◆3.イトコの渡瀬オジさまと話すべきことは
―――◆序章◆第3幕―――
渡瀬チサ:「単刀直入に聞く、キミは一体何者だ?」
部屋に通して早々、ボサボサ天パひょろガリ眼鏡の彼は切り出した。
この反応からするに、例のFAXからおおよその状況を察してのことだろう。
新部和葉:「〔手で制して〕その前にです。競馬では大勝ちされましたか?」
渡瀬は軽く目を見開いてからスッと細め。
眼鏡のブリッジを中指で押し上げると、レンズの反射で瞳を隠した。
渡瀬チサ:「ああ。親父に付いてきてもらって事なきを得た。僕は4月の時点でハタチを迎えているが、まだ学生なんだぞ? 酒は飲めても馬券は買えない」
新部和葉:「ええっ? そうなんですか…? あれ~…でも? 学生さんらしき人たちも結構いたはずなんですけどね?〔小首をかしげる〕」
2030年に日本の競馬場へ行った和葉の記憶からすればそれで間違いはないのだが。
二十歳以上で学生でも馬券を買えるようになるのは、今から4年後の2005年からのことだ。
渡瀬チサ:「…そうか。未来では法改正されるんだな?」
新部和葉:「そう…、なんですかね? わたしは渡瀬オジさまが競馬で大勝ちしたとしか聞いてなくて。なので、普通に買えるものかと思ってたんですけど。…って、どうしたんです?」
渡瀬が青ざめ、自分の身体をかばうようにして両腕で抱きしめたので、和葉はハテナマークを浮かべた。
渡瀬チサ:「いや…、オジさまと呼ばれて鳥肌が立ったんだ…。ゴホン…。では改めて問おう。キミは何者だ? 僕が知ってるクソガキをどこへやった!?」
新部和葉:「へ?」
渡瀬チサ:「おっとすまない…。ちょっと言い過ぎた。僕が知ってるお猿さんをどこへやった!?」
新部和葉:「言い直してもヒドい!」
渡瀬チサ:「それだけキミが別人過ぎて、こっちは戸惑ってるんだよ…〔ひたいに手を当てる〕」
新部和葉:「あ、それなら、チサちゃんとお呼びしますか? なんでしたら、背中に飛び付いて おぐしを引っ張るサービスもしますよ?〔手をワキワキとさせて〕」
渡瀬チサ:「それは二度とごめんだよ…、お断りします」
新部和葉:「え~…ちょっと残念です…。ちゃんと手加減しますよ?」
渡瀬チサ:「オーケーわかった。そうか…、正月のことを憶えているのなら、キミは確かに あの カズハちゃんでもあるわけだな?」
新部和葉:「そうです、その通りです。〔ニコニコして〕わかっていただけて何よりです」
渡瀬は腕を組んで「ううむ…」とウナったが、彼がこれだけ場慣れしているのは、それだけその手のマンガや小説、ゲームや映画にくわしいからである。
もし自分が過去へタイムトラベルしたら? あるいは未来人と接触できたらと、妄想だって数知れずしてきてはいた。
だがまさか、本当に自分の身に起こるなんて誰もが思うまい。
それでも慌てふためかず、落ち着き払っているのは、渡瀬なりに自分はこの手の話に強いのだという誇りがあったからである。
新部和葉:「ささ、クッションをどうぞ! 座ってください」
渡瀬チサ:「それもそうだな、ありがとう」
新部和葉:「そ・し・て! ですよ! じゃじゃ~~ん!!」
和葉は自分の学習机から自由帳を取ってくると、折りたたみローテーブルの上に広げてみせた。
新部和葉:「この日のために頑張って完成させておいたんですよ! 時系列順に記した、わたし達のロードマップを!」
渡瀬チサ:「わたし達って…? キミが一体何をしたいのかその目的も聞いていないのに、頭数に入れられても僕は困るんだが?」
新部和葉:「まあまあ、そう悪い話ではありませんから。例えば~、2年後のココです」
和葉が指し示した部分を見て、渡瀬は一拍置いてから眼鏡のブリッジを押し上げた。
渡瀬チサ:「考えてはいた…。考えてはいたが迷ってもいた。それでも結局は…、一番に考えていた乙女ゲー会社、ムーンリットに就職するわけか、僕は…」
新部和葉:「ですです! 決定事項ですから」
渡瀬チサ:「決定事項って…。勝手に決め付けないでくれよ? まだ先の話なんだから」
新部和葉:「でもその11年後には、子会社のマーメイドテールを立ち上げてもらいますよ? わたしの知ってるオジさまは、グローバルな大ヒット作を出したせいで、ムーンリット社から訴えられてしまったんですから」
渡瀬チサ:「訴えられた?」
新部和葉:「はい。何人かのスタッフさん達と一緒に会社を辞めたことをあれこれ難癖つけられてしまったと。こんなことならムーンリットの子会社として起こせば良かったとも仰ってましたよ」
渡瀬チサ:「まさか…! キミは会っているのか? 未来の僕と?」




