第6話 進化するのはいいけど、よりにもよって俺の最新機種を食う必要ある!?
スコラリス邸を後にして、
デレオは情報端末を取り出し、
自分の口座に振り込まれたばかりの
十万クレジットを眺めた。
これは元の依頼報酬の十倍にもな!
これだけあれば、
装備一式をミスリル級に総入れ替えできる。
十万⋯⋯
彼の頭の中には
「ク・レ・ジッ・ト」の四文字だけが、
ぐるぐると回り続けていた。
そのとき、一通のメッセージが届く。
『若き冒険者デレオへ
私は国家議会の議長という立場上、
交通違反をごまかすようなことはできかね。
口利きもご法度だ。
せめて報酬を少し上乗せすることしかできない。
罰金はちゃんと自分で納めなさい。
また会うことになるだろう。』
デレオはそのメッセージを読み、
上機嫌で受信を確定した。
これで仕事は完了だ。
あとはゆっくり休んでも罰は当たるまい。
デレオはのんびりと、
まずはアレカを連れて街を
ぶらつこうと思った。
「最初に、
新しい情報端末でも買いに行くか!
前からずっと欲しかったんだよな……」
頭の上にぴょこんと乗っかってきた
小さな布袋に向かって、
あれこれと自分の願望を語りかける。
「まー……うー……」
アレカは毎回、
意味のよくわからない赤ん坊のような声で、
それなりに楽しそうに返事をする。
通りは広く、車の数もさほど多くない。
両側の街路樹は枝葉を広げ、
鳥たちには絶好の巣作りスポットだ。
「カァ! アァ!」
突然、デレオの頭の上がふっと軽くなった。
「ま!! う!!」
半空中から、
アレカの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
「どこのカラスだ?」
とっさにデレオはポケットに手を突っ込み、
たまたま指先に触れたのは、
アレカがごく最近作ったばかりの
石弾だった。
デレオは石弾を握りしめ、
自分の魔力が
ほんの少しだけ吸い取られていくのを感じる。
それをカラスめがけて投げつけると、
目に見えない突風が石弾の軌道を支え、
そのままカラスの頭めがけて直撃した。
「おお…… ティールが、
俺にシューターの職をくれなかったのが
惜しいくらいだな。」
まさかここまで正確に当たるとは思っていなかった。
カラスは地面に落ち、
二、三度震えただけで動かなくなった。
デレオはあわてて駆け寄り、
まだ震えが残っている小さな布袋を
そっと両手で抱き上げた。
アレカは目をぱちりと開け、
デレオを見つめる。
その瞬間、袋の口から、
いつものように文字のホログラムが跳ね出た。
『戦闘終了!
アレカ・サクルス 生体アイテム袋 Lv2
新スキル獲得:初級素材の収納。
進化条件を達成しました』
「よっしゃ! ちび助、
お前レベルアップしたじゃないか!」
デレオは指先で、
アレカの袋の表面を
こしょこしょとくすぐる。
アレカは目を細め、
その心地よい撫でられ方にうっとりし、
先ほどの恐怖もすっかり忘れたようだ。
二人は商店に入り、
最新型で一番イケてる情報端末を一台選び、
三千クレジットで購入して
デレオのポケットに収めた。
家に戻ると、
デレオは手に持っていた物や
ポケットの中身を、
全部まとめてテーブルの上にぶちまけた。
アレカはデレオの頭からテーブルへ
ぴょんと飛び移り、
散らばったガラクタの間を
好奇心いっぱいに嗅ぎまわる。
そして、
そのオシャレな新型情報端末を
気に入ったのか、
ぱくりと丸呑みし。
「おい、やめ――!」
デレオが止める間もない。
「あれ、俺の一ヶ月分の食費なんだぞ!」
飲み込んだ直後、
アレカの瞳はまるで
QRコードのような模様に変わり、
袋の口からはピピピ、パチパチ……と
機械的な電子音が鳴り始めた。
やがて、
口からは大量の部品と、
色の違う四つの宝石が吐き出される。
アレカはそれらの部品や宝石を
一つ一つ自分の体に組み込んでいき、
最終的に自分自身を
一つの箱の形に組み上げた。
組み立てが終わると、
アレカは自分のフタをぱかっと開き、
その中から文字のホログラムを跳ね上げた。
『ジュエルイーターへ進化!
レベルは Lv1 にリセット。
生体アイテス袋の全スキルを習得しました。
進化種族スキル:宝石レーザーを獲得。
個体名アレカ・サクルス、
改名:アレカ・ジェマルム。』
「そんな簡単に進化しちゃうのかよ!」
デレオは目を丸くした。
この袋を飼い始めて、
まだ日が浅いというのに――。
それからの一日、
アレカはデレオ家の
「害虫駆除マスター」と化した。
「おっ、ゴキブリだ!」
キッチンの隅に、
嫌な影がちらりと見えたら、
デレオはすぐさまアレカを呼ぶ。
宝石レーザーがシュッと一閃、
迷い込んだ不運な害虫はたちどころに蒸発する。
何度も何度も練習を重ねた結果、
今のアレカのレーザー出力は、
ちょうどターゲットだけを
仕留める絶妙な威力に調整されていた。
その間にアレカのレベルもひそかに
Lv3 へと上がり、
新たなスキル
『簡易アイテスの製作』
『アクセサリー製作』も習得していた。
デレオとアレカは、
そんなふうに少しずつ成長しながら、
同じくらいのペースでぐうたらも重ねていった。
……数日が過ぎるまでは。
ある日、
スコラリス家の執事モーリスが、
わざわざ本人自らデレオの家を訪ねてきた。
訪問の目的はただ一つ――
新しい救援依頼を、
名指しでデレオに託すためだ。
カシヤお嬢様が
「また」宇宙船の遺跡へ
向かわれたというのである!
モーリスが申し訳なさそうに
任務の概要を説明している間、
デレオの頭の中では別のことがよぎっていた。
『十万クレジット、
装備の強化に回しておいて正解だったな。
とっといてよかった……』
デレオはあきれたようにため息をつき、
冒険用バックパックを肩にひょいと担ぐ。
「あのお嬢様、
死ぬのが癖になってるんじゃねえだろうな。」
彼はアレカに向かって指をパチンと鳴らす。
二人の相棒は、
またしてもバイクに飛び乗り、
砂埃を上げて走り出した――
目指す先は、あの古代宇宙船の遺跡である。
デレオには、
どうしても理解できなかった――
どうして彼女は、
自分がもう一度あの中で死なないとでも思えるのか?
復活が、必ず成功するとは限らないことを、
考えたことがないのだろうか?
———大したことではないこと———
ジュエルイーターのスキル
初期スキル:宝石レーザー
Lv2 アクセサリー製作
Lv3 簡易アイテム製作
Lv5 鈑金
Lv7 ポリッシング
Lv11 インレイド
以下不明




