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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世間知らず世に躍り出る~黒歴史爆誕☆~

作者: たなか

遡ること数年前−−


エリオットはソレル公爵の城に招かれていた。


齢十五の、長らく引きこもっていた彼にとってははじめての社交の場である。




綺羅びやかな貴婦人の装いに見惚れるとともに、はじめての世界に胸が高まった。




だがすぐに好意的とは言えない視線に晒され、


早速居心地の悪い思いをしはじめていた。




彼の目に


5、6人の青年連が映った。


先程からエリオットを見つめ囁きあっているではないか。




彼の母親譲りの容姿は嫌でも目をひく。




その上、今日のために父により豪華な衣を纏いゴテゴテに飾りつけられていた。




高価な花瓶や絵画は場を飾るにはもってこいだが、そういったインテリアは時たまに


場にそぐわない程悪目立ちする、


今の彼はそんなところであった。


リリアナ「あの方は?」


ソレル公爵「あぁ、クラリウス家のご令息だね。なんだ、気になるのかい?」ニヤ


リリアナ「もう、お父様ったら!!」


エリオットは父親が、


他の貴族に呼ばれ傍を離れたため、


ひとりぼっちでぼんやりと佇んでいた。




突然、


目の前の青年連から


ブロンド髪の青年が近づいてきた。




エリオットは一瞬、身を固めた。




だが、ブロンドの青年が微笑みかけたため、


エリオットの顔にも微笑が浮かぶ。




彼は誰かが声をかけて近づいてくれたことへの喜びを隠しきれず、


しきりに嬉しそうな表情をしてみせた。




青年は目を細め、エリオットをつま先から頭のてっぺんまで見通した。




青年「……お会いできて嬉しゅうございます。どうか良き夜となりますように。」




笑いを堪えるかのように唇をピクピク震わせる。




彼はエリオットの手をとると、まるで姫君を相手にするが如く、手の甲に唇を寄せそのまま去っていた。




エリオットは数秒、口をぽかんと開けていた。




エリオット(……あれは女にする挨拶じゃないか!!)




彼のぼんやりした脳もさすがに働きはじめると、先程の喜びは氷のように固まり、恥辱が一気に胸を刺した。




エリオット(これじゃ、奴らにしてみれば僕は礼儀作法も知らないマヌケ野郎か、女扱いされて喜ぶカマ野郎の二つに一じゃないかっ……!!)




彼の背後からは


「お嬢さん」と囃し立てる声が薄っすら聞こえる。




エリオットのことを指しているのは明白だ。


彼の顔は瞬時に紅潮した。




自身の無知を晒してしまった羞恥と嘲笑されていることに、そして何よりも女扱いされたことにやりきれなくなった。




自分の傷つけられた自尊心のために誰かを痛めつけたくて堪らない。




今日の主人を務めるソレル公爵にチラリと目をやる。




エリオット(……見るからに愚鈍そうだ。)




眠たげの目をした脂ぎった五十男が目に入る。傍らの妻の公爵夫人の方は(この夫人も夫と同年代なのだが)まだ衰えぬ色香を放っていた。




エリオット「……ふふっ。」


我ながら素晴らしい思いつき。


エリオットは小さく笑い声をもらした。


ひとついたずらをしてやろうではないか。




エリオット「みなさんこれから私が手品をご覧いれましょう。」


そう言うと、どういう訳だか公爵夫人の左手の薬指の指輪を消してしまった。




公爵夫人「あら!まあ!」


公爵夫人が可愛らしい声をあげた。




エリオットの指には夫人の指輪が光っていた。


周囲は思わずあっと息を飲んだ。




そうして、エリオットは跪くと、恋人が愛しい人に思いを告げるように、




エリオット「奥さま、私からこの指輪を受け取ってくれますね?」




そう言って、返答も聞かぬうちに夫人の白い指に自ら指輪を嵌め、


彼女の手を取った。


エリオット「……私と踊って頂けませんか?」




夫人の方は夫の顔色をチラチラと伺いながらも、満更でもない様子で、薔薇色の唇を綻ばせ優美に微笑んだ。


エリオット「……!」


その瞬間、エリオットの胸は高っなった。

耳がほんのり紅く染まる。

恥ずかしくて、夫人の目を見つめられなくなるのを必死に抑えた。


エリオット(やったぞ……!)


エリオットはこの一連で成功を収めたと内心ほくそ笑んだ。




この礼儀知らずの小僧は人妻に求婚まがい悪趣味な冗談をやってのけ、主人を侮辱することで自身の男らしさも示せたと得意になっていたのだ。




自分が夫人を女としてときめかせたと思うと


彼の虚栄心は瞬く間に満たされた。




公爵夫人「この子ったら……、母親ともいえる世代の女性の何をするのかしらね!」




夫人の方は、まだ髭も生えていないようなエリオットなど端から相手にもならない。




一瞬、困惑したが場の空気を壊さないために戯けたに過ぎなかった。




ソレル公爵「いやぁ、これはまったくしてやられたよ。君ね、私の城で、しかも、私の目の前で妻にこれをやるとはどういうつもりかね?」


ソレル公爵は眉を潜め、怒っているような動作をコミカルにしてみせ、次には人の良さそうな赤ら顔で、


さも愉快そうに、笑った。




公爵夫人「あなたも安心してはいられませんわね!」


公爵夫人は夫に笑いかけた。




このやり取りでかえって夫婦の仲睦まじさが露呈し、周囲は和やかな空気に包まれた。


エリオットはソレル公爵が怒り出すと思っていたため呆気にとられた。


そして、自分の目論見が外れたことに腹を立てた。




エリオット(これじゃまったくのピエロじゃないか……!)




