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28/61

◆28.アドリブ癖があるのは認めます


 八牧リタ:『今さら初めましてでもないが、あなたのことは、そのアカウント名通りに呼べば問題は無いか?』


 新部和葉:「構わないよ。ニイベでもカズハでも、アーラウでもニーベルンでもお好きにどうぞ」


 八牧リタ:『わかった…。ではニイベカズハ?』


 新部和葉:(おっ、フルネーム呼びだ)


 八牧リタ:『単刀直入に聞きたい。ボクの感性にもヒットする曲調があるとのことだが、それが一体何なのか教えてほしい』


 新部和葉:「OK。じゃあまずは論より証拠で。今からフォルダを送るから、とりま中の一曲目を聴いてみてよ。――と、その前に。ヘッドホンは外してね? じゃないと効果が薄れちゃうから」



 言われた通りに頭からヘッドホンを外しかけ。


 八牧はそこでピタリと動きを止めた。



 八牧リタ:『〔ヘッドホンをかけ直し〕待てニイベカズハ。効果が薄れるだって?』


 新部和葉:「そう。スピーカーだと10倍くらい違ったりするよ?」



 そんなこと本当にありうるのかと。


 彼は半信半疑な目の色をキーボードに落とすも。



 八牧リタ:『わかった、ちょっと待ってくれ。普段はスピーカーのBASSを切ってるんだ、その調節をする』


 新部和葉:「あー、低音きかせると別の部屋なんかにも響くもんね」


 八牧リタ:『そういうことだ。その辺り姉たちの耳が良くてな。なかなか思いきり鳴らせる機会が無いんだ』



 今度こそヘッドホンを外した八牧が離席して、画面から消え。


 程なく席に座り直し。


 何らかの曲を再生して、スピーカーの鳴り具合をチェックし始めたところ、和葉は気づいた。



 新部和葉:「お? この曲って、動画サイトで6番目にアップした曲じゃない?」


 八牧リタ:『〔目ん玉をひん剥いて〕おっそろしいな…! あれだけブッ壊した曲なのに、よくわかったな?』


 新部和葉:「独自色を強めたコード進行は残してあったから――って、そんなに音おおきくして大丈夫? お姉さん達に怒られたりしない?」


 八牧リタ:『問題ない。姉たちは今朝から両親と旅行へ出かけている。――つまりは、またとない絶好の機会というわけだ』



 あなたが本当に、ボクの感性にも響く曲を用意できたのならばなと。


 八牧が挑発的な瞳を覗かせたので、和葉は思わず心の内でニチャってしまった。


 そ れ は 良 い こ と を 聞 い た と 。


 そんなナメた態度を取られたならば、わからせるしかあるまい。



 新部和葉:「ねえリタくんさ? そのボリュームで部屋の窓を開けて、ご近所迷惑だったりはしない? 問題なかったら開けてもらいたいんだけど」


 八牧リタ:『構わないが…〔リモコンでエアコンを消し、席を立って窓を開けに行く〕音が反響する部屋ではないから、さほど気にすることではないと思うがな』


 新部和葉:「いーや、それが大違いなんだよねー(なにせ、空気に含まれてる〝エーテル〟は、空間で隔たれがちだから)」



 ※エーテルとは = 魔力のこと。


 異世界アースセザードと比べたら圧倒的に少なくとも。


 〝それは〟この地球にだって満ちていないわけではない。



 和葉は、頭の後ろでまとめていたポニーテールを解き。


 マイクをスタンドごと手に取って席を立った。


 ともなれば、八牧だって異変を察する。



 八牧リタ:『待てニイベカズハ? 一体何をする気だ?』


 新部和葉:「さっき送ったフォルダの一曲目ってさ、レコーディングスタジオを借りて録った私のアカペラ曲なんだよね…。いいって断ったのに、イトコが手を抜くんじゃないってレンタルしちゃってさ…。おかげで音質には自信があるんだけど」


 八牧リタ:『つまりは、今この場で生歌を披露しようというわけか。ならやめておけ。ボクはこれでも、好きでもないオペラなんかに何度となく連れて行かれた身だ。仮にあなたが、どれだけ歌唱力を持っていようとも、ボクには通じない』


 新部和葉:「クス。だったら聴いた後にダメ出しでもしてよ?」



 無論、八牧自身は生意気を言ったつもりは無い。


 ただありのままの事実を述べただけだ。


 それなのに何故か、突如、全身の毛が総毛立ち。


 その段に至ってようやく――。


 彼女が ただ 歌を 歌おうとしているわけではないことに気づいたのである。



 新部和葉:「またとない絶好の機会なら…〔声色がサラサ0その者へと変わり〕このわたしが、本気の歌唱というモノをお聴かせしましょう。曲名はプリンス・オブ・マーメイド主題歌、End of Whole Ocean」


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