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11.簡易的責任者

「ああクソっ、本当に撃つなんて」

 僕は立ち上がりウルスラに駆け寄る、彼女は自分が撃たれた事に対して何も反応は無かった。

「お…… おい、大丈夫か?」

「心配しないで、ほらね?」

 彼女の銃創から出血は見られない、弾丸は貫通し後ろの金属製の引き出しにめり込んでいた。銃をウルスラに向けたままのシルバートンは、彼女を心配する僕に個人的な質問を投げかけた。

「マーティン君。君に聞くけど私は正気か?」


 シルバートンの顔を見た、目に光は無く虚ろな表情をしている。

「──さっきまではそう見えたけど。無抵抗の女の子を銃で撃つのは、ハッキリ言ってヤバい」

 僕の言葉を聞くとシルバートンは銃をデスクに戻すとこちらにフラフラと歩み寄って来た。


 「ウルスラ……?ああなんて事。痛みは無い?私が全部悪いの、こんな私を許してくれる?」

 そのままウルスラを抱き寄せるシルバートン。何か物凄く申し訳なさそうにしている。隊長はその様子に呆れ返していた。

「自分が撃ったんだろうが、狂ってんのか」


 彼女を擁護したのはウルスラであった。

「私がやれと言ったの。彼女は何も間違えていない。悪いのは正体を隠していた私の方……」

 シルバートンは先程の説明の続きを始める。

「ご覧の通り一発の弾丸を内臓に受けた程度では行動を抑止する事は出来ないわ。拳銃だと最低でもホローポイント弾で四肢の筋肉等を行動不可なレベルまでダメージを与えなければならない、若しくは刃物等で切断するとかね」


 僕にも状況が何となく掴めて来た。隊長も敵の目的に当て嵌めてみる。

「つまりコイツらで兵隊を組織すれば人類は立ち向かえないと、ナチスの考えそうな事だ」

「勿論彼等にも欠点はある。それに敵は既に自分の火力を用いて都市一個を陥落させている。ある程度の対策をされていると言う事ね」


 隊長がシルバートンに指を指す。

「アンタが地球人だと言う保証はあるのか?」

 シルバートンは閉まった引き出しをまた開けた。

「この銃で私を撃ちなさい。血が出て死ねばそれが証拠になります」

彼女の眼光は冗談と受け取るには余りに鋭く隊長に向けられている、その目の奥に僅かな悲しみも受け取れた。

「そんな目で俺を見るな。悪かったよ」

「──信頼されたみたいで何よりです」

銃を再び中に隠した。一通り説明を聞いた僕はこれからの行動に考えを巡らせていると、この部屋に新しい人物が現れた。


「シルバートン!!今新しい空騎士が来たって!」

「此方におりますとも、マイメさん」

 勢いよくドアを開けて大声で現れたのはウルスラよりも小柄で歳の若そうな少女だった。 

「アンタ子守もやってるのか」

 僕が皮肉めいた発言をした事で少女の気を取ってしまいギロッと睨まれた。


「アンタが騎士?私が1歳の頃に遊んだお人形にそっくり」

「んなっ!?」

 思わない発言に衝撃を受け硬直してしまった僕に隊長は含み笑いを浮かべむしろ向こうに加勢した。

「フッ…… そこのナイトをモデルにした人形を作ったらきっと本人よりここの住民達のマスコットになるだろうな」


「ホントに作ったら一体ずつ首を捻り落とすぞ」

 この少女の乱入は逆にこの場を和ませたようだ。シルバートンはこの少女に随分腰が低い。

「マイメさん。確かに役者は揃いましたが…… 些か都市内のパレード飛行はやはり……」

「──シルバートン、この都市近郊に基地建設を認可させたのは?」

「貴方です」

「技術開示を許可させ共同戦術機プロジェクトを推進したのは?」

「──貴方です」

「となると私の意見は絶対と言う事になりますなぁ!」


「はい、勿論」

 シルバートンは満面の笑みを彼女に向けた。

「おいどういう関係性だシルバートン」

「──ハンスネン。この方はこの都市を統括する企業、パルマリックの専属役員であり。英国との安全保障パートナーシップの代表窓口であらせられる非常に高貴な御方なのです」


 僕は少女の方を再びジロリと見る、高貴とは程遠いお転婆加減だ。

 「ノーティア人にとってその年代の人間は成人より柔軟な思考と判断力を持っているとされ、その中でも頭脳明晰な人物がこの様な役職に就くことがよくあるのです」

「今お前疑ったな?」

 僕の視線に気付かれてしまった。

 

「色々分かった。今俺が1番知りたいのは休む場所があるかどうかだ」

「それなら……」

 隊長がシルバートンに休憩を提案したその時。


「ビィーッ!ビィーッ! 緊急警報、B棟ネフィリム研究エリアでコード31。これよりレベル2の警戒状況を開始します」

 謎の不穏な内容のアナウンスが響き渡るとシルバートンは焦る様子でデスクの受話器を取り誰かと連絡する。何かを聞き出すとすぐに受話器を戻し彼女は先程の銃を再び取り出しホルスターの中に入れる。


