◆2.前世界線では新部オバさま。今世界線では
―――◆序章◆第2幕―――
新部和葉:「オバさま!」
和葉の母:「オバっ…!? オバさまぁ!?」
新部和葉:「ではなくてですね…(そうでした。この方はもう…わたしの)お母様!」
和葉の母:「お母様ぁ!?」
新部和葉:「はいっ〔両手を合わせ、微かに顔をかたむけ、上品な笑みを浮かべる〕」
普段のママ呼びから急にオバさまと呼ばれ、今度は一転してお母様と呼ばれれば目も飛び出るというもの。
それに何だ? この我が娘からあふれ出る気品オーラは?
娘の育て方を変えて早数年ではあるが。
普段の野ザル感は一体どこへ鳴りを潜めているのか?
実の母親からすれば誰だコイツ状態である。
新部和葉:「それでですねお母様。わたし、渡瀬オジさまに用事ができてしまいまして」
和葉の母:「おっ、オジさまぁ…!?」
新部和葉:「はいっ、オジさまです」
名前が女の子みたいで可愛い~、チサちゃんチサちゃ~んと13歳も年上のイトコを困らせていた娘が、突如としてオジさま呼びし始めれば仰天もする。
新部和葉:「それで、渡瀬オジさまのIDか、スマホのメアドを知りたいんですけど、…あ。そう言えばわたし…? まだスマホを買ってもらっていませんね? でしたら~…、オジさまの携帯番号を教えてもらえませんか?」
和葉の母:「ええっ…? いや、だって…、お正月にチサくんが言ってたじゃない。これから新機種がバンバン出るから、今は時期が悪いって」
新部和葉:「え…? ……あ!」
思い出してもみれば、確かにそんな記憶が残っている。
と言うかこの2001年には、モノクロの液晶に、まだメール機能さえ備わっていない携帯が残っている時代なのだ。
その辺りの情報を、無自覚に過ごしてきた7年分の記憶から思い出し、和葉はジェネレーションギャップに衝撃を受けた。
ネット回線ですら、ある家庭にはあるが無い家庭には無いという、携帯電話でさえ同じ価値観で捉えられている時代なのだ。
であれば当然のこと、新部家にはパソコンすら無い。
新部和葉:(あらら…。これは一から環境を整えなければなりませんね…)
中身が2011年生まれの和葉にとってみれば、周りにネット環境が揃っていないこと自体が新鮮ですらある。
さながら石器時代からのやり直しに、それはそれで面白そうだと思えた。
和葉の母:「えっと…? チサくんのおウチに電話をかけるんじゃダメなの?」
新部和葉:「そうですね…、口頭で伝えるだけでも可能ではあるので、連絡を取れるならそれで充分です。番号を教えてください」
和葉の母:(口頭って…!?)
娘の様子は明らかにおかしいが、この母親は娘との会話が成り立つことを望んでいたのである。
普段がウキャーウキーッ、こんなのサルやん…であったため、戸惑いは覚えど歓迎すべき事態ではある。
ともなれば、優先すべきは娘が何をしたがっているかだ。
和葉の母:「あ。なんだったら、ファクシミリが使えるわよ?」
新部和葉:「え? ふぁくしみり…? ですか?〔小首をかしげる〕」
和葉の母:「ええ。前に保育園のとき同じ組の子に送ったことがあるじゃない。あ、ファックスのことよ? FAX」
新部和葉:「ファックスぅ…!?」
リビングダイニングに置かれてある電話機を見やって和葉は驚愕した。
なぜなら2030年の日本旅行で、FAXが使われている光景を目の当たりにしたことがあったからだ。
新部和葉:(まさか30年も前から日本の先端技術が存在してただなんて! 日本はやっぱりアメージングです!)
ちなみにだが前任のカズハが、あーアレね~、日本の先端技術なんだよとサラサに自国を自虐ったことが原因であり、この和葉に他意があるわけではないことは知っておいてもらおう。
和葉の母:「カズハちゃんは、チサくん宛てに何か送りたい文面があるのね?」
新部和葉:「はい! すぐに準備しますので、ちょっと待っててください!」
かくして和葉は、ある記録を書き出し。
後のゴールデンウィークにお話があります、必ずお越しくださいとしたためて、母の教えを頼りにFAXを送信した。
無論、その記録は 春の天皇賞 の着順であり。
異世界アースセザードで目を通した 前任の手記 には、こう書かれてあったからである。
転生して、記憶を取り戻したのならば。
渡瀬チサにすべてを打ち明け、協力をあおぎなさい、と。




