3.空飛ぶ砲艦
戦争の記憶というと実はそんなに残っていない。僕が軍を志した頃に継続戦争は終結し、領土の一部はソ連に割譲された。
それでもまた次に始まるかもしれない戦争に皆が戦々恐々としてた時に南からあの翼竜達が襲来したのである。
空は未だ快晴だが少し日が傾き始めている。滑走路上を加速していく僕等を乗せたB-25は、機首を持ち上げるとゆっくりと上昇を始めた。
痛む身体を引きずって今日あった出来事を急いで報告しようと割り込んだが、まさかまた空に上がるとは思いもしなかった。そして僕はこれから何をするのかまだ知らない、そんなタイミングでカーリーが僕に話し掛けてきた。
「そう言えばマーティンはブリーフィング受けて無かったよな?ハンスネンの報告でてっきり今日は戻って来ないのかと」
僕は基地に到着した時の話をぶつける。
「整備士に僕が死んだとか言い触らしたらしいッスね?」
「そこまでは言ってないぞ!?ただ隊長からの報告で心配してる話をしただけだって。──それでだ、これからやる作戦について話しておく」
カーリーが真面目なトーンで説明を始めると機内の雰囲気が俄に引き締まっていく。
「知っての通りナチスの放った怪獣共は前よりデカい奴が目に付くようになった、つまり奴らはこの近辺で繁殖しているかもしれないと言う事だ。その親鳥の重量級の化け物相手に、7.7mmのブローニングは言うに及ばずイスパノの20mmでさえ撃ち殺すには至っていないと言うのが現状だ。そこでこの75mmが出てくるんだが……」
「問題はどう当てるか、俺は参考書を読み漁り……いや、考えたのはハンスネンだが、米海軍がゼロ戦相手に使った戦法『サッチウィーブ』を模倣する事にした」
知らない単語に僕はいまいちピンと来なかった。
「簡単に言うと2機編隊で片方が囮になりもう一機で釣られた敵機を狙うと言う方法だ、簡単だろ?」
要領は何となく掴めた、隊長機を囮に使い敵が夢中になっている所を横から狙う手筈のようだ。そしてその狙いの標的についてだが今度は割って入ってくるようにウルスラが説明役を継いだ。
「この度、英国政府はドイツより端を発する異生物被害の増加に対して米国と協議し、当該国に対する本格的な支援を決定致しました。その始めとして貴方達の飛行場を我が国との共同管理下に置き、異生物の研究と撃滅を担う前線基地とする事になりました」
いきなりな話で一瞬混乱したがさっき見た基地の増築工事がこの理由に寄る物だと納得がいく。
「今向かっているのは空域は巨竜、装甲竜の活動増加が報告される北海沿岸で、貴方方にはその効果を実証してもらいます」
いつの間にか随分と事態が大きくなっていたようだ、国から支援があるのは良い事だが一抹の不安も何処かに抱いていた。そんな事を考えていたら機体は結構な高度まで上昇していた。眼下に海岸線が見える、そして機体の上方には一筋の飛行機雲が伸びていた、あれは隊長のスピットだろう、随分と高く上がった物だ。
するとその隊長から無線が入った。
「──スチールヘッドからキングサーモン。空域H4で未確認物体視認、確認を乞う」
僕は言われた空域の辺りを双眼鏡で覗くが何も視認出来なかった、しかし機内で1人その存在を発見した者が居た。
「こちらウルスラです!目標……翼4、青緑の眼球、眉間からの高周波と首筋に6対の大型の耳殻。対象は、マルスエプソル種。直ちに攻撃してください」
「スチールヘッド了解。カーリー、ターゲットを確認出来たか?」
「いやまだだ。クソッ、なんでウルスラは見えてやがる」
僕はウルスラが見つめる方向を注視した。
「太陽の中にいる!」
陽に手をかざしながらなんとかその影を確認する事が出来た。彼女はどういう訳かそれが眩しくないらしい。
「マーティン!こっちも確認した。高度が高い、悪いがこっちからは迎撃出来ない、スチールヘッド、なんとかここまで誘き出してくれ」
ここからこの部隊の戦闘が始まった。
隊長機は機体をロールさせ反転すると急降下を始めた。そのまま加速しつつ一直線に接近する戦闘機にターゲットはまだ気付いてない。
機首をドラゴンの頭に据えたスピットは降下した勢いそのままに射撃を開始した。
「よっしゃ命中だ」
ヨーゼフが歓声を上げた。
20mm機関砲の重厚な発砲音と共に主翼から閃光が発せられ、弾丸が目標に降り注ぐ。
着弾した榴弾が炸裂するも、やはりそれ程ダメージは入ってない様だ。だが奴はパニックになり高度を下げて逃げようとする。
低空まで降りた隊長のスピットはその速度を乗せたまま今度は急上昇、奴の進行方向に向けて再び射撃する。
