◆49.本っ当に、私にとっては想定外だったの
―――◆第4章◆第2幕―――
崎戸が中二病を卒業してから数ヶ月後の4月。
みんなは中学2年に進級し。
今年度初の定例報告会は。
住和の画力が完成形に到達したことを祝う、お披露目会となった。
具体的に言えば、住和が完成させたCGコミックのキャラクター絵を。
八牧が描いた背景コマに重ね合わせ。
その仕上がり具合をサークルメンバーのみんなで確認する〝だけ〟のことであったのだ。
ところがだ。
キャラクター絵を背景コマに重ねる段になって。
待ったをかけた八牧が、手直ししたバージョンに差し替えてほしいと申し出てきたのである。
その結果がどうなったのかと言えば…。
渡瀬チサ:「よもや〔眉間にシワを寄せて〕キャラクター絵が かすむ ほどの背景画を出してくるとはな…」
身もフタもない言い方をすれば、住和のキャラ絵が、八牧の背景画に負けてしまったのだ。
これでは誰の目からしても、キャラ絵担当が足を引っ張っていることとなる。
新部和葉:(ウソでしょ、風景にともなうエーテルのきらめきをアニメーションで再現してみせるなんて。しかも、過去の追体験で見てないはずの景色まで解像度が高くなってる。じゃあ何? 他の景色から類推したとでも言うわけ? そんなことが可能なものなの? 彼まだ中学2年生になったばかりよ?)
和葉がWebカメラ越しに八牧を見やると、彼はモニターの向こう側で満足そうに笑ってみせた。
崎戸ミヤ:『やったじゃないかリタ! あのニイベがめっちゃ驚愕してるぞ!』
倉津サナ:『3人で丸一年以上 費やしたかいはあったね。おかげでオレもフォトショの塗りには慣れたし、これで別の仕事もできそうだ』
新部和葉:「いやいやいやいや!! 一体いつから!?」
倉津サナ:『リタちゃんのサークル加入が決まってから、割とすぐにだったよ?』
崎戸ミヤ:『あのニイベカズハに一泡吹かせてみないか? だもんな』
新部和葉:「はあ!?」
新部和葉:(じゃあ…! ミヤくんが言ってた〝色んな勉強会〟って、リタくんがフォトショを二人に教え込んでたってわけ!?)
さすがの和葉もそれは想定外だった。
八牧リタ:『無理そうであれば計画は中止するつもりだった。ところがどうだ? サナは当然としてミヤまでも呑み込みが早かったからな。天才二人の助力なくしては成し得なかったグレードアップというわけだ』
そう言う本人は努力型の天才なのである。
和葉はしくじったのだ。
新部和葉:「見誤った…!〔テーブルに拳を叩きつけて〕リタくんがここまで二人の技量を上げられるなんて!」
その努力型の天才に、ローレライ歌唱法を披露してしまったのは和葉自身なのである。
崎戸ミヤ:『よっしゃあ!!〔ジャブのパンチを繰りだしてみせ〕俺はまだまだ半人前だけども!』
倉津サナ:『3人で力を合わせた勝利には違いないさ』
新部和葉:(くっ…! ただの1・2ページであれば全部は無理でしょと言えたかもしれないけど)
渡瀬チサ:「まさか提出済みの背景コマすべてに粒子アニメーションを適応させてくるとはな…。これからやりますと、もう既に終わってますじゃ話が違う。それに見たところ崎戸がスクリプトを調整して、倉津が動作を軽くしてやったようだな。ケチの付けようがない、満点だ」
崎戸ミヤ:『あざっす!!』
倉津サナ:『有り難きお言葉!』
新部和葉:(信じられない…。スクリプトの組み立て作業は私もやってたけど、その半分をミヤくんとサナくんに負担してもらってたのに)
にも関わらず、崎戸はスクリプター、倉津はプログラマー、八牧はコンポーザーという本分を おろそかにせず 3人はやりとげてみせたのである。
それどころか八牧は、今後も同じ作業量をこなせるように二人を鍛えたのだ。
こんな3人の本気ぶりと美麗な背景画に当てられては。
自分のキャラクター絵がかすみ、ショボく見えるのも相まって、住和が絶句したままでいるのも無理からぬことだった。
渡瀬チサ:「で? お前からして、この特殊背景はどうなんだ?」
新部和葉:「〔歯がみして〕……前世界線の背景とは…、一線をかくしてる…」
倉津サナ:『ホントに!?』
崎戸ミヤ:『っしゃあ!!』
渡瀬チサ:「だと思った…。こんなの見たらウチの会社だって黙っちゃいない。――して八牧よ? 尋常ではない執念と見受けた。プロデューサーの僕からしてもディレクターのカズハからしても、キャラクターの絵がかすむからといって却下するわけにはいかなくなった。ゆえに聞かせてもらおうじゃないか。ここまでした理由は何だ? 話してみろ」
渡瀬の問いに、八牧はモニターの向こう側から住和へ向けて人差し指を突きつけた。
八牧リタ:『トア、君はキャラデザを担当するにふさわしくない』




