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1.開幕の実戦

 今日の天気は快晴。視界良好、風も微風、機体の調子も悪く無い。

 僕は編隊長が不在の中、哨戒飛行の為に1人で機体を操縦している。

 機体は20年前の骨董品だが龍狩りには複葉機の低速性が適している。それにこの基地にはマトモな戦闘機など先輩方にしか搭乗を許されていない。

 眼下に広がる湖、この周辺が僕の受け持ちの空域であり、そして漁師である親父の仕事場でもあった。

 ここ北欧は魚の宝庫で、コイツを狙った小型の飛行生物、俗に言うドラゴンが周辺を荒らし回ってやがる。


 ホームの飛行場から1人で任務を任されるのは不安もあるが、見習いパイロットから成り上がったばかりの新米を推薦してくれた隊長の期待には是非応えなければならなかった。


「──ビジュアルコンタクト、この空域で報告にあった5m級だな」

 聞く所によると、この前あれくらいのドラゴンに追い掛けられた漁師が船から凍える湖に飛び込んだそうだ、僕は人を襲う前に排除を急いだ。

 自機から見て大凡300m真下に居るソイツは9時方向に向かって飛行している。

 僕は操縦桿を左に倒す。機体は左に回転するが、僕自身の目線では地平線の方が回転しているように見える。


 コックピット前方の主翼越しにしっかりと翼竜の姿を捉える、敵から見て後部上方という絶交のチャンスに位置した僕は翼竜の進行方向目掛けて急降下した。


 スピードが増しガタガタと揺れ始める機体に伴い鼓動が速くなる。光像式の標準器など無い為備え付けのスコープを覗き込むが高い倍率の為に中々その姿を捉える事が出来ない。


 焦る気持ちを抑えやっとセンターに捉えた時には巨大な胴体が照準器を塞ぐ程までに接近していた。

「うわ!」

慌ててトリガーを引くが射線がズレており弾が右に反れる、衝突寸前の距離だったが左足のペダルを目一杯踏み込み、左ラダーを掛ける事でなんとか弾道を目標に向ける事が出来た。

