◆14.新メンバーに声をかけるタイミングは
そんな事件をどうにか和解へ持っていこうとしている最中。
ムーンリット社の新作タイトル『ナトライユ』は、予定通りに発売を迎えたのだ。
前世界線とは違い、ユーザーからのバグ報告が相次がないだけマシではあるが。
発売後は発売後の業務と、3週間もの有給休暇・消化期間が予定されていたのである。
要するに渡瀬の休みも、有って無いような状況となっているわけだ。
新部和葉:(さ・て・と。チサ兄のことは考えてても仕方がないし、次のシーンを組み立てたら、今日の業務は終わりにしーよおっと)
プリマメは従来の乙女ゲームとは異なり、漫画のような一枚絵の連続で、更には擬似的にアニメーションさせることが売りのゲームである。
構造的には2020年代の『ずんだもん』などの立ち絵を使った動画編集に近いため。
必要なパーツも仮絵とはいえ既にそろっていることから、和葉は組み立てるような感覚で作業していた。
しかしどういうことか、今まで順調だったにも関わらず。
アニメーションが急にぎこちなくなってしまったのだ。
新部和葉:「何じゃこりゃあ…? 絵の枚数は足りてるはずなのに、どうしてこんなにカクカクした動きに見えるんだろ? 私の画力じゃ再現度が足りてないせいか? ううん…? あ~…これは、前世界線の記憶を見直してみた方がいいかも…」
椅子の上であぐらを掻いてから、腕を組み。
まぶたを閉じて、検索モードに入った和葉は、たった10秒程度で目をカッと開くとガッツポーズを取った。
新部和葉:「キター! そっかそっかこの場面だったっけ。って、あぶなー!? 早め早めにと〝アレコレ〟用意しといて正解だったわ…。でも、え~~…? こんなにこの場面早かったっけ? 記憶を見返すのおっくうがってる場合じゃないわコレ…。魔法で引き継いだ分と違って、ここまで自分の記憶が頼りにならないとは…」
それは前世界線のときから想定されていた事態でもあり、解決策も決まっていたため。
和葉はプレビュー画面に映るぎこちないアニメーションと、そのスクリプトを組み立てているメモ帳も一緒に、パソコン内でせっせと録画し。
動画編集ソフトで、ビデオ圧縮をかけて保存後。
動画サイトに動画をアップロードさせつつ。
このシーンを組み立てるのに必要な〝素材だけをコピーして〟一つのフォルダにまとめると。
動画のアップロードには時間がかかるので、この日はモニターだけを消灯させて、早々に就寝したのだった。
―――◆第2章◆第2幕―――
翌朝。
動画のアップロードは済んでおり、和葉はそれを限定公開に設定して。
ウェブカメラとスタンドマイクの準備を済ませてからは、とある二つのブログに目を通していた。
━━†深淵の館†TWスクリプター研究所━━
━━優美なるプログラマー、になる予定の日々━━
新部和葉:(ホント、こんな頃からもう個性的なんだもん二人とも)
和葉はブログを読み漁っていく。
新部和葉:(かたや小6にして中二病をわずらい、かたや小6にして女の子とデートしまくりとか、小学生にしてはトガり過ぎだよね)
簡単に説明すると、前世界線のマーメイドテール社で、メイン・スクリプターとメイン・プログラマーを務めた二人である。
そして前任のカズハは、こうも話してくれていたのだ。
スクリプトでつまずきだした辺りから、相談に乗ってもらう内に、二人をサークル仲間へ引き込んだのだと。
当然のことだが、前任のカズハも前々世界線で二人の存在を知っていたからこそ、ピンポイントに接触を図ったのである。
新部和葉:(お! これが噂に聞く痛いポエムってやつか。うわぁ~…って、うろたえてる場合じゃないや。いつか音読処刑するためにもスクショしとかないと。…え? あぁもちろん、私の趣味とかじゃなくて、カズハさんの行動をなぞろうってだけの話で、念のためにね)
気の毒になる気持ちを押し殺しつつ。
和葉はスクショだけでは済まさず、ポエムもしっかりコピペ保存すると。
崎戸ミヤ と名付けたフォルダにまとめたのだった。
新部和葉:(それとこっちは、1日に3人の女の子たちと代わる代わるデートした証拠写真か。いや~、フランス人とのハーフってホント顔が強いよね。小学女子でもトキめいちゃう気持ちがよくわかるよ。しかし匿名とは言え、ブログに戦果を載せちゃう辺りが既にクズなんだよねー。この3人の内のひとりと末長いお付き合いになるとも知らずに、わざわざ写真に日付まで入れちゃうんだから仕方がない。いつかお灸をすえるために保存しとかないと)
倉津サナ と名付けたフォルダに、とりあえず全ての写真をダウンロードし終え。




