◆38.憧れの人が同級生になったらさ
住和トア:「これから…、19年もかけたって言うの? あたしは?」
新部和葉:「そういうこと。で、やっと納得がいく絵柄を完成させた先生は、果たして、なんて言ったと思う?」
住和トア:「あまりにも時間をかけ過ぎた」
その即答ぶりには、さしもの和葉も驚かされた。
住和トア:「だって! 自分の完成形を定めるのに24年よ24年!! 馬鹿でしょそんなの! つまりはそれだけ試行錯誤を続けて…、絵柄がそのつど変わっていったわけだから…。あまりにもどうかしてるわ!」
新部和葉:「う~ん…? でも、絵を描き続けてる内は、みんなそういうものなんじゃないの?」
住和トア:「もちろん、絵を描き続ける上では避けられない変遷ではあるけれど…。けどね!? それはあくまでもクリエイター側の事情でしかないの! 絵柄がコロコロと変わり続けることに付き合わされる身にもなってみなさいよ? ファンたちはたまったもんじゃないわ!!」
新部和葉:「あ~……、それはあるかも」
初めは絵柄が好きで読み始めた漫画なんかが。
終わりを迎える頃には別物となっているのはよくあることだ。
無論、その変わってしまった絵柄が、ファンにとって好ましいものであれば問題は無い。
だが、その逆であった場合はどうかと住和は言っているのだ。
住和トア:「ここまでたどり着くのに…〝前の絵の方が良かった〟と、どれだけの人たちに言わせたことか…」
新部和葉:「けど、結果オーライは結果オーライでしょ?」
住和トア:「もちろん、これはあたしにとって最高の形だわ。でも、いつから商業で仕事を始めたのかは知らないけど絶対に周りを振り回したはずよ。そんなことならいっそ、どこかでこだわりを捨てて、自分の絵を固めてしまっても良かったでしょうに…! 何やってんのよ未来のあたしは…」
新部和葉:「たださ? その 何代も何代も前の 住和トア先生のおかげで、私が今こうしていられるわけだから…。あんまり悪くは思わないでほしいかな」
住和がピタリと硬直した。
住和トア:「ちょっと待って…? 何代も何代も前って、どういうこと?」
新部和葉:「ちなみに私が38代目で」
住和トア:「38代目…!?」
新部和葉:「確か13代くらい前だったんじゃないかな? もう何代も前のトア先生が、2026年にこの絵柄を完成させたっていう、その情報だけがバトンリレーされてるわけだから。ファンにどう思われたとか、周りを振り回したとか、そういう詳しい話までは伝わってないの」
住和トア:「あ、そっか! 新部さんが過去の時代に生まれ変わったわけだから、この先の未来で、元の、本来のあなたが、また生まれるわけよね? そう考えると…、この輪廻の連鎖には、終わりが無いってことなの?」
新部和葉:「ううん、無くはないんだけど…。その説明は追々した方がいいって、アドバイスを受けてるから」
住和トア:「え? 誰によ?」
新部和葉:「〔苦笑いを浮かべて〕前任のカズハさんから」
住和トア:「あ、そっか。そーいうことか…」
住和は自分の頭をガシガシと掻きむしった。
住和トア:「つまり…、38回もバトンを回し続けてきたからには、それだけうまくいかなかったってことよね?」
新部和葉:「残念ながらね…。だから私はそれをうまくいかせるために、前任の人とは別の結果を出さなければならない」
住和トア:「オーケー。何で未来のあたしについて話してくれたのかその理由がわかったわ。だったらグズグズしてるヒマはないじゃない。
あたしは――、この絵柄で描けるようになればいいわけね?」
和葉は鳥肌が立った。
思わず姿勢を正す。
新部和葉:「でも…、いいんですか、住和トア先生?」
それはまるで若手の後輩が偉大な先輩に問いかけるような声のニュアンスで。
住和は和葉の向こう側に、別の人物を見た気がした。
住和トア:(あなたは…未来のあたしをよっぽど慕ってくれていたのね…)
であれば当然のこと、答えなど決まっている。
住和トア:「いいもなにも、きっとそれがあたしの役割だから」
新部和葉:「〔破顔して〕先生…!!」
住和トア:「先生はやめてよ。あたしはまだノウハウが足りてないんだし…。だからさ、
あたしが本当の先生になれるように、どうかよろしくね――、カズハ」
新部和葉:「…!! 〔泣きそうな顔になって〕もちろんだよ…! トア!」
その日。
未来の神絵師と、一ファンでしかなかった二人は握手を交わし。
親友という名の関係を歩み出したのである。




