◆28.アドリブ癖があるのは認めます
八牧リタ:『今さら初めましてでもないが、あなたのことは、そのアカウント名通りに呼べば問題は無いか?』
新部和葉:「構わないよ。ニイベでもカズハでも、アーラウでもニーベルンでもお好きにどうぞ」
八牧リタ:『わかった…。ではニイベカズハ?』
新部和葉:(おっ、フルネーム呼びだ)
八牧リタ:『単刀直入に聞きたい。ボクの感性にもヒットする曲調があるとのことだが、それが一体何なのか教えてほしい』
新部和葉:「OK。じゃあまずは論より証拠で。今からフォルダを送るから、とりま中の一曲目を聴いてみてよ。――と、その前に。ヘッドホンは外してね? じゃないと効果が薄れちゃうから」
言われた通りに頭からヘッドホンを外しかけ。
八牧はそこでピタリと動きを止めた。
八牧リタ:『〔ヘッドホンをかけ直し〕待てニイベカズハ。効果が薄れるだって?』
新部和葉:「そう。スピーカーだと10倍くらい違ったりするよ?」
そんなこと本当にありうるのかと。
彼は半信半疑な目の色をキーボードに落とすも。
八牧リタ:『わかった、ちょっと待ってくれ。普段はスピーカーのBASSを切ってるんだ、その調節をする』
新部和葉:「あー、低音きかせると別の部屋なんかにも響くもんね」
八牧リタ:『そういうことだ。その辺り姉たちの耳が良くてな。なかなか思いきり鳴らせる機会が無いんだ』
今度こそヘッドホンを外した八牧が離席して、画面から消え。
程なく席に座り直し。
何らかの曲を再生して、スピーカーの鳴り具合をチェックし始めたところ、和葉は気づいた。
新部和葉:「お? この曲って、動画サイトで6番目にアップした曲じゃない?」
八牧リタ:『〔目ん玉をひん剥いて〕おっそろしいな…! あれだけブッ壊した曲なのに、よくわかったな?』
新部和葉:「独自色を強めたコード進行は残してあったから――って、そんなに音おおきくして大丈夫? お姉さん達に怒られたりしない?」
八牧リタ:『問題ない。姉たちは今朝から両親と旅行へ出かけている。――つまりは、またとない絶好の機会というわけだ』
あなたが本当に、ボクの感性にも響く曲を用意できたのならばなと。
八牧が挑発的な瞳を覗かせたので、和葉は思わず心の内でニチャってしまった。
そ れ は 良 い こ と を 聞 い た と 。
そんなナメた態度を取られたならば、わからせるしかあるまい。
新部和葉:「ねえリタくんさ? そのボリュームで部屋の窓を開けて、ご近所迷惑だったりはしない? 問題なかったら開けてもらいたいんだけど」
八牧リタ:『構わないが…〔リモコンでエアコンを消し、席を立って窓を開けに行く〕音が反響する部屋ではないから、さほど気にすることではないと思うがな』
新部和葉:「いーや、それが大違いなんだよねー(なにせ、空気に含まれてる〝エーテル〟は、空間で隔たれがちだから)」
※エーテルとは = 魔力のこと。
異世界アースセザードと比べたら圧倒的に少なくとも。
〝それは〟この地球にだって満ちていないわけではない。
和葉は、頭の後ろでまとめていたポニーテールを解き。
マイクをスタンドごと手に取って席を立った。
ともなれば、八牧だって異変を察する。
八牧リタ:『待てニイベカズハ? 一体何をする気だ?』
新部和葉:「さっき送ったフォルダの一曲目ってさ、レコーディングスタジオを借りて録った私のアカペラ曲なんだよね…。いいって断ったのに、イトコが手を抜くんじゃないってレンタルしちゃってさ…。おかげで音質には自信があるんだけど」
八牧リタ:『つまりは、今この場で生歌を披露しようというわけか。ならやめておけ。ボクはこれでも、好きでもないオペラなんかに何度となく連れて行かれた身だ。仮にあなたが、どれだけ歌唱力を持っていようとも、ボクには通じない』
新部和葉:「クス。だったら聴いた後にダメ出しでもしてよ?」
無論、八牧自身は生意気を言ったつもりは無い。
ただありのままの事実を述べただけだ。
それなのに何故か、突如、全身の毛が総毛立ち。
その段に至ってようやく――。
彼女が ただ 歌を 歌おうとしているわけではないことに気づいたのである。
新部和葉:「またとない絶好の機会なら…〔声色がサラサ0その者へと変わり〕このわたしが、本気の歌唱というモノをお聴かせしましょう。曲名はプリンス・オブ・マーメイド主題歌、End of Whole Ocean」




