◆6.ヒロインとしての終わりと
渡瀬チサ:「これからまた、265年もかけるほどの責任が、キミにはあるって言うのか?」
新部和葉:「あります。意外と数えだしたらキリがないくらいにはあるんです…。あのときああすれば良かったんじゃないか、こうすれば良かったんじゃないかっていう後悔の数々が…。その中でも一番の理由は、ナノくん以外のヒーロー達に、あまり好かれなかったことなんです」
渡瀬はハンッと鼻で笑った。
渡瀬チサ:「乙女ゲーの逆ハーエンドでも狙ってたわけじゃあるまいし、別に好かれなくったって、力を合わせて戦うくらいのことはできたんだろう?」
新部和葉:「はい。でもだからこそ…、それくらいでは足りなかったんだと思います。なにせわたしの性格は……、後天的に、矯正を受けて得たものですから」
渡瀬チサ:「は…?」
渡瀬は首をかしげた。
渡瀬チサ:「じゃあ何か? キミのその明るい性格は演技だとでも言うのか?」
新部和葉:「いえ…、演技だなんて領域は、とっくに抜け出してたつもりだったんですけど…。ナノくん達みんなには、わたしの性格が本来とは異なるものであることを見抜かれてしまったんです」
渡瀬チサ:「じゃあ…本当に? その性格は後から身に付けたものなのか? どうしてまたそんなことを?」
新部和葉:「カズハさんからそう言われたので。もっとキャピキャピなお姫さまらしくした方がいいって。ホントのところは、ダウナーなお姉さまのカズハさんに親しみを覚えたからこそ仲良くなったんですけど…。人生ってのはもっとうまくやるコツがあるんだよって、ソシャゲのお姫さまキャラを真似するように言われたんです」
渡瀬チサ:「そしゃ…げ…? が何なのかはよくわからないが…、要するに、ゲームキャラクターの物真似ってことだろ? キミはそんなんで本当に良かったのか?」
新部和葉:「いえ…〔首をふってみせる〕初めはもちろん反対しましたよ? でも…、ぶりっ子って本当に凄いんですから! 上手くやれるとそれはもう効果的で…。特にわたしはプリンセスという立場でしたから、男女問わずイヤな顔をされなくなったんです」
渡瀬チサ:「ってことは…? もとが難アリだったわけか」
新部和葉:「酷い言いようですね! お姫さまなんて立場に生まれたら、普通は捻くれるに決まってるじゃないですか! 何が女の子の夢はプリンセスだよウゼーわダリーって思ってましたもん!」
渡瀬チサ:「お、おう…」
新部和葉:「ほーらドン引きした~! とまあ、こんな感じで…。殿方が好ましく思う女性像は、大体決まってるものなんですよ」
渡瀬チサ:「う~む…? 世の男性を代表するつもりはないが耳が痛いな…。ぶりっ子の方がウケがいいのは、異世界でも変わらないってわけか」
新部和葉:「ですです。カズハさんの見立ては間違ってなかったんですよ。ただわたしは…矯正を受けるのが遅かったので…。これから10年後に生まれる別のわたしには、もっと早い段階で、矯正ではなく誘導をかけてみようと思ってます。そうすればきっと、今度こそは――、
みんなが大好きになってくれるヒロインに、なれるはずですから…」
今日の天気は曇っていた。
しかし、曇り空から晴れ間がのぞき始めたのか。
窓から差し込んできた日差しに照らされて、宙に漂っていたチリがキラキラと輝く中。
ほほ笑んでみせた和葉が一瞬、金髪の青い瞳の少女に見えて、渡瀬はギョッとさせられたのだ。
そうしてハッと気付かされる。
ここが彼女の――――、ヒロインとしての終わりを迎える瞬間なのだと。
渡瀬チサ:(彼女はもう覚悟を決めている。だったら…)「やろう、僕たちで」
新部和葉:「…! オジさま?」
渡瀬チサ:「キミが望む理想のヒロインを異世界へ送り出すために…、最高の乙女ゲーをこの世に生み出すんだ」
新部和葉:「っ…〔顔をくしゃくしゃにさせて〕はいっ」
渡瀬チサ:「おいおい? そこは〝はい〟じゃないだろ? お前はもう、新部和葉なんだから」
新部和葉:「っ…! 〝うんっ…〟それもそうだね〝チサ兄〟これからよろしく!」
渡瀬チサ:「ああっ、任された」
二人はグーの拳をぶつけ合い。
再びロードマップを見ながら。
今後の2004年までに何をなすべきなのかを確認し合ったのだった。




