第51話 その呪いって何……!? それ、彼には言っちゃダメぇ!
アペスがずかずかと前に出て、
ゾンビの足先でぱんぱんになったバックパックを
不機嫌そうに放り出した。
「これ、あんたが冒険者ギルドに出してた依頼でしょ?」
ウンブラは目を細めて笑う。
「おやおや! こりゃあ、三年連続であたしのリッチを
影の中から引きずり出した《闘技場の女王》じゃないかい。」
アペスはぎくりとして、
一歩どころか大きく飛び退いた。
その様子は、よほどウンブラにまた変な呪いを掛けられるのが
怖いらしい。
「なにをそんなにビクビクしてんだい。」
ウンブラはにこにこと笑いながらしゃがみ込み、
バックパックをひっくり返して足先をざらざらと地面にぶちまけ、
数え始める。
アペスは声を潜めてデレオにささやいた。
「もしさっきのスケルトンナイトを闘技場で召喚してたら、
今年のチャンピオンは絶対わたしじゃなかったからね。」
「今はもうクラスチェンジできる条件、
達成したのかい?」
ウンブラは感情の起伏もなく、雑談みたいな口調でそう尋ね、
ついでにバックパックをアペスに返した。
「ま、まだ……。
今日ようやく条件達成したところ。」
急に気遣われて、
アペスはどう答えていいのか分からず戸惑う。
「ちっ、動きが遅いねぇ。」
ウンブラは杖の先でアペスのお尻をつん、と突いた。
「バトルマニアックーに
昇格したいんだったらね、
チャンピオンベルトは
“取りたてホヤホヤの年号入り”じゃなきゃ
ダメなんだよ。」
アペスはびくっとして飛び退く。
「えっと……バトルマニアックーになるのはまだまだ先だよ。
今やっと格闘家候補ってとこなんだから。」
そう言いながら、彼女は苦笑してバックパックを握りしめる。
デレオはカシアにささやいた。
「ほらね、ウンブラ婆さんは君のいとこのことが本当に好きなんだよ。」」
「ガキは黙ってな。」
ウンブラがぎろりとデレオをにらみ、
容赦なく杖で彼の額をコツンと叩いた。
「いてっ!
おい、ババア、
そんなに本気で叩いたら死ぬって!」
デレオは額を押さえながら抗議する。
「何を怖がってんだい。
うちのダヤサクラがいるんだ、
あんたぐらい、
何回死んでもどうとでもなるよ。」
ウンブラはまるで大したことじゃない、
という顔だ。
「おれは一回も
死にたくないんだけど……。」
デレオはぶつぶつと不満をこぼす。
「ふん。それで?
あんた、今日ここへ何しに来たんだい?
まさか足の買い取りだけが目的じゃないだろうね?」
ウンブラは目を細め、杖の頭に手を乗せた。
「さすがウンブラ婆さん、話が早い。」
デレオはへらっとお世辞みたいな笑みを浮かべる。
「で、何が欲しいんだい?」
口調には疑いがこもっているものの、
その表情には狡猾な笑みが浮かんでいた。
「『恐怖の呪い』が欲しいんだ。
人形に付与してあるタイプのやつ。」
デレオが真面目な顔で言う。
「『恐怖の呪い』の人形?
あんたそれ、なんに使うつもりだい。」
ウンブラが眉をひょいと上げる。
「こいつの進化素材さ。」
デレオは背後で目をぱちくりさせているアレカを指さした。
皆から視線が一斉に集まると、
アレカは緊張してきょろきょろし、
ぺろりと蓋を舐めてごまかす。
「ミミックが進化?
おもしろいこと言うじゃないか。」
ウンブラは顎に手を当て、
興味津々といった顔になる。
「で、その人形は――」
デレオが言いかけたところで、
ウンブラはひらひらと手を振って話を遮った。
「お嬢さん方が持ってきた足はね、
一つ千クレジットで買い取ってあげるよ。
全部で六十九個……
切りよく七万にしといてやる。」
ウンブラはそろばんでも
弾くみたいな調子で計算しながら
足先を脇に寄せ、
空になった袋を二人の少女に返した。
カシヤとアペスは顔を見合わせ、
思わず笑みを交わす。
「で、あんたの分は――」
ウンブラは
デレオの背中の袋を顎で指しながら続ける。
「その袋まるごと一袋、
報酬は『恐怖の呪い』人形一体。
どうだい?」
「しょうがないな。
そんなこと頼めるの、
ここじゃあんたしかいないし。」
デレオは両手を上げて降参のポーズを取る。
「よし決まり。」
ウンブラは農家の横に建てられたペンションを
杖でこつんと指さした。
「あんたたち、
今日はあそこで一泊していきな。
晩メシはこっちで出してやるから。
明日の朝、
アビスウズの身体がもう少しマシになったらね、
あの子に『恐怖の呪い』人形の術式を掛けさせてやる。」
「本当に助かります。
ちょうど、
こんな時間から市街地に戻る手段がなくて
困ってたんです。」
カシヤが嬉しそうに頭を下げる。
カシヤは素直に喜んでいるが、
アペスはウンブラの方を見て、
どこか三割ほど警戒を混ぜた視線を向けていた。
ふと、デレオは前から気になっていたことを思い出す。
さっきまで二人がはぐらかしていた話題だ。
「なあババア。
前に闘技場でアペスに掛けた呪いって、
結局なんだったんだ?」
ウンブラは一瞬ぽかんとした顔をし、
それから何かを思い出したように口元をにたりと歪めた。
「そうさねぇ……あのときはね、
その年のうちに初恋に出会う、
ただし一年間は絶対に告白できない、
って呪いを掛けてやったのさ。
ひひひひひ!」
ウンブラはいたずらっ子みたいな目で、
じーっとデレオを見つめた。




