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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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依恋のパンデモニウム――執着する少女と異界の火神


『パンデモニウム』はシミリスを狙っている。

――あの騒がしい魔殿は、この可能性に満ちた子を決して逃がさない。


地獄の群魔と諸天の神々は、

アスモデウスの招待状を受け取っている。


キューピッドは左手に弓、

右手に矢を持っていた。


だが、弦を引くことができない。


さっき彼は、手元が狂って、

同じ標的に二度も矢を射てしまったばかりだ。


今度はどちらを狙うべきか、迷っていた。


非人の衆生は事象の地平線の外に集い、

決して外には漏れないこの光と影を

見届けていた。



『闘争関数入力』

f(幼いシミリス,異界火神):D(学院の校舎)=?


解を求めよ。



シミリスは、

これ以上ないほど純粋な少女だった。


悪意を向ける者がいても、

彼女はほとんど気に留めない。


王畿学院は大きな坩堝だ。


ここでは出自ではなく、

実力だけが問われる。


だが、それは

「天才なら安泰」という意味ではない。


ここには、

彼女を妬む者が山ほどいる――


下民を見下す上流子弟、学閥の縁故、

比べられて敗れた天才……


そして、その中には教師さえいた。


「クロートに指名された天才、だって?」


大人の嫉妬に歪んだ顔は、

耐えがたいほど醜い。


「こんな簡単なこともできないのか?」


普段なら、そんな非難を浴びても、

シミリスは黙って飲み込んだ。


少しでも目立てば、

教師は難度を際限なく吊り上げ、

みんなが恥をかくまで追い込む。


そうなれば、クラスの年上の子たちは一斉に白い目を向ける。


彼女は覚えている。

この学校に来たばかりの頃、

教師の問いも、課題も、任務も、

彼女は完璧に答え、完璧にこなした。


だが、本来拍手が起こるはずの瞬間は、

彼女が孤立していく始まりだった。


褒められたとき、

十分に謙遜しなかった――それだけで。


無表情すぎるこの少女には、

世渡りを教えてくれるまともな親がいなかった。


それでも彼女は賢い子だった。

やがて彼女は学ぶ。

わざと馬鹿を演じればいい。

侮辱されるだけなら、まだ楽だ。


――あの、火精霊の召喚実習が来るまでは。



————————————————



あの男の子も、

彼女と同じメジェドの子――孤児だった。


彼には、彼女のような才能はなく、

奨学金を得て高等学府へ進むこともできない。


それでも彼は、

理由をつけては学校へ来た。

機会を作って、彼女に会いに来た。


この子が、

ここに友だちがいないことを知っていたからだ。


「明日の授業、

火をつけられるものが必要で……」

シミリスはそう言って、男の子に願った。


翌日、男の子は本当に、

古いランプを持ってきてくれた。


古びて緑青が浮き、傷と煤で汚れている。


他の生徒が持ってきた着火具と比べれば、

みすぼらしいと言われても仕方がない。


それでもシミリスは、

そのランプを手にするだけで

胸が温かくなった。



「シミリス!」


教師が授業に呼び出す叱責の声が、

廊下で跳ね返る。


シミリスは慌てて返事をし、前へ出た。


男の子はあたふたと

クラスの生徒の中へ紛れ込む。


シミリスが授業のあと、

もう少し話したがっていることを知っていたからだ。


教師の厳しい視線が、

教室の顔を一人ずつなぞっていく。


その男の子が自分の生徒ではないことを、

教師は見抜いていた。


だが、切り札を隠すみたいに、

あえて指摘しなかった。


そして彼は、

シミリスに向かって冷たく言い放つ。


「前に出て、

エレメントスピリッツとの交流を示範してみろ。」


心の狭い大人は、

教壇用の蝋燭に火を点けた。


この子の失敗を、

授業の踏み台にしてやるつもりだ。


まだ、何も教えていないくせに……。


シミリスは制服の裾をぎゅっと握りしめた。


怖かった。

自分がいじめられていると気づいたからではない。

期待に応えられないことが、

ただ怖かった。


彼女は意を決して蝋燭の前へ歩き、

男の子が持ってきてくれた古いランプを取り出す。


ぎこちない手つきで、

火をランプの口へ移そうとした。


教師は、

彼女が必要な儀式を

いくつも飛ばしているのを見て、

薄笑いを浮かべる……。


それでもシミリスは、

緊張しながらも真剣に火へ語りかけた。


皮肉で授業を始めるつもりだった教師は、

思いがけず目にすることになる。


この少女が、

火の意志と共鳴してしまった瞬間を。


褒めるべきだった。

教育者の理想を持つ教師なら、そうする。


だが彼は思った。

――無師自通のシミリスは、

自分の権威に楯突いているのだと。


「たかが低階の火霊だ。

 少し魔力があれば誰にでもできる。」


違う……彼女は、まだ八歳だ。

字を習い始めたばかりの年齢なのに。


「試しに、

 もう少しまともなのを召喚してみろ。

 サラマンダーと交流してみせろ!」


サラマンダー?

その名前を、

シミリスは聞いたことすらなかった。


彼女はメジェドの子――孤児だ。

教育熱心な親のいる子たちとは違い、

絵本だって、ろくに読んだことがない。


高い知識どころか、

生活の常識さえ、彼女には足りなかった。


『サ……』

シミリスは言えなかった。

さっきの複雑な名前を、

覚えられなかったのだと。


『火……誰でもいい。

 火を司る精霊なら、

 お願い……助けて……』


アグニ、祝融、迦具土、ヘファイストス……

日々誰かが召喚するような名を、

彼女は一つとして知らない。


シミリスは何度も何度も念を送り、

「火」と呼べる存在を執拗に呼び続けた。


そしてついに――

誰にも召喚されたことのない火神が、

降臨した。


眩い火光がランプを飲み込む。

シミリスは驚いて手元を滑らせ、

ランプの蓋が床に落ちた。


「親もいないくせに!

