◆53.本番の舞台で、予定にない物があったんだよ
【カメラ:自然とうつむいてしまっていた住和の横顔が、決意の表情と共に上げられる】
住和トア:「わかった。だったらあたしもちょっくら行って、インスピレーションわかせてくるわ」
瑠東ルナ:「うん、応援してる。それじゃまた後でね」
住和トア:「オーライ!」
手を振り合って別れ。
明かりのない道に目をこらし。
暗闇に目を慣らしながら住和は進んだ。
月はとうに沈んでいるが、都会と違って星明かりで見えなくもない。
住和トア:(あぁ…そうだ…。あたしはまったく、何を弱気になってたんだか…)
世界中のクリエイターたちが、保証のない暗闇の中を、自らの輝きでもって突き進んでいる。
スポットライトを浴びた作品が、後々の流行や 道 を生み出すのだ。
もっとわかりやすく言えば、初めから将来を約束された作品なんて存在しない。
それが絶対の世界で。
和葉が示してくれたゴールに、住和は甘えてしまっていたのだ。
しかも、神絵師と呼ばれる別世界線の自分を超えようとも思わなかった。
住和トア:(あたしらしくもない…!!)
ましてや、同年代の背景画に遅れを取るなど、あってはならなかったのだ。
住和は、おのれに活を入れるべく、暗闇の中を全力で駆け抜け。
息せき切って砂浜にたどり着くと。
両膝に手を突き、身体を折り曲げ、ぜーはーと肩で荒い息をした。
住和トア:(そうだよっ…、たまにはこうして走ってみるのも悪くないじゃない…っ。普段と違うことをするっ。ひらめきはどこに転がってるかわからない! 探して探して探してっ、考えることをやめようとしない! そうした先にアイディアはわいてくるものなんだから!)
胸を押さえ、必死に呼吸を整える。
住和トア:(さあ…、やってやろうじゃない。絵のセンスを上げられるなら、なんだってしてみせるわよ、カズハ!)
気合いは充分。
折り曲げていた身体を起こし。辺りを見回して――、探すまでもなかった。
黒々とした水平線に、ほんのり明るい星空と。
暗い砂浜の先で、ランタンの明かりが揺れていたからだ。
住和トア:「・・・、ううん…?」
しかし住和は両目を細めることとなった。
【カメラ:住和の視界が、ズームをかけるようにしてランタンを持つ人物の全身像をとらえる】
鳥肌が立った。
この1年、イヤというほど向き合ってきたキャラクターがそこには〝居た〟からだ。
今となってはもう、手に描きなじんでしまっている。
†エマ†:「おっかしいな~? サッパリ意味がわからない。リハのときには〝こんな意味深な物〟なかったはずなのに…。も~~~!! 誰かわたしに説明して~~!!」
【カメラ:空の神にでも請うかのように、上空から見おろす視点に向かって顔を上げて叫んだ†エマ†が、ほんのわずかな時間カメラ目線となる】
そんな彼女はランタンを足元に置くと。
ゆるくウェーブのかかったピンク髪の頭をイラだたしげに掻きむしった後。
目の前の地面に突き刺さっている『石の剣』を両手で強く握りしめ。
ちからいっぱいに抜きにかかった。
†エマ†:「ふんぬ~~~~…!! はぁーー、どっこいせ~~~~!!」
石の剣は一向に抜けそうもない。だがそれでも、そ れ で も だ 。
解釈一致どころの話ではない。
服装から言動、ちょっとした仕草にいたるまでのすべてが。
プリンス・オブ・マーメイドの主人公、エマ・ティンゼルそのものなのだ。
住和トア:(じつ…ざい、してたなんて……ウソでしょう? でも…? 少し背が低いような…? なんだか一回り幼い? 気のせいかな…?)
そこで住和は、ある可能性に思い当たった。
住和トア:(――は? いやいやいや! それはない! それはないから! だって、今聞いた感じ声も全然違ったし! それに――あ、でも、そうか…)
ときおり起こる金髪化と、青い瞳になったときには声も少し違っていた。
あの説明のつかない現象がコントロール可能ならば、それこそ説明がつくのだ。
住和トア:(でもじゃあ、あの子がコスプレしたカズハだっていうわけ? どう見たってエマ本人にしか見えないのに?)
だからこそ住和は、自分が手がけているキャラクターになんて声をかけたら良いものか迷った。
こういうときはいっそ見なかったことにして帰ってしまうタイプなのだ。
住和トア:(とは言え…、プリマメにあんなアーサー王物語みたいな剣を抜くシーンなんて無かったはずだし…。順当に考えて…、カズハよね、あれは)
これで背の高さが16歳並みであったら尻込みして帰っていたところだが、背格好は一致している。




