◆36.この始まりは忘れられないよ
住和トア:(ええええ何~!? あたしの方にはコレといって用事はないのに何よ~、なんなのよ~!?)
といった具合に、住和は内心でビクついていたのだが。
瑠東ルナ:「〔頭を勢いよく下げて〕自己紹介のときは、本っ当にごめんなさい!」
住和トア:「・・・はへ?」
瑠東ルナ:「あたし…、人のオーラみたいなモノが、見える体質なの…」
住和トア:「えっ…!?」
脈絡もなしに突然何を言い出すのかと思えば。
しかし、住和にはピンと来るものがあった。
住和トア:「あ! じゃあひょっとして…? あたしから妙なオーラが出てたからとか、そういう理由だったりするの?」
瑠東ルナ:「〔勢いよく顔を上げて目を真ん丸にする〕さすが…、カズハが先生と呼ぶだけのことはあるのね…〔少しバツが悪そうに側頭部を掻きながら〕妙なオーラなんかじゃないのよ…。あなたのそれはきっと…、人生で成功する人のオーラだから」
住和トア:「えぇっ…!? それはなんだかムズがゆいわね…。でもそれなら…? やっかまれたってことで、いいんだよね?」
瑠東ルナ:「〔心から申し訳なさそうに〕本当にごめん…!!〔再び頭を下げる〕」
住和トア:「いやいやいや〔首をブンブン振りながら〕理由はわかったんだからもういいってば! 頭を上げてよ瑠東さん?」
瑠東ルナ:「でも…、あたしは…自分のことでイライラしてて…。順風なオーラを発してる住和さんに八つ当たりをしてしまった…。だから…、虫がいい話なのはわかってるんだけど…、許してもらえたらいいなって…、今はすごく反省してる…」
住和は心底驚いた。
あの短時間で、瑠東ほどのルックスに長ける女子を和葉が改心させたということだからだ。
ともなればだ?
こんなとき住和のようなオタクの思考は〝物語的な〟演算を働かせ。
自分に求められている役割とは何か? という問いにたどり着き。
教室の隅に立ったままでいる和葉を見やると。
彼女は確かにほほえんで、うなずいてみせたのである。
住和トア:(はぁ~~…、しゃーない。これも何かの縁よね…)
住和は屈んで瑠東の手を取ると。
彼女の顔を上げさせるために、自分の方へと引き寄せた。
住和トア:「そんなの、許すに決まってるじゃん」
瑠東ルナ:「・・・・え…?」
住和トア:「だって、ホントは打ち明けたくないことまで話してくれたんでしょ? もしあたしがあなたの立場だったら、人に信じてもらえるかわからない怖さの方が勝って言えないもん…。だからさ、オーラのこと、話してくれてありがとね? あたしは信じるよ? 瑠東さんの言うことならね」
そうウインクまでしてみせると。
瞳をキラリと濡らした瑠東が、顔をクシャクシャにさせて感極まってしまったものだから住和は慌てた。
しかし、彼女がなぜ泣き出したのかを察して、すぐに納得がいったのである。
住和トア:(そっか…。この子はオーラのことを、今の今までずっと一人で抱え込んできたわけか…。そりゃ、いきなり理解者が二人もできたら、泣けてきちゃうよね…)
見やれば。
こちらに歩み寄ってきていた和葉が、親指を立ててサムズアップしてみせる。
住和トア:(〔苦笑いを浮かべて〕グッジョブじゃないのよ…。色んな物語に精通してるオタクのあたしだからこそ正しい受け答えができたわけであって…。これがそこらのパンピーだったら こうは うまく行かないんだから。…………。でもきっと━━━━)
※パンピーとは、オタクではない 一般ピープル を指した略語である。
新部和葉:「あのさ、せっかくだから、今日という日の記念にメアドなんか交換して、写真も撮っとかない?」
瑠東ルナ:「撮る…!! 絶対撮る…!! ってか、あたしはどうしてこうっ…肝心なときに…、カッコ悪い…」
住和トア:「だいじょーぶよ? 泣いてる顔さえ様になってるんだから。もっと自信を持ってちょうだい?〔ポケットからハンカチを出して瑠東の目元をぬぐってやる〕」
瑠東ルナ:「…うんっ」
住和トア:(━━━━でもきっと…、あたし達の関係は、最高の始まりとなった)
当時のガラケーの多くはそこまで高性能なカメラ機能を持っていない。
だからこそ。
3人で身体を寄せ合って撮った自撮りの写真は。
その後の人生で、特別な思い出となるのだった。
―――◆第3章◆幕間―――
校門前で瑠東と別れ、二人で手を振り見送った後。
和葉と住和は同じ帰路につきながら、自然と瑠東の話題になった。
新部和葉:「将来の夢のことで親と衝突して、その報復で私立通いから都立通いに格下げじゃあ、心がすさんじゃうのも無理はないよね」
住和トア:「その割には瑠東さんがスれてなくて助かったわ。根がイイ子じゃなかったら、ああはうまく行かなかったわよ?」