「よく見ろ2人とも。お前達にはこれからあの動きを覚えてもらう、一撃離脱って奴だ」
カーリーがこの戦闘に付いて話した、これは今まで使っていた複葉機では出来ない仕事だが、さっきみたいな反撃も受けにくいテクニックである。
銃撃を嫌がる奴は遂にこちらに向かってきた。カーリーは気合いを入れる。
「よし来た。ヨーゼフ!したに潜って砲を装填しておけ!」
「けっ、俺の仕事かよ……」
ヨーゼフは渋々とコックピット下に潜った。
いよいよコチラの出番だとばかりに接近するB-25だが僕はその後ろから接近する物体に気がついた。
「6時方向から別の個体が接近!!」
「なんだって!?クソッ、マーティンお前が応戦しろ!」
命令されるがままに急いで後部銃座に移動した、奴は明らかにコチラに敵意を持っている。銃座に設置されてる機関銃はブローニングM2で。基地の防空用としても置いてあるので扱う知識は持っていた。
距離は大凡100、構わず僕はトリガーを引いた。連装の機関銃はすぐに火を吹き50口径の弾が豪雨のように顔面に降り注いだ。
この攻撃は効果があったようでその竜は全身を出血させながら真っ逆様に落ちていった。今日初めての確実な戦果に心を躍らされたのも束の間、機体が急激に傾き僕は頭をブツケそうになる。
「装填した!」
ヨーゼフが75mmの徹甲榴弾を込める、カーリーはこの砲の低い初速に備えて目標の竜の顔面少し先に狙いを付けていた。
「喰らえ!!」
巨大な竜の目がしっかり見える90度交差する形でカーリーはトリガーを引いた。
「ヒャッ!……」大きな発砲音と共に機体が振動しウルスラが倒れ込んだ。機体は竜の真横を通り過ぎる後ろの銃座からその姿を確認出来る、だが僕の見る限り弾が命中した様子は無い。
「俺が外した訳じゃないぞ?撃った瞬間に避けやがったんだアイツ」
カーリーが弁明するも外した事には外した事実は覆せない。疑惑の目が向けられる中、彼を擁護したのはウルスラだった。
「あの種は物凄く耳が良いです、近付く前に気付かれてしまいます!」
「そ、そうなんだよ!先に気付かれたんだ!あの野郎に」
しかしそうなると運動性の低い中型爆撃機は打つ手が無い。頼みの隊長の機は一旦集まって来た小さい雑魚を蹴散らしている。どうやら群れのようでまた此方に迫って来る個体に対して僕は機銃を掃射する、まるで王様を守る衛兵だ。
「スチールヘッド。キングサーモン聴こえるか?」
「聴こえてる。どうする?」
隊長がある提案を出して来た。
「2機で同時に掃射して奴のセンサーを無効化する。その隙を狙え」
B-25Hには75mm砲の他に前方へM2が4門搭載されている、二方向から同時に攻撃すれば対象出来ないだろうという魂胆である、時間的にもこれがラストチャンスであろう。
「マーティン!お前も中央銃座に来て援護しろ!ウルスラ、お前が後ろを見張れ!」
「ええ?私?」
名指しされ仕方なく後部に移動してくるウルスラ。子羊のような足取りでここに辿り着いた。
「これでこれをこう動かすとドカンだ!」
「あ、はい……」
簡潔な説明でこの場所を任せると、僕は上部銃塔に移動したここなら前方に向っても射撃が出来る。
「俺が合図したら同時に射撃を開始しろ」
B-25が適切な距離を保った状態で隊長がタイミングを合わせる。スピットファイヤはエンジン出力を最大にし目標に迫った。僕は銃塔の向きを奴に向ける。
「今だ!!」
スピットと銃座からの銃声がほぼ同時に発せられる。十字砲火を受けた形の竜は激しい混乱により海に突っ込んだ!
「あれなら狙える!」
着水した竜に巨砲を向ける為カーリーが戦闘機の様な急旋回を行った。機体はほぼ90度にバンクして中にあった荷物が転がる。
「うわっ!!わっ!」
ウルスラの驚嘆の後に尾部の機関銃が暴発する音が聞こえ、それにまたウルスラが驚く。
「次弾装填完了!」
「撃てぇ!!」
カーリーは自分が戦車長になった気分で砲弾を発射。目標に命中すると徹甲榴弾が炸裂し血飛沫が機体を染めた。
「やったぞこの野郎!!ヨーゼフ今の見たか?」
「見たよ、見たって」
新機体の初戦果にカーリーが飛び上がるように喜んだ。一方僕はこの機体に弔い合戦とばかり横から突っ込んでくる雑魚に目を向けていた。
「アイツまだやる気か」
仕上げ仕事をこなそうと銃口をそちらに向けよとした時。
ドガガガッッ!!っと後部からまた50口径の銃声。さっきみたいな暴発かと思ったがその弾丸は敵に向かって放たれたれ、かくも命中したのである。
「やった!ちゃんと当てたよ私!マーティン見た?」
「……ああ、お見事だよ」
これを最後に嵐のような作戦が終わった。