 何を呼び出したんだ、これは!?」

教師の呪詛のような罵声が飛ぶ。


「さっさと収めろ!」

脆い自尊心を傷つけられた教師は、

怒鳴り散らした。


彼は床に落ちた蓋を指差し、

執拗に少女を責め立てる。


罵りはどんどん下品になった。


「生むだけ生んで育てもしない親がいるからだ!」


そう叫ぶと、

彼は机の上の教科書を掴んだ。


「だからお前らみたいな、

誰にも要らねえ賤種が――!」


教科書は、

男の子の顔めがけて投げつけられた。


男の子は傷つき、

額に本の角が当たって血がにじむ。


シミリスは、

その瞬間ようやく理解した。


教師の行動は、ただの八つ当たりだ。

自分の醜さを隠すための――見せしめだ。


彼女の心の防壁が、砕けた。

召喚された火神は、

彼女の精神の揺らぎを感知する。


巨大な火柱が、校舎を、校庭を、校舎群を薙ぎ払った!

数え切れない生徒が、

正体不明の烈焔に呑み込まれていく。


『吾が名はウティアテス。我は燃える希望。

 告げよ、汝は何を望む?』


シミリスは見た。

いつも自分を笑わせようとしてくれた男の子が、

火の中で苦しみ、もがいている姿を。


「いや――いや――!」


彼女に理性は残っていなかった。

ウティアテスの問いを考える余裕など、

欠片もない。


ただ、

目の前の人間がみんな消えてほしかった。


ただ、

あの男の子だけが、

これまで通り優しくしてほしかった。


誰にも召喚されたことのない火神は、

彼女の胸の中の二つの極端な感情を受け取った――

再生と、破壊。


だが火神には、

召喚者が何を望むのか判別できない。


だから彼は、

少女の二つの願いを、延々と循環させた。


すべてを焼き尽くし、

そして復活の炎で、彼らを作り直す。


焼却、滅燼、再生――


シミリスは頭を抱えて泣き叫び、

その場にいる者は皆、

巨大で終わりのない苦痛を受け続けた。


誰もが叫び、

叫びきったあとには力尽き、

灰へと変わる。


どれほど高貴でも、

どれほど強い才能と力を持っていても、

この瞬間の生死の循環を破る者はいない。


ただ一人――

あの少年だけは違った。


自分の痛みの外側で、

彼はずっと少女を案じていた。

沈み込んではいられない。

彼は、あらゆる絶望の中で出口を探すことに慣れていた。


「死んでも、すぐに復活するなら……

 焼ける痛みは……耐えられるなら、

 怖くない。」


復活の保証は強い。

あらゆる恐怖に勝たせるほどに。


少年は悟った。

パニックの檻を越えた。


周囲の誰もが死の苦痛に狂う中、

彼はすでに、

この痛みと共存する術を探し始めていた。


「大丈夫……また生き返る。」

心の壁は越えた。


だが肉体は――

生理と物理の制限が、あまりにも多い。


烈焔の激痛が反射神経を叩き、

彼は意思で逆の動きを先に作る。


物理的な慣性で、

全身の痙攣に抗うために。


焼け干された筋肉は萎縮していく。

彼は進む方向を計算し、

次の「死」で倒れる位置が、

少女に近づくようにした。


復活の瞬間、瞬く火光が彼の目を焼いた。

それでも、

少女の泣き声が進むべき方向を教え続けた。


彼は自分の屍を積み上げて進み、

一歩ごとに、自分の骨灰を踏みしめた。


最後の一歩。最後の復活。


少年はランプの蓋を拾い上げ、

そのランプに――蓋をした。


全身から煙を上げ、

目を見開いたまま、少年は言う。


「彼女が何を望んでるのかは、

 俺にはわからない。

 でも、俺は――お前が、

 ペットの犬みたいに

 大人しくしてくれたら嬉しい。」


最後の復活の炎が、波のように広がる。

人々は皆、痛みと狂気に打ちのめされる。


それでも少年だけは、

理性を振り絞り、少女を見つめた。


「シミリス――このランプ、すげぇな!」

少年は少女の頬に触れ、笑った。


「これ、俺にくれない?」

この火神を彼女のそばに置き続けるのは、あまりにも危険だ。


「代わりにさ。

 これから先、

 君がどこへ冒険に行っても、

 俺が一緒に行く。」


シミリスの力は尽きかけていた。

彼女は涙を溜めた瞳で、少年を見上げる。


「メジェドとクロートに誓う!」

少年は彼女が信じないのが怖くて、

慌てて神々に誓った。

誓いがどれほど重いものかも構わずに。


シミリスは、

これ以上ないほど純粋な少女だった。


誰かが自分に優しくしてくれたなら、

それを一生忘れない。


彼女はランプを、男の子に渡した。

それは――自分の心ごと、

渡すのと同じだった。




————————————————————————




キューピッドは嬉しそうに涙をぬぐった。

射った二本の矢は、

どちらも無駄ではなかったと感じたのだ。


だがアスモデウスは、

ひどく不機嫌だった。


「マモンから騒がしい魔殿を借りたのは、こんな純愛劇を

見るためじゃないんだがな!」

閣下、そろそろお休みのお時間です。

ですが、どうかお気をつけて。

寝室の扉を開けたその瞬間、もしかすると⋯⋯。


おっと!

いけない、これは明日の分のお話でした。

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