13.物理法則の違反者。番人はファッション
「SSBF。正式名称スーパーソニックバイオエアフレームファイターは我が国が都市パルマリックとの提携によって実験した次世代戦闘機プロジェクトだ。人類に立ちはだかる大きな壁、マッハ1 時速1,225 km/hの突破だ。君はご存じ無いかな?」
「ああ、北の小国に閉じこもってたんでな」
トニーは僕達を博物館のような展示がされる部屋につれてきた。そこには過去実験されたテスト機の模型が並んでいた。
「既に先進国で超音速の研究は進んでいるが何れも同じ問題にぶち当たっている。まずエンジンの推力。諸外国はロケットを使用しているが既に我が国は高温のジェット排気に燃料を吹き付ける事で同等の推力を得る事に達成している。しかし音速付近に到達すると、機体先端に衝撃波が発生するんだ。これによって機体はバラバラになるほど振動しそれ以上の加速を阻止されていた。さらに衝撃波はジェットエンジンの吸気口からも発生しエンジンの動作を著しく不安定にしていた」
「その解決の糸口がここで発見された。この世界には極めて高い強度と靭性、軽量性、そして耐熱性が両立された理想的な素材が存在していた。……こっちに来てくれ」
トニーが扉を開けると広い空間があり、中央を足場に囲まれた何かの物体が鎮座していた。
「様々なテストを試す内に一つの仮定が生まれた。機体の前方に伸びる長い突起物で衝撃波を発生させ、それを制御すれば空力操作が自由に行えるのでは?」
「形状を風洞でシミュレートし、一般に飛行速度の計測に使用されるピトー管を大型化させ、さらに先端を可動式にした特殊素材で製造、機首に1本を取り付けた。結果は先ず先ずの数値が出た。しかしそれだけでは機体全体に掛かる負荷を分散する事は出来なかったんだ。最終的に胴体から2本。左右の主翼中央から2本の計4本による衝撃波制御で構成された機体が出来上がった」
「そこから発生した気流は大半が機体から遠ざけられ、一部空気をインテークや動翼に誘導する事で高速時の圧縮断熱による高温化、機体及びエンジン動作の安定化を図る事に成功した」
御大層な理屈の数々を並べられても大学には行ってない僕にはさっぱり理解が出来なかった。だが結論を一言で纏める事は出来る。
「要するに、速く飛べるんだな」
「ああ、そういう事だ」
「もう飛べるのか?これは?」
「いや…… まだ残っている問題がある。機体の制御に関する事だ。だからマーティン君、今進めている君の作戦に進展が掛かっているんだ」
僕には何の事かさっぱり分からず、何かハッタリでもカマされている気分になった。もしかしてマイメの事だろうか?ふとマイメの様子を見ると彼女が何かを感じ付近を見回した。
「……連中が来る」
彼女がそんな事を言うと武装した兵士が走って来た。
「博士、中央からコンシェルジュが出動との連絡が届きました」
「分かっている、計画通りだ。此方には役員がいる、攻撃は出来ない筈だ。発砲は絶対するなよ?」
「おいコンシェルジュって何だ!?」
忙しそうにするトニーをなんとか捕まえて聞き出す。
「企業お抱えの保安用員兼お世話係。各都市に存在し、僅か1個中隊規模でドイツ国防軍1個師団を相手に立ち回った奴等だ」
周りが慌ただしい動きを始め、後ろの物体を巨大な覆いで隠した。そして間もなく、天板の照明が落ちた。辺りが薄暗くなると同時に静寂に包まれる。
張り詰めた緊張感は、ガラスの割れる音を端に何者かの侵入する気配で本能的な恐怖感に変わる。
「保護対象に接触。現状勢力には武装3により威圧計画を実施」
照明が再び点灯し、視界が鮮明になる。そして何かの指示を出した人物の正体が明かされた。
「──皆様には平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。さて、本案件について弊社役員マイメ様に於いては一部条例違反の懸念がありました故。会長理事の名によって、我が保安部第3課ルーウェストが馳せ参じた次第に御座います」
リーダーの女は丁寧な言葉遣いと格式の高そうな衣装とは裏腹に鋭利な武器を構え、殺意を隠さない。この集団こそがトニーの言ってたコンシェルジュという存在のようである。
