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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第61話 君たちみたいな“卵を産まない連中”との商売は、本当に骨が折れる

イントロドゥクはその気迫に押され、

声を震わせながら答えた。

「ゲコッ……あ、その召喚士って、もしかして……」


チェラーレが怒鳴る。

「シミリスは絶対に

“イカれた女”なんかじゃないから!」


イントロドゥクは慌てて

何度も頭を下げた。

「そ、そ、そ……す、すみません……!」


アビスウズが

横からなだめる。

「チェラ、小さなカエルに当たらないの。

彼、この辺の事情なんて何も知らないから。」


イントロドゥクは緊張のあまり、

自分の目玉をぺろりと

ひと舐めしてから、

説明を続けた。


「と、とにかくですね、あの辺りは今、

毎日が天災みたいな有り様でして。

落雷、雹、局地的な噴火――

何でもアリでございます。


近隣住民が

治安維持部隊を呼んだんですが、

彼らもまとめて吹き飛ばされて

戻ってきました。


おかげで、今はみんな我先にと

不動産を投げ売りしている

状況でして……。


環境さえ気にされないのであれば、

一戸建ての独立物件、

四階建て、延べ九十坪、

庭には樹齢百年の大樹付き――

それで、たったの五百万クレジット。


しかも、まだ値下げ交渉の余地も

あります。」


この値段設定……。

本来の目論見は

丸わかりだ。


――ひと目でわかる

高額優良物件を一つ、

――誰が見てもヤバい

安物物件を一つ見せて迷わせ、


その中間にある

「程よい価格帯だが

仲介に一番利益が出る物件」を

勧めるつもりだったのだろう。


イントロドゥクは契約書を開き、

あるページを

指でとんとんと叩いた。


「それに、この物件には

地下倉庫も付いております。

防火壁も強化済みでして、

大型の道具や

レア素材の保管に最適です。


売主様は、できるだけ早く

現金化したい

ご意向のようですから、


もし現金一括で

お支払い頂けるのであれば、

こちらからも

かなり条件を引き出せますよ。」


イントロドゥクの声は、

外の同業者に

聞かれまいとするかのように、

一段低くなる。


デレオは思わず

ぐらりと

心を揺さぶられた。


だが、その横で

アビスウズが

落ち着いた声で口を挟む。


「正直に言うとね、

このネクロサウルスは、

ほとんど彼らの全財産と言っていいわ。


現金なんて

持ってるわけないじゃない。


まあいいわ、

取引がまとまってから、

ゆっくり条件を

詰めていけばいい。」


この「弟分」の頭の中は

ほぼ冒険一色で、

世間のえげつなさを

まだろくに知らない。


アビスウズは、そこを補って

ブレーキ役を

買って出ていた。


イントロドゥクは、

すぐさま

新しい計算を始めた。


「では、こういうのはどうでしょう。

当事務所が、ネクロサウルスを

四千五百万クレジットで

一括購入します。


そのうち五百万クレジットを

物件代として差し引き、

残り四千万クレジットを

現金でお渡しする、という形で。


そうすれば、物件の所有権は

即日であなたの名義に

移転できますし、


その気になれば

今日からでも

お引っ越し可能です。


なかなか悪くない条件だと思いますが、

いかがでしょう?」


「即日」

「今日から」といった

甘い響きに、

さらに「四千万」という、

デレオが想像したこともない額。


その誘惑に、

デレオは本気で

首を縦に振りかけた。


「ダメ。

六千万以下なら

交渉の余地無し。」


チェラーレの鋭い声が、

その場の空気を

一刀両断した。


彼女の視線は、

氷刃のような冷たさで

テーブルを斬りつける。


デレオが彼女を見やると、

チェラーレは

軽く手を振って制した。

――口を出すな、という合図だ。


「このサウルス、

私の目から見れば

最低でも七千万はつく。

あんたの提示は、足元を見すぎ。」


チェラーレにはわかっていた。

これはただの竜ではない。

歩く鉱山みたいなものだと。


言葉を終えるや、

彼女は細身のダガーを抜き放つと、

ためらいもなく

壁の不動産広告へと投げつけた。


刃は一直線に空気を裂き、

黄ばんだポスターの一枚に、

ぴたりと吸い込まれるように突き立つ。


ちょうど「売却委託」の字の横――

販売開始日が印字された

部分に。


その日付は、

およそ三年前の

ものだった。


「ここに載ってる物件、

三年以上も売れ残ってるんじゃない?

キャッシュフロー、かなり苦しいはずよ。」


イントロドゥクの顔から、

一気に

潤いが消えた。


「ゲコッ……

チェラーレ姐さん、

それはちょっと

商売のやり方として……」


チェラーレは

鼻で笑う。


「何が“ちょっと”よ。

私はあんたに、

まだ一千万以上の利益を

残してあげてるんだから

感謝してほしいくらい。


そもそもこの辺一帯の地価を

ここまで釣り上げたの、

あんたらみたいな

投機屋共でしょ?


それが“天災”一発で空振りになったところを、

こうやって一棟分だけでも

整理してあげるんだから、

むしろ恩返しよ。」


イントロドゥクは、

やれやれと言わんばかりに

肩をすくめ、

大きくため息をついた。


「わかりました、わかりましたよ……。

少なくとも、まだ利益は出ますからね……。

ほんと、

タマゴを産まない種族と取引するのは、

骨が折れる……。」


そうぼやきながら、

彼は店員を手招きして

水を持ってこさせた。


受け取るなり、

それをそのまま

自分の両目の上から

ざばっとかける。


その目に浮かんでいたのは、

諦めと、

そしてわずかな敬意。


――完敗だ、と

言いたげな表情だった。

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