★57.記号の違いが世界線を表しています
―――★第4章★第5幕―――【クライマックス目前につき特殊描写:限定解放中】
瑠東ルナ:「はーあ~~、あたしも見たかったな~、ウィークネスデザイナーズ…だっけか? 沖の海底にそれらしい物が並んでるって言ってたけど…、ちゃんと見つかったのかな?」
地図が描かれているメモ用紙とLED懐中電灯を手に。
ほとんど真っ暗闇な中、瑠東は自分が歩いてきた浜辺を振り返った。
瑠東ルナ:「〔ずっと吹きっぱなしの風に髪をもてあそばれながら〕それにしても…、海の中を浮かばずに歩いたり走ったりするのってどんな感じなんだろ? あ~~羨まし! 一生のお願いじゃなかったら、あたしも駄々こねて付いてったところなんだけど」
ときおり強くなる風に、着ているレインウェアがうるさいくらいバタバタとハタめく。
地図のメモ用紙なんかはもうクタクタだ。
瑠東ルナ:「とは言えよ。こんな時間帯に、こんな風の強い日に、樫草くんが外を出歩いてるなんてことあるの?」
状況が状況なだけに、半信半疑で浜辺を曲がり。
視界が開けたその先に、樫草レンは本当にそこにいた。
瑠東と〝同じレインウェア〟に身を包み。
足元にはLEDランタンを置いて。
大きな松の木の下に――、ではなく。
こんな波が荒いときに、なぜか波打ち際でたたずんでいる。
そんな場所に立っていては、いつ波にさらわれてもおかしくはない。
だがそれ以上に、瑠東の目を奪ったモノがあった。
【カットイン演出:遠くの波打ち際でたたずむ樫草にかぶせる形で、アップの瑠東が目を見開く】
瑠東ルナ:「何よ…アレは?」
足早に駆け寄っていけば、うすぼんやりと光っている物体の形がハッキリと見えてくる。
瑠東ルナ:(…ゆ、み? あ、やっぱり、弓立てに置かれてる弓矢だ。それも…石から削り出されたようなヤツ! って、そんなことよりも!)
瑠東ルナ:「樫草くん!」
樫草レン:「! ルっ――瑠東、さん…」
瑠東ルナ:「〔駆け寄りながら〕ちょっと何なのよコレは? その弓立ての中にプロジェクターが仕込まれてるとも思えないし。大体、
あの宙に映し出されてる〝お婆さん〟は何なの? 何か知ってる?」
樫草レン:「ええと…」
そう。瑠東が矢つぎばやに質問したように、弓を置く弓立てから宙にめがけて。
玉座らしき椅子に腰かけている、身なりのいい、目蓋を閉じた白髪の老婆が。
立体映像で映し出され、闇夜の中に浮かんでいるのである。
しかも不思議なことに、この弓立てを中心に荒波が避けるような動きを見せている。
瑠東ルナ:(どうなってんの? もしこんなワケのわからない事態なら、事前にあの子が説明してくれてるはずだし…。天気も違くて、浜辺にあったはずの武器も海の底…。樫草くんと会ったらそのまま一緒に帰るように言われてたのに、明らかに違う流れになってる! どうする? どうしたらいい?)
樫草レン:「〔老婆の方を振り返って〕ジョゼットさん…? ジョゼットさん! 瑠東さんが着きましたよ!」
白髪の老婆:『………あら? ごめんなさいね、寝ちゃってたわ〔それでも目蓋を開けずに〕寄る年波には勝てないわね…』
瑠東ルナ:「ええっ…!?」
プロジェクターによる立体映像かと思いきや、なんとビデオ通話状態だったのだ。
だがそれ以前に、プロジェクターどころかビデオ通話用のカメラさえ見当たらない。
だというのに、白髪の老婆は目蓋を閉じたまま、確かに瑠東の方を向いたのである。
白髪の老婆:『〔おだやかな声で〕お久しぶりですねルナさま。またお会いできて光栄ですわ』
瑠東ルナ:「ええっ…!? いやっ…あのっ…〔いぶかしげに首をかしげてから〕あたしの記憶違いだったらごめんなさいなんですけど…、初めまして、じゃないですか?」
白髪の老婆:『ええ、こちらでは初めまして』
瑠東ルナ:「は…?」
白髪の老婆:『わたくしの名はジョゼット。気軽にジョゼとでもお呼びくださいな』
瑠東ルナ:「は…はぁ、どうも…」
以降、白髪の老婆は ジョゼット の表記で進行する。
ジョゼット:『ではルナさま、━━ デジャブリドゥ ━━』
一瞬、かん高い、金属音のような耳鳴りがして。
三半規管が異常をきたし、瑠東の身体がフラリとかたむいた。
樫草レン:「ルナ!!」
そうして倒れそうになったところを樫草がとっさに支え。
瑠東は 以前にも同じように 支えてもらったことがあるかのように、実に慣れた手付きで彼の手を握った。
瑠東ルナ:「レ…ン? あたし…? 何が…どうして…?」
樫草レン:「心配しなくていい。キミも別世界での、2031年までの経験を引き継いだんだ」
瑠東ルナ:「別…世界…? じゃあ…、あの子の言う、前世界線のこと…?」
樫草レン:「そうだ。おぼえているかい? あの大きな松の木の下で、海をながめながら朝をむかえた日のことを」
瑠東ルナ:「おぼえてるよ…、忘れるわけがないじゃない…。本当は今日ここで死ぬつもりだったんだって、たくさん悩みを打ち明けてくれて…。それなのに、沖の方で花火みたいな不思議な光が何度も打ち上がって…」
樫草レン:「ああ、それどころではなくなったんだよな…。でも僕は、そうしてむかえた明け方の世界と、朝日に照らされたキミの美しさに心を打たれたんだ。もっとこの世界も、キミの姿も見続けていたいと心から思った」
瑠東ルナ:「またそうやって…、人が恥ずかしがることを繰り返し言うんだから…。けどもまさか、あの沖の花火みたいな光が、カズハによる魔法の実演だったなんて、実際に見せてもらうまでは信じられなかったよね…、楽しかったな…」
樫草レン:「ああ…本当に…、なにもかもが楽しいことばかりだった…。2031年の8月…、あの 誕生記念祭 をむかえる日までは…」
瑠東ルナ:「誕生記念祭って…、サラサちゃんの二十歳を祝う、フォーチュンハート島をあげてのお祭りだったよね…。確かあの日…、あたし達はかなり強引に参加させてもらって――」
瑠東のもうろうとしていた瞳が焦点を結び。
意識がハッキリと覚醒して。
〝和葉が異世界へと旅立った〟あの日の光景が脳裏にフラッシュバックすると。
今がどういう状況なのかを理解し。
瑠東は急激に顔色を失い。
気が狂いそうになって、叫び出しそうになった。
樫草レン:「ルナ!〔瑠東の身体を強く揺さぶって〕ニイベさんはまだ死んでいない! 気をしっかり保つんだ!」
瑠東ルナ:「えっ…!? でも…〔絶望の様相で〕あのサラサちゃんが、あの子に……この世界線の 新部和葉 になってるんだよ!? しかもなにかっていうと…カズハの強さに甘えてしまったって! ずっと自分のことを――」
ジョゼット:『そのカズハさまを、取り戻す方法があるのです』
瑠東ルナ:「………な…、なんですって…?」