「お言葉だがここは都市郊外で治外法権の筈では?」
「我が組織では企業こそが法の番人であり、そしてその役員の存在する先々で条例が存在するのです。提携の際によく理解して頂けたと存じ上げますが?トニー博士」
「失敬失敬。研究に忙しく内容を忘れてしまってね」
トニーは素直に引き下がる。暫くすると女に部下らしき人物が方向に来た。
「……捜査終了。追加の反応は確認出来ません」
「よろしい、その件の適用は除外する」
連絡が終わると、女が再び鋭い眼光を此方に差し向けてきた。
「お手数をお掛けして申し訳御座いませんでした。後はマイメ様のご同行の後、我々は引き上げさせて頂きます。それとそこの職員様。我々の同行者が面会の要求が来ています、少々お待ちを」
僕に面会者?こんな危なそうな連中からの面会なんて御免被りたかったが、その面会者は意外な人物であった。
「また会ったねマーティン」
「君だったかウルスラ」
さっきのオフィス以来の随分短い再会であった。
「僕を拘束に?」
「いいえ、暫くここに滞在すると思うからちょっとした生活用品を」
彼女は持ってきたアタッシュケースを手渡す。
「隊長は無事なのか?さっき脱出の時に別れたんだ」
「ごめんなさい。分からないけど先程レベル2は解除されたから多分無事だと思う……」
「そうか……ありがとう」
ウルスラは荷物を渡し、要件の完了を伝えるとコンシェルジュは嵐の様に帰って行った。
ふと、隊員に囲まれ連れて行かれたマイメが振り返り手を振ったのが、心の中にどんよりとした物を手土産に置いていかれた様に思えた。
「全員動くな!ネジ1本でも備品に触れてみろ。このブレン機関銃で穴だらけにしてやる……ってあれ?敵は?」
メップスが意気揚々と自慢の武器を振り回すも、遅れてきた援軍を迎え入れる者は居なかった。
「もう帰ったよ。何も触れずにな、多分」
兵士の1人が彼の肩を叩いて宥める。
どうもメップスは僕のイメージする英雄とは少し違うようだ。
「なあ博士。あのパイロットは本当にベテランなのか?」
「勿論だとも。疑いようも無く彼は、BOBから参戦し、V1ミサイルやMe262とも戦った英雄だ。終戦直前に収監されるまではね」
「それで正規軍人扱いされずにここに連れてこられたって訳か」
「まぁそんな所だ。それより君の受け取った荷物、ただの雑貨なんて物じゃないだろう?」
僕は受け取ったケースをその場で開いた。一見すると博士の期待する様な物は見受けられない。数着の衣服、歯ブラシにコップ、幾つかの錠剤と…… 一つだけそこに似つかわしく無い物があった。ケースの大凡半分を占領している給湯ポットのような物。
「なんでこんな物が」
持つと妙にズッシリしている。中に何か入っているのか?蓋あけを確認する。
……何もない。これで紅茶でも淹れろというのか。
「博士は好きな紅茶でもありますか?」
「いいや?ん、待てよこれ」
トニーはポットを覗き込んだ。
「君のお宝はこれだったか」
トニーはポットに手を突っ込む、なんとポットの底だと思っていたのは内蓋であった。そしてその中にあった物を見て僕は驚く。
「──カミュメントじゃないか!」
つぶさに放った言葉にトニーが鋭く反応した。
「君は……今、コギト自身の真名を??そうか、MI6は遂に成し遂げたのか……」
トニーは直ぐに走り出し壁に備え付けられている受話器を握った。
「私、今この場に最後のピースが届いた。これより計画をフェーズ4へ移行する。関係職員は至急メインハンガーに集合しろ」
「いやー参った参った。これから忙しくなるぞ」
「ええ、そのようですね」
僕は1人盛り上がるトニーに対して置いてきぼりを食らう。
「実は僕の専門は電子工学でね、この部門の完成でやっと実機を飛ばず事が出来る。君には感謝してもしきれない。」
「良いんですよ、僕は何も知らないんで」
「そうだったな! ああ君、ちょっとこっちへ。マーティン君を記録保管室へ連れてってくれ。テープを参照する許可を与える」
「その前にちょっと休憩を。」
「分かった。トイレはあのドアから出た廊下の先。それと宿舎は外に出てここを回り込んだ所の5階建ての建物だ。部屋は空いてる所を自由に使っていい」
一旦トイレに向かう事にした。




