◆4.イトコの度肝を抜いてみせるには
新部和葉:「はいっ。マーメイドテール社創業にまつわる、同人版プリンス・オブ・マーメイドと、そのコンシューマー化。更には3Dアクションゲーム化に至るまでの苦労話を、それはもうたっくさん聞かせてもらったんですから!〔瞳をキラキラとさせて〕」
渡瀬は口をパクパクとさせてからしばし言葉を失うと、眼鏡を一旦外し、みけんをよく揉んでから眼鏡をかけ直した。
渡瀬チサ:「わかった…。それじゃ僕は一旦、このロードマップに目を通すとしよう。だがその前に、より効率的に理解を深めるためにも、まずはキミの目的を聞かせてくれ。キミは一体何をするつもりでいる? できれば簡潔に答えてくれ」
新部和葉:「簡潔にですか? そうですね~~…、え~とぉ~…? これから10年後に生まれる、この世界線のわたしを鍛えて。フルダイブVRゲームで無詠唱魔法を習得させてから、刺し殺して異世界転生させます」
和葉は、なんのてらいもなく言った。
渡瀬チサ:「さ、刺し殺すだって…!? いやいや待て待て? どれもこれも気になるワードばかりだったが…。これから10年後に生まれる、この世界線のわたし…というのは? 一体どういうことなんだ?」
その問いに「あ」と和葉は手を合わせると。
正座から立ち上がり、それはもう見事なカーテシーを決めてみせたのである。
新部和葉:「渡瀬チサさま、この世界線ではお初にお目にかかります。わたしはフォーチュンハート王国、第18代バティック国王の娘、サラサ・フォーチュンハートと申します。どうぞ、以後お見知りおきください」
何度も練習した飛びきりの笑顔を浮かべてみせ。
和葉は渡瀬のドギモを抜いてみせたのだった。
―――◆序章◆第4幕―――
にわかには信じがたい、にわかには信じがたいが…、と念仏のように唱えつつ。
最初から最後まで、自由帳のロードマップに目を通した渡瀬は「よくできている…」と評価を口にした後、言葉を続けた。
渡瀬チサ:「だがこれは、全体的にあまりにも複雑な要素で入り組んでいる…。ここまで書いてもらっておいてなんだが、初めから一つ一つ確認してもいいか?」
新部和葉:「はい、構いませんよ」
渡瀬チサ:「ではまず…、2011年にキミが、…サラサが生まれた。その7年後に、ネットを通じて新部和葉と知り合い」
新部和葉:「プリンス・オブ・マーメイド、略してプリマメと出会ったんです」
渡瀬チサ:「ああ。そしてキミはプリマメのコンシューマー版と3Dアクション版をプレイしてドハマりし、新部和葉を含むメインスタッフ達や渡瀬チサ…、別世界線の僕と交流を深めた…、とあるが…? この 世界線 という言葉は一体どういう意味なんだ?」
新部和葉:「え、通じませんか? では、マルチバースと言えばわかりますか?」
渡瀬チサ:「マルチバース…?」
新部和葉:「ダメですか…。ではもっと古い言い方をすると…、あ! 多世界解釈とか、パラレルワールドのことです!」
渡瀬チサ:「並行世界のことだったのか! なるほどな…言い得て妙だ。何かのキッカケで枝分かれした世界を前提としているから世界〝線〟なわけか。つまりキミは、……つまりキミは……? 一体…、何人目のカズハになるんだ?」
新部和葉:「わたしですか? 数え始めてから38代目だそうです」
渡瀬チサ:「さんっ…じゅう!?」
渡瀬は目を白黒とさせてから首を振った。
渡瀬チサ:「いやいや待て待て! 続きだ続き、確認の続きだ! キミは10歳になると、国王の教育方針によって、民間軍事会社の女CEOを教育係に付けられたとあるが」
新部和葉:「はいっ。身体の成長に合わせて、15歳の年から約3年間みっちりしごかれました」
渡瀬チサ:「だがキミは王族だろ? こんなまるで…、異世界に転生することが前提のような教育方針を取るなんて…、有り得ないだろ、普通は」
新部和葉:「それはわたしも転生してから気付きまして、カズハさんに確認を取ったんですけど…。お父様たちは何か、わたし達の事情を知っている上で動いていた可能性が高いと仰ってました」
渡瀬チサ:「そっ…!? そんなことが…? 本当に有り得るのか…?」
新部和葉:「あー、でしたら、その辺りを簡単に証明できる方法があります」
和葉は学習机の棚から地球儀を取ってくると。
それをローテーブルに置き、南大西洋を指し示してみせた。
新部和葉:「ここです、わかりますか?」
渡瀬チサ:「は…? ここが? どうかしたのか?」
新部和葉:「やっぱり…、認識できないんですね…。こういった形で、イギリスやフランスの植民地化からまぬがれてきた歴史があるんです。それで、この認識 阻害 を解く一つの方法が…」
和葉は自由帳のロードマップの端っこに、フォーチュンハート島の形状を正確に描いてみせた。