「悪いけど急用が出来た。今はレベル2で行動制限が出ているので、建物からの脱出方法をマイメから教わりなさい。地上には絶対出ない事。ウルスラはコギトを持って私に付いてくるように。連絡は以上よ、質問は無し」


 彼女はウルスラを連れて部屋から出ていってしまった。初対面の男2人と一緒に取り残されてしまったマイメ。さっきの機嫌は鳴りを潜めてしまった。

「こういう時はお前の出番だろマーティン」

「──僕ですか……?」

彼女への最初の発言を間違えたのは痛い判断だった。兎に角ここは穏便に話を進めたい。

「ああ僕達は今、初めてこの星に来た異星人で迷える子羊なんだ。君の助けが必要だ。いや、契約上立場が上だったな、どうぞ我等に御命令を下さいマイメさん」


 マイメは顎に手をやり何かを考えていた。

「……シルバートンはさっき私に脱出を指示した。今は屋外通路と地下連絡路が封鎖中。私は理事権限により都市移動が禁止中…… でももし緊急の状況なら…… 2人とも付いてきて!! 私にいい考えがある」

「よくやったマーティン。上手く彼女を説得出来たな」


 説得した感触は無いが彼女の指示に従うのが無難だろう。

「マーティン。アンタ口は達者なようね、まぁ私の部下になるならもう少し威厳が欲しい所だけど」

「お褒めの言葉どうも。元々こういうタイプじゃ無かったがすっかり教育させられたみたいだ、あのウルスラに。それでこれからどうするんで?マイメさん」


「敬称は気持ち悪い。マイメって呼んで」

「──了解ボス」

 マイメが歩きながら計画を伝える。

「この建物は下層から地下そしてそこから通じる離れの建屋が研究部門なの、最初の警報が出たB棟がその一つ」


「じゃあ何で本社ビルまで封鎖されるんだ」

「警報システムの裁量は更に地下にある統制部によって決めらる。そして上層階にいるボケた年寄り連中は最近下層に入って来たアンタら地球人にビビってる、だから何か起きたら全施設の閉鎖を指示したの」


 ここの地球人が嫌われる理由も分からなくも無いが僕達フィンランド人には関係も無い事であった。

 「その年寄りは緊急時に備えて屋上から脱出する設備を最近設置した、地球の技術を使ってね」

 「それを使おうって訳か嬢ちゃん」

 どちらかと言えば隊長の方が僕より子供扱いしている様な気がする。


「アンタも上層の連中と同じ歳に見えるけど?」

「おいおい、俺は年寄りだがまだ現役引退には早いぞ」


 隊長への侮辱は僕としては聞き捨てならない言葉であった 

「確かに隊長は普通の軍ならもう空は飛ばずに内地で仕事をする様な年齢ではある。でもボケ老人呼ばわりは余りに失礼だ」


 隊長から少し冷ややかな目線を感じたが僕は気にしないフリに徹した。マイメは廊下の隅で立ち止まり壁のフタを外した。

「ここの横のダクト。この先にメンテナンス用の梯子がある上手くダクトを移動すればそのまま屋上の排気口から出られるよ」


「クソっ、さっきから災難ばかりだ」

 愚痴を言う隊長を他所にマイメはダクトに入って行く。隊長は渋々匍匐体勢でマイメの後をついて行った。1番後ろの僕は動きに気づかれないようそっとダクトの蓋を閉じた。


 暫く匍匐で進み突き当たりの梯子を登る。登り切ったらまたダクトを進む、そんな事を数十分繰り返した。

「こんなに匍匐前進したのは新兵訓練以来だ」

 僕も隊長に同意見だ。普段使わない筋肉に音を上げる肉体。マイメが疲れないのは子供だからだろうか?そんな事を考えながらまた梯子を登ると、遂にその先で差し込む日の光を垣間見る事が出来た。


「着いた!」

 先に登りきったマイメが頭を出してコチラを見下ろす。まるで公園のアスレチックに突き合わされてる感覚だ。


「これが脱出装置だと?」

 次に登った隊長が出した言葉、最後に上がった僕も同じ感想を抱いた。屋上に備え付けられて居たのは油圧カタパルトに載せられている英国の飛行機である。


「こりゃフェアリーフルマーだ。商船護衛用途でカタパルト発進型が作られたんだよ」

 物知りの隊長が機体の説明をしてくれた、しかし見た所機体はこの一機しか存在していない。ここでマイメからの弁明が入った。


「ごめんなさい…… 脱出計画は後で上層部が予算削減を理由に計画を中止したの、これは計画時のテストに送られたたった一つの機体」

 機体を確認する。座席は前後に2つ、空いた空間にマイメは詰め込めそうであった。

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