◆25.八牧リタくんとのコンタクトの話か
音楽の流行はハヤっては廃れ、リバイバルすることが繰り返されており。
心地よく聞こえる音の並びには規則性があって。
とうの昔に解明し尽くされていると知った八牧は、それでも何か新しい発見は得られないものかと。
曲を完成させてはいじくり倒すことを繰り返していたのである。
なぜならば彼は〝世間のヒット曲が自分にはヒットしない〟という 矛盾 を抱えていたからだ。
八牧の思いつく曲自体は、ヒット曲に近いものばかりなのに。
大衆にウケる曲や歌が、自分の肌には合わない――、それは何故なのか?
その理由を知るためにも、彼は12歳ながら、あくなき探究を始めていたのである。
よって彼自身、自分がおかしなことをしている自覚はあったのだ。
風景画はともかくとして、BGMが受け入れられないことは、失敗作をアップしている本人が一番よくわかっていた。
それでも記録を残すには最適で。
彼にとっては、誰も気に留めないであろう、ちょっとした日記帳代わりであったのだ。
そこに、客観的に見ても、本人からしても頭のおかしいミュージックビデオに、コメントを書き残していくヤツが現れれば。
何事にもドライな八牧であっても、無視できなくなっていったというわけだ。
実際問題、和葉からしてみれば、前世界線の本人から理由を聞いているため。
騙すようなアプローチの仕方に悪い気がしないでもなかったが、それはそれ。
世の中には、いきなり正解だけを聞かされてOKな人間もいれば、過程を重視する人間もいるのである。
その過程こそが、動画コメント欄でのやり取りになる、というわけだ。
@Aarau_Nibeln 1日前
Nice, I can feel the anguish from the video. It's really great.
ちなみにだが、日本から動画サイト自体を使うことができても、日本語版サービスはまだ始まっていない。
そのため、八牧が英語を使っての利用に留めていたこともあり。
自分の動画に まれに 書き込まれるコメントも、英語でつづられているのが常であった。
それも九割がた動画をバカにしたり、BGMの意図を問うものがほとんどであった。
そんな中、翻訳してもみれば。
〝いいねえ、動画から苦悩が伝わってくるよ。実に素晴らしい〟
というコメントが書き込まれていて、八牧は首をかしげた。
八牧リタ:(一見、好意的な文面に捉えられなくもないが、百パーセント皮肉だろうな)
この、他人からすれば馬鹿らしくてアホくさい試みが。
よもや〝新たなコード進行を発見するためのものである〟と、誰にわかろうかといった具合の仕上がりなのである。
言ってしまえば八牧自身にしか知り得ない事情なのだ。
ゆえに彼は、皮肉を書き込まれたのだろうと判断し、返信もしなかったのである。
ところがだ。
@Aarau_Nibeln = 和葉が、八牧の最初の動画から順々にコメントを書き残し始めたので。
八牧リタ:(何だ…? 嫌がらせでも始まったのか? まったく暇なヤツもいたもんだ)
と、初めはそう思ったからこそ。
@Aarau_Nibeln 4日前
Good, good, I can hear it. Beyond the gabby chord progression, I see a melody that shouldn't be audible!
〝いい、いい、聞こえるよ。聞こえるはずのないメロディが、ガビガビなコード進行の向こうに見え隠れしているよ〟
^1件の返信
@Rita_Yamaki 3日前
You go to the ENT tomorrow.
〝明日にでも耳鼻科へ行け〟
@Aarau_Nibeln 2日前
0:55 The phrasing here is the most emo ever! I had no idea that this bizarre chord progression would be used in future songs! Well, I'm glad I listened to the music!
〝0:55 ここのフレーズ最っ高にエモいんだけど!? まさかここの奇っ怪なコード進行が、未来の楽曲に活かされてるなんて! わ~、ちゃんと耳に通して正解だわコレ〟
^1件の返信
@Rita_Yamaki 1日前
Drugs may be legal in your country, but in moderation? What do you mean by emo? Please speak in a language I can understand.
〝そちらの国では麻薬は合法なのかもしれないが、程々にしておけよ? それとエモとは何だ? こちらにもわかる言葉で話してくれ〟
といった具合に。
辛辣な返信で済ませておけば、その内この嫌がらせも終わるだろうと。
八牧は当初こそそう思っていたのである。




