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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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第54話 三人の女と同じベッドで――あいつらが可愛すぎて眠れないわけじゃないんだ、断じて。

三人の女は互いに牽制し合い、

その六つの目がそろってデレオをにらみつけていた。


ウンブラの民宿は

大部屋の雑魚寝スタイルで、

全員が同じ部屋で寝ることになっている。


チェラーレはデレオの右側に寝ていて、

デレオをはさんでアペスのほうを警戒している。


アペスも同じように、

デレオの左側に寝て、

やはりデレオ越しにチェラーレを警戒していた。


カシヤはアペスのさらに左側。


アペスとしては、

カシヤをチェラーレから

少しでも遠ざけておきたいのだ。


デレオは、

明日シミリスと

会わなければならないことを思い悩みながら、


この息が詰まりそうな空気の中に

横たわっていた。


――これでどうやって寝ろってんだよ。


窓辺では、

アレカだけがのんきに月光浴をしながらあくびをしている。


デレオは緊張したまま仰向けになっていた。


左側からはアペスのあたたかい吐息、

右側からはチェラーレの静かな呼吸。


どちらにも身を寄せられない。


三人とも、

まだ起きているのが気配で分かった。


ああ……

カシヤの顔、見たいな。


そんなことをふと思ったころ、

アレカが月光浴に満足したらしい。


コトン、コトン、

と音を立ててデレオの頭のほうへ跳ねてきて、


蓋を閉じて目をつむり、

盛大にぐうぐうといびきをかき始める。


予想通り、

いちばん最初に寝入ったのは、

何の悩みもない彼らの宝箱怪だった。


アレカのいびきが聞こえた途端、

カシヤが小さく笑う。


しばらくしてから、デレオの耳に、

カシヤの穏やかな寝息が届き始めた。


そのとたん――チェラーレの呼吸が、

ふいに静かになる。


静かになったときこそ怪しい。


デレオがそっと顔を向けると、

チェラーレの瞳に

「チャンスを見つけた」ような光が宿っていた。


デレオは彼女をじっと見つめ返す。


今は絶対に気を抜いてはいけない――

一瞬でも意識を逸らしたら、

何が起きるか分からない。


チェラーレは何もせず、

ただひたすらデレオと視線を

合わせ続けていた。


デレオには

彼女が何を考えているのか分からない。


だが、チェラーレのほうは、

デレオの想像もしていない

何かに思い至ったようだった。


チェラーレの呼吸が、

少しだけ乱れる。


それから、

頬を紅くして、す、と背中を向けた。


数分もすると、

チェラーレの息づかいは

次第に落ち着きはじめる。


アペスがほうっと長い溜息をつき、

くすっと笑って、

やがてそのまま眠りに落ちていった。


一方デレオは、

一晩中「月の光が眩しすぎる」という理由で、

まともに眠れなかった。


***


翌朝。


ウンブラの骸骨たちが

ドアをこんこんと叩いた。


木製のトレイを両手に持ち、

朝食を運んできたのだ。


トレイの上には焼き立てのパンと、

湯気の立つ藥草茶。


お茶の香りが部屋中に広がり、

張りつめていた空気が少しだけ和らいだ。


ウンブラは室内で客をもてなすとき、

決してゾンビを近寄らせない。


ゾンビの腐肉はいつまでも臭いを放ち、

歩きまわるたびに皮膚の裂け目から

ねばつく液体が滲み出る。


汚いし、気味が悪いし、

よく分からない病気まで

運んでくるかもしれない。


力仕事で骸骨よりずっと役に立つし、

耐久性もあるのだが、


ウンブラは彼らを

屋外の農場から先へは入れない主義だった。


その点、

骸骨はすっきりとした清潔な姿で、

骨も白く、見た目も衛生的だ。


完璧な給仕役と言ってよかった。


四人が朝食をとるあいだ、

骸骨たちはドアのそばに控え、


よく訓練された給仕のように、

静かに待機している。


朝食の席では、

アペスとカシヤが並んで腰掛け、

小声で何かを話しながら、

ときどき柔らかな笑い声を漏らしていた。


チェラーレは窓際の席を選び、

頭を少し下げたまま、


パンを小さくちぎっては口に運び、

藥草茶をちびちびと啜っている。


アレカはどうにも不満げで、

しきりにチェラーレのほうをにらんでいた。


ついにはデレオをぐいぐい押しやって、

チェラーレから遠ざけようとする。


「アンタのペット、

完全にあたしのこと嫌ってるわよね⋯⋯」


チェラーレはそう言って、

パンくずを指先でつつきながら、

口元にかすかな自嘲の笑みを浮かべた。


「仕方ないだろ。

昨夜、

おまえがあいつをぶった斬ったからさ」


デレオは思わず皮肉っぽい口調になる。


「狙ってたのは、彼じゃない」


チェラーレは冷ややかに目を細め、

ちらりとカシヤへ視線を送った。


その声も、その眼差しも、

凍るように冷たい。


「どっちにしたって同じだよ。

アレカはカシヤが大好きなんだ。


彼女を傷つければ、

アレカだってお前を嫌うさ」


デレオは肩をすくめ、

二人のあいだに流れる、

微妙な空気の変化をひしひしと感じていた。


チェラーレは眉間に皺を寄せ、

何かと激しく葛藤しているようだった。


口を開きかけ――


そのとき、カシヤがすっと席を立った。


彼女は腹をくくったのだ。

武器もなく、守りの術も何も使わず――


いつでも壁に磔にされかねない

女盗賊に向かって、

真っ直ぐ歩み寄っていく。


まるで、ブラックマンバのすぐそばに、

ふわりと舞い降りたシマエナガのように。

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