない判断ミスも増えていく。



  サラサ:マントのように羽織っていたレインウェアや。

      米陀に縫ってもらったエマの衣装ごと。

      身体のあちこちに、浅い斬り傷が増えていく。



 さりとてサラサと半神ヌノの斬り合いは、動体視力の高い崎戸と八牧でも追うのがやっとだ。


 そのうえ現実の魔法は、慣れた場合を除いて、正確な照準と偏差射撃を必要とする。

 倉津たちでも攻撃を当てやすかった巨体のときとは違い。

 狙いを外せば、回復は半神ヌノの傷を癒やし、攻撃はサラサを誤射しかねない。




 半神ヌノ:『あなた達には! 苦労をかけますね!』


  サラサ:(和葉さんなら! こんなときでもみんなに指示を出せてるのに!)



 半神ヌノ:『これほど手間取るつもりは! なかったのですが!』


  サラサ:(足りてないのは信頼関係? 違う! 和葉さんならそれでもやってみせた!)



 半神ヌノ:『どうか御安心を! 平等に、しかるべき苦痛を与えます!』


  サラサ:(ダメ…!! 頭が回らない…! わたしにはっ…何かが足りてない!)



 半神ヌノ:『あ…、ですが! その前に…ですね!』


  サラサ:(やっぱりわたし――、あなたのようには――――)




 半神ヌノ:『私の教え子は強いぞと! 彼女が息巻いていたことを伝えておきます!』




 ━━━━ ねえ、あなたは推しのために自分の命をかけられる? ━━━━




 半神ヌノがくりだした突きを、サラサは避けずに腹部で受けた。


 ソウルテイカーの刃が、サラサの背を貫いて飛び出る。




 半神ヌノ:『良かったですね…!! 神たるわたしに破れるのは、人としてのほまれですよ?

       どうか感謝してくださいな?』


  サラサ:「――ええ…、ありがとうございます。

       おかげさまでわたしは、推しのために命をかけることができました」


 半神ヌノ:『……はい?』




 いぶかしんだ後に、半神ヌノは気がつく。

 なぜなら目の前で。


 サラサの金髪と青い瞳が、端からみるみるうちに黒へと塗り替わったからだ。

 〝 彼女は 〟震える声を振り絞って言った。




 ????:「最後の最後にっ…、踏み出せて良かった…。

       同じ魂は奪えないと、ソウルテイカーに認めてもらえて…、わたしは嬉しいです…」



 半神ヌノがヒュッと息を呑む。

 ソウルテイカーが思っていたように機能しなかったからだ。


 半神ヌノ:『なぜっ…、どうして!!?』



 ????:「お帰りなさい和葉さん…〔ソウルテイカーの刃に優しく手を添え〕

       後はどうか――」




 カズハ2:「こ の わ た し に !! 任せてください!!」




 カズハ2から斬撃を受け、ソウルテイカーを握っていた腕を斬り飛ばされ。

 これは撤退すべきだと半神ヌノは判断した。

 どういうカラクリか知れないが、完全防御服を突破され、回復機能までも壊されている。



 半神ヌノ:よって、すぐさま己の身体を〝 神霊化 〟して〝 透明 〟にし。

      カズハ2からこれ以上狙われぬよう、自分の姿を見えなくする。


 それは半神にとっての 権能 と言っていい。


 人としての肉体を保持しながらも、もう半分を 神にする ことで。

 〝ほとんどの〟物理干渉からまぬがれることができるのだ。



 半神ヌノ:だが半神ゆえに、ギ神器を持つ肉体を保持しているからには。


  サラサ:海中に満ちているエーテルの中に、不自然な流れが生まれて見える。

      正確な居場所はわからずとも、大体の方角は判別できる。


 半神ヌノ:そうして目で追われてもみろ。恐怖という名の感情を初めて覚え。

      アーラウ・和葉の言っていた台詞の――、その続きが脳裏をよぎった。



 ━━━━ 私の教え子は強いぞ…! こうは行かないからな…!! ━━━━




 器創神という親が造った『ソウルテイカーギヴァー』を充分に解析もせず。

 単なる『魂を喰らう剣』として扱ったことがすべての敗因である。


 だが、総じてこの手の悪は、なにがあやまちであったのか理解しようとしない。



 半神ヌノ:(これは何かの間違いですね。一旦ひいて態勢を立て直しましょう)


 半神ヌノ:神霊化により、海水の影響を受けることもなく急浮上し。

      そうしてそのまま海面から飛び出て、空へと浮かび上がり。


 半神ヌノ:『―――え?』



 半神ヌノは、自分の胸に 矢が突き立ったことが わからなかった。


 ましてやそれが。

 精霊狩りなどに使われていた、対象を〝 実体化させる矢 〟だとは思いもよらない。


 更に言えばだ。

 人のオーラが見える地球人に、神霊化した自分の姿が捉えられるなどと、思いもしなかったからだ。



 半神ヌノ:強制的に実体化させられ、海面へと落下し。

      そのままの勢いで、朝日に透けだした海の中へと沈んでいく。



 そうして見た。

 海底で、己の剣に ありったけの魔力を チャージしているカズハ2の姿を。



【カメラ:半神ヌノから見おろす視点で。

 カズハ2の周りを、流れ出した鮮血とエーテルのきらめきが絡み合うようにしてうずを巻き出す】



 カズハ2:聖剣を頭上へとかかげ。剣から 光の刃を 発すると。

      それを 信じられない程の長さまで ほとばしらせ。


 プリマメVRでは『ディシンフェクトセイバー』と呼ばれていた大技を、カズハ2は、半神ヌノめがけて振り下ろした。



 半神ヌノ:光刃の奔流に肉体をそがれ。

      身に付けていたギ神器ごと焦がされながら、光の塵へと化していく。

      生まれて初めて〝 霊体 〟の状態に追いやられながら。


 意識を急激に失いつつも、持てる力のすべてを振り絞り。

 半神ヌノは、海外の方角へと向かって全力で逃げて行った。

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