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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第76話 三年ぶりの初めての食事


朝、空はまだ薄闇が残り、

窓の外ではかすかな小鳥のさえずりが聞こえていた。


アレカが一番に目を覚ました。

階下の妙な物音にたたき起こされたのだ。

 

『まさか……あの監視してた連中がまた来たんじゃないよね!』

 

その音で、デレオも続いて目を覚ます。

そいつは階下でガサゴソと何かを探しているようだったが、


しばらく荒らしたあと、目的の物が見つかったのか、それとも諦めたのか、音がぴたりと止んだ。

 

足音が二、三歩続き、

階段の一段目で止まる。


ひと呼吸ぶんだけためらったのち、

その足音は踵を返し、

玄関の扉が開いて外へ出ていった。

 

デレオは反射的に身を起こし、

警戒しながら周囲を見回す――そして、

自分が見知らぬ部屋にいることに気づいた。


……いや、当たり前だ。

 

昨日引っ越してきたばかりなのだ。

もうあのアパートにはいないし、

ひとり暮らしでもない。

 

いちばん早起きしたのはアビスウズだった。


みんながまだ半分くらい夢の世界に足を突っ込んでいるあいだに、


彼女は昨夜なだれ込んできてぐちゃぐちゃになったままのリビングを、

手際よく片づけてしまう。

 

みんなを起こしに二階へ行こうと、

階段に足をかける……が、

アビスウズはそこで少し迷った。


昨日の疲れようを思い出し、やっぱりもう少し寝かせておいてやることにする。

 

そっと玄関で古びた上履きに履き替えると、


村はずれの菜園や林のあいだを一回りして、

柔らかな青ねぎと採れたてのバジルを買い集めた。

 

朝霧の匂いをまとって戻ってきたときには、

彼女の頬はうっすら紅く染まり、

手には買ったばかりのキャッサバ粉と小さなミルクのポットがぶら下がっていた。

 

デレオはさっきまでの警戒心がばからしくなり、思わず苦笑する。


何をそんなに心配しているんだ。

もう、自分はひとりじゃないのに。

 

目をこすりながら階段を降りていくと、

キッチンからはアビスウズとアペスが忙しく立ち働く音が聞こえてきた。


アレカは二人の足もとを器用に走り回り、

なにか頼まれるとすぐさま箱の中から食器を引っぱり出したり、

新鮮な食材を運んできたりする。

その顔つきは、やけに真剣だ。

 

「おはよう。」

 デレオがキッチンに顔を出す。

 

「おはよう、ディディ!」

 アビスウズはにっこり笑って手を振る。

「三番目に起きたんだから、さっさと手伝って!」

 

デレオは袖をまくり、二人の輪に加わった。


アビスウズはフライパンに卵を割り入れ、

刻んだねぎと一緒にかき混ぜている。

鍋からはじゅうじゅうといい音が立ちのぼる。


アペスはやかんを慎重に火にかけ、

湯が沸くのを待ってから、

順番にティーバッグとミルクを注ぎ入れていった。

 


焼き上がったばかりのほろ風味の卵クレープと、

湯気の立つミルクティーを、

デレオは丁寧にリビングの大きなテーブルへ運び、

一人分ずつきちんと並べていく。

 

やがて、かすかな足音が聞こえ、

階段のところから

カシヤとチェラーレに支えられたシミリスが、ゆっくりと降りてくる。


シミリスの足取りはまだ少しおぼつかない。


一歩一歩を慎重に確かめるように踏みしめているが、

それでも皆の顔を見ると、

頬にやわらかな笑みが浮かんだ。

 

六人と、張り切っているアレカはそろって木のテーブルを囲む。


アレカは自分の前の小さな器を前足でちょいちょい押しながら、

シミリスを見上げている。


その仕草は、まるで「がんばれ」と励ましているみたいだった。

 

シミリスはそっとミルクティーを一口含み――

その瞳に、ふいに涙がにじむ。

ぽろりと一粒、頬を伝い落ちた。

 

「……三年間、

終わりのない戦いに閉じ込められてたのに。

こうして、みんなとちゃんと座って朝ごはんを食べられるなんて……」

 

その声はかすかに震えていたが、

溢れていたのは感謝の色だった。

 

「シミリス、ごめん……俺は……」

デレオの声は今にも消えそうなほど小さく、

視線はシミリスの手の甲に釘づけになっていた。

 

シミリスは顔を上げ、その言葉をやわらかく、しかしきっぱりと遮る。

 

「そんなこと、言わないで。

 お願いだから――私に“ごめん”なんて言わないで。」

 

 その口調には祈るような響きがあり、

それ以上に、過去の痛みをここで断ち切りたいという願いがにじんでいた。

 

 デレオは何か続けようと口を開くが、

出てきたのは「でも……」の一言だけで、

その先が喉につかえて出てこない。


胸の奥に巣くう罪悪感が、

息をすることさえ重くしていた。

 

シミリスはカップをそっとテーブルに戻し、

指先で目尻の涙を拭う。

そして、少しだけ声をつまらせながら言った。

 

「……私ね、ただ、

あなたのそばにいさせてほしいだけなの。

 ずっと、一緒にいさせて。

 あなたがそばにいてくれたら、

それだけでいいの。」

 

 デレオは顔を上げ、

シミリスの瞳に宿る期待と、

壊れそうなほどのか弱さを見る。


気づけば手が伸びていて、

そっと彼女の手の上に重ねた。

掌から、かすかな震えが伝わってくる。

 

「大丈夫だよ。」

 

 できるかぎりの温もりと決意を込めて、

デレオは答える。

 

「俺も伝えたかったんだ。

 もう二度と、

 君から逃げたりしないって。」

 

 テーブルの周りの女の子たちは、

誰一人として嫉妬の色を見せず、

ただ静かに二人を見守っていた。

その瞳にあるのは、心配と安堵だけだ。

 

「……話題、変えよう?」

 

 シミリスは少し無理に口元を持ち上げ、

空気を軽くしようとする。

 

 デレオもそれに合わせるように、

わざとらしく咳払いして言った。


「そうだな。

そういえばさ、昨日の戦いで、

みんなそろそろクラスアップできそうなんじゃない?」

 

「ああ。うちの妹とアビスウズを除けば、

ここにいる全員が、

もうクラスアップの基準を満たしてるはず。」

 チェラーレは落ち着いた声で言う。

 

 シミリスは小さく首を振り、

穏やかでいて揺るがない口調で続ける。


「それだけじゃないよ。

私も、新しい資格を手に入れたの。」

 

 アペスが驚いたように顔を上げる。


「えっ、シミリスって、

もう第四階の召喚師でしょ? 

それでもまだ上にクラスアップできるの?」

 

 アビスウズは目をまん丸にして、

子どもみたいな声をあげた。


「違うよ、

上じゃなくて――うちのあのババアと同じ。

第四階を突破して、

転職の資格をもらったってことでしょ!」

 

シミリスはうなずき、

指先でミルクティーのカップの縁をつまむようにしながら、

かすかに声を落とした。

 

「うん。この三年間はね、本当は原初大精霊がくれた試練だったんだと思う。

昔の悲しみを手放すためだけじゃなくて。」

 

そう言って、

彼女は胸もとから素朴な小さな木片を取り出した。

木肌の表面には淡い銀色の光がにじみ、中央には不思議な精霊文字が刻印されている。

 

「それ、なに?」

 

「大精霊の御印だよ。」

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