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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第三部——召喚塔林

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第60話 同居人が多すぎる——なんでみんな当然みたいに俺と住む気なんだ?

検品が終わると、

イントロドゥクは一行を貴賓室へと案内し、

契約の取り決めに入った。


「さて……

ここには“決まり”なんてものは

一切ありませんからね。


どういう形で取引したいのか、

お聞かせ願えますか?」


イントロドゥクは

手をこすり合わせながら、

どこか慎重な表情で問いかける。


「このサウルス、

いくらぐらいになると思う?」


デレオは商売ごとが得意ではない。


だからこそ、

結局はこのアメカエルに

言い値を付けさせるしかないと

覚悟していた。


「五千万クレジットですね。」


イントロドゥクが金額を口にした瞬間、

貴賓室の空気が一気に凍りついた。


デレオの持つティーカップは宙に止まり、

カシヤは目をまん丸に見開く。


いつも冷静なチェラーレでさえ、

わずかに眉を上げた。


「い、いま……

いくらって言った?」


デレオは

思わずどもりながら聞き返す。

自分の耳を疑わずにはいられない。


イントロドゥクは手をもみながら、

いかにも商人らしい

したたかな笑みを浮かべた。


「まあ、

無責任なざっくり見積もりですが……

五千万クレジット前後、

というところでしょうね。」


雨が降り出した。


デレオの脳内には、

チャリンチャリンと

クレジットの雨が降り注ぐ。


チェラーレは

その言葉を聞き終えると、


無言のまま

イントロドゥクを

じろりとにらみつけた。


アメカエルは何のことかわからず、

ぱちぱちと目を瞬かせる。


「ここ、

不動産仲介もやってるんだよな?」


デレオが探るように問いかける。


イントロドゥクは

口元をわずかに釣り上げた。


「はい。

もし不動産に関するご要望があれば、

ぜひ当事務所に一括してお任せください。」


彼は情報端末を起動し、

不動産関連のデータを呼び出す。


「それじゃあ

家を探したいんだけど……」


デレオは少し首をかしげ、

チラッとカシヤを見やる。


「二人で住めるくらいの

小さなアパートで十分だ。」


その一言を聞いた瞬間、

カシヤの表情がふわっと輝いた。


「では、

そちらのご要望に合わせて──」


イントロドゥクがそう言いかけ、

情報端末から物件情報を呼び出そうとした、

そのとき。


アペスが先に動いた。


彼の手をバシッと押さえつけ、

そのまま慌てて口を挟む。


「足りない!

三人で住めるところにして。

あのサウルス、

あたしも取り分あるからね!」


当然と言わんばかりの自信に満ちた口調。


自分も入れないなんてあってはならない、

そう言外に主張している。


イントロドゥクはいったん固まり、

すぐに状況を理解した。


「は、はい……。」


苦笑いしながらうなずくと、

慌てて標準契約書を一枚取り出し、

テーブルの上に広げる。


契約書が開ききるより早く、

テーブルの上で「コン!」と

乾いた音が鳴った。


いつの間にか、

冷たい光を放つ小さな短剣が、

契約書の横に突き立てられていた。


「ダメ。」


チェラーレが肘をテーブルに突き、

危険な笑みを浮かべながら言う。


「五人分ね。

あたしとシミリスも住む。

ここに連れて来たの、

誰だと思ってるの?」


声色は柔らかく、

それでいて、


その眼差しは

紙をも切り裂きそうなほど鋭い。


テーブルの上では、

契約書とペンと短剣が、

妙に物騒な交渉儀式を形作っていた。


正直なところ、

要求としてはやや図々しい。


だがよく考えれば、

チェラーレのような危険人物は、


見えるところにいてくれた方が、

見えないところにいるよりよほど安心だ。


イントロドゥクはびくっとして、

自分の眼球をぺろりと舐め、

そっと手を引っ込める。


視線をあちこちさまよわせながら、

おそるおそる口を開いた。


「ええと……

皆さまのご要望は

すべて記録いたしますので、


少々お時間をいただければ、

間取りも含めて再調整を……。」


声には抑え込んだため息と、

かすかな命乞いがにじんでいた。


そこへアビスウズが、

何かを思い出したように

元気よく手を挙げる。


「六人よ!」

満面の笑みで続ける。


「こんなに賑やかなのに、

アビお姉ちゃんだけ仲間外れなんてイヤ~。


あたしも一緒に住む!

もうあのババアの顔見たくないし!」


彼女もまあ、

立派な「利害関係者」……

なのだろう。


もうここまで来ると、

一部屋増えようが減ろうが、

デレオには違いがわからなくなってきた。


「はいはい……

まったく、

胎生動物ってやつは……。」


イントロドゥクは

とうとう口元を引きつらせ、


独り言のように、

運命に折れるように

ぼそっとこぼす。


さすがの彼も、

少しうんざりし始めていた。


「あなた方の食屍竜──

あのネクロサウルスは、


最低でも

五千万クレジットにはなります。


うまく売れれば、

当事務所の仲介手数料は

2パーセントで結構です。」


イントロドゥクは

資料をめくりながら、

淡々としたプロの口調に戻る。


とはいえ、

チェラーレのほうをこっそり盗み見て、

再び短剣が増えないかどうか

警戒するのも忘れない。


デレオは肩をすくめた。


「ふーん、2パーか。

商売はよくわかんねえけど……

まあ、

こっちが儲かるならそれでいい。」


イントロドゥクは軽く咳払いをしてから、

情報端末を操作し始めた。


数棟の

物件立体映像と、


首都圏不動産の巨大な地図が

ホログラムで浮かび上がる。


「家の価格は、

どのエリアに住みたいかで

大きく変わります。


中心街に近づけば

近づくほど、

もちろん値段は跳ね上がります。


今のお話を聞く限り、

かなりの広さが必要でしょうし……


正直、

最低でも四千万クレジットは

見ておいたほうがいい。


場所を郊外寄りにすれば、

静かで環境は良いですが、

交通の便が悪く、


そのぶん三千万クレジット前後までなら

下げられるかもしれません。」


そう説明しながら、

地図上の赤いマーカーを

ペン先でとんとんと示す。


「六人同居となると……

そうですね、

全体としては五千万クレジット前後に

なる見込みです。」


この金の亡者め、

と一目でわかるアメカエルは、


どうにかしてデレオの儲けを

丸ごと不動産に


吐き出させようとしているのが

透けて見える。


そう言いつつも、

彼は

分厚い契約書のサンプルを

どさっと差し出した。


ページのあちこちには

細かいチェック欄や注意事項が

びっしりと書き込まれており、


まるで大規模なクエスト前の

作戦会議資料のようだ。


デレオは皆の希望を

一通り頭の中で整理し、

結論を出す。


「そんな豪華なのはいらない。


冒険者だし、

むしろ人目が少なくて

自由に動ける、


ちょっと外れた場所のほうが

ありがたい。」


イントロドゥクは目をペロッと舐め、

商人らしい口調で説明を続ける。


「でしたら……

召喚塔林の付近が、

ちょうど地価下落中ですね。


どうやら最近、そこに一人の


“イカれた女”が

引っ越してきたとかで。


召喚獣を呼び出しても

全然帰還させないものですから、


近隣住民が

大騒ぎだそうで。」


その瞬間、

チェラーレの顔色が

さっと変わった。


「……

誰がイカれた女ですって?」


彼女の声は冷え切っていて、

部屋の温度が一度下がったような

気さえした。

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