彼の胸を再び、恥辱の熱が蝕む。


彼の生来のプライドが高さ、


硝子のような傷つきやすい自尊心が、本人の理性を飲み込み既に暴走し始めていた。




その時、彼の脳裏にとっておきのフレーズが浮かんだ。


――今度こそ、あの男に恥をかかせてやれる。


そう思うと彼の唇は意地悪げに歪んだ。




エリオットは蔑むような眼差しでソレル公爵を見つめた。




エリオット「……今はまだ、貴方の、でしょう?時期にどちらも私のものになりましょう。」




そう言って、夫人の腰を抱いてぴったり自分の身体に寄せた。




この発言に和やかな空気は瞬く間に消え、


場は騒然とした。




エリオット(あっ……)


さすがに調子に乗りすぎたか―― 


あまりにも度を過ぎた発言、彼の中に瞬く間に後悔の念が浮かんだ。




公爵夫人の手を握る力が緩んだ。




次の瞬間――公爵夫人さ速やかにエリオットから手を引っ込めた。




そうして、逃れるように夫に寄り添った。




公爵夫人「これは侮辱です!あなたのような恥知らずな方、見たことありませんわ!わたくし絶対にあなたとは踊りません!」




そして、ぴしゃりと言い放った。




周囲は夫人の貞淑を称賛する声、エリオットを批難する声で騒がしくなり、


エリオットの方は真っ赤になってプルプルしていた。




エリオット(殺してくれ……!)




エリオットの父、ガルフ公爵は息子の醜態に誰よりも笑っていた。




――この男には家の名誉や自身の体面などない。


だからこそ、周囲の反対をものともせず、汚れた血を引くエリオットの母を妻として迎え入れたのである。




集まる視線、周囲の嘲笑、




エリオット「……少し気分が悪くなりました」


小声で誰にもなく言って、場を離れようとした瞬間、


ソレル公爵が口を開いた。




ソレル公爵「それにしても子爵(儀礼称号)の先程の手品は素晴らしかった!!」




エリオットの肩がビクリと震えた。




エリオット(もうたくさんだろう……!まだ復讐足りないって言うのか……!?)




ソレル公爵「……実はね、私もひとつ手品ができるのですよ!」


公爵はニヤリとし、




ソレル公爵「それっ!」


次の瞬間、公爵は自身の髪を掴むと、




瞬く間に光輝く禿が露わになった。




公爵は自身の鬘をエリオットに投げやった。




ソレル公爵「捕まえてくだされ!」




エリオット「わっ…!?」


エリオットは慌ててキャッチした。




ソレル公爵「……時の流れとは何とも残酷な!私の髪の毛もいつの間にやら消え去ってしまったのです!」




途端に場は爆笑に包まれた。




ソレル公爵「うーん、どなたか私の髪の毛を知りませんかな?」


ソレル公爵はきょろきょろとする動作をし、エリオットを見つめるとにっこりと微笑んだ。




ソレル公爵「おっと、見つけましたぞ!!ささっ、はめてぐだされ!」


そう言って、エリオットに頭を突き出した。


エリオット「えっ……?」 


目の前に光り輝くはハゲ頭。


エリオット「ふっふふっ…はっははっ……」


エリオット「……じゃぁ、えっと……失礼しますね……?」



ソレル「おぉ…!ありがとうございますぞ!」


ソレル「……私の妻を口説くような若者にはこれくらいサービスしなくてはな。……さて、もうあんな大胆なことするんじゃないぞ!」こそっ


エリオット「……あ、ごめんなさい……」


ソレル「……わかればよろしい!実はうちの娘が君と踊りたがってるんだ」ウィンク 


エリオット「えっ……!」


リリアナ「…お母様ではなくてわたくしではいけませんの?」


エリオット「あっ…、もちろんです…!」



実はこの聴衆の中で、唯一ソレル公爵のみがエリオットを可哀想に思っていたのである。




ソレル公爵(このような行動をすれば周囲からどう見られるか、誰もこの子に教えてやらなかったのか……!あれこそ、本当の恥知らずではないか……!!)


ソレル公爵は息子の醜態に喜んでいるガルフを見て苦々しい思いにかられていたのだ。




こうして、エリオットはソレルに懐いた。


~~

エリオット「ソレル殿!」


ソレル「なんだい?」にっこり


半年後

エリオット「ソレルさん!」


ソレル「どうしたのかな?」にっこり


1年後

エリオット「……あの、父上と呼んでもいいでしょうか……?」


ソレル「それはやめておこうか。」苦笑


完。

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