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33/61

◆33.鈍感ではないよ、ホントに


 八牧は腕を組んでから、片方の拳を口元に当てて。


 推理するようなポーズを取ってから黙考すると、まっすぐに和葉を見つめてきた。



 八牧リタ:『出された条件もロクにこなさず、図々しい質問になるんだが…。一つ、答えてはもらえないだろうか?』


 新部和葉:「まあ…、内容にもよるけど…。何さ?」


 八牧リタ:『あなたはプリンス・オブ・マーメイドを作って、この世界に生まれる別の自分にプレイさせなければならない使命があると教えてくれたが、それはただひたすらに、既定の輪廻を繰り返すだけではなく、新たな未来を導きたいがために、より良いゲームを作る――、という目的意識で合っているだろうか?』


 新部和葉:「合ってる」


 八牧リタ:『オーケー。大体の事情はわかった。やろう。これはボクたちでなければ成せない仕事だ』


 新部和葉:「おお、ありがと~! 良かった~。リタくんの勧誘は難しいって聞いてたから、それでアレコレ回りくどいことしてたのよ」


 八牧リタ:『なるほどな…。自分で言うのもなんだが、ボクは偏屈だからな…。スカウトに苦労をかけさせた分は、それ以上の働きで返すとしよう』


 新部和葉:「嬉しいねえ、期待してるよ?」


 八牧リタ:『任せておいてくれ。――あぁ、しかし…? ボクが作ってきた課題曲は一体なんの足しになるんだ? 追加で13曲作れというのなら今すぐにでも取りかかるが』


 新部和葉:「あー、その辺についてはやっぱり誰かが言わないとダメか」


 八牧リタ:『は? すまない…。かいもく見当もつかないんだが、どういうことだ?』


 新部和葉:「いやね? 今回作ってくれた7曲をリタくんの動画チャンネルで順次アップしてほしいのよ。それが終わったら、過去に投稿済みの 壊してないバージョンの曲 も、一体どういう意図があってのことだったのか、ちゃんと説明を添えてアップするわけよ。ほら、この前私がコメントしてたじゃない? あのハエどもを黙らせる方法があるんだけど、やってみないかって」


 八牧リタ:『ああ…。とは言え…? あなたに言われた通り作ってはあるが、大したことのない曲を投稿したところで、結局は火に油だろう? 奴らを余計増長させるだけだ』


 新部和葉:「そこなんだよリタくん。キミの片手間に作れる曲が一体どれだけの凡人を殴れるものなのか。把握すべき ものさし を把握してない――そこがミソなんだってさ」


 八牧リタ:『凡人を殴れる ものさし か…。言われてみれば確かに、ボクは完成させた曲を家族以外の誰かに聴かせたことがないかもしれないな…?』



 それもそのはずなのだ。



 新部和葉:「家族からの評価がことごとく クソ か 凡百 。もうちょっと捻りを入れよう、まーた手癖で作ってる、聞き飽きてるからそのコードの流れ――で、合ってる?」


 八牧リタ:『おい!? 未来のボクはそんなことまで話したのか…!?〔深くため息をつき〕…なにせ身内からの評価が芳しくないんだ。そんなものを赤の他人に聞かせたところでどうしようもないだろ』


 新部和葉:「そんなことはないよ。だって、私の一番好きな作曲家って、リタくんなんだよ? そのリタくんの作った曲がウケないわけないじゃん」



 それを聞くなり、八牧は弾かれるようにして部屋を出て行った。



 新部和葉:「――待って? ひょっとして…、私、何かヤラかした…?」



 と思ったのもつかの間。


 彼はすぐに戻ってくると、落ち着き払った様子でこう述べたのである。



 八牧リタ:『わかった。ニイベカズハがそう言うのならそうなのだろうな。言われた通り、今回作った分と、一連の曲を動画サイトにアップしてみる』


 新部和葉:「お…、おー良かった…。私てっきり、何か怒らせちゃったのかと思ったよ」


 八牧リタ:『そんなことはないさ…、決してな』


 新部和葉:「???」




 かくして、八牧が まともな曲 をアップし始めると。


 彼のチャンネルを荒らしていた外国人どもは、一斉に手の平を返すこととなった。


 八牧のチャンネルを批判する動画を上げた人気作曲家も、彼に対する謝罪動画をアップし。


 八牧は八牧で、気にしないでほしい旨を伝え。



 しかもその後。


 たったの2ヶ月で、彼のチャンネル登録者数が20万人を超えると、八牧はチャンネルを非公開にしてしまい。


 後日、こんな会話を交わしたのである。



 新部和葉:「アレさー、非公開にしちゃって良かったの? せっかく人気がうなぎ登りだったのに」


 八牧リタ:『いいんだ。この2ヶ月間の投稿で世間にウケる曲の傾向は掴めたからな。正直…こんなもので良いのかという気持ちは多々湧き起こったが…、そういった世間とのズレを踏まえることができたからには、あのチャンネルは役目をまっとうしたと言えよう。いっそ削除してしまおうかとも思ったくらいだ』


 新部和葉:「えぇ~~!?」


 八牧リタ:『ただ…、未練がましくも、惜しい気持ちが湧いてしまったんだ。消すのは今でなくともいいかと、そう思った』


 新部和葉:「そりゃそうだよ! 収益化もやろうと思えばいつかできるんだし、残しておいた方がいいって」


 八牧リタ:『ああ。いつかそのときが来るまでは…、取っておこうと思う』


 新部和葉:(えぇ…? この子はなーにを消す前提で話してるのやら?)



 と、そのときは。


 彼が何を惜しく思ってくれたのか、和葉にはわからなかったのだった。


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