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◆35.瑠東ルナは遠ざけるより


 ではこんなとき、誰が最初に和葉を問い詰めるかと言えば当然のごとく「あなたは後にしてちょうだい!」と声を荒げた瑠東が先となった。



 彼女はこちらに話を聞かれたくないのか。


 教室の隅で声をおさえながら、和葉を問いつめ始めた。



 住和トア:(ま、そんなの全然構わないけどね。むしろ好都合ってもんよ)



 住和は黒板と向き合うように正面へと立ち。


 そこに描かれたままとなっている 和葉のイラスト に向かって、ガラケーでシャッターを切った。



 住和トア:(ひとまずはコレで良しと…。入学祝いを画素数の高いヤツにしといて正解だったわ。……にしても……)



 黒板に近づき、和葉が 二次元化させた瑠東の姿 を注意深く検分する。



 住和トア:(何の作品から影響を受けた 顔 なんだろう…? 今までに見たことが無いと言ったら言い過ぎだけど…、目新しさというか、あたしが触れたことのない顔立ちをしてる…。特別良いかと言えばそうじゃないんだけど…。新しい画風を生み出そうとして頑張ったのなら、結構努力したんじゃないかな?)



 黒板の絵を消すのは和葉本人にしてほしいと、担任が頼んでいった気持ちがよくわかる。


 なにせ住和でさえ、コレを自分の手で消すのは惜しいと感じるクオリティーだからだ。



 住和トア:(前もって黒板に描くことを想定した設計だからか、服のシワや線の量も、ウルさくなくて整ってる…。でも、じゃあ瑠東さんの顔は? あらかじめ見知っていたからこそ、ここまで二次元絵に落とし込めたってことでイイんだよね?)



 だが言うまでもなく二人は知り合いではなかった。


 和葉が一方的に知っている様子なのだ。


 それは住和に関しても同じである。



 であれば彼女は一体何者なのか?



 忘れたくても忘れられそうにない、和葉の自己紹介の口上を脳裏で反芻して。


 思わず共感性 羞恥心で、自分までもが恥ずかしくなりかけるも。


 あの短時間で、クラスメイトたちが見守る中、コレだけのイラストを描き上げてみせたのである。



 住和トア:(ただの中二病とかラノベの真似事ではないよね? あたしだったら人前でアガっちゃって絶対にうまく描けないし――って、ちょっと待って!? じゃあ…ケント紙とかマンガ原稿用紙だったら? 一体どうなっちゃうわけ!?)



 こんな都立中学校に、自分の画力を上回る存在なんて居るわけがない。


 そんな確信を突き崩されてしまっては居ても立っても居られず。


 住和が振り返るようにして教室の隅を見やれば。


 衝撃の光景が飛び込んできたのだ。



 住和トア:「キっ…、キマシタワあっ!?」



 キマシタワー とはザックリ説明すると。


 女性同士がイチャついている様を目にしたときの、オタクの脊髄反射である(※2007年以降)。



 ではなぜ、そんな鳴き声を上げてしまったのかと言えば。


 背の高い瑠東が、和葉の肩に顔をうずめてまでして、嗚咽を漏らしていたからである。



 一方 和葉は、そんな瑠東を軽く抱きしめ、背中を優しく撫でてやっている。



 住和トア:(どっ、どういう状況なのコレ…!?)



 瑠東のような女子は、やり込めて泣かせられるようなタイプではない。


 もし彼女のような存在が泣くとすれば一体どんな状況かと。


 住和が頭を働かせた気配でも読まれたのか。



 瑠東が視線を感じたように一旦こちらを振り向いた後。


 和葉のことを弱々しく突き飛ばして、片手で涙をぬぐいながら声を荒げたのである。



 瑠東ルナ:「あたしはっ…! まだあなたのことを信用したわけじゃないから…!!」


 新部和葉:「オーケー。それで全然構わないよ」


 瑠東ルナ:「っ…でも…、これはもらってってもいい…?〔もう片方の手に握っているファイルを示す〕」


 新部和葉:「もちろん。だってあなたのために用意したんだもの」


 瑠東ルナ:「〔まだ涙目のまま鼻をすすり〕…、ありがと…っ〔自分の席へとカバンを取りに行くと、そのまま教室を出て行こうとする〕」


 新部和葉:「あ、ちょっと待った…! 気は進まないかもしれないけどさ? トア先生にも言っておくべきことがあるんじゃない?」


 住和トア:「――は? ぇえっ…!? あ、あたしぃ!?」



 住和からすれば、かいもく見当もつかないことであったが。


 おとなしく立ち止まった瑠東には思い当たる節があったようで。



 彼女はファイルをカバンの中に大切そうにしまいこむと。


 片手で前髪をかき上げてから黙考し。


 ウンとうなずくようにして決心でもつけたのか。


 住和の前までツカツカと歩み寄ってきたのである。


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