 胴体には命中しなかったものの翼に何発か命中し穴を開けるくらいの事は出来た。


 バランスを崩し空中でよろける翼竜、僕は一旦上昇してトドメを刺す為に体勢を立て直す。

「アイツを落とせたらやっと隊長に報告出来る……」

あまりに目標に執着していた僕は上空から急接近する物体に気が付けなかった。



 金切り声のような唸り声を上げたソイツは遥か上空から翼を折りたたみ急降下すると僕が狙ってた獲物を鋭い爪が生えた巨大な脚で掴み掛かった。


 「何だよあれ!なんてデカさだ!!」

 初めて見る巨大な竜、翼長は優に20mを超えており爆撃機程はある巨躯だ。

 無謀にも僕はその巨竜に機首を向けた。

 獲物を捕獲した奴は悠々と上昇していくがそれでも僕の機体であるゲームコックでは中々追い付く事が出来なかった。


「クッソ……この距離なら」

 目測で1km近く離れていたが僕はスコープを覗き1番遠距離の目盛りに照準しトリガーを引いた。

 放射状に放たれる銃弾のうち何発かの命中が確認出来た。しかし無情にもその曳航徹甲弾は硬い鱗に弾かれてしまった。


 僕の存在に勘付いた翼竜が後ろに振り向きスコープ越しに目が合った、鋭い眼光に身震いする。

 奴は上昇を止めて旋回を始める、僕にとっては奴の鼻先に旋回する事で距離を詰めるチャンスではあった、生憎運動性なら圧倒的にコチラの方が上だ。


「よーし、今度こそ」

 距離は2,300m程まで縮まる。お互いの進行方向が直角上に交わり、頭を狙えそうな位置まできた。すると奴は体を反転させ僕と同じ進行方向に曲がる。

「後ろを向いて銃弾を弾く気か」

 先程よりはずっと距離が近い、弾を当て続ければ何処かにダメージが入る筈。


「くっそ、ちょこまかと……」

 巨竜は大きさの割に俊敏に上下左右と軌道変更が出来た。あの超大な尻尾が急激な機動に対してバランスを保つ役割を果たしている。


 一方飛行機は上下の動作に対して左右の動きが鈍い、その為バレルロールを繰り返し。なんとか変則的な機動に食らいついていた。


 ずっと1点だけを見つめていた為、今自分が水平なのか背面なのかもよく分かっていない。

 距離は十数m以内まで接近していた。


 ここまで無闇に発砲出来ないのは弾数が少ない為であり必中の位置に着く必要があった。

 一方、奴もまたこの距離まで接近する事を意図的に狙っていた。僕はその罠にすっかり嵌っていたのである。


「バサッ!」

 竜は今まで動かせずにいた、その巨大な翼を羽ばたかせた。

「なにっ!?」

 一瞬で20m近く上昇し、僕の視界から消えた。

 慌てて空を見上げ奴の位置を確認すると目一杯操縦桿を引いた。


「しまった……」

 僕はあまりに急激な操作をしたため主翼を流れる空気に乱流が発生したのだ、すると機体は意図せず回転運動を始めたのである。

 すぐさま回転方向と反対側に操縦桿を倒し同時にヨーペダルを踏み回復動作を行う。

 幸いフラットスピンは免れた。


 周りを確認する、目標が見えない!

「あっ!」

 奴はまだ僕の真上に居た!そして降下して接近してくる相手に僕が取れる手段は無かった。


「バシッッ!!」

 奴は機体を追い抜く瞬間、これまた巨大な尾を此方に振りかざした。その尾は右主翼を完全に捉え、衝撃を感じた瞬間に根元から寸断されたのだった。


 ……僕にはいくつかの幸運があった。

 破損したのが低高度だった事、下が湖の水面だった事、そして軽い機体が木の葉のようにクルクルと回転し落下速度が抑えられた事。

 外から見るとフワッと着水した様に見えたであろう、

 然し機内は相当な衝撃である。胸が痛み頭もブツケた事で視界がグラグラする、だが意識だけは失わなかった。

 巨竜が遠のいて行く後ろ姿をジッと見つめる。自分の拙さ、そして知力で負けた事に悔しさを覚えた。アイツは人間に対抗する方法を熟知しているようだった。


 しかし僕の身に迫る危険はまだ去ってない。墜落したと見るやあの竜は反転してコチラに迫って来たのである。

 強欲にも獲物を握っていないもう片方の脚を目一杯開き鷲掴みにしようとしている、まるで蛇に見つめられたカエルだ。

 僕は水上で避ける気力も無くただ近付いてくる様子を見つめるしかなかった、風切り音が聞こえてきて奴が低空を舐める様に水平飛行を始めた瞬間である!


 僕の目の前で爆炎があがり爆発音と衝撃波が響き渡った!僕は思わず顔を逸らす、奴はその衝撃でよろけハンティングを取り止めた。


 一瞬の静寂の後プロペラ音が通り過ぎる爆音が耳を劈く。視認したそれは主翼が1枚の機体でマーリンエンジンの快調な音を轟かせている──隊長のハリケーンだ。


 彼は戦中はエースパイロットとして敵軍から恐れられ、戦後は過酷な訓練で新兵から恐れられる冷酷な鬼教官。


 彼の駆るハリケーンから放たれたRP-3ロケットが僕が襲われる寸前で命中したのである。奴は金切り声を上げ掴んでいた獲物を落とす、しかし対戦車ロケットを食らったにも関わらず奴はそのまま飛行を続けてこの場から逃走して行った。


 隊長の方も深追いはしなかった。これ以上の効果的な攻撃は体当たりしか無いからだ。それよりも僕の助けが来るまで新手が襲ってくる事を警戒し上空を旋回し続けてくれた。

 

 暫く水面を漂っていると遠くから船がやって来くる、親父の知り合いの漁師の船だ。

「おい、坊主!大丈夫か!」

 僕は手を上げて生存を表明する。


「今引き揚げてやるからな」

 棒で船側に手繰り寄せられ船上に引っ張り上げられる様はまるで漁師の網に掛かった魚である。


 救助を確認した隊長機が離脱していく、……隊長に助けられたのは2度目だ。前回も僕が未熟が原因だった、そのせいでアイツは……


 「ありがとうおじさん。助けられて早々悪いんだが、電話無いかな?今すぐ基地に連絡したいんだけど……」

 漁師は目を点にする。

「電話ァ!?ここは湖のど真ん中だぞ!……クソッ、すぐ船小屋に戻るから少し休んどけ、おめぇ怪我とかねえのか」


 体はまだ痛いが幸い骨折などしている感覚は今の所無かった。船はすぐに陸地へ向けて出発する。

 

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