2008年◆48.ほんの些細なズレだと思ってたの
―――◆第4章◆第1幕―――
こうして、和葉が中学1年生であった2007年には思わぬ進展があり。
時は2008年を迎え。
計画はロードマップ以上に進んでいた。
しかし、和葉がうまくやっていたからこそ、前世界線とは違う結果が現れだしたのだ。
†アーラウ†:「え…? 人目もはばからず中二病を謳歌できる中学2年生を前にして、結社会議を終わりにしたいと言うんですの?」
結社会議とは、崎戸が出席する場合に〝のみ〟もよおされる、サークルメンバーが仮装しての定例報告会――、つまりは結社ごっこ遊びであったのだが。
前世界線ではもう少し長引いていたはずの崎戸の 中二病 が、唐突な終わりを迎えることとなったのだ。
崎戸ミヤ:『すまない…。皆の正装もようやくととのい、これからが正念場であったというのに…』
†アーラウ†:「いえ、そんなことよりも、あなただってこのまえ幹部用マントを手に入れたばかりではありませんか。理由をうかがっても?」
崎戸ミヤ:『うむ、それなんだがな…――あぁいや…、やっぱ普通に話すわ、すまん』
†アーラウ†:「え? ぇえ…、構いませんことよ(何があったんだ一体?)」
崎戸ミヤ:『俺さ、去年からサナとリタに勉強を見てもらうようになって、互いの家にお邪魔するようになってたんだわ。3人ともチャリで5分圏内っつー奇跡的な距離間のおかげで、3人とも中学が違うのにクソ集まりやすくてさ』
†アーラウ†:「はい。中学に入ってからは、よく連まれているのは聞き及んでおりますわ」
新部和葉:(こっちはトアとルナとヨネ姉さんの件でそれどころじゃなかったんだけど。高校入学してからみんなで初顔合わせのはずが、前世界線とはだいぶ変わってきてる…)
崎戸ミヤ:『でさ。色んな勉強会の息抜きに』
新部和葉:(うん…? 色んな勉強会?)
崎戸ミヤ:『この前ウチのリビングで、結社マーメイドテールの幹部口上を考えてたんだわ。乗り気じゃないスミワはともかくとして、お前なんか毎度登場ゼリフを変えてくるもんだから、俺たちもレパートリーを増やしたいよな~って話になってさ』
†アーラウ†:「フフ…〔扇子を開いて口元を隠してみせる〕その辺りは年の功、というものですわ」
崎戸ミヤ:『いや、だとしても、世界を掴むクリエイター集団を目指すからには、一芸に秀でて、かつ、多芸に通じてる必要があると思うんだ。その辺りを全部†アーラウ†任せにはしたくないって言ったら、その通りだって二人とも同意してくれてさ』
新部和葉:(今世界線のみんなって、やけに向上心が高い気がするんだよね…。何でだろ?)
それが自分の頑張る姿によるものとは気づかない辺りが和葉らしいと言えるだろう。
崎戸ミヤ:『でも、中々いいのが思いつかなくってさ。やっぱ実際に衣装着て考えた方がイんじゃねって話になって。で、3人とも着替えて、思いつく限りを読み上げてたら…〔顔を曇らせ〕突如リビングに乱入してきた妹から、リアル中二病がどんだけ痛いのかをこんこんと説教されたんだ…』
†アーラウ†:「あらまあ…!(それはまた…意外な方向から介入が入ったもんだね?)妹さんは確か…義理の妹さんでしたわよね?」
崎戸ミヤ:『ああ、だから余計に恥ずかしいんだと。なによりも、美男子のサナとリタを巻き込むのはやめてくれって、お兄だけがカッコ悪いのはツラいって最後は泣き出す始末でさ…。いや、俺自身も自覚してなかったわけじゃないんだが…。もとからチャラ男のサナはともかくとして、去年イメチェンしたリタもすっかりイケメンになっただろ?』
新部和葉:(そうなんだよねー。どうして短髪メガネから、ロン毛コンタクトになっちゃったんだか?)
このときの和葉は、自分に原因があるなどとコレっぽっちも思わなかったのである。
崎戸ミヤ:『だから3人で連むと俺だけが浮いてるのは自覚してたんだが…。まあつまりは、俺たちのことを見かけた誰かから、妹が何か言われたっぽくてな…。自分の趣味を貫いてまでして身内に泣かれるんじゃあ、これは卒業し時かと思ってな。俺の中二病に散々つきあわせておいて悪いんだが…、すまん』
†アーラウ†:「いえいえ。妹さんのために英断ではありませんか、構いませんことよ」
着物を着る機会が減って、着付けてくれていた和葉の母親は残念がるかもしれないが、ごっこ遊びでも恥ずかしがっていた住和は大歓迎であろう。
なによりも、前世界線では良くなかった崎戸兄妹の関係が、中二病の早期卒業によって改善するのならば悪いことではない。
だが、そんなことよりもだ。
中学と高校受験の勉強会を、崎戸と倉津に提案したのは八牧であり。
その八牧が、去年イメチェンに舵を切った要因を精査すると。
前世界線との相違点は、ローレライ歌唱法を八牧に披露した、くらいのことしか思い当たらなかったのである。
新部和葉:(なーんかこの流れはバタフライエフェクトっぽいんだよね? まあ結果オーライだから、さして気にすることでもないんだろうけど…)
つまり、和葉からしてみれば些細なことだったのだ。
物事がそう大きく変わるはずもないと捉えていた。
だが当の本人――八牧にとってみれば、その蝶の羽ばたきは竜巻を起こすのに充分な出来事だったのである。




