◆12.ただの乙女ゲーじゃ世界は掴めないでしょ
渡瀬チサ:「いや、そうは言ってもな、こんな芸当を同年代から見せられて、心が折れたりしなきゃいいんだが…」
新部和葉:「大丈夫大丈夫。住和トア先生は昔っからハングリー精神おうせいだったそうだから。それに…、こちらの事情も、半分は説明する予定だしね」
渡瀬チサ:「なら、いいんだがな…。って、それはそうと…? このエマ・ティンゼルのキャラデザ、少々可愛すぎるんじゃないか? 男の僕から見ても結構可愛く見えるぞ?」
新部和葉:「そりゃそうよ。男性ユーザーもターゲット層に含まれるんだから」
渡瀬チサ:「は…? でも乙女ゲーを作るんだろ?」
新部和葉:「で? その先は何をするんだっけ?」
渡瀬チサ:「いや、3Dアクションゲー化するんだろ? って! それもそうか…。男がやるモノと決まっているわけじゃないが、どちらかと言えば男性ユーザーが好むジャンルだしな」
新部和葉:「それとね? 2004年の今はそうでもないけど、男主人公のケツなんか見ていたくないって言われる時代がやって来るのよ。更にその先の時代では、女性向けの漫画でも、主人公の女の子が可愛いから読んでるなんて男性読者も増えてく傾向になる。…まあ、肝心の女性読者に肝心の主人公が嫌われるなんてケースもあるにはあるんだけど…、そこは立ち回らせ方しだいだから」
渡瀬チサ:「なるほどな…〔腕を組んで〕男性の目にも留まるデザインにしておいて損は無いと言うことか…」
新部和葉:「そゆこと。前任のカズハさん達も成功させてるわけだし、なんてったって10年は先のキャラデザで出すわけだから、見た目のインパクトで些細な問題はどうとでもなるよ。それにこういうときって、男の人たちの方が目ざとかったりするじゃん? 絶対話題になるから。あ、でも〔眉をつり上げて〕パンチラさせたりする気は毛頭ないからね?」
渡瀬チサ:「させようものなら僕の方が止めるわ。しかし…? 同人版で最初に出すのがアドベンチャーゲームの乙女ゲーには違いないんだろ? なら、イベントスチルとかでしか主人公を映せないじゃないか。メインはヒーロー達なんだし、あまりCGには枚数をさけないだろ? そんなんで主人公のビジュアルも売りに出せるのか?」
新部和葉:「へ? あー…いや…? あ、そっか…言ってなかったかコレ…? 従来の紙芝居方式と言うか、立ち絵を表示して、テキストウインドウを下に置いてー的な乙女ゲーを作るわけじゃないから」
渡瀬チサ:「はあ…!? ちょっと待て、聞いてないぞそんな話? じゃあどんな乙女ゲーを作るつもりなんだよ?」
新部和葉:「そりゃコミック方式よ。ほぼ漫画みたいなものなんだけど、コマを順々に、吹き出しも順々に表示して、画面効果も上手く利用して、疑似アニメーションぽく楽しめるヤツ」
渡瀬チサ:「ほぼ漫画ってお前それ、どれだけ枚数がかかると思って……、ちょっと待てよ? ひょっとして…? このまえ出たばかりの『Quartett!』みたいなヤツのことを言っているのか!?」
新部和葉:「そうソレ! それと『Fate/stay night』の演出を参考にしたって言ってた」
渡瀬チサ:「どっちも今年発売したばかりの18禁ゲームじゃないか! …まあ、『Quartett!』なら、女性でもプレイできそうな雰囲気ではあるが…」
新部和葉:「私は実のプリマメをプレイ済みだから、改めて参考にする必要性は無いかな」
渡瀬チサ:「誰が参考にさせるか! この小学4年生が!」
新部和葉:「えっと……。私は今10歳で、7才のときから20年分の記憶を引き継いでるわけだから、言ってしまえば、私だって23なんだよ?」
渡瀬チサ:「・・・・・すまん、それもそうだったな…。どうもお前の見た目に調子を狂わされる…。そうだよな…。中身が23なら、こんな風に一発描きできたとしても、おかしくは…、…いや? 結構凄いことだよな? これ」
新部和葉:「でしょー!〔鼻を高くして〕これでも私、住和トア先生から直々に教わったことがありますから!」
渡瀬チサ:「んでもって…、今度はその技術を、この世界線の住和トアに教え込むわけか…。改めて考えてみると、とんでもないこと計画してるよな、僕たち…」
新部和葉:「まあ、そうでもしなきゃ本物は生まれないからね~〔ミリペンでカケアミを始めつつ〕私がどう逆立ちしたって、本物は描けないわけだから」
渡瀬チサ:「しかし…? コミック方式を採用するとなると、本気で急がないとマズイんじゃないか? 2010年の冬コミに間に合うのか?」
新部和葉:「だからこうして、私も画力を上げてるんじゃない」
そうは言うがそれは、メインスタッフ4人と合流するまでに、大半の部分をひとりで準備するようなものである。
いざというときは――などと言わずに、早い内から自分が力にならなければと。
乙女ゲーム会社で働いている本職の渡瀬は覚悟したのだった。
====[ティップス・補足情報]====
現代の乙女ゲーでは、テキストウインドのテキストの横に、
ヒロインの顔グラフィックが常に表示されている作品が増えている
当然、物語に合わせて表情差分が切り替わるので、
テキストだけでは主人公の表情がわかりにくいといった、従来の問題もクリアされている
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